民法関係


 そのタケノコはダレノコ?(2014年4月10日)

 4月といえば食べ物では筍の季節ですので、方々から(たまにはお客さんからも)朝掘り(時には即茹で)の筍をいただいたりします(筍は掘ってすぐ茹で処理をすると美味しいらしいです)。因みに、法律的には、掘り抜かれた筍は動産であり、天然果実といいます(民法86条2項、88条1項)。
 ところで、被相続人X、相続人A、B、C(いずれも子)のケースで、未分割の遺産である甲土地から生えた筍は誰の所有物になるのでしょうか?
 この場合、甲土地は、被相続人Xの相続開始時(死亡日)をもって、とりあえず相続人A、B、Cの3名が法定相続分(各3分の1)の割合で共有していることになりますが、甲土地から生えた筍は、生えている状態では、原則として、自然に生えたものであれ植栽されたものであれ、いずれにしても甲土地の所有者(A、B、C)の所有物となりそうです(民法86条1項、同242条)。
 それでは、いざ掘り抜いた状態ではどうでしょうか?この点、筍を掘り抜くときにその筍を収取する権利を有する者(通常は筍が生えている土地の所有者又は権原をもって植栽した者)に所有権が帰属するとされます(民法89条1項)。
 したがって、基本的には本件筍は相続人A、B、Cの所有物にはなりそうです。なお、筍が相当量あって金銭のような可分物に該当するのであれば、A、B、Cは各相続分に従った分量の筍を分割して取得することになるかと思います。
 では、例えば10年後に相続人A、B、Cが遺産分割協議をしてAが単独で甲土地を相続することとなった場合、相続開始から遺産分割までの10年間に採取された筍の所有権は誰に属したことになるのでしょうか?遺産の分割は、相続開始の時にさかのぼってその効力を生ずる(民法909条)とされているため問題になりそうです。
 この点に関して、筍のような天然果実ではなく不動産賃料のような法定果実に関する最高裁判所の判例(平成17年9月8日最高裁判決)があり、同判決は要旨で「遺産は,相続人が数人あるときは,相続開始から遺産分割までの間,共同相続人の共有に属するものであるから,この間に遺産である賃貸不動産を使用管理した結果生ずる金銭債権たる賃料債権は,遺産とは別個の財産というべきであって,各共同相続人がその相続分に応じて分割単独債権として確定的に取得するものと解するのが相当である。遺産分割は,相続開始の時にさかのぼってその効力を生ずるものであるが,各共同相続人がその相続分に応じて分割単独債権として確定的に取得した上記賃料債権の帰属は,後にされた遺産分割の影響を受けないものというべきである。」と述べています。
 したがって、筍が不動産賃料のような金銭債権と同様に可分物であるとして考えるならば、前記判例が述べるように相続開始から遺産分割までに発生した天然果実たる筍に関する各相続人の取得分については遺産分割の影響を受けることはないと考えられそうですが、どんなもんでしょうか。
 とまぁ、つまらないことをいろいろと考えてみましたが、貰う側としては、善意取得(即時取得・民法192条)が成立するならば、その筍が誰のものであれ気にする必要もないのかもしれませんけど。


 建物賃貸人の変更に関する法律問題(2014年3月7日)

 建物の売却等により借家(居宅、店舗等)の賃貸人(オーナー)が変更した場合の借主視点からの主な法律上の問題点について、以下にピックアップしてみました。

1.新所有者(新家主)に借家権を対抗するには、賃借権の登記をしている場合を除き、借家人が建物の引き渡しを受けていること(居住や営業等をしていること)が必要です(借地借家法31条)。

2.基本的には、新所有者(新家主)への建物所有権の移転登記がされていることにより、新所有者が賃貸人の地位(権利義務)を承継したものと判断しますので(最高裁昭和33年9月18日判決等)、まずは不動産登記簿を調査し、念のため従前の家主への確認もしてから、新家主への家賃の支払いを開始するのが安全です。

3.契約内容(賃料額、支払時期、支払方法、賃貸借期間等)については、従前の家主との賃貸借契約の内容がそのまま新家主に引き継がれます(最高裁昭和38年1月18日判決等)。ただし、従前の家主との間の極めて特殊な事情にもとづく家主に一方的に不利な特約等(例えば、賃料不増額の特約)は、新家主に引き継がれない可能性があります。

4.従前の家主に差し入れていた敷金については、特に家賃の滞納等がなければ、全額が新家主に引き継がれますので(最高裁昭和44年7月17日判決)、将来退去する場合は、新家主から返還してもらいます。

5.賃貸建物への有益費(建物価値の増加のために賃借人が支出した費用)の償還義務についても、新家主が承継します(最高裁昭和46年2月19日判決)。

6.滞納家賃債権については、別途債権譲渡を受けない限り、当然には新家主に引き継がれません。したがって、家主交代前の滞納家賃は旧家主に支払うことになります。

7.保証金については、個々の事案におけるその性質により、新家主に承継されるか否かが異なってきます。

 上記のとおり、賃貸建物の貸主が変更しても法律上は改めて賃貸借契約を締結し直す必要ありませんが、それでもオーナーチェンジを機に改めて新家主と建物賃貸借契約を締結することになるケースも結構ありますので、その場合は、上記の各点を参考に借主に不利な契約に変更されていないかきちんと確認するのが重要です。


 内容証明郵便(配達証明付)の受領拒否とその効果(2014年2月10日)

 「相手方への意思表示の内容とその到達を証明する」必要がある場合において、法律実務の世界では内容証明郵便(配達証明付)を利用します(詳しくは過去記事参照)。
 ところで、この内容証明郵便(配達証明付)ですが、「そんなもの出しても受け取って貰えなければ無駄である」みたいな言葉をご相談者やその相手方果ては他士業からよく耳にします。果たしてそうでしょうか?債権の消滅時効完成間際での暫定的時効中断のための催告のように、意思表示が相手方に到達したか否かが極めて重要になってくる場面もよくありますので、以下で、@相手方在宅(その家族も含む)での受取拒否とA相手方不在(居留守含む)による受取拒否に場合分けして、法律の条文と主な裁判例を基に検討してみましょう。


(法律の条文)
民法第97条第1項
「隔地者に対する意思表示は、その通知が相手方に到達した時からその効力を生ずる。」
→ 相手方に対する意思表示はそれが相手方に「到達」しなければその効力を生じないことになります(到達主義)。

(相手方在宅での受取拒否)
@ 大審院昭和11年2月14日判決(要約)
 ◎ 相手方と同棲中の内縁の妻が複数回に亘り受領拒否したケース
 「(意思表示の)到達とは、相手方或いは相手方から受領の権限を付与されていた者によって受領され或いは了知されることを要するのではなく、それらの者にとって了知可能の状態におかれたことを意味するものと解すべきであり、換言すれば意思表示の書面がそれらの者のいわゆる勢力範囲(支配圏)内におかれることを以て足るものと解すべきである。」

A 最高裁昭和36年4月20日判決(要約)
 ◎ 相手方(会社)の社長の娘が受領して机の中にしまっていたケース(受領拒絶の事例ではないですが)
 「@の判例と同様の理由で受領者に催告書を受領する権限がなく、また受領者が相手方本人に受領の旨を告げなかったとしても、催告書の到達があったものと解すべきである。」


(相手方不在(居留守含む)による受取拒否)
@ 東京地裁平成5年5月21日判決(要約)
 「内容証明郵便が名宛人の不在により受領されない場合、郵便配達員は不在配達通知書を名宛人に差し置き、その受領を可能にしているものであるから、右内容証明郵便は、特段の事情のない限り、留置期間の満了により名宛人に到達したものと解するのが相当である」

A 最高裁平成10年6月11日判決(要旨抜粋)
 「遺留分減殺の意思表示が記載された内容証明郵便が留置期間の経過により差出人に還付された場合において、受取人が、不在配達通知書の記載その他の事情から、その内容が遺留分減殺の意思表示又は少なくともこれを含む遺産分割協議の申入れであることを十分に推知することができ、また、受取人に受領の意思があれば、郵便物の受取方法を指定することによって、さしたる労力、困難を伴うことなく右内容証明郵便を受領することができたなど判示の事情の下においては、右遺留分減殺の意思表示は、社会通念上、受取人の了知可能な状態に置かれ、遅くとも留置期間が満了した時点で受取人に到達したものと認められる。」

※ 大阪高裁昭和52年3月9日判決(到達を消極と解した裁判例)

 以上の裁判例から考えますと、相手方(その家人等含む)が郵便屋さんからの受け渡しに際して面前での受領拒否をした場合は基本的に内容証明郵便(意思表示)は到達したものと考えられるのでしょう(受取拒否の付箋が証拠になります)。一方、相手方が不在(居留守含む)により不在通知投函のうえ保管期間(7日間)も経過したので返戻されたような場合では、事案の具体的事情にもよるものの内容証明郵便(意思表示)は到達したものと判断される可能性も十分にありそうです(何でしたら2回くらい出してみるのもいいでしょう)。

 というわけで、「相手方が受け取る、受け取らないに拘わらず」とりあえず内容証明郵便によって意思表示をしておくのは意味がある、ということになりそうです。
 因みに、(相手方が行方不明により受領できない場合)は、公示送達の方法により意思表示を到達させることができます(民法98条)。
 また、内容証明郵便(配達証明付)による意思表示の到達に不安がある場合は、持参して受領印を貰う、証人を同伴する、写真を撮る方法、普通郵便(特定記録)でも出しておく方法も考えられますが、事案によっては間髪入れずに訴訟提起してしまうのも一案でしょう。


 不動産の売主の時効取得は可能か?(2013年10月3日)

(設例)
 Aが所有する甲土地について、20年以上前にAが売主、Bが買主となって売買契約を締結しました。ところが、Bは売買代金を支払わず、甲土地の所有権移転登記や占有の引き受けにも応じないため、AはBにおいてもはや甲土地を買い受ける意思はないものと判断し、従前どおりAが甲土地を自己の所有物として占有管理し、固定資産税等の負担を続けていました。
 ところが、最近になってBが上記売買契約の存在を理由に、Aに対し、甲土地はBの所有物であるから直ちに引き渡せと主張してきました。Aとしては、今さら売るつもりはないのですが、どのように対応すべきでしょうか?

 上記設例のような場合、とりあえず思い付くのは、Bの債務不履行を原因とする売買契約の解除の主張ですが、同時履行の抗弁(民法533条)の問題もあるので、いまいち効果的ではない様に思います。
 そこで、次に目がいくのが売買契約が20年以上前であったという点です。つまり、Aにおいて取得時効(民法162条)の成立を主張できないかということです。この点、裁判所の判例(下記参照)では、売買契約の売主についても、取得時効の成立の可能性を認めています。

最高裁判所昭46年11月25日判決(要旨)
「不動産の売主が売買契約の効力の発生を争うとともに仮定的にその取得時効を援用した場合に、売買契約の効力につき判断することなく、売主のため取得時効の完成を認めることを妨げない。」

 確かに、通常、自分で売っておいて買主に対し取得時効を主張するのは変な感じがしますが、例え対象不動産の売主であっても、民法が定める取得時効の要件を満たすならば、取得時効を認めるというわけです。もっとも、このようなケースの場合、一体いつから時効期間が進行するのかについては、もう少し難しい問題があるようですが。

 何はともあれ、設例のようなトラブルが起こった際は、過去の売買契約云々の話とは別に、取得時効の成立の有無についても考えてみるといいかもしれません。


 永遠に時効消滅させない方法(2013年9月20日)

 一般的に債権は長くても10年くらい放置してしまうと時効により消滅してしまうわけですが、これを消滅させないためには時効を中断させなければなりません。そして、時効の進行をいったん中断させると、中断した時からあらためて時効期間が進行することになります(民法157条)。
 ところで、債権の消滅時効を中断させる場合、債務者が積極的に債務の承認行為(民法147条3号)でもしないかぎり、とりあえず文書等で催告した上で請求訴訟を提起するのが通常です。そして、訴訟を提起して勝訴した場合、時効が中断するうえ、その裁判が確定したときから新たに10年間は消滅時効にかからないことになるので(民法157条、174条の2)、とりあえず10年間は時効の心配をしなくてもよくなります。
 しかし、裁判で判決まで取っても債権を回収できずに10年が経過してしまうと、やはり時効により債権が消滅してしまいますので、10年経過前に再度時効を中断させなければなりません。
 この場合、基本的に、再度、前述と同様の目的で裁判所に訴えを提起して勝訴判決を得ることにより、更に10年間の消滅時効成立の阻止を目指すことになります。この点、同じ目的の訴訟を何度も提起することは、原則として訴えの利益なしとして訴えが却下されますが、例外的に、時効中断のために必要であれば再度の訴え提起も認められています(大審院昭和6年11月24日判決)。

 というわけで、その気になれば永遠に消滅時効にかけないで債権の回収を続けることも理論上は可能ということになりそうです。もっとも、例えば個人の債務者が死亡した段階で債務者無資力のため債権回収ができておらず、しかも相続人が全員相続放棄をした場合は、もはやその時点で回収不能が確定するでしょうから、やっぱり永遠に債権回収に勤しむというわけにはいかないでのしょうけど。


 不動産の共有持分の時効取得(2013年8月19日)

 以前、不動産の共有者の一人がその不動産全体の所有権を時効取得できるかについて、消極であるというふうな検討をしましたが、今回は、不動産の所有者以外の第三者が、不動産の所有権の共有持分のみについて時効取得できるか?というお話です。
 例えば、AB共有(持分各2分の1)の甲土地について、CがBの共有持分についてのみ時効取得の要件(民法162条)を満たした場合、CはBの共有持分のみを時効取得し、その旨の所有権(共有持分)移転登記ができるでしょうか?
 この点については、登記の実例では、可能とされています(登記研究351号、547号)。
 また、仮に対象不動産がA単独所有の場合でも同様と考えられます(この場合は所有権一部移転登記をすることになります)。

 ところが、上記実例が出された当時は、現在の不動産登記法が施行される前でしたから、登記の原因を証する登記原因証書(登記原因証明情報)の提供は必ずしも要求されていませんでしたが、現在の不動産登記法では、登記原因証明情報の提供が必要的とされていますので、登記の申請情報と併せて、登記原因事実である共有持分の時効取得を証する情報作成し、これを法務局に提供しなければなりません。
 さて、この場合の登記原因証明情報ですが、どのような内容を記載して作成すればいいかというと、不動産所有権の共有持分の時効取得に関する法律要件に基づて具体的な事実を記載することになります。この点、基本的には通常の所有権の時効取得に関する要件事実(@ある時点における対象不動産の占有、A10年又は20年経過時点での対象不動産の占有、B占有開始時における善意(+無過失)、C時効援用の意思表示、D所有権登記の存在)に沿って具体的な事実を記載すればいいでしょうが、今回の場合は、共有持分の時効取得なので、その点を念頭に置いて事実関係を記載しなければなりません。例えば、「Aと均分の割合にて共同所有する意思を持って占有を開始した・・・」みたいな感じです。この点、時効により取得するのはあくまで不動産の共有者としての持分なのであって、不動産の所有権自体の一部ではないので注意が必要です(不動産の特定の部分を時効取得したのであればその部分を分筆してから単独名義での所有権移転登記を申請すべきです)。
 以上の要領で事実に則り作成した登記原因証明情報を法務局に提供することになりますが、このような事例は稀なので、あまり実例もなく、したがって、法務局ですんなり受理してもらえるかはわかりません。結局は、内容に説得力のある登記原因証明情報が作成できるかにかかってくるのでしょう。


 離婚と使用貸借契約の終了(2013年8月7日)

 世間的には、親(実親と義理親を問わず)が所有する土地が空いている場合、その土地を無償で借りる形で子が家を建てるケースはよくあります。ところが、この形態の場合、相続や離婚といった親族形態の変化によって思わぬトラブルが発生するケースがあります。
 今回は、離婚の例を考えてみます。なお、以下はあくまで勝手に思いついた事例についての私見であり、間違っているかもしれませんので念のため。

 例えば、10年前にAとBは婚姻し、その婚姻を機に夫Aが妻Bの父親X(いわゆる義理の父)所有の土地にA名義で建物を建築し、当該建物において夫婦が居住していました。なお、土地については特に地代の支払等の約束は無く無償で使用していました。ところが、諸般の事情によりAとBは離婚することになりました。Bは今後この建物に居住する予定はないが、Aは引き続き居住するつもりです。Xは、Aに対し、離婚して親族関係が無くなったんだから土地を更地に戻して明け渡して欲しい旨請求しましたが、Aはこれに応じません。Aは、Xの請求どおり建物を収去して土地を明け渡さなければならないのでしょうか?

 まず、A所有の本件建物とX所有の本件土地に関するAX間の権利関係ですが、Aは無償でX所有の土地を建物所有目的で使用及び収益をし後に返還をすることをいちおう予定していたのであるから、AX間には本件土地に関する使用貸借関係(民法593条)があったと考えられます。ところで、使用貸借については借地借家法の適用がありません。よって、事例については、民法の使用貸借に関する規定から考えてみることになります。
 さて、民法は、使用貸借について、第593条から第600条にかけて規定を置いていますが、本件事例に関しては、次の第597条の借用物の返還の時期に関する規定が関係しそうです。

第597条 借主は、契約に定めた時期に、借用物の返還をしなければならない。
2 当事者が返還の時期を定めなかったときは、借主は、契約に定めた目的に従い使用及び収益を終わった時に、返還をしなければならない。ただし、その使用及び収益を終わる前であっても、使用及び収益をするのに足りる期間を経過したときは、貸主は、直ちに返還を請求することができる。
3 当事者が返還の時期並びに使用及び収益の目的を定めなかったときは、貸主は、いつでも返還を請求することができる。

 事例では、建物所有目的で土地の使用貸借契約をしたことになりますが、土地の返還時期については契約で特に合意していません。
 そうすると、民法597条2項により、「契約に定めた目的に従い使用及び収益を終わった時」に返還するのが原則となりそうです。もっとも、2項但書では、「使用及び収益をするのに足りる期間を経過したとき」にも返還することになりそうです。
 この点、事例では、建物建築からまだ10年程度しか経過していませんので、未だ「契約に定めた目的に従い使用及び収益を終わった」とは言えそうにありません。そうすると、あとは「使用及び収益をするのに足りる期間を経過した」といえるかどうかです。
 
 そもそも、使用貸借というのは無償ですから、まったくの赤の他人間でなされることは少なく、貸主と借主の間には親族関係その他何らかの特別な人間関係が存在するのが通常です。そして、その人間関係が崩れたときに、事例のような問題が発生するわけです。
 そして、このような問題が発生した場合、「当事者間の信頼関係が破綻した(破壊された)」として、民法593条2項但書を類推適用して使用貸借契約契約の終了の有無を判断するのが判例(最高裁昭和42年11月24日判決)の考え方のようです。

 では、事例のように、子の離婚に伴う親族関係の終了を理由に「当事者間の信頼関係が破綻した」として、民法593条2項但書を類推適用して使用貸借契約の終了(解除)が主張される場合、どのような点が考慮されて契約解除の可否が判断されるのでしょうか?
 この点、単に子が離婚し親族関係がなくなったという理由だけで直ちに契約解除(建物を収去して土地を明け渡せ)ができるというわけではなく、@使用貸借契約締結の目的や経緯等から当事者間の信頼関係の破綻の有無を検討し、仮に信頼関係の破綻がある場合においても、さらにA離婚(親族関係破綻)の原因、B借主の建物の使用状況、C契約終了に伴い借主が被る不利益等を考慮して契約解除が権利の濫用に該当しないかについても検討されるようです(松山地裁平成17年9月14日判決、東京地裁平成21年12月7日判決参照)。
 そうすると、事例の場合でも、単純に、子が離婚しもはや親族関係もないので土地を明け渡せ、とは言えないことになりそうです。

 因みに、仮に事例において、AがXに対し相応の地代を支払っていた場合はどうでしょうか?この場合、借地借家法が適用されるでしょうから、借地権の存続期間は最低30年(借地借家法3条)、以後の更新の可能性も考えられ(同法5条、6条)、Aが同意しない限り土地の明渡しは容易ではないのでしょう。


 共有物件の賃料の支払先は?(2013年8月3日)

 例えば、A、B、Cが各3分の1の割合で共有する建物を賃料月額9万円で賃借しているXは、毎月の賃料を誰に支払えばいいのでしょうか?この問題は、元の所有者(賃貸人)が死亡し、その相続人が遺産たる賃貸建物を共同相続している状態のときによく生じたります(実際、このケースは結構あります)。
 こんな場合、普通はA、B、Cの中から誰か代表が立ち、その代表者がとりあえず賃料全額を受け取るようにしているケースが多いでしょう(それぞれに支払うとすると賃借人は手続が煩雑になります)。因みに、共有者のうちの1人が賃料全額を受け取ることについては、民法252条但書の保存行為として可能であると解されています。
 ところが、何らかの原因で共有者間の仲が悪くなると、誰が賃料を受け取るかで揉めたりするかもしれませんし、代表して賃料を受け取った者が分配の約束を守らずに独り占めしたりすると、共有者間でトラブルになり、その火種が賃借人にまで及ぶ可能性もあるので(例えば、賃料を受け取っていない者が賃借人に更に支払いを要求する等)、誰に支払えば賃借人は義務を免れるかについて、法律的な観点からハッキリしておきたいものです。
 さて、この論点については、いくつかの裁判例(大阪高裁平成元年8月29日等)によると、賃料支払債務は不可分債務(分けて履行することのできない債務)であるから、賃借人は賃貸人のうちのいずれか1人に対して賃料全額を支払えば、それをもって賃貸人全員に対する賃料支払債務を免れる、と考えるのが一般的のようです。その主な理由は、「建物を貸す債務が不可分債務であるからであるから、その対価である賃料支払債務も不可分債務と解するべき」とのことです。要は1個の建物を各共有者が別々に貸すわけじゃないんだから、その賃料についても別々に支払う必要はない、みたいなことでしょう。
 なるほど、これなら賃借人は誰に支払えばいいか迷わずに済みますから、裁判例の傾向としては賃借人の利益の保護を重視しているということなのでしょう。
 ところが、最高裁平成17年9月8日判決では、相続による遺産共有の事案ではありますが、「相続開始から遺産分割までの間に共同相続に係る不動産から生ずる金銭債権たる賃料債権は、各共同相続人がその相続分に応じて分割単独債権として確定的に取得し、その帰属は、後にされた遺産分割の影響を受けない。」と述べていますので、この判例によると、共有者である各相続人賃貸人は、その相続分に応じた賃料相当額を各自が賃借人に請求できることになりそうです。
 でも、このような場合に、各自請求されると、賃借人としては支払手続が煩雑になり大変です。また、共有者の代表を名乗る1人が従前どおり全額の支払い請求をしてきた場合、全額支払っていいものか迷ってしまいます。場合によっては、供託も考えねばなりません。
 一方、貸主である賃貸人側としては、我先に1人の賃貸人が賃料全額を受け取った場合、もちろん、他の共有者は不当利得として相当額の返還を請求することになるのでしょうが、受け取った者が無資力になれば、他の賃貸人は事実上賃料を受け取れなくなり困ります。
 まぁ、基本的に賃借人の方は、先の高裁判例の理屈のように共有者の誰に支払っても保護されそうな気はします。
 他方、賃貸人については、早々に遺産分割ないし共有分割をして共有関係を解消するのがよいのではと思ったりします。


 土地の賃貸借と民法の原則(2013年4月24日)

 個人的に、土地の賃貸借(借地)といえば、なぜか建物所有目的の土地賃貸借に考えが行きがちです。巷に溢れる参考書籍なんかも建物所有目的の土地賃貸借に関するものがほとんどのような気がします。しかしながら、当然、そうではない土地の賃貸借(例えば、駐車場、資材置場、アンテナ設置、はたまた農地)も多いです。
 さて、賃貸借契約に適用される法律といえば、原則が民法でして、その特別法として建物所有目的の土地賃貸借には借地借家法が優先的に適用され、また、農地の賃貸借には農地法が優先的に適用されます。そして、建物所有目的でも農地でもない土地の賃貸借について原則である民法だけが適用されることになります。
 そういう法律の関係もあってか、土地の賃貸借については、実務では、建物所有目的の土地賃貸借(借地借家法)がとかく注目されがちでして、特に事件でもない限り民法の賃貸借の規定について考える機会があまりなかったりします。
 そんなわけで、今回は、民法の賃貸借の規定について、特によく使いそうなところで特別法と異なる規定を以下にピックアップしてみました。とりあえず、駐車場の賃貸借なんかをイメージして考えてみてください。

1.賃貸借の存続期間(第604条)
 賃貸借の存続期間は、20年を超えることができない。契約でこれより長い期間を定めたときであっても、その期間は、20年とする。
2 賃貸借の存続期間は、更新することができる。ただし、その期間は、更新の時から20年を超えることができない。
⇒ どんなに長くてもMAX20年までしか存続期間の定めはできないということです。

2.不動産賃貸借の対抗力(第605条)
 不動産の賃貸借は、これを登記したときは、その後その不動産について物権を取得した者に対しても、その効力を生ずる。
⇒ ただし、借主には貸主に対する登記請求権はないとされているので、事実上、借主が対抗力を備えるのは難しいようです。したがって、登記されていない土地賃借権者は、土地が第三者に売却されて登記を備えられた場合、当該第三者からの土地明渡し要求に応じなければならなくなります(いわゆる「売買が賃貸借を破る」というやつです)。

3.賃借権の譲渡及び転貸の制限(第612条)
 賃借人は、賃貸人の承諾を得なければ、その賃借権を譲り渡し、又は賃借物を転貸することができない。
2 賃借人が前項の規定に違反して第三者に賃借物の使用又は収益をさせたときは、賃貸人は、契約の解除をすることができる。
⇒ 貸主に黙って勝手に他人に貸したりすると、契約を解除されるおそれがあるのです。

4.賃料の支払時期(第614条)
 賃料は、動産、建物及び宅地については毎月末に、その他の土地については毎年末に、支払わなければならない。ただし、収穫の季節があるものについては、その季節の後に遅滞なく支払わなければならない。
⇒ 任意規定なので、契約でこれと異なる定めも可能です。なお、賃料の一方的な減額請求は、原則としてできません。

5.期間の定めのない賃貸借の解約の申入れ(第617条)
 当事者が賃貸借の期間を定めなかったときは、各当事者は、いつでも解約の申入れをすることができる。この場合においては、次の各号に掲げる賃貸借は、解約の申入れの日からそれぞれ当該各号に定める期間を経過することによって終了する。
@ 土地の賃貸借 1年 (以下省略)
⇒ 期間の定めのない賃貸借の場合は、いつでも解約できるが、1年間の猶予を置かなければならないということです。

6.賃貸借の更新の推定等(第619条)
 賃貸借の期間が満了した後賃借人が賃借物の使用又は収益を継続する場合において、賃貸人がこれを知りながら異議を述べないときは、従前の賃貸借と同一の条件で更に賃貸借をしたものと推定する。この場合において、各当事者は、第617条の規定により解約の申入れをすることができる。(第2項は省略)
⇒ いわゆる黙示の更新の規定です。ただし、賃貸借期間については、期間の定めのないものとなりますので、契約当事者はいつでも解約の申入れができます。

 賃料も少額のちょっとした賃貸借の場合は契約書まで作らないケースが多いでしょうが、重要な契約の場合は、上記の規定のほか、「借地借家法の適用がないこと」も踏まえた契約をしなければならないということでしょう。  


 共有物をその共有者の1人が時効取得することは可能か?(2013年4月13日)

 世の不動産は単独所有のものもあれば数人の共同所有のものもあります。
 ところで、数人が共有(共同所有)している土地について、そのうちの1人が他の共有者に対し当該土地を時効により単独で取得したと主張することはできるのでしょうか?というのが今回のテーマです。共有地の場合、共有者のうちの1人が単独で長年に亘って使用収益している例が多いため、このような主張が飛んでくることも間々あったりするわけです。

(仮想事例)
 甲土地は、A、B、Cの3名が各持分3分の1の割合で共有する土地であり、登記記録上も同様に記録されている。ところが、甲土地の使用状況はというと、個人で建設業を営んでいるAが資材置場として単独で20年以上使用しており、固定資産税等の公租公課もAがすべて負担している。他の共有者であるBとCは、これまでAに対し別段の異議等を述べたことはなかったが、いつまでも共有状態にしているのも将来的に問題を残すことになるので、今般、Aに対し共有物分割の請求(土地を分筆しそれぞれに分けるか、Aが他の共有者の持分を買い取るか)をしました。ところが、Aは土地を分割すると事業に支障が生じるし、事業の経営も芳しくないので共有持分を買い取る余裕もありません。そこで、Aは自分が20年以上甲土地を単独で使用してきたのに対しBとCはその間何も異議を述べなかったのであるから、甲土地についてAの時効取得が成立しているのではと思い至り、その旨(時効の援用)をBとCに主張することにした。さて、Aの時効取得は成立しているのでしょうか?
 
(検討案)
 まず、民法249条は共有物の使用について、「各共有者は、共有物の全部について、その持分に応じた使用をすることができる。」としています。また、民法252条は共有物の管理について、 「共有物の管理に関する事項は、前条の場合を除き、各共有者の持分の価格に従い、その過半数で決する。ただし、保存行為は、各共有者がすることができる。」としています。よって、Aは、甲土地の使用収益については、単独では自己の持分(3分の1)に応じた割合でしか行うことができないことになります。ただし、Aがこれを超えて使用収益している場合でも、他の共有者BCは当然にはAに対し甲土地を明渡すよう請求することはできないとする最高裁の判例があります(昭和41年5月19日最高裁判所第一小法廷判決)。
 よって、BCは、Aが単独で甲土地を占有し使用収益している状態を是正することはなかなか困難と思われます。
 そうすると、そのようなAの占有状態をもってAのために時効取得が成立することは安易に認めるわけにはいきません。
 そこで、本件のような事案において、Aに時効取得が成立するための要件について、裁判例や学説は概ね次のいずれかの要件を特に要求しています。

@ 他の共有者に対し「共有物全体について単独所有の意思を有すること」を表示すること。
A 共有物全体に対し新たな権限に基づいて占有を開始したこと。

 つまり、@またはAの要件を充足したうえで時効期間(10年または20年)が経過するまで占有を継続しなければ、Aの時効取得は成立しないということです。@については、こんなことをBやCに主張すれば通常は即対抗措置を採られるでしょうからまず時効が成立することはないでしょう。また、Aについては、甲土地全部を買ったつもりで長年占有してきたが実は3分の1しか売主に権利がなかったような場合が該当するのでしょうから、本事例のような場合は当てはまらないでしょう。
 
(結論)
 以上より、本事例の場合はAの時効取得の主張が認めれるのは基本的に難しいということになりそうです。
 共有物については善意で共有者の一人に単独使用させている例が多いでしょうが、それが長年続くと本事例のような問題に発展することもあるかもしれませんので、念のため土地管理の取決めはしておいた方がいいかもしれませんね。



 未成年者の不法行為と親の責任(2013年3月8日)

 「子供の責任は親の責任」なんてことを世間一般では言われたりしますが、法律の世界では必ずしもそんなわけでもありません。以下、子供(ここでは未成年者)と親の不法行為責任について検討してみます。
 まず、民法712条は、未成年者の不法行為責任について、次のとおり規定しています。

第712条 未成年者は、他人に損害を加えた場合において、自己の行為の責任を弁識するに足りる知能を備えていなかったときは、その行為について賠償の責任を負わない。

 ここでいう「自己の行為の責任を弁識するに足りる知能(責任弁識能力)」のことを法律用語で「責任能力」といいますが、未成年者の場合、この責任能力が無い場合は、故意又は過失により他人に損害を与えた場合でも不法行為責任(つまり損害賠償義務)を負わないというわけです。そして、「責任能力」とは、簡単に言うと「自らの行為により発生する責任を理解する能力」のことをいいますが、概ね12歳程度の年齢が責任能力を有するかどうかの分かれ目とされる傾向にあるようです。
 さて、ここまででとりあえず未成年者については、責任能力の有無で責任を負うかどうかが決まることはわかりましたが、一方、未成年者の親の責任については、未成年者の責任能力の有無によって変ってきます。
 まず、子である未成年者に責任能力がない場合については、民法714条に次のとおり規定されています。

第714条 前二条の規定により責任無能力者がその責任を負わない場合において、その責任無能力者を監督する法定の義務を負う者は、その責任無能力者が第三者に加えた損害を賠償する責任を負う。ただし、監督義務者がその義務を怠らなかったとき、又はその義務を怠らなくても損害が生ずべきであったときは、この限りでない。
2 監督義務者に代わって責任無能力者を監督する者も、前項の責任を負う。

 この条文を未成年者とその親のケースに当てはめてみると、「責任能力の無い未成年者が責任を負わない場合においては、監督義務を怠らなかった場合や監督義務違反の有無にかかわらず損害が発生したような場合でない限り、その未成年者の監督義務者(通常、親権者たる親)が代わりに損害賠償義務を負う。」というふうになります。つまり、原則、親が責任を負うことになるわけです。

 一方、未成年者に責任能力が有る場合はどうかというと、責任能力が有る以上、未成年者自身が責任を負うのが当然であり、原則、親等の監督義務者は責任を負わないとされます。
 ところが、未成年者だけが責任を負うとした場合、未成年者には損害の賠償能力が無いことが多いので、不法行為の被害者としては結果として損害の賠償をしてもらえず悲惨ですので、何とか監督義務者たる親にも責任を問えないかということになります。この点について、裁判所の判例では、「未成年者が責任能力を有する場合であっても、監督義務者の義務違反と当該未成年者の不法行為によって生じた結果との間に相当因果関係を認めうるときは、監督義務者につき民法709条に基づく不法行為が成立する。」として、親に責任能力のある未成年者に対する監督義務違反があり、その違反によって不法行為による損害が発生したような場合は、親においても民法709条の不法行為責任に基づく損害賠償義務が生じると判断しています。
 
 未成年者の不法行為と親の責任の関係については以上のとおりですが、ズバリ言うなら「責任能力が無い子の責任は原則として親が負う、責任能力が有る子の責任は原則として子自身が負う」ということでしょうか。

 ところで、以上は理論的なお話でしたが、法律実務においては、未成年者の不法行為(例えば交通事故)の被害者になった場合、一番厄介なのが加害者が責任能力がある未成年者(例えば18歳くらい)のケースでしょう。基本的には、先にみたとおり未成年者本人に責任を取ってもらわないといけませんし、親に責任を取らせるにしても、監督義務違反及び違反と損害との因果関係については、原則どおり被害者側で立証しないといけませんのでこれまた大変です。
 そんな場合に、実務上よく採られている方法が、親の道義的責任に便乗するような方法です。つまり、法的な責任は無いが親が責任を感じている場合、未成年者の負う損害賠償義務について親も責任を持つということを一筆貰う方法です。理屈としては、子の損害賠償債務について親に債務引受ないし保証をしてもらうということでしょう。そうしておけば、後で「これは子ども自身の責任なので親は関係ないです」と言わせないようにできるというわけです。もちろん強引に書かせたりすると有効性について後々問題になる可能性があるので要注意ですが。
 一方、端から「親は関係ない」と主張され、実際そのように判断される場合は、未成年者に対して訴訟をして判決を取っておいて、当該未成年者が働き始めて弁済できるだけの資力を得るのを待つしかないのでしょう。


 保証と民法改正(2013年3月4日)

 何の得もないのに情誼的な理由から個人が保証人になり、結果として多大な負債を請求される事例が今も昔もあります。そして、過酷な請求からやむなく夜逃げや自己破産、最悪は自死に至ったりするケースもあります。
 そんなわけで、親は子供に「絶対に他人の保証人にだけはなるなよ!」と教育します。
 ところが、日本の社会は保証社会であり、単なる金融の場面だけでなく、住居、教育、雇用、医療、介護などあらゆる場面で保証人を求められるのが現状です。
 よって、仕方なく保証人になって貰える人を探しますが、皆が皆、保証人になってくれるような家族や親族、友人がいるわけでなく、住めない、働けない、入院できないと途方に暮れる人が出てきます。
 そこで、個人ではなく法人たる会社が保証を業としてするようになりますが、会社は業としてする以上儲けを増やし損を減らすように行動するわけで、中には過酷な請求や行動をとる悪質業者も存在したりします(借家の例で言えば「追い出し屋」と呼ばれる悪質保証会社)。
 また、保証人ビジネスなるものも登場し、「保証人になってくれたら報酬を支払う。絶対に迷惑は掛からないから。」といって登録料を徴収しつつ個人の保証人を集め、保証人を必要としている人に有料で登録している保証人を紹介したりする業者が現れました。そして、登録料を支払って保証人登録したのに誰も紹介されずそれきりで何の報酬も得られなかったケースや、保証人として登録し業者から紹介された他人の保証人になった結果多大な負債を負わされたようなケースが発生したりしているようです。
 ここまでで見ればこんな個人の保証みたいな制度は無くすべきだと思いますが、実社会では相当程度浸透している制度であり影響が大きいうえ、必要性の高い場合(例えば会社の借入れを社長が保証する場合)もあったりして直ちに無くすのは難しい、無くすならこれに代わる制度を設けなければならない等々といろいろ意見があったりします。
 さて、最近新聞上でも話題になってきた民法(債権法)改正の議論においては、この保証という制度についても改正の議題にあがっています。どのように変るのか、変らないのか注目です。


 共有不動産の固定資産税の負担(2013年1月31日)

 数名の所有者で共有(共同所有)する不動産の固定資産税については、名義人中の代表者宛に役所から納付書が送られてきます。そこで、納付書を受け取った代表者はとりあえず共有者全員分を立替えて支払ってしまい、後から他の共有者に各負担分を求償する場合も多いのではないでしょうか。ところが、他の共有者から速やかに支払ってもらえなかったり、酷い場合は全く取り合ってもらえなかったりで、立替えたままの状態が何年も続いているようなケースもあるかもしれません。
 さて、この共有不動産の固定資産税ですが、法律的には共有物の管理費用(共有物の維持・利用・改良などの必要費や有益費)の一種と考えられています。したがって、共有物の管理費用の負担に関する法規に従って上記のような問題を処理します。
 民法では、共有物の管理費用について、次のように規定しています。

(共有物に関する負担)
第253条 各共有者は、その持分に応じ、管理の費用を支払い、その他共有物に関する負担を負う。
2 共有者が1年以内に前項の義務を履行しないときは、他の共有者は、相当の償金を支払ってその者の持分を取得することができる。

(管理者による費用の償還請求等)
第702条 管理者は、本人のために有益な費用を支出したときは、本人に対し、その償還を請求することができる。
2 省略
3 省略

 まず、民法253条1項によると、例えば3名が均等割合で共有する不動産の固定資産税については、3名がそれぞれ3分の1ずつ負担しなければならないことになります。また、同法2項によれば、3名のうちの1人が負担に応じないため他の共有者が立替えた場合、支払いの催告後1年経過しても支払いに応じない場合は、その者の有する持分3分の1について、他の共有者は相当額(土地の価格の3分の1相当)を支払って買い受けることができるとされています。管理費用を負担しない者は、共有者から抜けさせることができるというわけです。
 それから、民法702条によっても、他の共有者のために有益な費用(固定資産税)を立替えて支払った者は、他の共有者に対して立替えた金額を支払うように請求できることになります。
 
 3人で共同所有している不動産の税金なんだから3人で平等に負担するのは当たり前、という一見何てことは無い内容ですが、実際はというと知ってか知らずか1人の方だけが代表者として納税・負担されているケースが意外に多いように思います。
 いずれにしても、このようなケースにも一応ちゃんとした法律の規定があるというわけです。
 なお、固定資産税に限らず、共有物の管理費用に該当する費用(例えば建物の修繕費等)であれば、上記と同様の法律の適用がありますので、共有者の一部が管理費用を負担してくれなくてお困りの際は、一度ご検討されてもいいかもしれません。


 ペットによる事故と損害賠償(2013年1月19日)

 ペットの代表格といえば犬又は猫というわけで、犬や猫を飼育されている方も多いでしょう。
 そして、犬や猫といったペットを飼う場合、ペットによって生じた事故については、当然のごとく買主が責任を負わなければなりません。
 民法718条は、動物の占有者等の責任について、次のように規定しています。

 第718条 動物の占有者は、その動物が他人に加えた損害を賠償する責任を負う。ただし、動物の種類及び性質に従い相当の注意をもってその管理をしたときは、この限りでない。
 2 占有者に代わって動物を管理する者も、前項の責任を負う。

 上記の民法の規定ですが、一般の不法行為により他人に損害を与えた場合に比べて責任が重くなっています。というのも、一般の不法行為責任については、被害者側が加害者の故意又は過失を立証して初めて加害者の責任が認められるのですが、動物が他人に与えた損害についての責任の場合は、加害者側つまり動物の占有者(通常は飼い主)がきちんとした管理をしていたことを証明しない限り、不法行為責任を負うとされているからです。これを「立証責任の転換」といったりします。被害者と加害者のどちらに不法行為の立証責任があるかというのは、損害賠償等を請求する上での有利不利の決定的な違いになりますので、この点をみれば、動物の飼い主の責任がいかに重いかがよくわかります。実際の裁判例でも、動物の飼い主の責任が否定されるケースはかなり少ないようです。
 というわけで、動物を飼っておられる方は、動物の種類や性質に応じた適切な管理を行い、細心の注意を払って飼育していないと、事故が起こったときは、かなりの確率で責任を負わなければならなくなることを自覚しておかなければならないでしょう(もっとも、一般的に動物の飼い主というのはそのように心得ているものだと思いますが)。

 因みに、不幸にも飼育している動物が他人に損害を与えた場合は、飼い主はどのような責任を負うことになるのかというと、大体次のようなものが該当します(一番簡単な例として飼い犬が他人に噛み付いた場合を想定します)。
 @ 治療費
 A 入院・通院費
 B 慰謝料
 C 休業損害
 D その他財産的損害(破れた服代等)
 なお、被害者側にも過失がある場合(不用意に近づいたり挑発したりした場合等)は、相当程度の減額がなされる可能性があります(これを過失相殺といいます)。
 また、以上は民事上の責任ですが、刑事上の責任として、過失傷害罪(刑法209条)が成立する場合もあります。
 一方、他人飼育の動物により被害を受け、被害者として飼い主に損害賠償等を請求しようと考える場合は、事故発生の事実と損害額を立証できるように医師の診断書、診療報酬明細書、事故現場や犬の飼育状況の写真等を準備しておくといいでしょう。
 また、地域の保健所への事故届出もしておくべきでしょう。事故が起きたことの証明に役立ちます。


 連帯保証とは?(2012年12月12日)

 連帯保証といえば、多くの方が一度は聞いたことがある言葉でしょうが、この連帯保証という制度、儀礼や人情で保証人になったが為に悲惨な目に遭うという事例が昨今の世間で絶えない中、現在進行中の民法改正作業において「廃止すべきである」との意見も出ていますが、金融の世界ではいまだに当たり前の如く使われています。
 そこで、今更ながらですが、この連帯保証という制度について、以下、簡単にご説明します。

1.まず、通常の保証については、民法446条1項が「保証人は、主たる債務者がその債務を履行しないときに、その履行をする責任を負う。」と規定しています。つまり、主たる債務者が責任を果たさない場合に初めて保証人が責任を負うことになります。借金の保証の例で言うと、「借主本人が返さない、返せない場合に初めて保証人が返さなければならない」というわけです。

2.ところで、上記のような通常の保証人には、債権者に対抗するための2つの権利があるとされています。1つは「催告の抗弁権(民法452条)」といい、もう1つは「検索の抗弁権(民法453条)」といいます。

3.「催告の抗弁権」とは、債権者が保証人に債務の履行を請求してきた場合に、「主たる債務者に催告をするまで債務の履行を拒絶できる権利」のことです。借金の保証の例で言えば、「先ず借主本人に請求してからでないと支払いに応じない」という具合に支払いを拒否できるというわけです。

4.「検索の抗弁権」とは、債権者が保証人に債務の履行を請求してきた場合に、「主たる債務者に弁済をする資力があり、かつ、執行が容易であることを証明することにより債権者が主たる債務者の財産について執行するまでは履行を拒絶できる権利」のことです。借金の保証の例で言えば、「借主本人には○○銀行に預金100万円があるんだから先ずそこから回収してからでないと請求には応じない」という具合に支払いを拒否できるというわけです。

5.また、これら2つの抗弁権を行使したにも拘らず、債権者が主たる債務者への催告又は執行を怠ったために生じた損害については、保証人はその損害の限度において責任を免れる(民法455条)とされています。

6.さて、一方、連帯保証についてですが、民法454条は「保証人は、主たる債務者と連帯して債務を負担したときは、前2条の権利を有しない。」と規定しています。この前2条の権利とは、「催告の抗弁権(民法452条)」と「検索の抗弁権(民法453条)」のことです。つまり、上記2つの抗弁権を連帯保証人は有しないとされているのです。したがって、債権者が主たる債務者をとばしていきなり保証人に請求してきても、保証人はそれを拒否できないことになります。これは、連帯保証人は主たる債務者と同等の義務を債権者に対して負うことを意味するものであり、まさに、よく言われる「自分が借りたと同然の責任を負う」ということになるわけです。

 以上のように、債権者に対し「本人と同等の責任」を負うのが連帯保証人という制度なのです。安易に引き受けてしまうと人生狂わされるとは昔からよく言われますが、保証人になっても何のメリットも無いのが通常ですから、それで莫大な借金を背負わされたのでは堪ったものではないでしょう。また、印鑑の冒用等による保証トラブルも散見されますので、印鑑の保管にも注意が必要です。
 今後、法改正により保証制度がどのように変わるのか変らないのか分かりませんが、少なくとも安易な保証はしてはならないことに変りはありません。


 陥りやすい消滅時効〜そのE〜(2012年12月5日)

 今回は陥りやすい消滅時効に関する話のとりあえず最終回ということで、消滅時効の時効期間が経過してしまった場合における債権者側からの対策について検討してみます。

 債権を放置していたところ、うっかり消滅時効の時効期間が経過してしまい時効が完成してしまった場合でも、諦めるのはまだ早いです。というのも、「時効は援用しなければその効力を生じない(民法145条、最判昭和61年3月17日)」とされているからです。時効を援用するとは、「成立した時効の効果を主張する」ということであり、消滅時効でいうならば、「時効期間が経過して権利(義務)が消滅した」ということを相手方に対して主張することをいいます。したがって、例えば、借金の場合でいうと「消滅時効が完成しても相手が時効だからもう借りた金を返す必要はないと言うまでは権利は消滅しない」ということになります。相手が時効だから払わないと言わない限りは債権者としては、堂々と請求していいというわけです。
 そして、時効完成後に相手方に支払いを請求した結果、相手が消滅時効については何も言わずに支払った場合は、それは完全に有効な弁済であり、仮に相手方が後から債務が時効により消滅していたことを知ったとしても、もやは消滅時効の主張はできないとされています。これを法律用語では「時効援用権の喪失」といいます。当事者間の契約で本来予定していたとおりの返済を行ったのだから、それを後から時効を主張して覆すのは信義則に反し認めないというわけです。これは、仮に消滅時効が完成していることを知らなかった場合でも同様です(最判昭和41年4月20日)。
 このように時効援用権を喪失する場合としては、債務の弁済行為(一部弁済を含む)のように「債務を承認する行為」をした場合が該当します。債務の承認とは、例えば借金関係でいうと「借金の返済義務があることを認めること」をいい、「必ず払いますからちょっと待ってください」と述べたような場合が典型例です。
 さて、以上のような時効制度の仕組みが分かれば、消滅時効が完成してしまった場合に債権者が採るべき行動は自ずと明らかになってきたのではないでしょうか。そうです。相手方(債務者)の時効援用権を喪失させ、消滅時効を主張できなくすればいいのです。そして、そのような法的効果を得るために、相手方(債務者)に債務の承認行為をさせればいいのです。債務の承認行為とは、先に述べたとおり債務の一部弁済や返済猶予の申込みが該当します。
 したがって、消滅時効に陥ってしまった債権者としては、まずは債務者から一部でもいいので自発的な弁済をしてもらうと同時に、返済義務があることを認める旨一筆貰うことを考えねばなりません。そうして、債務者から一部弁済なり債務承認書なりを貰えれば占めたものです。後で時効だと言われても時効の援用はもはや認めれないでしょう。
 ただし、この債務の承認を得る場合には、手段、態様に注意しなければなりません。欺瞞的な方法で騙したり、無知や畏怖に乗じて甘言を弄したり、威圧的な言動で違法な取立てをしたりして債務の一部弁済をさせたような場合は時効の援用権は喪失しないとする裁判例が割と沢山あるからです。そもそも時効援用権を喪失するとされたのは債務の承認行為に対する債権者の信頼を保護するためですから、これらの場合は保護に値しないとされるのは当然でしょう。したがって、債務の承認を得る方法としては、あくまで自然な形で債務者の自発的な行為によるべきでしょう。「だいぶ待ったんやけどちっとも返してくれへんからとても困っているんや。少しでもいいから返してくれたら今しばらくは待つけど、不安やから簡単でいいから一筆書いてや」という感じでしょうか。
 あと、いきなり法律家に依頼して内容証明で請求してもらったりしてはいけません。そんなことをしたら相手も警戒して法律家のところに相談に行き、「時効が成立してるから払う必要ないよ」とアドバイスされておしまいだからです。法律専門家には、とりあえず相談しても、まずは自分の名前で動いた方が賢明だと思います。

 以上、消滅時効完成後の対策のお話でした。債権を塩漬けにしていて気付いたら時効だったという場合に参考にしてみてください。

追伸 反対に、債務者の側からみれば、消滅時効完成後においては速やかに時効を援用するよう心掛けておかなければなりません。また、時効完成後に債権者が接触してきた場合は、不用意に返済をしたり、返済の約束をしてはならないことは、もう言うまでもないでしょう。


 陥りやすい消滅時効〜そのD〜(2012年11月29日)

 前回、商事債権の消滅時効(5年)についてお話しましたが、実は主に商売に関係する権利(債権)については、民法等でさらに短い時効期間の定めが規定されています。特に商売人の方にとっては要注意ですので、以下に例を挙げて主なものを列挙してみます。

1.1年の短期消滅時効
 (1) 大工・左官・植木職人の代金、芸人の報酬(民法174条2号)
 (2) 運送代金(民法174条3号)
 (3) ホテル・旅館の宿泊代金、飲食店の飲食代金、映画館の席料(民法174条4号)
 (4) DVD・CDのレンタル代金(民法174条5号)
 (5) 売買の瑕疵担保責任(民法570条・556条3項)
 (6) 請負の瑕疵担保責任(民法637条)

2.2年の短期消滅時効
 (1) 売掛金一般(民法173条1号2号)
 (2) 弁護士の報酬(民法172条1項)
 (3) 塾の授業料(民法173条3号)

3.3年の短期消滅時効
 (1) 医者の診療代金(民法170条1号)
 (2) 請負人の工事代金(民法170条2号)
 (3) 手形金債権(手形法77条1項)
 (4) 保険金請求権(保険法95条1項)
 (5) 自賠責保険金請求権(自賠法19条)
 
 以上、主に商売に関係する債権のうち特に短い消滅時効が適用されるものを挙げてみました。
 これらを見ても分かるとおり、いろんな時効期間がありややこしいのです。そんなわけで現在進行中の民法改正作業においては、これら短期消滅時効の規定について見直し作業が行われています。したがって、おそらく近い将来これらの規定については、ある程度統一した時効期間に改めれられるのではないかと思われますが、当面は現行どおりなので特に商売をされている方は時効の管理には常日頃注意を払っておきましょう。他方、長期間支払いを延滞している方の場合は、消滅時効が成立していないかどうか確認してみるのも一考かもしれません。
 なお、いくら上記のような短期の消滅時効に該当する債権でも、「判決(裁判上の和解、調停その他確定判決と同一の効力を有するものを含む)によって確定した権利」についてはその時効期間は10年となり(民法174条の2)、上記の短期消滅時効の規定は適用されませんので注意が必要です。裁判までされて負けた場合は、時効期間がグンと延びるということです。

 次回は、とりあえず消滅時効の話題の区切りとして、最悪、消滅時効が成立してしまった場合の債権者側の対処法について考えてみようと思います。


 陥りやすい消滅時効〜そのC〜(2012年11月22日)

4.借金の時効期間

 金銭の消費貸借契約に基づく貸金(住宅ローン等も含む)の返還請求権の消滅時効(いわゆる「借金の消滅時効」)については、貸主、借主の属性により消滅時効の期間が異なってくるから注意が必要です。以下に代表的な例を挙げて検討してみます。

(前提として必要な知識)
(1) 商事消滅時効(商法522条)
 商行為によって生じた債権は、この法律に別段の定めがある場合を除き、5年間行使しないときは、時効によって消滅する。ただし、他の法令に5年間より短い時効期間の定めがあるときは、その定めるところによる。
(2) 商行為@(商法501条〜503条)
 絶対的商行為、営業的商行為、附属的商行為の3種類
(3) 商行為A(会社法5条)
 会社がその事業としてする行為及びその事業のためにする行為は、商行為とする。
(4) 商人(商法4条)
 自己の名をもって商行為をすることを業とする者
(5) 一方的商行為(商法3条1項)
 当事者の一方のために商行為となる行為については双方に商法を適用する。

⇒・商事消滅時効(5年)の適用の有無は、これら「商行為性」と「商人性」から判断する。
 ・銀行取引は商行為である(商法502条8号)が、金融業は商行為ではない。

(貸主ごとの具体的検討)
(1) 銀行
 株式会社であり、銀行取引は商行為であるので、商人に該当し、借主の属性に拘らず借金の消滅時効は5年である。
(2) 信用金庫
 会社ではないので商人に該当せず、金融業は商行為ではないので、借金の消滅時効は10年(民法167条1項)である。但し、借主が商人の場合は消滅時効は5年である(商法3条1項)。
(3) 信用組合
 (2)に同じ。
(4) 労働金庫
 (2)に同じ。
(5) 農業協同組合
 (2)に同じ。
(6) サラ金業者(法人)
 株式会社であり、会社は商人であるから、借主の属性に拘らず借金の消滅時効は5年である。
(7) サラ金業者(個人)
 (2)に同じ。
(8) 親戚・知人
 (2)に同じ。
(9) 社会福祉協議会(生活福祉資金貸付)
 (2)に同じ。

 こうしてみると、身近な借入先はいろんな種類がありますが、借入先の属性や借主の属性により消滅時効の期間が異なってくることがよくわかります。一般の方ならともかく、法律の専門家が信金や農協あるいは個人のサラ金業者に対して詳しく検討もせずに「業者の債権なので5年経って時効だから払う必要はない」なんて簡単に言ったりすると赤っ恥を掻くわけです。ただし、借主が商売をやっており商人に該当する場合は「5年」が正解なので、その場合に「10年は時効にかからない」なんて考えているともっと大変な目に遭いますが・・・。
 それから、この論点に関しては、同様の金融行為を行っているのに時効期間が異なるのはおかしいといった批判があり、これはごもっともな意見に思います。
 
 以上のように、借金の時効1つとってみても詳しく検討してみるとなかなか難しいものがありますが、実は商売に関係する消滅時効には今回の商事消滅時効(5年)よりももっと短い時効期間がたくさんあります。次回は、それらについてご紹介します。


 陥りやすい消滅時効〜そのB〜(2012年11月17日)

 今回は、一般の個人債権者においてよくある勘違いのお話です。
 世間一般で、売掛金や請負代金等の支払いを請求する場合、通常は請求書を送ったりして請求します。そして、支払いがない場合は再度請求して催促します。このような債務(代金の支払い等)の履行を裁判所等を通じることなく当事者間で請求することを法律上は「催告」と呼んでいます。
 さて、この催告と消滅時効の関係ですが、民法153条は次のように定めています。

第153条 催告は、6箇月以内に、裁判上の請求、支払督促の申立て、和解の申立て、民事調停法 若しくは家事審判法による調停の申立て、破産手続参加、再生手続参加、更生手続参加、差押え、仮差押え又は仮処分をしなければ、時効の中断の効力を生じない。

 まず、時効の中断とは、簡単に言うと「継続していた時効期間を振り出しに戻して一から計算すること」であり、例えば10年で消滅時効にかかるところ9年目に時効の中断があった場合はその時点からまた10年の期間を計算していくことになります。
 そして、民法153条が述べていることを要約すると、「時効の中断を生じさせるためには、単に催告しただけでは足りず、催告から6か月以内にさらに公の機関である裁判所を通じての手続により請求をしなければならない。」ということになります。もっと言うと、「催告すれば消滅時効の完成を6か月間猶予してあげるから、その間により明確な請求手続を採りなさい。」ということです。例えば、時効完成1日前に催告をすれば、そこから6か月間時効の完成を待ってもらえるので、その間に裁判所に訴訟等を提起すれば正式に時効が中断することになりますが、そのような手続を期間内に踏まなかった場合は時効は中断しなかったことになり、結果、消滅時効が当初の期間どおりに完成してしまうことになるのです。
 さて、ここで1つの疑問です。「催告をして6か月間消滅時効の完成を遅らせて、この6か月の期間が経過する前に再度催告をして6か月間消滅時効の完成を遅らせて・・・という具合に催告を繰り返すことで消滅時効の完成を遅らせ続けることができるのか?」という疑問です。
 結論から言いますと、この疑問に対する答えは「ノー」です(通説・判例)。催告により消滅時効の完成を6か月間遅らせることができるのは、「1回限り」なのです。理由は、催告は単に裁判外において履行を求める意思表示にすぎず、裁判上で請求する場合のように公の手続において確定的な時効中断を求めるものではないから、とされています。また、民法153条の条文にも6か月以内に採るべき手続に催告を規定していませんから、法文上も明白です。
 以上のとおり、「催告さえ定期的にきちんとしていれば時効にならない」なんてことは、努々考えてはならないのです。

 ところで、消滅時効が中断する場合として、民法147条3号は、「承認」を規定しています。
 「承認」とは、消滅時効により利益を受ける債務者等がある権利が存在することを知っている旨を表示すること、つまり認めることをいい、この承認があれば権利の存否は明白になり、債務者が認めているのだから債権者が権利行使を控えたとしても過怠にはならないから時効の中断事由になるとされています。この承認行為は、具体的に言うと、支払猶予の申込み、利息の支払い、一部の返済等が該当します。
 そうすると、例えば10年の消滅時効の完成の3日前に債務者から借金の支払猶予の申込みや一部の返済を受ければ、その時点で消滅時効が中断し、あらためて10年の時効期間が進行するということになるのです。
 同じ時効の中断事由でも、債権者からの一方的な支払催告と債務者からの支払意思の表示では、その効果が全然違うというわけです。したがって、消滅時効を直ちに確実に中断したい場合は、催告だけでなく、債務者から「明確な承認」を取っておいた方がいいでしょう。


 陥りやすい消滅時効〜そのA〜(2012年11月12日)

2.残業代債権
 残業代とは、言うまでもなく法定労働時間を超えて労働をした場合の割増賃金のことですが、この割増賃金の請求権も通常の賃金と同様の消滅時効が存在します。労働基準法115条は以下のとおり定めています。

第115条 この法律の規定による賃金(退職手当を除く。)、災害補償その他の請求権は2年間・・・行わない場合においては、時効によって消滅する。

 ちょっとして例で考えてみますと、仮に本日未払い残業代を請求する(請求が相手に到達した)として、毎月の賃金の支払いが月末締めの翌月15日払いであれば、2年間遡って請求できるのは平成22年11月12日より後に来る支払日(平成22年11月15日)にかかる平成22年10月分の残業代から請求できることになります。ところが、請求する(請求が到達する)のが4日遅れて今月16日になると、2年間遡って請求できるのは平成22年11月16日より後に来る支払日(平成22年12月15日)にかかる平成22年11月分の残業代からになり、まるまる1か月分の残業代請求権が時効にかかって消滅してしまうことになるのです。残業時間が多い場合はちょっと痛いことになってしまうでしょう。
 したがって、残業代請求をする場合は、ゆっくり準備をしているとどんどん過去の残業代が消滅時効にかかってしまうので、まずは速やかに請求する必要があるのです。
 しかし、速やかに請求するといっても、請求する労働者側には残業代を計算する資料等(タイムカード、賃金台帳、業務日報等)が手元にない場合が多く(退職後に請求する場合は尚更です)、具体的に正確な金額を計算して請求するのは難しいのが現実です。
 よって、とりあえず消滅時効を中断させるための催告としての請求は、「請求者と請求の種類と支払期」くらいを特定して請求すれば足りよう、と考えられています。「時効を中断するためにとりあえず概算でもいいから請求しておこう」という感じでしょうか。もちろん、請求は内容証明郵便でします。
 もっとも、裁判外での請求(催告)だけでは万全ではありませんので(民法153条)、催告して交渉しても話がまとまらない場合は、催告から6か月以内に訴訟等を起こすようにしなければなりません。
 因みに、残業代を払わなかったのは不法行為だから、不法行為による損害賠償請求権として支払期日から3年間は時効により消滅しないという理論(裁判例)もあったりしますが、今後の検討課題というところでしょうか。
 以上、事実上、1か月単位で請求できる金額が減っていくという恐ろしい?残業代の消滅時効についてのお話でした。


 陥りやすい消滅時効〜その@〜(2012年11月6日)

 時の経過により権利が消滅してしまう消滅時効の制度。権利関係の最中にある当事者は勿論、ある意味専門家泣かせの制度でもあり、法律実務を行ううえでは常に念頭に置いておかなければならない重要ポイントである。
 そんなわけで、今回から数回に分けて、この消滅時効の中でも特に陥りやすいものをピックアップして検討してみます。
 なお、現在民法改正作業が進行しており、消滅時効制度(時効期間等)についても改正の対象になっておりますが、まだ3〜4年は現行の時効制度のままだと思います。

1.遺留分減殺請求権
 遺留分とは、簡単に言うと「法定相続人(配偶者、子(代襲者含む)、直系尊属)に対し遺産の一定割合を相続することが保障される制度」であり、仮に被相続人が生前贈与や遺言で特定の相続人や第三者に遺産を全部与えたとしても、最低限の割合については他の相続人も遺産を貰えるようにしようという制度です。そして、この遺留分を侵害するような生前贈与や遺言があった場合に、侵害者に対して自分にも遺留分に相当する遺産を渡せと主張することを減殺請求といい、この権利のことを法律上「遺留分減殺請求権」と呼んでいます。
 さて、この遺留分減殺請求と消滅時効についてですが、遺留分減殺請求権は「とにかく権利行使期間が短い」のが難点です。民法1042条前段では、遺留分減殺請求権の行使期間について、「遺留分権利者が、相続の開始及び減殺すべき贈与又は遺贈があったことを知った時から1年間行使しないときは、時効によって消滅する」と規定しています。例えば、被相続人Aの死亡により相続が開始し、相続人は子である長男Bと二男Cの2名とします。そして、Aは遺言を残しており、その遺言によると「全財産を長男Bに相続させる」とされています。長男Bは遺言どおりに全遺産を自分のものにするつもりです。この場合、遺言によると何も遺産を貰えないことになる二男Cが遺産を幾らかでも貰うためには、長男Bに対して遺留分減殺請求をしなければなりません。そして、二男Cは、Aの相続開始(死亡)を知り、かつ、自分の遺留分を侵害するような遺言がなされた事実を知った時から1年以内に遺留分減殺請求をしなければ、時効により減殺請求する権利を失うことになるというのです。
 ところで、この1年間という期間ですが、先にも述べましたように実務の世界では非常に短く感じざるを得ないのが現実です。そもそも先のような例も含め相続問題というのは細かくて複雑な問題を含んだケースも多々あり、総じて長期間に亘って解決していく場合も多くあるように思われます。また、相続が発生してからすぐに問題解決に動き出す相続人もどちらかというと稀であり、通常は文句があっても法事等が一段落してから解決に乗り出す場合も多いと思います。さらには、遺言や生前贈与といった行為についての事実確認や有効無効についてばかり気を取られてしまい、それらについて争っているうちにいつの間にか長時間が経ったりします。そして、いざ問題の解決をすべく法律専門家のところに相談に行ったときには、すでに相続開始と遺言内容を知った時から1年以上が経過しており、遺留分減殺請求権が時効により消滅してしまっているという憂き目に遭うという場合が起こってくるわけです。
 よって、相続人としては、少なくとも相続開始後に自己の遺留分を侵害するような生前贈与や遺贈(遺言による贈与のこと)を発見した場合は、直ちに遺留分減殺の請求を検討すべきでしょう。但し、余計な紛争論点(侵害行為を何時知ったのか)を増やさないためにも、基本的には相続開始(死亡)後1年以内に請求するようにすべきでしょう。
 因みに、遺留分減殺請求をする場合、通常、内容証明郵便をもって侵害者に通知しますが、この際、具体的な処分行為、減殺対象の目的物、遺留分額や侵害額については、無理に特定して通知しなくてもよく、実務的にはある程度抽象的な記載でも差し支えないとされています(例えば、「私の遺留分は全遺産の4分の1であるが、これが侵害されているため、侵害者である貴殿に対し減殺の請求を通知します。」のような記載でも可能である。)。
(余談)
 民法1042条は、後段で「相続開始の時から10年を経過したときも」遺留分減殺請求権を行使できないと規定しています。これは前段の1年の消滅時効とは異なり法律的には除斥期間であるとされています。除斥期間とは、消滅時効とは異なり中断や停止がなく、当事者の援用も要しない権利行使の期間制限であり、簡単に言うと「固定された権利行使の制限期間」みたいなものです。
 したがって、相続開始(死亡)の時から10年経過したらどういう理由があれ基本的に遺留分減殺請求は行使できないことになります。この点、消滅時効と違って単純明快です。
 そこで、1つの策略?が考えられてしまいます。それは、他の相続人の遺留分を侵害する遺言がある場合に、遺言により利益を受ける者が当該遺言を10年間隠しておいて(もちろん遺産分割等の話も一切せずに)、相続開始後10年経過した時に初めて明らかにして他の相続人の遺留分減殺請求を封じてしまう、という考えです。先の例で言えば、長男Bが「全遺産を自分に相続させる」旨の遺言を10年間隠しておいて、その間遺産の処理を塩漬けにしておき、Aの死後10年経過した後に二男Cに開示して遺言を執行し、結果的にCの遺留分減殺請求権を封じてしまう、という具合です。
 このような方法が実際認められるか否かはともかく、そんな姑息?な方法が採られたりすることが法律実務の世界ではあったりなかったり・・・というお話です。


 住宅リフォームと贈与税(2012年9月7日)

 最近は少なくなってきている?のかも知れませんが、それでも親世帯と子供世帯が親所有の自宅建物に同居しているケースはまだまだ多くあると思います。そんな中で、親所有の自宅建物が築年数の経過により相当程度古くなってきたときや建物が手狭になってきたとき或いは親の高齢化に伴い内装をバリアフリーにする必要が生じた場合などには、建物の増改築(リフォーム)がなされることも多いでしょう。
 ところで、上記のように建物リフォームが行われる場合、通常、将来長年に亘って現役で働き収入を得る見込である子供の方が資金を捻出し、そのために住宅ローンを組んだりすることになる場合が多いものと思います。しかし、そのような場合、注意しなければならないことの1つに税金(贈与税)の問題があります。これは、簡単に言うと次の理屈によります。

@ まず、民法242条では、「不動産の所有者は、その不動産に従として付合した物の所有権を取得する。」と定められています。

A そうすると、親所有の不動産(建物)に子供が資金を提供して増改築(リフォーム)を施した場合、増改築部分の所有権は親所有の不動産(建物)に従たる物として吸収される結果、増改築部分の所有権は親に属することになる可能性があります(少なくとも増改築部分も親の名義で登記されることになるとそう見ざるを得ないでしょう)。

B その結果、親は子供から増改築価格相当分の利益(増改築資金1000万円なら当該価格)を子供から得たことになり、これは親が子供から1000万円の贈与を受けたとみなされ、これに対して贈与税が課される可能性があるというわけです。

 以上のような税金の点は、意外と見落とし易く、建築業者や金融機関はそこまでのアドバイスはなかなかしてくれないように思います。

 一方、上記の贈与税の問題に対する対策としては、一般的に次のような方法が採られています。

@ 増改築する前に建物の名義を親から子供に変更して、変更後に工事をする。この方法だと、自分の建物に自分の資金で工作するわけなので贈与の問題は生じないでしょう。ただし、事前の名義変更について、税金(贈与税、取得税、免許税)が掛かるので、この方法の利用は、親の建物が相当老朽化していて固定資産評価額がある程度低額な場合に限定されるのかもしれません。

A 増改築後に、建物の価値が増加した分に相当する建物の所有権持分を親から子供に譲渡移転する。これは、子供が出資して増加させた建物価値に相当する権利を、反対に親から子供への返済(代物弁済)として譲渡することで、贈与じゃない扱いとするわけです。
 
 他にも方法はあるかもしれませんが、いずれにしても増改築資金は高額な場合が多いので、これに対して贈与税が課されるとかなりの税額になりますので、要注意でしょう。


 消滅時効(2012年1月24日)

 例えば、医療の現場などで「手遅れ」という言葉を聞きますが、法律の世界でも「手遅れ」という事態は起こり得ます。その最たるものが消滅時効という制度です。消滅時効とは、読んで字の如く「時の経過による効果として消滅させる」制度です。もっと簡単に言いますと「本来いつでも行使できる状態にある自らの権利を長期間に亘って行使しない者は法律上保護しない」という制度です。例えば「友達に100万円貸していたが別にお金に困っているわけではないのでそのまま放置していたら10年経ってしまった」というのが典型的な事例ですが、この法律は「知っていたが放置していた、忘れていた」場合はもちろん「知らなかった、気付かなかった」という場合にも適用されます。
 したがって、我々市民は、このような「時効により権利が消滅してしまった」という悲惨な事態を防止するために、自分の権利に対して敏感になり、「手遅れ」にならないよう早めに権利を行使しなければなりません。
 ところが、世の中には法律で定められたいろんな権利が存在します。そして、現在の法律では、それぞれの権利に応じて消滅時効の期間や起算点(いつから期間を計算するかという点)が定められており、大変複雑です。よって、簡単には時効が成立するかどうかを判断できません。法律を概観してみても、各権利により、6か月、1年、2年、3年、5年、10年、20年といった時効期間が定められています(因みに、消滅時効については、現在、法改正の議論中です)。
 というわけで、大切な権利が時効により消滅してしまわないために、まずは、自分が持っている権利を確認しましょう。そして、権利があるならば早めに行使しましょう(行使すれば、時効が中断したり、停止したりします)。
 そして、ご自分では判断、対処ができないような場合は、司法書士等の法律専門家に早めに相談しましょう。時効に限らず、早めの相談が大切です。