労働問題


 内定辞退と損害賠償(2014年5月14日)

 新年度に入ってあちらこちらで新入社員(と思われる)の方によくお目にかかりますが、多くの方は、内々定、内定、本採用、試用期間を経て現在に至っておられるのでしょう。
 ところで、労働関係の問題の中でも、企業の内定に関する問題としては、企業側からの内定取消しが問題になるケースが多いところですが、反対に、内定者側からの内定取消し(いわゆる内定辞退)が問題になることもあったりします(採用が売り手市場の場合は特にこの手の問題が増えてきます)。例えば、企業側において、内定者が当然に企業に入社するものと考えて研修費等の費用を負担していたところ、入社間際になって内定辞退の申し出があった場合です。
 このような内定者側からの内定辞退については、基本的に労働者側には労働契約について解約の自由があるので、2週間の予告期間をおいてする限り自由に内定辞退できるのが原則とされています(民法627条)。したがって、内定を辞退すること自体はもちろん可能です。
 ただし、「あまりにも信義則に反する態様でなされた内定辞退については、例外的に契約責任や不法行為責任を問われる可能性もある」と一般的に考えられていますので、場合によっては企業側が被った損害の賠償を請求される場合もあるかと思います。
 そんなわけなので、内定を辞退する場合は、やむを得ない事由がある場合も含め、企業側の事情にも配慮して早めに誠意をもって申し出るべきとされるところです。

民法第627条(期間の定めのない雇用の解約の申入れ)
 当事者が雇用の期間を定めなかったときは、各当事者は、いつでも解約の申入れをすることができる。この場合において、雇用は、解約の申入れの日から2週間を経過することによって終了する。
2 期間によって報酬を定めた場合には、解約の申入れは、次期以後についてすることができる。ただし、その解約の申入れは、当期の前半にしなければならない。
3 6箇月以上の期間によって報酬を定めた場合には、前項の解約の申入れは、3箇月前にしなければならない。  


 労働者に払わなかったら倍返しだ!?(2013年12月19日)

 今年は「倍返し」という言葉が流行りましたが、「倍返し」といえば、労働基準法に次のような規定があります。

(付加金の支払)
第104条  裁判所は、第20条(解雇予告手当の支払)、第26条(休業手当の支払)若しくは第37条(割増賃金支払)の規定に違反した使用者又は第39条第7項(年次有給休暇の期間の賃金支払)の規定による賃金を支払わなかった使用者に対して、労働者の請求により、これらの規定により使用者が支払わなければならない金額についての未払金のほか、これと同一額の付加金の支払を命ずることができる。ただし、この請求は、違反のあった時から2年以内にしなければならない。

 この付加金という制度、要は、「解雇予告手当等が支払われなかった場合、労働者が請求すれば、裁判所は雇用主(企業)に対し未払金全額にそれと同額をさらにプラスした金額(つまり未払金の倍額)を支払わせることができる」という制度です。この制度、倍額を支払わせるかどうかは、最終的には裁判所の判断次第なので確実なものではありませんが、訴訟まで提起して未払金を請求する場合は、一応、この付加金についても請求するのが一般的です。
 なお、神戸地裁管内の裁判所では、付加金請求額については附帯請求として訴額に算入しないとされているので(東京式)、訴訟の手数料が安上がりですし、司法書士の代理権オーバー(140万円超過)の可能性も減りますのでラッキーです(因みに大阪管内は算入方式らしいです)。
 というわけで、労働者に支払うべき一定のお金を支払わない雇用主に対しては、「倍返し」を請求することも可能というお話でした。


 労働契約法の改正と事業主の対応(2013年7月18日)

 昨年、労働契約法が改正されまして、今年の4月1日から全面的に施行されているわけですが、今回の改正条項の中でも第18条に関して施行日前からいろいろと相談があったりしますのでちょっと考えてみました。改正第18条は以下のとおりです。

労働契約法
(有期労働契約の期間の定めのない労働契約への転換)
第18条 同一の使用者との間で締結された二以上の有期労働契約(契約期間の始期の到来前のものを除く。以下この条において同じ。)の契約期間を通算した期間(次項において「通算契約期間」という。)が五年を超える労働者が、当該使用者に対し、現に締結している有期労働契約の契約期間が満了する日までの間に、当該満了する日の翌日から労務が提供される期間の定めのない労働契約の締結の申込みをしたときは、使用者は当該申込みを承諾したものとみなす。この場合において、当該申込みに係る期間の定めのない労働契約の内容である労働条件は、現に締結している有期労働契約の内容である労働条件(契約期間を除く。)と同一の労働条件(当該労働条件(契約期間を除く。)について別段の定めがある部分を除く。)とする。
2  当該使用者との間で締結された一の有期労働契約の契約期間が満了した日と当該使用者との間で締結されたその次の有期労働契約の契約期間の初日との間にこれらの契約期間のいずれにも含まれない期間(これらの契約期間が連続すると認められるものとして厚生労働省令で定める基準に該当する場合の当該いずれにも含まれない期間を除く。以下この項において「空白期間」という。)があり、当該空白期間が六月(当該空白期間の直前に満了した一の有期労働契約の契約期間(当該一の有期労働契約を含む二以上の有期労働契約の契約期間の間に空白期間がないときは、当該二以上の有期労働契約の契約期間を通算した期間。以下この項において同じ。)が一年に満たない場合にあっては、当該一の有期労働契約の契約期間に二分の一を乗じて得た期間を基礎として厚生労働省令で定める期間)以上であるときは、当該空白期間前に満了した有期労働契約の契約期間は、通算契約期間に算入しない。

 条文だけ読むと何のこっちゃ?ですが、要は以下のようなことを言っているわけです。

@ 同一の使用者との間で締結された有期労働契約の契約期間が2回以上の反復更新等で通算して5年を超える場合は、労働者が使用者に対し労働契約期間の満了日までに申し込むことで、当該満了日の翌日から期間の定めのない労働契約に強制的に転換できる(第1項)。
 ※ ただし、5年の通算カウントは、平成25年4月1日以降に開始する有期労働契約からが対象です。
 
A 但し、先の有期労働契約の契約期間満了日と次の有期労働契約の契約期間初日との間に契約関係が無い空白期間が6か月以上あるときは、先の有期労働契約の契約期間は、5年の通算契約期間に算入しない(第2項)。因みに、これを「クーリング」と言うそうです。

 なるほど、有期雇用であってもある程度長期間同じ労働者を雇い続けている使用者は、労働者が希望するならその労働者を無期雇用(俗にいう正社員)に転換して雇わなければならない、ということを言っているわけでして、これはいわゆる非正規労働者(直接雇用、無期、フルタイムの3要素を満たさない労働者)が全労働者の3〜4割も存在する日本の雇用情勢において、非正規労働者の雇用条件の改善と生活の保護を目指した改正なのでしょう。
 さて、このような改正法が施行されると、困る?のは事業の経営者(使用者、雇用主)でありまして、特に有期労働者を多く雇い入れているある程度の規模の雇用主の方は、改正法の施行前から対策に負われていたのでしょう。だって、現状のまま有期雇用で雇い続けていると、そのうち強制的に無期雇用に転換されてしまうおそれがあり、そうなると事業経営に大きな影響が生じてしまいますもの。
 そんなわけで、改正労働契約法18条の施行に対し、雇用主側においてどういった対応が採られているのかと言えば、私が見聞する限りでは、「5年を超えては契約更新しないが、6か月間期間を置けば再度雇い入れることを検討します。」みたいな感じの説明文書を有期労働者に交付し、労働者に同意書みたいなものにサインさせるようなケースが一般的に多いようです。というのも、今回の改正に関する通達(平成24年8月10日付け基発0810第2号)で、「無期転換申込権が発生する有期労働契約の締結以前に、無期転換申込権を行使しないことを更新の条件とする等有期契約労働者にあらかじめ無期転換申込権を放棄させることを認めることは、雇止めによって雇用を失うことを恐れる労働者に対して、使用者が無期転換申込権の放棄を強要する状況を招きかねず、法第18条の趣旨を没却するものであり、こうした有期契約労働者の意思表示は、公序良俗に反し、無効と解されるものである・・・」という具合に予め強制的に無期転換申込権の放棄をさせないように前もって指導が入っていますので、実質、有期契約の継続年数を5年以内に制限するしか方法がないというわけなのでしょう(たぶん、顧問の弁護士さんとか社労士さんがそういう指導をしているのでしょう)。もっとも、これはこれで改正法19条の雇い止め制限に引っかかる可能性があるのでしょうけど。

 以上のような次第で、更新性の有期労働者の方には、改正法施行の前後に雇主側からいろいろと説明やら何やらされたりしたのでしょうが、要はこういうことなのぐらいは知っておいて損はないと思います。
 それにしても、上記のような契約期間5年以内での雇い止めが通るなら、改正法の効果も半減かと思いますが、いかがなもんでしょうか?
 

 企業の倒産と労働債権(2013年2月15日)

 個人、法人問わず企業が倒産して最も強い影響を受けるのは当該企業に勤めていた労働者だと思います。生活するための収入源が断たれるわけなので当然です。そんなわけで、倒産法の分野では、労働者の給与等の労働債権(定期給与、賞与、退職金等)は、他の債権に比べて優先的に扱われています。
 例えば、企業が破産した際に適用される破産法では、@破産手続開始前3月間の破産者の使用人の給料の請求権は、財団債権とする(法149条1項)。A破産手続の終了前に退職した破産者の使用人の退職手当の請求権は、退職前3月間の給料の総額(その総額が破産手続開始前3月間の給料の総額より少ない場合にあっては、破産手続開始前3月間の給料の総額)に相当する額を財団債権とする(同条2項)、と規定しています。ここでいう財団債権とは、破産手続によらないで破産財団から随時弁済を受けることができる債権のことをいいますが、簡単にいうと@やAに該当する給与等については破産企業の財産から破産手続による配当によらずに他の一般債権よりも優先的に支払ってもらえる、というわけです。また、@やAの範囲を超える給与等についても、民法308条により先取特権が認められるので、破産手続上は優先的破産債権として、配当手続において一般債権に対して優先権が与えられています(破産法98条)。
 しかしながら、いくら優先権があったとしても、破産財団を構成する財産が皆無の場合は全く支払いを受けられないですし、ある程度の財産があっても、実は財団債権や優先的破産債権の中でも優先順位がありまして、労働債権よりも優先されるもの(例えば、管財人の報酬等の破産手続費用や租税債権)があったりしますので、結果的に支払いが受けられない可能性もあります。
 そんなわけで、いくら法的には優先的に扱われるとされていても、不幸にも働いた分の給与の支払いすら受けられず、当面の生活に支障を来すような場合も現実には十分起こり得る問題です。
 しかし、そんな場合でも、ある程度救済を受けられる制度があったりします。それは「未払賃金の立替払制度(賃金の支払の確保等に関する法律第7条)」です。
 一定の要件を満たせば、上限はあるものの未払い賃金の総額の8割を倒産した企業に代わって公的機関(労働者健康福祉機構)が立替払いをしてくれるという制度です。ただし、立替払いの請求ができる期間が制限されています(破産の場合だと破産開始決定から2年間)ので、注意が必要です。倒産企業や管財人、職安でもあまり積極的に教えてくれない?のか、この制度を知らずに給与や退職金を諦めてしまうケースもあるように思いますので、立替要件に該当する場合は一度検討してみるといいかもしれません。
 立替払制度の詳細は、労働者健康福祉機構のHPを参照してみてください。