交通事故


 駐車場内の通路の道交法上の「道路」該当性(2014年6月4日)

 任意保険の弁護士費用特約のおかげ(?)で、最近は損害額がかなり少額の交通事故事件(軽度傷害の人身事故、小規模破損の物損事故)でも弁護士、司法書士が代理人に付くことが増えているらしく(実感有)、よって簡易裁判所での交通事故事件も増加傾向のようです。
 ところで、損害額が少額の交通事故事件といえば、駐車場内の事故が一類型として挙げられますが、駐車場内の事故は、一般的な道路上の事故のようにいわゆる事故態様の類型パターンに当てはめて考えることができないケースが多いので、なかなか事件の解決が難しいものがあったりします(保険会社も特に根拠なく?まずは結構大雑把な過失割合を言ってきたりすることもあります)。
 もっとも、駐車場内には駐車スペースのほかに通路部分が設けられているのが通常ですが(特に大きな商業施設とかでしたら公道と変わらない通路が設けられていたりします。)、当該通路部分については、道路交通法2条1項1号にいう「道路」(一般交通の用に供するその他の場所)に該当する場合もあるとするのが裁判所の判例ですから、駐車場内の事故には道路交通法が一切適用されないというのは誤りです。
 したがって、駐車場内の通路の使用状況(不特定多数の人や車両の通行の有無等)によっては、道交法の「道路」に該当する場合もあり、該当する場合は道交法の規定する各種交通ルールを適用して事件処理する(当事者の過失割合を考える)ことが適当である場合もあると思います。
 最初の話に戻りますが、弁護士費用特約は使っても保険の等級が上がらないのが通常らしいですが、あまりに利用が増えてくると将来的にはそうはいかない(例えば無過失の場合のみ等級が上がらないみたいな)ことになったりするのでしょうか。


 修理をする、しない、は自由か?(2013年11月6日)

 例えば、交通事故等により自動車が破損した場合(物損のみ発生)、相手方に対し、不法行為による損害賠償として、自動車の修理費相当額の支払請求をするのが一般的ですが、この場合、実際に自動車を修理すること(若しくはその可能性の存在)が支払請求の要件となるのでしょうか?
 この点、現実に損傷を受けている以上、損害は既に発生しているのであるから修理費相当額が損害として認められる、とした裁判例(大阪地裁判決平成10年2月24日)があり、参考になります(但し、いわゆる経済的全損の場合は、損害額が損傷物の時価額(+α)程度に抑えられる可能性があるでしょう)。
 そうすると、上記裁判例の理論からすれば、自動車に限らず、損傷物を修理するか否かにかかわらず、損害賠償請求はできそうです。そして、受け取った賠償金の使い道は自由であるということになりそうです。
 「修理しないなら賠償金は払わない!!」なんて理屈は基本的に通じないということでしょう。


 自転車による交通事故(2013年7月24日)

 昨日、事務所から自動車で帰宅途中、路側帯を自転車で走る高校生が前かがみで妙にフラフラして運転しているので、チラッと見ればスマホをいじりながら運転しているではありませんか。「あ〜・・・」という以外にありませんでした。

 近年、巷では自転車による交通事故問題が注目されてきています。
 自転車も道路交通法上はれっきとした車輌であり(道交法2条8号、11号)、道路交通法の交通法規の適用もあります。自転車と歩行者、或いは、自転車同士の事故は、れっきとした交通事故なのです。
 そして、自転車による交通事故でも、ケースによっては、加害者に対して、自動車並みの損害賠償請求(云千万円)が認められることは、最近のニュースでご存知のとおりです。ムチャな運転をして他車の事故を引き起こしたという悲惨なニュースもありました。
 また、平成20年から施行された改正道交法では、自転車の走行路についても明確に法律で規定されましたように、自転車の走行すべき道路は法律で決まっているのでありまして、本来走行すべき車道を外れて何処なとを走行して事故を起こすとより重い過失責任を問われるでしょう(この点、あまり意識されていないのではと思います)。
 また、自転車事故には自賠法の適用はないとされていますので、自転車の運転者に賠償能力がない場合(若年未成年者等)、被害者は大変です。一方、加害者が未成年者の場合、その親権者も賠償請求される可能性があります。それから、事業主の方で、従業員に業務上において自転車の使用を認めている場合の交通事故では、事業主が使用者責任(民法715条)を問われる可能性もあるので要注意です。
 したがって、自転車によく乗る人は、交通ルールを守るのは当たり前として、加えて、万一事故を起こした場合に備えて、保険関係(自転車保険、個人賠償責任保険等)はどうなっているか日頃からきちんと確認しておくべきでしょう。
 また、自動車を運転する側としても、近くを走行する自転車がどういう行動をとるかわかりませんので、万全の注意を払って運転してしかるべきでしょう(先日、後ろも見ずに広い国道を斜め横断したご老人運転の自転車を見ましたが、そういうのは避けようがないかもしれませんが・・・。もっとも、この自転車を避けようとした結果他の事故が生じた場合、これはまさにちょっと前の大阪の悲惨な事故と同様のケースになりかねず、自転車運転者の責任(刑事、民事)は重大に違いないでしょう。)。 


 外国人と交通事故(2013年5月4日)

 最近は、篠山市も国際化してきているようで、私の場合、外国人を見ない日はありません。自宅の近辺に就労目的で日本に滞在中の主にアジア系の外国人の方が多く住んでおられますし、事務所がある建物の二階にも外国人が住んでおられるからです。
 ところで、日本は完全な車社会でありますから、日本に滞在中のこれら外国人の方が交通事故に遭うことも結構あるはずです。
 そこで、もし、日本に滞在中の外国人が不幸にも交通事故の被害者になった場合、法律的(民事事件)にはどのように処理されるのでしょうか?というのが今回の問題です。因みに、私がよく見かける外国人の方々なんかは、極まれに自動車を保有し走行している方も見かけたりしますが、大方が自転車を保有しておられるようで、皆さんよく市中を走っておられます。
 まず、交通事故は、事件類型としては「不法行為による損害賠償請求事件」に該当するわけですが、不法行為の準拠法(適用すべき国の法律)は、原則として事故の発生地(結果発生地)の法律とされています(法の適用に関する通則法17条、以下、「通則法」という。)ので、交通事故の発生地が日本国内であれば、日本の民法が適用されることになります。よって、被害に遭った外国人は、日本の民法に則って加害者に損害賠償を請求できることになります。もっとも、死亡事故に関しては、相続の準拠法が「被相続人の本国地法」とされています(通則法36条)ので、外国法に従う場合もあります。
 また、被害に遭った外国人が、損害賠償請求の訴訟を提起する場合も、不法行為地(事故発生地)である日本の裁判所に国際裁判管轄があるとされています(民事訴訟法第3条の3第8号)ので、日本の裁判所で裁判をすることができます。
 というわけで、日本在住の外国人の方は、日本の法律に則って、日本の裁判所で手続ができることになっているわけなのです。
 連休中なので、今回は簡単に終わりますが、どんどん国際化してくる現代社会においては、ちょっと知っておくといいかもしれません。


 交通事故では健康保険は使えないのか!?(2013年4月1日)

 交通事故の被害に遭って病院で治療をする際、健康保険は問題なく使えます。被害者(患者)に過失が有っても無くても使えます。
 ところが、いまだに「健康保険は使えないから自由診療です」と豪語する病院(事務員さん)があるらしいです(最近はそんなことほとんど言われないと思いますが)。
 先日、病院に行き問診票を記載していると、項目に交通事故による受傷か否かを尋ねるものがあったので、特に該当するわけでもなかったが一瞬「うん?」と思ってしまいました(もちろんこれは別に保険を使わせない意味で尋ねているわけではないのですけどね)。
 保険診療と自由診療では、患者の一時負担額が大きく違うのであり(金額的に倍以上違うのが一般的か)、患者が経済的に余裕が無かったり、加害者が無保険で賠償請求が儘ならないような場合、自由診療だと被害者である患者の負担が大変厳しいものになってしまいます。また、自賠責保険は単なる傷害事故の場合120万円が限度なので、治療関係費に多くの保険金額を割いてしまうと休業損害や慰謝料に十分な金額を充てることができなくなる虞もあり、治療関係費は低額であることに越したことはありません。
 そんなわけで、もし、交通事故に遭い病院で治療を受けた際に、「自由診療なので健康保険は使えません」なんて言われた際は、「そんなはずはない。使ってください。」とハッキリ言うべきでしょう。決定権は患者にあるのですから。
 なお、「相手が悪いのになんで俺の保険を使わんとあかんのや。自由診療で目一杯治療して請求したるんや。」みたいなことをたまに言われますが、加害者から後でちゃんと支払われるかわからない時点で多額の費用を支払うのは得策ではないのは明らかですので、原則として保険診療を選択する方が無難でしょう。


 自賠責への被害者請求(2013年3月19日)

 先週土曜日は支部の研修会ということで、司法書士会神戸支部のS先生をお招きして、交通事故事件処理の実務についてご講義いただきました。
 交通事故に関する基礎的な知識から具体的な損害額算定の仕方についてまで3時間みっちり講義していただいたわけですが、司法書士的にあえて1つだけ重要ポイントを挙げるならやはり「自賠責への被害者請求」の点でしょう。
 通常、交通事故の被害者になった場合、相手の任意保険会社がサービス(?)で自賠責分も含めて支払い交渉をしてくるわけですが(これを実務上「一括払い」といいます)、これに乗っかると自賠責からの賠償について思わぬ不利益(後遺障害の等級認定や過失割合で不利な扱い)を受ける場合があるので、あえて任保の一括払い手続を解除して自賠法16条に基づき直接自賠責保険会社に賠償請求する、というのを「自賠責への被害者請求」と言ったりします。
 さて、この被害者請求、なぜ司法書士からみて重要かというと、司法書士の訴訟代理権に大きく関わるからです。例えば、総額250万円の損害賠償を請求できる人身交通事故事件の場合、司法書士の代理権は140万円までなのでこのままでは訴訟代理はもちろん示談交渉も代理できません。しかしながら、依頼者である被害者が事前に自賠責へ被害者請求をして限度額一杯の120万円の支払いを受けていれば、後は残額の130万円の支払いを請求するだけなので、司法書士として依頼者のために示談交渉や訴訟代理もできるというわけです。
 もちろん、司法書士の代理権云々は司法書士都合の問題であり、被害者請求の目的は一括払いの不利益を回避するためですから、そんな必要もないケースなら手間隙の掛からない便利な一括払い制度を利用すればいいのですけどね。
 
 車社会の日本においては、誰もがいつでも交通事故の被害者・加害者になり得るのが現実ですから、交通事故事件を仕事として扱う扱わないに拘わらず、交通事故に関するある程度の知識は持っておきたいものです。


 交通事故と弁護士費用特約(2013年3月12日)

 最近、簡易裁判所での交通事故訴訟が増えているそうな。
 増加の原因は、いわゆる任意保険に最近付され始めた弁護士費用特約にあるようです。
 というのも、この特約、交通事故事件の処理を弁護士に依頼した場合の弁護士費用を保険でカバーしてもらえるものですが、この特約を使えば簡易裁判所での少額事件について弁護士に依頼しても費用面での心配がないので、いわゆる「元が取れる」からです。
 また、今のところこの特約により保険を使っても次回からの保険料が上がらないらしく、それもあって積極的に使われているらしいのです。
 ところで、司法書士も簡易裁判所の事件範囲(請求金額140万円以内の民事事件)なら弁護士と同じように活動できるわけですが、司法書士に依頼した場合にも上記の弁護士特約保険は使えるのでしょうか?
 私の聞き及ぶ限りでは、使えない保険会社もあるようですが、使える保険会社が多いようです。
 それはともかく、納得いかない交通事故事件については、これからは上述のとおり任意保険の弁護士特約を積極的に使って解決するのも一案かもしれませんね。ただし、保険の内容については弁護士等に依頼する前に念のためきっちり確認しておくべきでしょう。


 泥棒運転と責任(2013年2月12日)

 朝晩が冷え込むこの季節、自動車で通勤等をされる方は、発車前にとりあえず車を温めるためにエンジンをかけておいて、離れて別の用事をすることも多いのではないでしょうか。この間5分〜10分くらいかもしれませんが、この隙をついて泥棒に車を乗り逃げされた挙句、人身事故まで起こされた場合、車の所有者は責任を負うことになるのでしょうか?というのが今日の問題です。
 こんな場合、泥棒運転をした本人に賠償能力が無ければ、被害者としては、泥棒運転された車の所有者に対する損害賠償請求を考えるのが通常なのですが、請求の法的根拠としては、不法行為責任の一般法である民法709条(故意又は過失によって他人の権利又は法律上保護される利益を侵害した者は、これによって生じた損害を賠償する責任を負う。)がまず考えられます。また、今回のような人身事故の場合は、自動車損害賠償保障法(自賠法)も適用されますので、自賠法に基づいて損害賠償請求をすることも考えられます。しかし、民法709条による場合は被害者側で加害者の故意・過失を立証しなければならないのに対し、自賠法による場合は、反対に加害者側が免責事由を立証しない限り損害賠償責任を負わなければならないとされていますので、人身事故の場合は自賠法により請求する方が有利となるため、通常、自賠法に基づき損害賠償請求をすることになると思います。もちろん、物損については、原則どおり民法に基づいて請求することになります。
 というわけで、今回の事例のような場合、被害者としては、自動車の所有者に対し、まず、自賠法に基づき損害賠償請求をできないかを考えることになるでしょう。
 さて、自賠法は3条で次のように規定しています。

第3条 自己のために自動車を運行の用に供する者は、その運行によつて他人の生命又は身体を害したときは、これによって生じた損害を賠償する責に任ずる。ただし、自己及び運転者が自動車の運行に関し注意を怠らなかったこと、被害者又は運転者以外の第三者に故意又は過失があったこと並びに自動車に構造上の欠陥又は機能の障害がなかったことを証明したときは、この限りでない。

 この条文のポイントは、「自己のために自動車を運行の用に供する者」とは一体どういう者のことをいうのか、ということになるかと思いますが、これを一般に「運行供用者」と呼びます。運行供用者とは、「自動車の運行を支配し、運行の利益を得ている者」をいうとされます。運行供用者に該当するかどうかは、「運行の支配性」と「運行利益の帰属性」があるかどうかで判断されるのですが、この該当性については結構広く認められる可能性があります。

 さて、今回の泥棒運転のような場合、自動車の所有者は自賠法3条にいう「運行供用者」に該当するとして、損害賠償責任を負うことになるのでしょうか(言うまでも無く、泥棒をした本人は完全に運行供用者に該当するので、責任を負います)。
 まず、原則的な考え方としては、泥棒された場合、「運行の支配」が無いので所有者は責任を負わないとされます。ただし、自動車の管理に過失が有り盗難から事故までの間に時間的・場所的接着性がある場合は責任を負わなければならない可能性があるとされます。
 
 というわけで、今回のような場合、事情によっては自動車の所有者にも運行供用者責任が生じ、損害賠償責任を負わされる可能性があるということになるのでしょう。

 こんなことを考えていると、車を温めるためとはいえ、エンジンをかけたまま車を離れるのは、家のガレージであっても躊躇してしまいそうですが、少なくとも路上駐車中でエンジン掛けっぱなしというのはかなりリスクがある行為と認識しておくべきなんでしょうね。
 また、万一、盗まれた場合は、速やかに警察に届け出るのが、当たり前かもしれませんが賢明な対処でしょう。


 交通事故の損害算定額の差(2013年1月28日)

 不幸にも交通事故の被害に遭ってしまった場合(例えば歩いていて自動車にはねられた場合)、よくあるパターンとして相手の保険会社が治療費、休業損害、慰謝料等の損害額を算定して示談書付で和解交渉をしてくるわけですが、この保険会社の算定損害額、裁判沙汰になった場合と比べて結構な差があったりします(特に慰謝料とか)。その原因はというと、まず、交通事故の損害額の算定については、大量に生じる事件の損害を簡易・迅速に算定する必要があることから、実務の世界では損害算定基準なるものが予め出来上がっておりまして、この基準に従って大方の事件が処理されているのが現状なのですが、この損害算定基準というものが実は複数存在しているのです。そして、採用する算定基準によって算出される損害額が異なってきたりしますので、結果として、交通事故の当事者間でお互いが主張する損害額に差が生じることがよくあります。加害者側は金額が少なくなる算定基準を採用しますし、被害者側は金額が多くなる算定基準を採用するのが通常でしょうから当然の結果です。
 さて、この損害算定基準ですが、大きく分けると3パターンあるとされています。自賠責保険基準、保険会社基準、裁判(弁護士)基準の3つです(他にも地域基準(大阪基準とか)みたいなものもあります)。そして、自賠責や保険会社の算定基準は裁判基準に比べて算定される損害額がほとんどの場合で低くなります。
 したがって、通常、保険会社は支払う賠償額が低くなるように自賠責保険基準や保険会社基準を採用して金額を算定し交渉してくるわけです。そして、被害者側が送られてきた示談書で示談してくれれば即解決というわけです。
 一方、保険会社の算定損害額に納得のいかない被害者としては、弁護士等の専門家に相談し、相談された専門家は通常、裁判基準によって損害賠償額を算定し、一応交渉した結果、いざ訴訟となるわけです。
 というわけで、保険会社の言い分で示談した場合と訴訟で解決を図った場合とでは、通常、賠償額に差が出ることが多いということは知っておいてもいいかもしれません。もちろん、専門家に依頼すれば費用が発生しますが、最近の自動車保険は弁護士費用特約なるものが付いていますので、結構それで費用が賄えたりすることもありますので、この特約の利用も一考かもしれません。
 ただし、被害者側の過失が大きい場合は自賠責保険だけで済ました方が得な場合があるので注意が必要です。自賠責の場合は、被害者の過失が7割未満の場合は、過失相殺による減額をせずに全額支給してもらえますが、裁判基準で算定する場合はきっちり過失相殺しますので、裁判基準で算定した方が反対に算定額が少なくなることがあるからです。そんな場合に、訴訟をしても徒労に終わるだけなので過失割合については予め十分検討しておくべきなのでしょう。