2021年2月


 書籍紹介(2021年2月18日・vol.325)  



 民事訴訟では、証拠説明書も陳述書も必須の書面です。
 証拠説明書や陳述書の意味と書き方がよく分かるので、民事訴訟をやったことがない方やあまり深く考えずにこれらの書面を書いていた方には参考になると思います。

 個別労働事件(賃金等の未払金請求、解雇等)の解決方法では、まず労働審判を考えることが多くなっていますが、3回中の1回目の期日で調停終了することも割とある感じ。事案にもよりますが、事前に提出した書面(申立書、答弁書、陳述書その他証拠)により、審判官や審判員の心証がある程度固まっているのか、端から強烈に調停案にて説得されることもあるみたいです。司法書士は、書面は作れても期日には参加できませんので、その辺の様子が直接見られないのが残念ですが、こういったケースでは、申立書や陳述書等の書面の良し悪しの影響はあると思います。


 代表取締役会長(2021年2月15日・vol.324)  


 何かのワイドショーでコメンテーターが「〇〇さんは辞めたって代表取締役会長なんですよ」みたいなことを言っていました。


 この代表取締役会長という言葉、会社の事業承継の場面とかでよく聞く言葉ですが、会長だけで言えば、世間一般のイメージとしては、代表取締役社長を辞める人がその後のポストとしてもらう名誉職(経営にはタッチしない人)みたいな感じでしょうか(割と小さな会社でも会長と呼ばれている方はいらっしゃいます)。


 もっとも、社長か会長かは会社内部の役職の呼称の問題ですが(法律には社長も会長もない)、法律が規定する代表取締役を名乗る以上は会社の代表権があるということは間違いない。よって、社内外における法律上の地位は社長と同格となります。


 そうすると、社長と会長の両方に代表権があるということになりますが、会社法上では取締役会設置会社であっても複数代表は可能とされていますので、法律上は問題ありません。ただし、会社の定款において、「代表取締役を1名置く」みたいな規定になっている場合は、このままでは定款に違反することになりますので、定款の変更が必要になります。


 また、会社の外部から見れば、社長と会長、どちらも代表権がある場合、一体どちらと取引をすればよいのか迷いそうですが、会社法になってからは共同代表制度が廃止されている以上、どちらかと取引をすれば法律的には有効です。通常は、社長の名前で取引をされるとは思いますけどね。


 ちなみに、会社の代表取締役は法務局に印鑑の届出を行うことができますが、複数代表の場合は、代表取締役の全員がそれぞれ印鑑の届出をすることもできますし、一部の代表取締役だけが届出をすることもできます。

 よって、代表取締役会長が自らの印鑑を法務局に届出している場合は、社長を飛び越して、会長単独で会長印を使用して会社を代表して取引行為をすることも可能となります。

 

 こうしてみると、件のコメンテーターが言わんとすることも何となく分かってきませんでしょうか?




 「みなす」と「推定する」は大違い(2021年2月10日・vol.323)  

(嫡出の推定)
第772条 妻が婚姻中に懐胎した子は、夫の子と推定する。
2 婚姻の成立の日から200日を経過した後又は婚姻の解消若しくは取消しの日から300日以内に生まれた子は、婚姻中に懐胎したものと推定する。

 昨晩、上記の民法の規定について、改正法の中間試案が出たとのニュースがテレビで流れていましたが、キャスターの方が下線の部分について「みなす」という言葉を連発されていた。
 一夜明けて、今朝の○〇新聞の一面にもこの記事が載っていましたが、ここでも下線部分を「みなす」と表現されていました。
 申し上げるまでもなく、法律の規定では、正しくは「推定する」であり、これは現行法も中間試案も当然変更はありません。
 じゃあ、「みなす」「推定する」で何が違うねんと突っ込まれそうですが、日常用語と違って、法律用語では、以下のとおりその意味に大きな違いがあるのです。

1.「みなす」とは
 本来性質が違うものを、ある一定の法律関係において同一のものとして法律が認め、同一の法律効果を生じさせること。
 「みなす」とした場合は、当事者間での取り決めや反証があっても、あるいは事実がどうであっても、その法律上の認定と異なる判断をすることはできないことになる。

2.「推定する」とは
 当事者間に取り決めがない場合や、事実が不明で反対の証拠が挙がらない場合などに
、法律が自ら「一応こうである」という判断を下し、法的効果を生じさせること。
 「推定する」とした場合は、当事者間に別段の取決めがあったり、反対の事実が判明したりした場合には、推定が覆され、この当事者間の取決めや反対の事実に基づいて処理されることになる。

 このように、仮に事実が反対であったとしても法的に覆すことを認めるか認めないかの点で大きな違いがあるわけです。これがわかると、先の民法772条の規定の「推定する」を「みなす」としてしまうと、どえらいことになってしまうことは容易にお分かりいただけるでしょう。

 昨晩のニュースを聞いて、一瞬「うそ〜」と思ったものの調べるのは面倒なのでそのまま眠り、朝起きて新聞を見て、「ほんまかいな〜」とさすがに六法を引き、念のためネット検索をして確認をしてしまいました。何度も見てきた条文でも自信が揺らいでしまったのはちょっとハズイ気持ちです。ちなみに、ネット記事でも「みなす」を使用している記事が多いことには驚きでした。ざっと見た感じでは、「推定する」と正確に記事を載せていた方が少数かな?



 書籍案内(2021年2月8日・vol.322)  

 
  読了

 日司連編のQ&A本は、改正法の内容の中でも司法書士業務に直結する箇所の要点がよくまとまっていて読みやすかったです。また、特に法改正に伴う司法書士の業務の方向性がコメントされていたのはGOOD。ついでに言えば、誤植も脱字が1箇所しか目につかなかったのは、さすがです。
 一問一答本と併せて読むとより理解が進んで尚良しかな。


 最近の最高裁判例(2021年2月4日・vol.321)  

 一応、最低でも月に1回は裁判所HPの最近の最高裁判例情報を閲覧していますが、先月分で気になったものは以下のとおりです。

1.令和3年1月18日最高裁第一小法廷判決
 遺言の有効無効に関する事例判決ですが、自筆証書遺言で、平成27年4月13日に全文、日付(平成27年4月13日)、氏名を自書し、後日(平成27年5月10日)に押印のみをして遺言書を完成させた場合、当該遺言の成立日は平成27年5月10日であるため、正しい遺言の成立日を記載していない本件自筆証書による遺言は無効か、について、当該事実のみをもって直ちに無効とはいえない、とのこと。
 司法書士の仕事をしていると、日付空欄の書類をいただくことがままありますが、法律で厳格な方式が定められている遺言の場合は、日付の正確性だけの問題で裁判沙汰になることがあるということでしょう。
 
2.令和3年1月22日最高裁第三小法廷判決
 土地の売買契約の買主は売主に対し当該土地の引渡しや所有権移転登記手続をすべき債務の履行を求めるための訴訟の提起等に係る弁護士報酬を債務不履行に基づく損害賠償として請求することはできない、とのこと。
 不法行為に基づく損害賠償請求との違いに着目して考えてみるとよい事例かな。

3.令和3年1月12日最高裁第三小法廷判決
 仮差押えを受けた債権はその処分が禁止されるにもかかわらず、仮差押債務者が第三債務者との間で勝手に債権の金額を確認する旨の示談をした場合、当該示談をもって仮差押債権者に対抗することができないのは分かりますが、当該債権が金額的に不確定な不法行為に基づく損害賠償請求権であり、示談金額が妥当な額であったとしてもこの原則は変わらないということみたいです。

 詳細は、裁判所HP(https://www.courts.go.jp/index.html)をご覧ください。