消費者問題


 リース契約トラブルの解消法(2014年7月25日)

 リース契約(ファイナンスリース)に関するトラブルについてのご相談は、司法書士会の無料相談会でも以前から時々寄せられています。そして、ご相談内容の結論としては、何とか契約を解消できないだろうか、というものです。リース物件のユーザーはほとんどが事業者(個人、法人)の方であり、リース物件は、電話機、複合機、警報機、大型冷蔵庫、自動車、ホームページ作成ソフト・・・その他いろいろですが、商品代金と手数料の合計は相当高額になるのが通常であり、よって、長期間に亘ってリース料の支払いが生じるため、契約後に思い直されることも多いのだと思いますが、中にはいわゆる次々リース契約のように販売会社(サプライヤー)が入れ替わり立ち代わりで個人事業者等に勧誘を仕掛けてリース契約の組み直しを行うような悪質なものもあるため注意が必要です。
 さて、リース契約の解消法ですが、一般的にも知られているように、契約の性質上、ユーザーからの一方的な中途解約はできないとされていますし(契約書の約款上そのように規定されています)、仮に認められる場合でも、残リース料の一括払いが条件となっていたりします。したがって、何ら法的に問題性のないリース契約の場合、リース業者の承諾による合意解除でない限り、リース契約の解消は難しいとされています。
 もっとも、契約内容、契約時の態様や状況、ユーザーの属性等によっては、他の解消方法も考えられそうですので、主な方法を思い付く限り以下に挙げてみます。

1.民法による契約解消
 @ 錯誤による無効(95条)
 A 詐欺・強迫による取消権(96条)
 B 公序良俗違反による無効(90条)
 C 債務不履行による解除(541条〜543条)
 D 瑕疵担保責任に基づく解除(570条・566条1項)

2.特定商取引法による契約解消
 @ クーリング・オフ権の行使(9条等)
 A 過量販売契約の解除(法9条の2)
 B 不実告知等による意思表示の取消し(法9条の3等)

3.消費者契約法による契約解消
 @ 不実告知による取消し(法4条1項1号)
 A 断定的判断の提供による取消し(法4条1項2号)
 B 不利益事実の不告知による取消し(法4条2項)
 C 不退去による取消し(法4条3項1号)
 D 退去妨害による取消し(法4条3項2号)

 特に、特定商取引法や消費者契約法による解消方法については、ぜひ検討したいところですが、ユーザーが主に事業者であることから、営業性の問題(特商法26条1項1号)や事業性の問題(消費者契約法2条1項)をクリアする必要があり、また、販売業者とリース会社の関係性の問題等、法律の適用にあたっては十分な検討が必要なところだと思います。
 しかしながら、例えば小規模零細事業者の方が結んだリース契約のクーリング・オフが認められた裁判例等は過去に多く出ており、また関係省庁からの法適用に関する通達も出ているので、「事業者のリース契約だから契約解消は無理と端から諦めてしまうことはない」ということは言えるかと思います。


 引越しのトラブルと注意点(2014年3月3日)

 3月といえば引越しの季節ですが、引越しには何かとトラブル(荷物の滅失、毀損、遅延や搬入、設置時の建物の毀損等)も起こりがちです。そこで、引越しに関するトラブルと注意点についてちょっと考えてみました。

1.約款の適用
 まず、引越業者に依頼し、業者との間で運送契約を締結することになりますが、この場合の契約内容に関しては、いわゆる大手引越業者の場合、基本的に引越業者が使用している約款(標準引越運送約款・国交省告示)が適用されることになります。
 したがって、引越業者が提示する約款の内容について、確認しておく必要があります。特に、約款の規定の中でも、引越業務において事故やトラブルが起きたときの業者の責任に関する規定においては、責任(賠償)範囲、免責事由、責任消滅事由、時効などが定められており、事故発生から一定の時間が経過すると損害を賠償してもらえなくなる可能性もありますので要注意です。

2.保険の適用
 通常、引越業者は引越業務に関して賠償責任保険に加入しているので、引越において損害を被った荷主は保険で賠償してもらえることが多いでしょう。

3.紛争が発展した場合
 当事者間での話し合いや保険では、思う様な解決ができない場合は、事案によっては訴訟になることもあります。そんな場合、法律的には、通常、次のような主張が考えられます


(1) 債務不履行に基づく損害賠償請求権(民法415条)
 @ 履行遅滞(荷物の遅延)
 A 不完全履行(荷物の滅失、毀損、建物損傷等)
 B +αで遅延損害金請求権(年6%・商法514条)

(2) 不法行為に基づく損害賠償請求権(民法709条)
 @ 実損額、慰謝料、司法書士費用
 A +αで遅延損害金請求権 

(3) 業者からの反論
 @ 過失相殺(民法418条、722条2項)
 A 消滅時効
  10年(民法167条1項)、5年(商法522条)、3年の時効消滅(民法724条前段)、1年(商法566条)
 B 約款の責任消滅・免責事項


 こうして見ますと、引越しに関するトラブルが生じた場合は、期間制限がいろいろあるので、解決に向けて「早めに動く」ことが肝要かと思いますね。


 信用情報機関の誤情報登録(2014年1月20日)

 信用情報機関(主なものはJICC、CIC、KSC)といえば、消費者の信用情報を登録し、貸金業者や信販会社等が融資をする際の参考に資するための情報登録機関ですが、ここに登録された情報は、消費者が融資を受けたりローンを組んだりすることができるかどうかに影響してくるため、仮に誤った情報が登録されてしまうと消費者は大きな不利益を受けてしまいます。また、信用情報の登録や取扱いについては、様々な規律が定められており(情報利用者の限定、目的外利用の禁止、秘密保持等)、情報登録制度の濫用防止が図られています。
 ところで、万一、誤った情報を登録されてしまった場合、消費者はどのように対処したらいいのでしょうか?
 まずは、信用情報機関に対し登録情報の開示を請求し、誤情報の有無と原因を確認し、誤情報があれば誤情報を登録したした信販会社等に対し訂正請求を行うことが考えられます。
 また、誤情報を登録されたことにより損害を被った場合は、登録をした信用情報機関及び誤情報を信用情報機関に提供した信販会社等に対し損害賠償請求をすることが考えられます。
 自己破産、民事再生、任意整理等を行った場合は従来どおり不利益情報が登録されてしまいますが、いわゆる過払金返還請求を行った場合は登録されないというのが現在の登録機関の取扱いですが、もし不利益な情報が登録されてしまった場合は、まずは情報開示受けて登録内容を確認してみるのがいいと思います。


 最近よく聞くサブリース問題(2013年11月18日)

 「長期の全戸一括借上げによる家賃(空室)保証でアパート建ててオーナー生活しませんか?」みたいな謳い文句で建築業者が地主に営業をかけ、地主は銀行でローンを組んでアパートを建築し、業者はアパートの建築を請け負って利益を上げ、地主は家賃収入でローンを返済する、みたいな話はここ10年くらいよく見聞きしますが、篠山市でもこの類らしきアパートは結構見かけます(特に駅周辺とか)。因みに、このような契約形態はサブリース契約と呼ばれ、業者はサブリース業者と呼ばれています(サブリースとは又貸のこと)。
 ところで、上記のようなサブリース契約で最近トラブルが起こっているそうです。主なものとしては、業者からの家賃減額請求や一方的契約解除のようですが、他にもいろいろあるそうです。アパートのオーナー(地主)からすれば、建築ローンの返済原資は家賃収入がメインであるのが通常でしょうから、それが減滅すると死活問題になりかねず、結果、トラブルに発展するということなのでしょう。
 因みに、この問題、法的解決をするのはなかなか骨が折れるようですから、トラブル防止策としては、結局のところ、まずは、当然のことながら、アパート建築なんていう大きな買い物をするときは、先々を見越して細かい所まで契約内容をしっかり確認してしなければならないということになりそうです。
 そういえば、私が事務所を開業した頃、都会の方のマンションのオーナーになりませんか?みたいな勧誘電話が頻繁に掛かってきていましたが、それもサブリースではないものの似たようなもんですね(要は投資や節税といった類の話です)。


 インターネット通販トラブルと法律(2013年10月8日)

 個人レベルでもインターネット環境が行き渡っている今日では、インターネットでお買い物(ネットショッピング)も当たり前みたいな感覚になってきました。かく言う私もよく利用しますが、このネットショッピングは、いわゆる通信販売の部類に属します。
 ところで、ネットショッピングは便利な反面、契約の相手と対面せず、また商品を直接目で見て買い物をしないことに起因するトラブルも生じがちです。商品の実物がネット掲載の写真のものと異なるであるとか、2、3回使用したら故障したであるとか、酷い場合は商品自体が届かないとか、まぁいろいろなトラブルがあるわけです。
 そんなとき、とりあえず地域の消費者センターに相談に行ってセンターの斡旋等で解決を試みる場合も多いでしょうが、実際、相手に対して法律的に主張をしていくとすれば、どんな言い分が一般的にあるかというと、大体、次のようなものが考えられます。

1.民法による主張
 @ 錯誤による契約無効(民法95条)
 A 詐欺による契約取消し(民法96条)
 B 債務不履行による契約解除(民法541条)
 C 瑕疵担保責任による契約解除(民法570条)

2.消費者契約法による主張
 @ 重要事項の不実告知による契約取消し(消費者契約法4条1項1号)
 A 重要事項等の不利益事実の不告知による契約取消し(消費者契約法4条2項)

3.特定商取引法による規制
 @ 公告規制違反(特商法11条、14条、15条)
 A 誇大広告規制違反(特商法12条、14条、15条、72条)
 B 法定返品権の行使(特商法15条の2)

 なお、消費者契約法や特定商取引法については、相手方が事業者(法人や事業者である個人)でなければ適用されませんので契約の相手方の属性については注意が必要です。
 また、そもそも契約の相手方の詳細が不明である場合(たとえばオークションサイトで購入したような場合)は、手を尽くして(サイト、プロバイダ、金融機関、警察等)所在調査をしなければならないことになるでしょう。
 いずれにしましても、ネットショッピングをする場合は、事前に契約の相手の情報(住所、氏名、信用性等)を十分に掴んでから取引したいものです。


 事業用物件と居住用物件で原状回復義務の範囲は異なるのか?(2013年8月10日)

 およそ建物の賃貸借契約の契約書には、契約終了に伴う建物明渡時における建物の損耗について、補修特約が定められています。これはどういう特約かといいますと、要は賃貸物件の退去時における建物の入居時から退去時までの損耗について賃借人側においてどういう範囲でどの程度の補修を(補修の費用負担を)しなければならないかを契約時に予め取り決めておくものをいいます。

 ところで、損耗補修特約については、いろいろと法的に問題点があり、これまでも多くの裁判例が出たりしてなかなか難しいところがありますが、ザッと基本的なことを言ってしまうと、@原則的には、借主は、特別損耗(借主の故意・過失により生じた損耗)については補修しなければならないが、通常損耗(普通に使用している限りで時間の経過に伴い生じてしまう損耗)については特約がない限り補修する必要はなく退去時の現状のまま建物を引き渡せばよい、A但し、貸主・借主間の契約において、通常損耗補修特約がある場合は、その特約が契約書に明記されている等賃借人が明確に認識し合意している場合で、かつ、原状回復義務を負うことになる通常損耗部分の範囲が明確になっており、さらに通常損耗の原状回復費用が建物の賃料に含まれているのか否かについてまで賃借人が明確に認識できるようになっていないければ、特約は無効であるとされます(最高裁平成17年12月16日判決参照)。また、消費者契約法10条の関係でも通常損耗補修特約は問題になり、契約の態様によっては信義則に違反し同条により無効とされる場合があります(大阪高裁平成16年12月17日判決等)。

 ところで、以上の理屈は主に借主が消費者の居住用物件に関してのものであり、借主が事業者の事業用物件については一概に上記の理屈に該当しても無効とはいえないと言われたりします。その理由はといいますと、「事業用物件の場合、その使用態様も多種多様であるから一律に原状回復費用を通常の賃料に含めて徴収することが難しいので、別途通常損耗について補修特約を定めることもやむを得ない」といったものです(東京高裁平成12年12月27日等)。
 そんなわけもあってか、不動産屋さんなんかは、「事業用物件の場合は原状回復がハードだから家主さんの要求がきついんですよ〜。」みたいなことをおっしゃったりします。

 しかし、上記の事業用物件に関する理屈は、基本的に都市部の比較的大規模な事業用物件の賃貸借(ビルの3階から6階とかを一括してスケルトンで貸すような)に関しての理屈であって、通常の居住用物件と大して変わらないような小規模のテナント(篠山のような田舎では該当する例が多いでしょう。)については妥当性が無く、前記の居住用物件の場合と同様に、最高裁判例の理屈を当てはめて考えるべきであるとする考え方もあり、この考え方の方が実情にあっており、納得がいきそうです。実際、事業用物件だからといって何もかも借りた当初の状態に戻して返せというのは、ちょっと行き過ぎであり、借主の負担が重過ぎるように思いますもの。

 いずれにしても、事業用物件だからといって通常損耗補修特約が常に有効になるというわけではないので、事件の実情に応じたケースバイケースの対応が貸主借主双方とも必要となるのでしょう。


 建物賃貸借の保証人はいつまで続く?(2013年7月27日)

 建物の賃貸借契約を締結する場合、借りる側(借主)は、当該賃貸借契約に関する家賃等の債務についての保証人を要求されるのが一般的です。
 ところが、この建物の賃貸借契約(期間の定めがあり)というのは、特に当事者が予め更新しない旨の通知でもしない限り自動的に更新されるのが通常です(借地借家法26条)。
 そうすると、当初の契約において、保証人になった者は、契約が更新された以後においても、契約が終了するまで延々と保証人になったままなのか?という問題が生じます。家賃の滞納等、特にトラブルでも起きなければ問題は何ら表面化しないでしょうが、いつそのようなトラブルが起きるかわからないわけで、これでは、保証人の責任も重すぎ、立場も不安定過ぎやしないか、と思ったりもします。
 上記の問題に関する代表的な裁判例としては、次の最高裁判決があります。

最高裁平成9年11月13日判決(要旨)
 期間の定めのある建物の賃貸借において、賃借人のために保証人が賃貸人との間で保証契約を締結した場合には、反対の趣旨をうかがわせるような特段の事情のない限り、保証人が更新後の賃貸借から生ずる賃借人の債務についても保証の責めを負う趣旨で合意がされたものと解するのが相当であり、保証人は、賃貸人において保証債務の履行を請求することが信義別に反すると認められる場合を除き、更新後の賃貸借から生ずる賃借人の債務についても保証の責めを免れないものというべきである。

 この判例によると、原則として、保証人は、契約更新後に生じた家賃滞納等のトラブルについても責任を負うということです。
 それが嫌であれば、契約時に保証期間を限定しておくか、更新時に保証契約の解除をするか等の対応をしておくべきでしょう。
 しかし、そのような対応をしていなくて、思わぬ保証債務の履行請求を受けた場合であっても、まだ対応ができる場合もあると思われます。上記最高裁判決は、「賃貸人において保証債務の履行を請求することが信義則に反すると認められる場合を除き」と例外があることを認めているわけですから、この点の検討が不可欠です。
 例えば、借主が家賃を何ヶ月も滞納しているのに保証人に事前の通知もせずに契約更新して貸し続けた挙句に膨大な額の滞納家賃を保証人に請求するようなケースなんかは、賃貸人に相当程度の落ち度があり、かたや保証人には結果回避の手段も与えられずその不利益も甚大であるから、賃貸人の保証人に対する請求は制限されてしかるべきだと思います(参考となる裁判例:?平成20年2月21日広島地方裁判所福山支部判決)。この点、悪質な貸主であれば、「どうせ保証人に払わせればいいや」と考えて、故意に長期間家賃滞納を放置して、いきなり保証人に膨大な金額の請求を求める例もあり、注意が必要です。
 因みに、公営住宅なんかでも結構ずさんな管理をしているケースもあり、半年とか1年くらい滞納が生じてから初めて保証人に請求してくる例があったりします。そんな時、「何でもっと早く連絡してくれなかったんですか。こんなに滞納させてから請求するなんて酷いじゃないですか!公的機関がそんなことでいいのか!」と私なんかは息巻いてみるのですが、ある先輩司法書士は、「お役所だからそういう請求がくるんじゃないの」とのこと。・・・・・。
 それはともかく、家主さんにおかれましては、賃貸借契約で家賃滞納等のトラブルがあれば、速やかに保証人さんに連絡してあげて欲しいものです。いや、無用な紛争を回避するためにも連絡すべきでしょう。


 敷金返還と敷引特約(2013年2月5日)

 アパート等の賃貸借契約においていわゆる敷引特約が付されていることは関西地方では一般的ですが、契約終了に伴い建物を退去する際、この特約があるため預けていた敷金がほとんど返還されないようなケースも往々にしてあり、それが原因で紛争になるケースがこれまで多々ありました。
 このような問題に対する借主側の近年の法的対処法としては、『敷引特約は消費者契約法10条(消費者の利益を一方的に害する条項の無効を規定したもの)に違反するから無効であるので特約に拘わらず敷金は全額返すべきである』といった主張が主なものでした。実際の裁判例でも、そのような借主(消費者)側の主張が認められるケースが多々あり、実務の感覚としても、明らかに借主側に問題があるような場合以外は全額返してもらって当然、みたいな感じがありました。
 しかしながら、この敷引特約の問題について、平成23年に最高裁判所の判断が下され、簡単いうと、「諸々の事情から判断して敷引金の額が高額すぎるような場合でない限り敷引特約は有効である」といった内容の結論に至りました。
 そんなわけで、従来からの「敷引特約は違法であり特約に拘わらず敷金は全額返すべき」、といった主張は現実問題としてなかなか認められ難くなったといえるかもしれません。
 もっとも、最高裁の判例からみても、事案によっては敷引特約が消費者契約法に違反し無効である場合もあり得ることであり、実際、最近の法律雑誌の記事を見ていると、上記の最高裁判例が出た後も、敷引特約が無効とされている下級審の裁判例も幾つか出ていているようです。
 上記の最高裁の判例に対しては、消費者側からは多々批判があるようですが、最高裁の判断が出てしまった以上、これを無視して実務を行うわけにもいきません。しかし、事件の具体的な事情をよく調査・検討して主張すれば、敷引特約が無効と判断される可能性も十分あるように思いますので、はなから諦める必要もないのでしょう。


 激減の貸金業者(2013年1月15日)

 インターネットで貸金業者の登録内容を調べる「登録貸金業者情報検索サービス」というサイトがあります。司法書士としては、債務整理のご相談をお受けした際、相手方の業者名があまり聞き慣れない場合、無登録業者(いわゆる闇金業者)の可能性もあるので、登録業者か否かを確認するためにとりあえずこのサイトで登録されているかどうかを調査したりします。
 ところで、先日、ちょっとした興味でこのサイトで篠山市の登録貸金業者を調べてみると全くヒットしませんでした。登録業者はゼロというわけです。私が司法書士の仕事を始めた頃は2件くらい登録があったように覚えていますが、すべて廃業されたか無登録になったかで無くなっているようです。ついでにお隣の丹波市も検索してみるとこちらもゼロでした。
 ご存知のとおり、近年の利息制限法の制限超過利息(過払金)の返還問題や、改正貸金業法による貸付の総量規制等の影響により、全国的に多くの貸金業者が廃業しているそうですが、篠山市も例に漏れずというところでしょうか。
 それにしても、正規の登録業者がゼロということは、篠山市や丹波市で無登録営業をするときっとすぐに分かってしまうでしょうね。   


 送りつけ商法(ネガティブオプション)〜蟹は好きですか?〜(2013年1月9日)

 時節柄、世間ではお鍋等で蟹(カニ)を食べる機会も多いのでしょうか。
 私がいつも購読している国民生活センターの「見守り新鮮情報」では、次のような記事が紹介されていました。
 以下、抜粋。

 魚介類を扱う業者から電話があり、いきなり世間話のように「今の時期何が食べたいか」と聞かれた。思わず「カニかねえ」と答えたところ、買うとは一言も言っていないのに、「今カニを送ったよ。もう返せないよ」と言われた。驚いて「なぜ送るのか」と反論したが「今食べたいと言ったじゃないか」と怒鳴られた。代金引換の宅配便で送ってくるらしい。業者名や電話番号を聞いたが「教える必要はない。品物が届けばわかる」と教えてもらえず、らちが明かないと思って電話を切ったところ、またすぐ電話があり「一方的に切ったな。カニは送る」と言われた。実際送られてきたらどうしたらよいか。(70歳代女性)

 上記は、俗にいう悪質商法の一種で「送り付け商法(ネガティブ・オプション)」といわれる手法です。
 特定所取引法59条では、次のように定義されています。
( 定義 )
 @ 販売業者が、
 A 売買契約の申込みをした者及び売買契約を締結した購入者以外の者に対して
 B 売買契約の申込みをし、かつ、その申込みに係る商品を送付した場合、又は、申込者等に対してその売買契約に係る商品以外の商品につき売買契約の申込みをし、かつ、その申込みに係る商品を送付した場合
 C 商品の送付があった日から起算して14日を経過する日(商品の送付を受けた者が販売業者に対してその商品の引取りの請求をした場合は、請求の日から起算して7日を経過する日)までに、
 D 商品の送付を受けた者がその申込みにつき承諾をせず、かつ、販売業者がその商品の引取りをしないときは、
 E 販売業者は、その送付した商品の返還を請求することができない。

 要するに、「注文してもいない商品を送りつけた場合、商品の送付から14日又は引取り請求の日から7日以内に相手方の承諾を得られなければもはやその商品の返還の請求はできない」ということです。つまり、送り付けられた側の消費者としては、商品を一定期間だけ保管して置き、期間内に業者が引き取りにに来なければその商品を自由に処分してもいい(期間経過後においては、消費者が商品を処分、使用、消費しても、事業者は損害賠償請求も、代金請求もできないし、消費者は商品を購入したことにはならない。)というわけです。
 因みに、この商品の種類に限定はなく、全ての商品について適用されます。
 但し、その商品の送付を受けた者のために商行為となる売買契約の申込みについては、適用されません。
 また、保管期間の経過前に、消費者が送付された商品をその用法に従って使用・消費したときは、購入を承諾する行為として評価される可能性がありますので注意が必要です。
 なお、クーリング・オフの制度は適用されません。


 訪問買取が規制されます(2012年9月3日)

 従来から訪問販売等の取引類型に該当する消費者取引を規制してきました特定商取引法が平成24年8月10日改正され、改正法が平成24年8月22日に公布されました。
 今回の改正により、これまでは同法の規制の対象外であった訪問購入(いわゆる「押し買い」、一人暮らしの高齢者宅に買取業者が突然訪問し、強引に貴金属等を安い値段で買い取って行く商法)についても規制の対象に加えることになり、業者には不当勧誘禁止や書面の交付義務を課し、消費者には一定期間の商品の引渡拒絶やクーリングオフ権が認められることになりました。
 法律以外の政令や規則は現在改正中ですので、後日、更に詳細(適用除外取引等)が判明してくるものと思います。
 強引な訪問買取については、篠山市内でもちょくちょく耳にするトラブルですが、今回の改正でこういった問題商法が少しでも無くなればと思います。
 改正内容の詳細は、こちら(消費者庁・特定商取引法の一部を改正する法律(貴金属等の訪問購入に係るトラブルへの対応) 概要)をご参照下さい。


 約款(2012年2月13日)

 皆さんは、約款(やっかん)というものをご存知でしょうか?
 約款とは、辞書などによると、「多数の取引を画一的に処理するために、あらかじめ契約内容として定型的に作成されている契約条項をいう」とされています。この約款は、企業規模・活動の拡大に伴う大量的・集団的企業取引を簡易・迅速・確実に処理する企業の要請に適合し、契約の大量締結を可能にするものとして、様々な業界で作成され、利用されています。
 例えば、以下の業種において利用されています。

 @ 保険業(普通保険約款)・・・ex,生命保険契約、損害保険契約
 A 銀行業(銀行取引約款)・・・ex,融資取引、預金取引、カード取引
 B 運送業(運送約款)・・・ex,電車利用、引越、宅配便
 C 倉庫業(倉庫寄託約款)・・・ex,貨物、財産の保管
 D 電気供給業(電気供給約款)
 E ガス供給業(ガス供給約款)
 F 旅行業(標準旅行業約款)
 G クリーニング業(クリーニング事故賠償基準)

 上記のほかにもたくさんあります。
 さて、前述のとおり、約款とは「契約の内容」そのものです。よって、上記のような事業を運営する企業との間でトラブルが生じた際は、原則として法律よりもまずは契約が優先されることから(契約自由の原則)、約款の条項に基づき処理されることになります。
 ところが、約款とは、企業や業界団体が一方的に決定して作成するものであるため、企業側に有利な内容となっていることもよくあります。一方、サービスを利用する消費者側は、約款の内容(つまり契約の内容)について交渉の余地はなく、一方的に事実上強制的に受諾させられているのが現状です。もっとも、不当、無効な約款条項は、認められない場合もあります(消費者契約法10条等)。
 そんなわけで、いったん取引においてトラブルが生じると、約款に従った不本意な解決を受け入れなければならない場合も生じかねません。
 よくあるトラブルを例に少し考えてみます。
 引越会社に引越の依頼をしました。そして、引越作業もひととおり終わり、さあ新しい生活のスタートです。ところが、引越から4ヶ月ほど経ったある日、引越荷物の1つが破損していることが判明しました。
 さて、引越業者が使用している標準引越運送約款を見てみると、次のとおり規定されています。
(責任の特別消滅事由)
第25条 荷物の一部の滅失又はき損についての当店の責任は、荷物を引き渡した日から三月以内に通知を発しない限り消滅します。
 約款に基づく解決をすると、業者への責任追及は難しいということになります。
 我々の日常生活において頻繁に行う取引について、業者に逐一約款の提示を求め、詳細に検討してから契約するかどうか決定することは難しいですし、現実的ではありません。しかし、契約としての拘束力が生じる約款というものの存在を知り、万一トラブルが生じたときのためにも、機会があれば一度は読んでみることもいいかもしれません。


 クーリング・オフ制度の活用I(2011年7月29日)

 今回がクーリング・オフ制度の活用の最終回としたいと思います。
 最後は、クーリング・オフに関する裁判例の一覧を提示させていただきます。どちらかというと専門家の方向けの情報になりますが、クーリング・オフに関して難問に当たられた際は、以下の裁判例に当たっていただき、その考え方を活用していただければと思い、現時点で判明するものを集めてみました。

○ 参考裁判例(クーリング・オフ関連) 
1.交付書面の不交付・記載不備・虚偽記載
 (1) 大阪簡裁平成1年8月16日判決(消費者法ニュース1−13)
 (2) 神戸簡裁平成4年1月30日判決(判時1455−140)
 (3) 東京地裁平成5年8月30日判決(判タ844−252)
 (4) 東京地裁平成6年6月10日判決(判時1527-120)
 (5) 東京地裁平成6年9月2日判決(判時1535−92)
 (6) 東京地裁平成7年8月31日判決(判タ991−214)
 (7) 東京地裁平成8年4月18日判決
 (8) 大阪高裁平成12年4月28日判決(判タ1055−172) 
 (9) 福岡高裁平成11年4月9日判決(国民生活H15,4-46)
 (10)東京地裁平成11年7月8日判決(国民生活H14,12-46)
 (11)大阪地裁平成12年3月6日判決(消費者法ニュース45−69)
 (12)名古屋地裁平成14年7月4日判決(消費者法ニュース54−68)
 (13)東京地裁平成16年7月29日判決(判時1880−80)
 (14)出雲簡裁平成17年4月25日判決(未搭載)
 (15)札幌地裁平成17年4月28日判決(消費者法ニュース速報917)
 (16)京都地裁平成17年5月16日判決(未登載)
 (15)京都地裁平成17年5月25日判決(最高裁HP)
 (17)東京簡裁平成17年5月26日判決(未登載)  
 (18)大阪地裁平成18年6月29日判決(消費者法ニュース69−185)
 (19)京都地裁平成19年1月26日判決(消費者法ニュース71−273、最高裁HP)
 (20)大阪地裁平成19年3月28日判決(消費者法ニュース72−292)
 (21)東京高裁平成19年5月30日判決(未登載)
 (22)大阪地裁平成20年5月9日判決(消費者法ニュース81−183・速報1422)
 (23)大阪簡裁平成20年8月27日判決(消費者法ニュース78−140)
 (24)名古屋高裁平成20年9月10日判決(兵庫県弁護士会HP・消費者法ニュース速報1363)
 (25)沼津簡裁平成20年11月13日和解(消費者法ニュース速報1351)
 (26)岐阜地裁大垣支部平成21年10月29日判決(消費者法ニュース83−199)
 (27)名古屋地裁平成21年12月22日判決(消費者法ニュース83−223)
 (28)東京地判平成22年3月25日判決(消費者法ニュース84−249)

2.クーリング・オフの行使方法、撤回
 (1) 大阪簡裁昭和63年3月18日判決(判時1294−130)
 (2) 右京簡裁平成1年11月21日判決(消費者法ニュース2−21)
 (3) 福岡高裁平成6年8月31日判決(判タ872−289)
 (4) 広島高裁松江支部平成8年4月24日判決(消費者法ニュース29−57)
 (5) 神戸簡裁平成17年2月16日判決(消費者法ニュース67−203)
 (6) 大阪地裁平成17年3月29日判決(消費者法ニュース速報901) 

3.適用除外
 (1) 越谷簡裁平成8年1月22日判決(消費者法ニュース27−39) 
 (2) 広島高裁松江支部平成8年4月24日判決(消費者法ニュース28−73/29-60) 
 (3) 長崎地裁平成10年3月18日判決(消費者法ニュース35−19)
 (4) 大阪高判平成15年7月3日判決(消費者法ニュース57−155、原審神戸地判平成15年3月4日判決)
 (5) 大阪高裁平成15年7月30日判決(未登載)
 (6) 名古屋高裁平成15年12月25日判決(消費者法ニュース59−139)
 (7) 大阪簡裁平成16年8月26日判決(消費者法ニュース速報965)
 (8) 名古屋地判平成16年11月19日判決(判時1917−117)
 (9) 大阪高判平成18年9月13日判決(判タ1225−275)
 (10)三島簡裁平成18年6月22日和解(消費者法ニュース速報1073)
 (11)広島地裁平成19年7月20日判決(消費者法ニュース74−180)
 (12)名古屋高裁平成19年11月19日判決(判時2010-74・消費者法ニュース74−175)
 (13)東京地裁平成20年7月29日判決(判タ1285−295、消費者法ニュース77−178)
 (14)大阪地裁平成20年8月27日判決(消費者法ニュース77−182)
 (15)東京地裁平成21年4月13日判決(消費者法ニュース80−198)
 (16)大阪簡裁平成21年7月29日判決(消費者法ニュース81−180)

4.取引類型該当性
 (1) 名古屋地裁平成14年6月14日判決 
 (2) 松山簡裁平成17年4月26日判決(消費者法ニュース65−180・速報960)
 (3) 大阪地裁平成19年9月13日判決(消費者法ニュース速報1226)
 (4) 東京地裁平成20年3月28日判決(判タ1276−323)
 (5) 浜松簡裁平成21年7月9日和解(消費者法ニュース速報1434)


 クーリング・オフ制度の活用H(2011年7月25日)

○ クーリング・オフ以外の民事ルールの活用
 消費者問題を解決するための方法のうち、クーリング・オフ制度は、簡易・迅速・低負担で解決が図れる有用な制度です。しかしながら、クーリング・オフ制度だけで全ての消費者問題が解決できるわけではありません。そこで、最後にその他の民事上の解決方法を以下にご紹介します。クーリング・オフできない場合でもあきらめずに、いろんな方法を活用しましょう。

1.特定商取引法規定の解決方法
 (1) 過量販売契約の解除(法9条の2)
 (2) 不実告知等による意思表示の取消し(法9条の3,24条の2,40条の3,49条の2, 58条の2)
 (3) 法定返品権(法15条の2)
 (4) 中途解約権(40条の2,法49条)
 (5) 損害賠償額の制限等に関する規定(法9条3項,9条の2第3項,10条,24条3項,25条,40条1項,48条4項,49条2・4・6項,58条1項,58条の3)
 (6) ネガティブ・オプションに関する規定(法59条)

2.割賦販売法規定の解決方法
 (1) 過量販売契約の解除(法35条の3の12)
 (2) 不実告知等による意思表示の取消し(法35条の3の13)
 (3) 抗弁の対抗(法30条の4,35条の3の19,29条の4)

3.消費者契約法規定の解決方法
 (1) 不実告知による取消し(法4条1項1号)
 (2) 断定的判断の提供による取消し(法4条1項2号)
 (3) 不利益事実の不告知による取消し(法4条2項)
 (4) 不退去による取消し(法4条3項1号)
 (5) 退去妨害による取消し(法4条3項2号)
 (6) 事業者の損害賠償の責任を免除する条項の無効
 (7) 消費者が支払う損害賠償の額を予定する条項等の無効
 (8) 消費者の利益を一方的に害する条項の無効

4.民法規定の解決方法
 (1) 錯誤による無効(法95条)
 (2) 詐欺・強迫による取消権(法96条)
 (3) 公序良俗違反(法90条)
 (4) 法定解除(法540条〜543条)
 (5) 未成年取消し(法5条)
 (6) 瑕疵担保責任に基づく解除(法570条・566条1項)
 (7) 契約締結上の過失に基づく解除
 (8) 信義則違反(法1条)
 (9) 不法行為に基づく損害賠償請求(法709条)
 (10)債務不履行(法415条)

 次回は、クーリング・オフ制度の活用の最終回とします。


 クーリング・オフ制度の活用G(2011年7月14日)

1.裁判(訴訟手続等)でクーリング・オフに関して主張・立証をする場合、消費者側と事業者側で負担する内容が次のとおり割り振られます。

 (1) 特商法の取引類型の該当性(権利発生要件) → 消費者側に主張・立証責任
 (2) 権利行使をしたこと(権利発生要件) → 消費者側に主張・立証責任
 (3) 熟慮期間の経過(権利阻害要件) → 事業者側に主張・立証責任
 (4) 適用除外事由に該当すること(権利阻害要件) → 事業者側に主張・立証責任

 例えば、消費者側としては、「平成23年7月5日に訪問販売で○○を買いましたが、平成23年7月12日にクーリング・オフ権により書面で解除する旨通知しました。」とだけ最低限主張すればいいわけです。また、事業者側は、「解除通知を発信した時は、すでにクーリング・オフ期間が経過していた、購入者は営業を行っている事業者だ、商品○○を既に使用、消耗していた」といったことを反論したりします。

2.行政規制
 特定商取引法では、クーリング・オフのような民事ルールのほかに、様々な行政取締りルールも規定されています。クーリング・オフに関連して、挙げてみると以下のような規定があります。

 (1) クーリング・オフ妨害行為は禁止行為である(法6条、21条、34条、44条、52条)。
 (2) クーリング・オフに伴う義務の履行拒否、不当遅滞は主務大臣の指示対象となる(法7条1項、22条1項、38条1項、46条、56条1項)。

 クーリング・オフ行使を妨害したり、クーリング・オフしたのに代金を返さなかったりすると、罰則等が科せられたりするわけです。


 クーリング・オフ制度の活用F(2011年7月6日)

 今回は、クーリング・オフの効果についてです。括弧内は取引類型による適用の有無を表します。【 略号:訪問販売(訪)、電話勧誘販売(電)、特定継続的役務提供(特)、連鎖販売取引(連)、業務提供誘引販売(業) 】

1.クーリング・オフは、その旨を記載した書面を発信したときに生じます(発信主義)。クーリング・オフ期間内に発信すれば、期間後に相手方に到達したとしても有効です。

2.時期による区別
 @ 契約の申込段階でクーリング・オフした場合 → 申し込みの撤回(契約未成立)
 A 契約成立後にクーリング・オフした場合 → 契約の解除

3.消費者救済の特別の効果
 @ 申込みの撤回・解除に伴う事業者から消費者に対する損害賠償・違約金の請求はできない(訪・電・特役・連・業誘)
 A 販売商品等の引き取り、返還費用は事業者が負担する(訪・電・特役・連・業誘)
 B 引き渡された商品、権利の使用利益について事業者から消費者に対し返還請求をすることはできない(訪)
 C 提供済み役務の対価について事業者から消費者に対し請求することはできない(訪・電・特役)
 D 役務提供契約における受領済み金銭は、事業者は消費者に対し速やかに返還しなければならない(訪・電・特役)
 E 土地・建物その他の工作物について、消費者は事業者に対し原状回復請求ができる(訪・電)
 F 上記@〜Eに反する特約は取決めしても無効である(訪・電・特役・連・業誘)

 クーリング・オフは、以上のとおり消費者にとって有利な効果が規定されていますので、トラブルが起きた際は、まずはクーリング・オフを試みてみることが重要かと思います。
 次回は、裁判におけるクーリング・オフの主張・立証の仕方と行政規制です。 


 クーリング・オフ制度の活用E(2011年6月29日)

 今回はクーリング・オフの期間についてです。
 前回までにご紹介したとおりクーリング・オフは消費者保護のための強力な権利ですが、それ故にいつまでも行使できるというわけにはいかず、一定期間内に限って権利行使ができるとされています。この期間を、熟慮期間などと言ったりしますが、熟慮期間は前回ご紹介した特商法が規定する各取引類型毎に異なっております。しかしながら、この熟慮期間の起算点(期間の計算をする際の始まりの時点)の考え方については各取引類型で共通する考え方が採用されています。そこで、まずはこの起算点について解説します。
 特商法では、事業者が消費者と取引をする場合は、法律で定める一定の要件を備えた書面(法定書面という)を消費者に適切な時期に交付しなければならないとされています。これに違反した場合は罰則があります。そして、クーリング・オフ期間の起算点は、この法定書面が交付されたときとされています。例えば、訪問販売の場合であれば、申込書面及び契約書面の交付義務が特商法で定められており、消費者がこの申込書面又は契約書面を受け取った日がクーリング・オフ期間の起算点となり、この日から一定期間内(8日間)に限ってクーリング・オフできるとされています。
 特商法の各取引類型毎の交付書面、起算点、クーリング・オフ権行使期間は以下のとおりです。

 @ 訪問販売(申込書面・契約書面、左記いずれかの書面を受け取った日、8日間)
 A 電話勧誘販売(申込書面・契約書面、左記いずれかの書面を受け取った日、8日間)
 B 特定継続的役務提供(概要書面・契約書面、契約書面を受け取った日、8日間)
 C 連鎖販売取引(概要書面・契約書面、契約書面を受け取った日、20日間)
 D 業務提供誘引販売(概要書面・契約書面、契約書面を受け取った日、20日間)

 以上のクーリング・オフ期間に関して、その他注意すべき主な点は以下のとおりです。

 ア)クーリング・オフを妨害する行為があった場合(虚偽の事実を告げて消費者を誤認させ、又は威迫して消費者を困惑させることでクーリング・オフさせなかった場合)は、事業者があらためて消費者に対しクーリング・オフできる旨を記載した書面を交付し、クーリング・オフできることを説明しないかぎり、クーリング・オフ期間は停止するとされています。

 イ)クーリング・オフ期間は、起算日初日を算入して計算します。

 ウ)法定書面の不交付、記載不備、虚偽記載があった場合、クーリング・オフ期間はいつまでも進行しない(つまり、理論上いつまでもクーリング・オフできることになる)。

 ※ 契約書等を受領してから長期間が経過している場合でも、クーリング・オフできる場合があることになります。したがって、事業者から受領した書面が法律で規定された要件を全て充たした適法な書面であるかどうかについては、入念にチェックする必要があります。

 以上、簡単ですが、クーリング・オフ期間に関してご紹介しました。被害に遭われてさらに詳しい情報が必要な場合は、司法書士までご相談下さい。
 次回は、クーリング・オフの効果についてです。


 クーリング・オフ制度の活用D(2011年6月17日)

 クーリング・オフ制度が規定されている特定商取引法(以下、「特商法」)では、6種類の取引類型が定められており、これら取引類型に該当する取引についてのみ、特商法を適用する、つまりクーリング・オフ制度が適用される(但し、通信販売は除く)ということになります。取引類型とは、いわば、「商売の型」という意味です。

【 特定商取引法の取引類型 】 Fは+α
 @ 訪問販売取引
 A 通信販売取引
 B 電話勧誘販売取引
 C 特定継続的役務提供取引
 D 連鎖販売取引
 E 業務提供誘引販売取引
 F ネガティブ・オプション(送り付け商法)

 ある消費者事件について、クーリング・オフの可否を検討する際は、まずはその事件が上記のどの取引類型に該当するかを見極めなければなりません。特商法では、その条文で各取引類型に該当するといえるための要件を規定しています。そこで、当該事件を条文が規定する要件に当てはめてみて、一体のどの取引に該当するのかを判断することになりますが、それには法令(特商法、関係政令・省令、通達)を読み込み、各取引類型を細部まで理解しなければなりません。
 ここでは、各取引類型について詳しく解説はできませんが、複雑な取引の場合は専門書等も参考にしてください。
 次回は、クーリング・オフ期間についてです。


 クーリング・オフ制度の活用C(2011年6月7日)

 クーリング・オフ(特定商取引法)ができない場合については、法律の適用除外規定として、特定商取引法、政令、省令に定めれられていますが、その範囲は多岐にわたるため、ここでは一部のみ簡単にご紹介することにします。

1.特定商取引法に定める取引類型に該当しない場合

2.営業のために若しくは営業としての契約締結にかかる販売又は役務提供

3.事業者がその従業員に対して行う販売又は役務提供

4.株式会社以外の者が発行する新聞紙の販売

5.下記のいわゆるキャッチセールスによる訪問販売
 @ いわゆる海上タクシーの提供
 A 飲食店において飲食させること
 B あん摩、マッサージ又は指圧を行うこと
 C カラオケボックスにおいてその施設又は設備を使用させること

6.次の訪問販売及び電話勧誘販売
 @ 自動車(2輪車(原付含む)を除く)の販売、自動車の貸与(自動車リース)
 A 一般電気事業又特定電気事業に規定する役務の提供
 B 一般ガス事業又は簡易ガス事業に規定する役務の提供
 C 熱供給事業法2条2項に規定する役務の提供
 D 葬式のための祭壇の貸与その他の便益の提供

7.訪問販売又は電話勧誘販売で、下記の8つの消耗品を購入し、それを使用し、その全部又は一部を消費したとき
 @ 動物及び植物の加工品
 A 不織布及び幅が13センチメートル以上の織物
 B コンドーム及び生理用品
 C 防虫剤、殺虫剤、防臭剤及び脱臭剤(医薬品を除く)
 D 化粧品、毛髪用剤及び石けん(医薬品を除く)、浴用剤、合成洗剤、洗浄剤、つや出し剤、ワックス、靴クリーム並びに歯ブラシ
 E 履物
 F 壁紙
 G 薬事法31条に規定する配備販売業者が配置した医薬品

8.3,000円未満の現金取引

9.購入者等からの「請求により」行われる訪問販売及び電話勧誘販売

10.下記の訪問販売
 @ 店舗販売業者の巡回訪問(いわゆる御用聞き販売)
 A 店舗販売業者の継続的取引関係のある顧客(得意先)との訪問販売
 B 無店舗販売業者の継続的取引関係のある顧客(得意先)との訪問販売
 C 管理者の承認を受けて行う事業所において行われる訪問販売

11.電話販売業者の継続的取引関係のある顧客との電話勧誘販売

12.連鎖販売取引及び業務提供誘引販売取引の適用除外
 @ 連鎖販売取引を店舗その他これに類似する設備によらずに行う個人でない場合
 A 業務提供誘引販売取引において提供され、又はあっせんされる業務を事業所等によらな いで行う個人でない場合

 以上のような取引の場合、クーリング・オフの対象外とされますのでご注意下さい。トラブルに遭遇し、判断に迷われる場合は、司法書士までご相談下さい。
 次回は、クーリング・オフに関して一番よく使われる法律である特定商取引法について、ご説明します。


 クーリング・オフ制度の活用B(2011年6月2日)

○ クーリング・オフ制度に関する最新の法改正(特商法、割販法について)

(1) 特商法の改正(平成20年6月18日公布、平成21年12月1日本体施行)
 @ 政令指定商品・役務制を廃止 → 原則適用(法2条4項)、適用除外役務53種を指定(法26条、政令5条、別表第2)
 A クーリング・オフの効果につき、商品使用利益の返還不要を明記(法9条5項)

(2) 割販法の改正(平成20年6月18日公布、平成21年12月1日本体施行)
 @ 個別信用購入あっせん業者の書面交付義務(割販法35条の3の9)とクーリング・オフ制度(割販法35条の3の10〜11)を設けた。

 要するに、平成20年の法改正までは政令で指定した商品等しかクーリング・オフすることを認められませんでしたが、改正後は、原則全ての商品等についてクーリング・オフできるようになり、反対にできない商品等について政令で指定されるように変わったわけです。
 また、クーリング・オフの効果について、クーリング・オフするまでに使用した商品の使用利益は事業者に返還する必要はないということが法律で明記されました。
 それから、割賦販売(いわゆるローン)で商品を購入したような場合に、商品の売買契約のみならず、賦払(ローン)契約の方もクーリング・オフできるようになりました。これにより、いわゆるクレジット業者から既払い金を取り戻せるようになりました。
 
 次回は、クーリング・オフできない場合についてご紹介します。


 クーリング・オフ制度の活用A(2011年5月26日)

@ まず、事件の内容から問題となる取引に適用される法令を検討します。
 基本的には、最も利用頻度が高い特定商取引法の適用の有無を検討し、該当しなければ、前回ご紹介したような特別な業法(宅建業法、保険業法等)の適用の有無を検討します。
 また、いわゆるローン(割賦払い)で商品を購入したような場合には、割賦販売法の適用の有無も検討します。

A 次に、例えば、特定商取引法が適用されるなら、特定商取引法が定める取引類型(6類型取引+1)のうち、どの取引類型に該当するかを検討します。

B 続いて、特定商取引法の適用除外取引の該当性について検討します。

C 最後に、クーリング・オフ権を行使できるかどうかについて検討します。

 形式的にいうと、以上のようにクーリング・オフの可否を検討していくことになりますが、実際は検討の順番はどうでもよく、要は上記@〜Cの要件を漏れなく検討すれば、クーリング・オフできるかどうかは判断できるというわけです。
 次回は、クーリング・オフ制度に関する最新の法改正について、ご紹介します。


 クーリング・オフ制度の活用@(2011年05月21日)

 最近、司法書士会の無料相談会等での相談内容で、個人と事業者の間の紛争(いわゆる消費者問題)に関するご相談がよくあります。一般的には、このような相談事例に対しては、特定商取引法、割賦販売法等のいわゆる業規制法と消費者契約法や民法等の一般法を利用して解決方法を検討していくことになりますが、この解決方法の1つに最近では世間一般でも広く認識されてきているクーリング・オフという制度があります。そこで、今回から数回にわたり、このクーリング・オフという制度について、簡単ながらご紹介したいと思います。
 まず、クーリング・オフ制度とは、『契約した後、頭を冷やして(Cooling Off)冷静に考え直す時間を消費者に与え、法律で定めた一定期間内であれば、消費者は、無理由かつ無条件で一方的に、契約を撤回または解除することができる特別な制度』です。これは、一度契約が成立するとその契約に拘束され、お互いに契約を守るという契約の原則の例外を法律が特別に定めた制度であり、消費者が不公平な勧誘等により望まない契約をさせられ、不当な損害を受けないよう、消費者に契約の拘束力からの開放を認めた制度といえますが、悪質商法等の消費者被害を救済するための民事ルールとしてはもっとも利用しやすく強力な制度であるとされています。
 このクーリング・オフ制度を定めた主な法律としては、

 (1) 特定商取引法(9条、24条、40条、48条、58条)
 (2) 割賦販売法(35条の3の10、11)
 (3) 保険業法(309条)
 (4) 宅地建物取引業法(37条の2)
 (5) 特定商品預託法(8条)
 (6) 金融商品取引法(37条の6)
 (7) ゴルフ会員契約適正化法(12条)
 (8) 不動産特定共同事業法(26条)
 (9) 冠婚葬祭互助契約業界標準約款

といったものがありますが、これら各法律で定められた要件に該当する場合にはじめてクーリング・オフ権という強力な権利を消費者は行使することができることになります。
 次回は、クーリング・オフ制度の利用の仕方について、ご説明します。