2014年8月


 裁判書類作成等サポートによる本人訴訟の適否(2014年8月28日・vol.200)
 例年、お盆明けは業界的には割と忙しく(?)、記事を書くのを結構サボりましたが、数えてみれば今回が200個目のネタになりました。

 司法書士は、簡易裁判所の事物管轄に属する訴額140万円以内の民事に関する事件については依頼者の方の代理人として裁判業務を行うことができますが、この範囲から外れる事件については、基本的に代理での裁判業務はできません。例えば、地方裁判所で行う手続や家庭裁判所で行う手続について、司法書士は依頼者の方の代理で手続を行うことはできません。

一方、司法書士は、裁判所に提出する書類の作成も業務として行うことができます(民事、家事、刑事等の事件類型や作成する書類の種類、提出先の裁判所は無制限)。したがって、司法書士は、仮に依頼者の方を代理しての裁判業務ができない場合でも、裁判所に提出する書類の作成を主体として依頼者の方の裁判手続を包括的にサポート(相談、手続の具体的な説明と助言、必要な書類の作成及び提出、証拠等の収集及び調査の援助、裁判所への同行等々)することができます(以下、これを「裁判書類作成等援助業務」と呼ぶことにします)。

 しかしながら、司法書士が裁判書類作成等援助業務で行えるのは裁判手続の代理ではなく、あくまで「手続支援(サポート)」ですので、実際に裁判手続を行う主体は依頼者の方です(裁判所に行き、法廷に立って受け答えをするのは依頼者の方ご本人です)。したがって、必然的に依頼者の方には事件に対する相当程度の「主体性」が要求されることになります。ここでいう「主体性」とは、「自分自身のこととして裁判事件に向き合い、主要なことは自分で決定し、最終的には自分の判断で問題を解決しようとする姿勢」とでも言っておきましょうか。つまり、「すべて専門家にお任せ」というわけにはいかないということです。

 そうすると、裁判手続を行う上で、依頼者の方においてこのような「主体性」が確保できない場合は、残念ながら司法書士の「裁判書類作成等援助による手続支援(サポート)」で裁判手続を行うは難しいということになり、よって、弁護士又は制限付きの司法書士による代理型での裁判手続を選択していただくことになるのでしょう。

 例えば、依頼者の方において、紛争相手と顔を合わせたくない、話したくない、もう紛争のことを考えるのが嫌だ、裁判手続の内容を理解する等の労力を強いられるのが嫌だ、裁判所になんか行きたくない、自分で行動する時間がない、といった場合は、迷わず代理型での手続を依頼すべきでしょう(もっとも、いくら代理型でも「任せたから後は私は一切知りません」ではさすがに困りますが)。

 反対に、できれば自分自身で最後まで頑張って紛争を解決したいが、法律や裁判手続のことが詳しく分からないのでその辺りのサポートが欲しい、というような依頼者の方であれば、司法書士による「裁判書類作成等援助による手続支援(サポート)」により裁判手続を遂行し、見事紛争を自分自身の手で解決できるかもしれません。

 最近、司法書士が代理できないような裁判事件において、裁判書類作成の名のもとに実質司法書士が代理行為を行っているとして問題になっている事件が我が業界内で耳目を集めていますが、これも、結局のところ、依頼者の方の「主体性」を軽んじたことが起因しているのではと個人的に思ったりします(何でもかんでも裁判書類作成でやればいいってもんじゃありませんよね)。

 因みに、私の場合、代理型でご依頼をお受けする場合でも、基本的に、依頼者の方も毎回裁判所に同行していただくようにしています(相手方が争っていない事件や結論が決まっている事件は除きますが)。それは、紛争の解決過程を肌で感じて貰ったうえでの依頼者の方のご意見を最終的な紛争解決の結論にできるだけ反映したいからなのですが、これが裁判所や相手方(特に弁護士さん)にどう映っているのかは興味アリです。




 調停費用の節約(2014年8月12日・vol.199)
 通常であれば管轄の簡易裁判所において民事一般調停を行うものと考えられる紛争であっても、「家庭に関する事件」(家事事件手続法244条)であれば家庭裁判所において家事一般調停を行うこともできるとされています。

 そして、この家事事件手続法が規定する「家庭に関する事件」とはどのような事件をいうのかについてですが、一般に次の要件を満たすものが該当するとされています。

 @ 当事者間に親族又はこれに準ずる一定の身分関係が存在すること

  → 現在のみならず過去の身分関係でも対象となる

 A @の当事者間に紛争が存在すること

 B 人間関係調整の余地(要請)が存在すること

  → 紛争の背景に人間関係の調整が必要とされる余地が存在すれば対象となる


 また、実際、具体的にどのような紛争が家庭裁判所での一般調停の対象になり得るのかというと、内縁関係に関する紛争、不倫関係に関する紛争、婚約関係に関する紛争、離婚後の元夫婦間の紛争、親族間の財産関係に関する紛争等々と結構多岐に亘っています。

 では、上記のような簡易裁判所で調停ができる紛争について、あえて家庭裁判所で調停を行うことのメリットは何かといいますと、その1つとしてよく言われるのが手続費用の点です。簡易裁判所に対して調停申立てを行う場合、調停を求める事項の価額に応じて裁判所に手数料を収めることになりますが、家庭裁判所の場合は、手数料が一律1200円なので調停事項の価額によっては手続費用がお安くなる場合があるのです。

 もっとも、手数料の差額が大きな金額になることは稀ですし、家庭裁判所での調停を選択したことによるデメリット(調停不成立の場合の再提訴)もあったりしますので、裁判所へ納める手数料の金額だけで調停申立てをする裁判所を決定するのではなく、紛争の事案や関連する他の事案との関係等もよく考えて手続選択をするのが良いと思います。また、各裁判所の調停手続においては移送の取扱い(家事事件手続法246条、民事調停法4条)がありますので、仮に家庭裁判所に調停申立てを行っても簡易裁判所へ移送されてしまう可能性もありますのでご注意を。


 遺言書作成後の身分関係の変動(2014年8月5日・vol.198)
 当事者の意思に基づいて形成される身分関係の場合、当然、将来において当事者の意思に基づき解消される可能性もあります。その典型例といえば、「婚姻→離婚」「養子縁組→養子離縁」でしょう。

 ところで、遺言をする場合、「配偶者に遺産を相続させる(遺贈する)」といった遺言や「養子に遺産を相続させる(遺贈する)」といった遺言をする場合がありますが、そのような内容の遺言書を作成した後に、身分関係を解消する変動(離婚、養子離縁)があった場合、当該遺言の効力はどうなるのでしょうか?

 まず、参考になる法律の条文としては、民法第1023条第2項があります(以下、参照)。

(前の遺言と後の遺言との抵触等)
第1023条 前の遺言が後の遺言と抵触するときは、その抵触する部分については、後の遺言で前の遺言を撤回したものとみなす。
2 前項の規定は、遺言が遺言後の生前処分その他の法律行為と抵触する場合について準用する。

 この条文によれば、仮に遺言の内容が遺言後の離婚、離縁行為と抵触すると判断される場合は、遺言が撤回されたものとみなされることになります。よって、先の「配偶者に遺産を相続させる(遺贈する)」、「養子に遺産を相続させる(遺贈する)」といった遺言の場合、その後の離婚、離縁によって遺言者はもはやそのような遺言をすることを欲しない(一般的にそのように考えるのが合理的)と考えられる場合は、遺言者は当該遺言を撤回したものとみなされます。

 参考となる判例としては、遺言書作成後の養子離縁の事案として下記のものがあります。

○ 昭和56年11月13日 最高裁判所第二小法廷判決(要旨)
 「終生扶養を受けることを前提として養子縁組をしたうえその所有する不動産の大半を養子に遺贈する旨の遺言をした者が、その後養子に対する不信の念を深くして協議離縁をし、法律上も事実上も扶養を受けないことにした場合には、右遺言は、その後にされた協議離縁と抵触するものとして、民法1023条2項の規定により取り消されたものとみなすべきである。」

 ただし、以上の内容はあくまで法律の解釈の域を出ないところでの解決案なので、先の例のように遺言を作成した後に離婚、離縁をした場合は、速やかに遺言書の撤回を適切な方法でしたうえで、改めて遺言を作成するべきでしょう。

 因みに、「配偶者(養子)に相続させる」旨の遺言を作成した後に離婚(離縁)しているようなケースにおける当該遺言書に基づく相続登記手続では、登記申請の時点で元配偶者(元養子)が相続人適格を失っているため相続登記の申請は受理されない可能性が高いとされていますので、ご参考まで。