債務整理関係


 債務整理の「時効待ち」方針の適否(2013年4月20日)

 いわゆる債務整理業務を司法書士や弁護士が行う場合、依頼者の方と委任契約を締結した上で、相手方である債権者に対し受任通知書を送付することから業務が始まります。受任通知書とは、要は「司法書士(弁護士)が依頼者の方から債務整理の依頼を受け同手続を遂行することになったので債権調査にご協力いただくようお願いすると共に、具体的な整理方針が決まるまで、以後、依頼者の方と直接交渉したり取立行為を行うのはお控え下さい。」といった内容の介入通知書面のことです。
 そして、上記のように司法書士等の代理人が債権者に受任通知書を送付して債権調査をした結果、依頼者の方の負債の状況が明らかになった場合、具体的な方針を決定した上で当該手続を進めていくことになるのですが、ここで選択する手続の中に任意整理というものがあります。この任意整理とは、要は「可能な返済計画を立てたうえで相手の債権者と交渉して和解し、合意した返済計画を将来に向かって実行していく」という方法のことをいいます。
 さて、この任意整理手続、あくまで相手方債権者の同意があって初めて可能な債務整理方法なので、なかなか債権者の同意が得られない場合は手続が進まず、長期間が経過することも間々あります。そして、時間の経過とともに整理対象の債権が消滅時効にかかりそうになる場合があったりします。そんなとき、消滅時効の完成をあえて待って、完成次第、消滅時効による債権の消滅を主張する方法を「時効待ち」と言ったりします。
 さて、そんな「時効待ち」方針について、以前からその当否についていろいろ議論があったように思いますが、つい数日前、タイムリーな最高裁判所の判決が出ました。事案の本題は「債務整理に係る法律事務を受任した弁護士等が消滅時効の完成を待つ方針を採る場合における当該方針に伴う不利益等や他の選択肢を依頼者に説明すべき委任契約上の義務について」でしたが、判決の補足意見で、「時効待ち」方針について、裁判官の見解が述べられています(平成25年4月16日最高裁判所第三小法廷判決)。
 総じて言うと、対債権者との関係(誠実に且つ衡平に対応すべき信義則上の義務)、対債務者との関係(時効待ち方針により依頼者が被る損害金の増大や提訴・差押等の不利益)から考えると、特段の事情(債権者と連絡がとれず交渉が困難であったり,債権者が強硬で示談の成立が困難であり且つ当該債権者の債権額や交渉対応からして訴の提起や差押え等債務者の再生の支障となり得る手段を採ることが通常予測されない等)があると認められる場合でない限り、債務整理の方針として積極的に採用するものとしてはその適切性に疑問あり、ということのようです。
 もっと端的に言うなら、「司法書士等が依頼者(債務者)からいったん事件を受任した以上、基本的にもはや時効待ち手法は採り得ない」とでも言えるのでしょうか。
 個人的な考えですと、対債務者(依頼者)との関係では、やはり長期間に亘る時効待ちは依頼者(債務者)に不利益が生じるリスクがあるので、少なくとも十二分な説明と方針に対する同意は必要だと思います。一方、対債権者との関係では、債権者は消滅時効が成立する虞があれば、司法書士等の受任後でもいつでも訴訟を提起するなどして消滅時効を中断できるし、その知識やノウハウもあるわけだから、上記のような非難が必ず当てはまるとも思えなかったりしますが。
 消費者法ニュース(多重債務等の消費者問題の専門誌)でまた解説が出ると思うので、そちらも見てみたいと思います(でも載るなら次々回号くらいなのでだいぶ先になってしまうか・・・)。


 自己破産のデメリットと誤解(2012年10月25日)

 自己破産というと、世間一般ではその響きだけで嫌悪し敬遠してしまう向きが未だにあるように思われますが、破産+免責の最大の効果(要は債務をゼロにして再出発する)を考えれば、現実問題として借金等の債務を整理するには自己破産がベストであり、また、それ以外の方法が考えられない場合もあったりします。
 そんなわけで、自己破産した場合のデメリット(誤解を含む)を以下でちょっと考えてみます。

1.戸籍や住民票に記載される。
 → 誤り

2.選挙権等の公民権が剥奪される。
 → 誤り

3.子供の教育に影響がある。
→ 誤り(むしろ負債からの早期解放が望め好影響になるのではないか。)

4.勤務先に知られ退職させられる。
 → 誤り(但し、勤務先からの借入れ(給料の前借り等)や共済組合等からの借入れがある場合は、勤務先等が破産債権者となるので結果として知られることになる。また、破産を理由とする解雇はできない。)

5.職業上の資格制限がある。
 → 正しい(主な例として、保険外交員や警備員があるが、他にも多数ある。但し、免責確定により復権し制限が解除される。)

6.家財道具等が差し押さえられて持っていかれる。
 → 誤り(破産手続開始後は強制執行禁止。生活必需品等は自由財産として保有可能。但し、差押禁止財産でない高価品等は除く。)

7.信用情報機関に登録され、結果、当面ローンが組めなくなったりクレジットカードが発行されなくなる。
 → 正しい(但し、すでに長期延滞がある場合は登録されている可能性が高い。また、永遠に登録されるわけはない。)

8.市町村役場に通知され身分証明書に記載される。
 → 正しい(但し、身分証明書を使うケースはあまりない。)

9.借家からの立ち退きを迫られる。
 → 誤り(破産を理由に賃貸人から解約をすることはできない。但し、家賃滞納がある場合は債務不履行により契約解除され退去しなければならない可能性がある。)

10.転居や旅行、郵便物の制限がある。
 → 正しい(管財事件の場合は転居や長期旅行等が裁判所の許可制になる。郵便物は管財人に一定期間送達されるようになる。)

11.破産したことが世間一般に知れ渡る。
 → 誤り(破産手続開始や免責許可の決定は官報に氏名が掲載されるが、官報を常時見る人は限られているので、勤務先や知人に知られる可能性は乏しい。但し、事業者の場合は、基本的に事業を廃止することになるので、業界内では知れ渡る可能性が高いであろう。)

 以上、自己破産に関する基本的なデメリット、誤解を挙げてみました。もちろん、当事者の事情により想定外の不利益を被ったりすることもあるかもしれませんし、上記以外にも細かい不利益はあるかもしれませんが、債務の整理においては、不利益だけに囚われず、自身にとって最良の方法は何かを冷静によく考えて決断しなければならないことは言うまでもありません。


 過払金返還請求C(2011年11月24日)

第4回 過払金返還請求(その他)
 過払金返還請求手続については、とりあえず今回が最終回です。というわけで、最後はその他として、手続上の注意点などをご説明します。

1.信用情報への掲載について
 一昔前までは、過払金返還請求をしただけで、信用情報機関の信用情報(いわゆるブラックリスト)に載ってしまいました(契約見直しという内容が掲載されてしまいました)。したがって、この点が障害となり、相手方業者への請求を躊躇してしまうこともありました。
 しかしながら、現在では、過払金返還請求をしただけで信用情報に掲載されることはなくなりました。ただし、それまでに相当程度の延滞があったりする場合は、既に掲載されている可能性もありますので、注意が必要です。また、信用情報はあくまで業界団体が融資等の際に利用するために作ったシステムであり、法律で定められた制度ではありません。したがって、過払金返還請求をした結果、誤って掲載される可能性も無きにしも非ずかもしれません。
 過払金返還請求をするに当たっては、一応、以上のような信用情報に関しても理解した上で行いましょう。

2.裁判までして請求するのは大変では?
 過払金返還請求に関する裁判は、大方の法的論点も整理されてきているため、比較的定型化されてきています。したがって、必要な主張を記載した訴状等の適切な書類提出し、必要な証拠(通常は取引履歴のみ)を提出することで、裁判をすすめることも可能です。
 また、相手方の業者も、都市部はともかく、地方の裁判所については、通常わざわざ出頭してきたりはしません。ほとんどの場合は、相手方は1度も出頭することなく、2〜3回の弁論期日を経て和解や判決によって裁判は終了します。
 さらに、裁判費用についても、よほど高額な請求でもない限り、1万円程度(印紙代、切手代)で足ります。もちろん、専門家に依頼する場合は、手数料が別途必要です。
 よって、過払金返還請求に関する裁判は、大部分はテレビ等で見るような大掛かりなものではなく、案外あっけなく終わってしまいますので、相手方業者からの要求に安易に屈することなく、裁判をする前提で、強気で請求していきましょう。

3.専門家に依頼する場合
 ちょっと自分でやるには自信がないという方は、司法書士等の専門家に依頼してください。ただし、依頼される際は、以下の点に注意しましょう。
 @ 事件を担当する司法書士と直接面談し、詳しい説明を受け、納得してから依頼する(事務員に面談、説明させる事務所はダメ)。
 A 費用(報酬、実費、交通費、日当等)の説明をきちんと受ける(相場は事前に確認しておく)。
 B 依頼する際は、委任契約書等を作成してもらう(作らない専門家はダメ)。
 C 大体の所要期間を聞く(目安は6ヶ月、理由もなく時間がかかるのは手が回っていない証拠)。
 D 自分の希望をきちんと伝える(裁判を嫌がり執拗に妥協を迫られる場合は要注意)。
 E 専門家には守秘義務があるため、人目を気にして近隣の事務所を避ける必要はない(近い事務所の方が専門家の顔がよく見え、連絡、面談もしやすく経済的)。


 過払金返還請求B(2011年11月18日)  

第3回 過払金返還請求の論点

 今回は、過払金の返還請求をするに当たって、相手方業者との間で争いとなる主な法的論点について、簡単にご紹介します。相手方と交渉、訴訟をするに当たっては、以下の点に留意し、これぐらいのことは相手側から主張されることを事前にしっておくこと、そして、主張された場合でも、それに対応できるように予め準備して手続に挑みましょう。

1.消滅時効
 過払金返還請求は、法的には不当利得返還請求といい、相手方が不当に利得した金銭を返還するよう請求する一種の金銭的請求権です。よって、当然にいつまでも請求できるわけではなく、いずれは時効により請求する権利が消滅してしまいます。そして、過払金返還請求権については、基本的に、最後の取引日(最後の返済日) から10年経過すると時効により権利が消滅すると考えられています。
 したがって、もしかすると過払金が発生しているかもと気付かれた時は、一刻も早く請求するようにしましょう。現実に、時効数日前に発見されるケースもあったりします。そんな時は、とりあえず内容証明郵便等で請求の文書を相手方に送りつけておきます。そうすると6ヶ月間は時効の進行が停止しますので、その間に訴訟等を提起し時効を中断してしまいましょう。

2.取引の分断
 過払金返還請求手続においては、通常、相手方業者との最初の取引(借入)から最後の取引(返済)までの全取引を一連一体の取引と考えて、利息制限法での引直計算をします。そうすると、ほとんどの場合、借主にとって最も有利な計算結果、つまり、債務の減少幅が大きくなり、延いては過払金の金額が最も高額になります。したがって、借主側としては、全取引を一連一体の金銭消費貸借取引であるとして利息を計算した結果、はじき出された過払金額の請求をしていきます。
 しかしながら、上記全取引について、途中に中断期間(一旦完済し、貸し借りをしていなかった期間)がある場合、相手方業者は、取引分断の主張し中断の前後の取引は別取引でから利息計算も別々に分けてすべきであると主張してきます。また、中断はなくても全取引のうち複数の契約に基づく複数の取引がある場合、それぞれの取引毎に利息引直計算をすべきであると主張してきたりもします。そして、そのような相手方主張のとおりに計算をすると、返還請求する過払金の金額が減少し、場合によっては過払金返還請求権が時効により消滅したりします。
 よって、全取引の途中に中断期間があったり、複数契約による複数取引の存在がうかがわれる場合に過払金返還請求をするにあたっては、借主側としては、上記のような相手方からの主張に対抗できるよう、当時の事実関係をよく精査し、一連一体の取引であったことを主張・立証していかなければなりません。
 この論点は、過払金返還請求事件において、返還金額に最も影響のある論点をいえますので、最新の裁判例を調べる等して、全力を尽くしましょう。

3.悪意の利息
 過払金返還請求をする場合、相手方業者に対し、通常、返還日までの利息を付けて返還するよう請求します。これは、借りていた間は借入残高に対し借主が利息を支払ってきましたが、過払金が発生した後は、反対に業者が過払金に対し利息を支払いなさいというわけです。そして、この利息は、法定金利の5%とされています。
 しかしながら、上記の5%利息は、相手方業者が悪意(取ってはダメな利息と知っていながらという意味)で利息制限法違反の高金利を受け取り続けていたことが要件とされています(民法704条)。そして、この悪意は借主が主張・立証しなければなりません。
 この点、相手方業者は、「適法な利息の受領(貸金業法43条の要件を満たしていた)と認識していた」と当然主張してきますので、利息も付けて返還してほしい場合は、通常、訴訟を提起した上で、相手方業者が悪意の受益者であることを主張・立証していかなければなりません。業者は、裁判外での交渉段階で、「利息も付けてお返しします」と素直に認めたりはしませんので。

4.業者の変遷
 相手方業者は、事業譲渡、債権譲渡、会社分割、合併、解散等によりどんどん統廃合されていきます。そして、それら統廃合の過程おいて、過払金が様々な方向に移動していきます。その結果、過払金返還請求の真の相手方が誰なのかがわかり難くなってきます。場合によっては、過払金返還義務が、支払い能力のない業者に引継がれてしまい、結果、満足な返還が受けられないことも想定されます。
 一方、返還を要求する借主としては、自分達に不利になるような業者の事業再編行為は、認めるわけにはいきません。
 よって、借主としては、事業再編の結果にかかわらず返還能力がある業者に請求できるよう法律構成をしていかなくてはなりません。ここがポイントとなります。

 以上、過払金返還請求事件における主だった論点をご紹介しましたのでご参考下さい。ただ、独力で当たるには難しい部分もありますので、その場合は司法書士までご相談下さい。


 過払金返還請求A(2011年11月16日)

第2回 過払金返還請求のやり方
 今回は、過払金返還請求のやり方について、簡単にご説明します。

1.まずは過去から現在に至るまで、お金を借りていたことのある業者を全て洗い出します。

2.各業者に対し、金銭消費貸借に関する取引について、一番最初の取引から現在に至るまでの全ての取引履歴(何時いくら借りて、何時いくら返したかが全て記載された書類等)を開示してもらうよう依頼します。ほとんどの業者は開示に協力的ですが、中には開示しなかったり、一部しか開示しない、なかなか開示しない業者もあります。
  取引履歴の開示にかかる期間は、早い業者で1〜2週間、遅い業者だと2ヶ月くらいかかります。基本的には、1ヶ月程度は待ってみましょう。1ヶ月たっても開示してこない業者については、行政処分申立をにおわせながら積極的に催促してみましょう。

3.取引履歴が開示されたら、次は、前回ご説明した法定金利(15%〜20%)に則り、取引の一番最初から最後まで、再度利息の引直計算をします。この引直計算においては、通常、利息引直計算ソフトなどを使用します。このソフトは、市中に出回っておりますので、簡単に手に入ります。そして、利息の引直計算をしてみると、利息制限法の制限を超過する高金利で貸し出していた業者については、計算上、みるみる借入残高が減少していきます。そして、減少しすぎてマイナス表示になれば、それは払い過ぎということになり、過払金が発生していることになります。

4.過払金が発生していた場合は、その過払金を返してもらうよう相手方業者に文書等で請求します。しかしながら、請求しても積極的に反応しない業者がほとんどです。したがって、請求して2週間くらい経過しても何の反応もない業者については、こちらから電話等をして催促していきましょう。

5.過払金の返還請求をした場合、相手方業者は、通常、請求金額を素直に認めて返してくれたりはしません。いろいろな理屈を並べて、返還金額の引き下げ要求をしたり、返還期限の延期を要求してきます。金額でいうと、割と対応のいい業者でも請求額の8割返還、酷い業者は1割返還といった状況でしょうか。返還期限については、まちまちですが、半年以上先になることも多いようです。いずれにしても、単に請求しただけでは、まともな金額をまともな期間では返してくれません。もちろん、どの程度の条件で満足されるかは、人それぞれですが。

6.さて、文書での請求や話合いでの交渉をしてみても満足いく回答を得られない場合は、次に取る手段は、訴訟、つまり裁判を仕掛けていくことになります。いわゆる過払金返還請求訴訟を裁判所に提起することになります。裁判をすることにより、相手方にプレッシャーをかけ、支払いを促すとともに、それでも支払わない場合は裁判所の判決をもらって強制執行をすることができるようになります。ここまですると、大概の業者はしぶしぶ支払います。しかし、それでも支払わない業者も当然います。そうなると、後は強制執行をしていくしか方法はありません。もっとも、強制執行されるような業者については、もはや過払金の回収は極めて困難といえるでしょう。

7.大体以上のような手順で過払金の返還請求を行います。ポイントは「速く、積極的に、強気で」請求していくことです。ちょっと自分ではできそうにないときは、お近くの信頼できそうな司法書士に相談してください。
 

 過払金返還請求@(2011年10月29日)

 テレビや新聞でのコマーシャルが氾濫している中で今更の話題ですが、消費者金融等への過払金返還請求についてご紹介します。

第1回 過払金とは?
 いわゆる「過払金」とは、読んで字の如く「払い過ぎたお金」のことです。そして、この払い過ぎたお金を相手方(通常は消費者金融等の金融業者)に返してくださいと請求することを「過払金返還請求」といいます。
 さて、まず前提の問題として、どうして過払金が発生するのかですが、それは次のことが原因となっています。
 まず、利息制限法という法律があります。この法律は、金銭消費貸借(お金の貸し借り)において、受け取ってよい利息の限度を定めています。そして、この法律では、@10万円未満の貸し借りについては年20%まで、A10万円以上100万円未満では年18%まで、B100万円以上では年15%までしか利息を受け取ってはならない、と定められています。そして、これらの制限利率を超過する利息の契約は無効であると定めています。
 一方、最近法改正がされましたが、貸金業法(旧貸金業規制法)という法律があり、この法律では、一定の要件を満たせば利息制限法の上限金利を超過する利息の受取りを認めていました(現在は廃止)。そこで、貸金業者等は、この要件を満たしているという前提で、借主から利息制限法を超過する利息を取り続けていました。ただし、出資法という別の法律の制限もありましたので、出資法の限度である年29.2%(さらに昔はもっと高かったですが。)くらいの利息を取り続けていました。
 ところが、最高裁判所は、貸金業者等が利息制限法を超過する利息を受け取るための要件を厳格に解釈する判断をし、その結果、ほとんどの貸金業者等においては、超過利息を受け取るための要件を満たしていないと判断しました。
 そこで、貸金業者等は、利息制限法超過利息を受け取るための要件を満たしていないにもかかわらず、超過利息を顧客から受け取り続けていたことになり、その結果、契約当初に遡って利息制限法に則った適法な利息で再計算することを迫られ、延いては、利息の取り過ぎ、それに伴う借金の返し過ぎ、払い過ぎが生じる結果となりました。ローン等を組んだことのある方でしたら容易に理解されるとおり、利息が年10%近く違うと、借金の減り具合は断然異なってきます。そして、取引の期間が長きに亘れば亘るほど、その差は大きくなってきます。
 以上のような仕組みで、いわゆる過払金というものが発生してきたわけです。そして、以上のような状況が世間に周知されるに伴い、高金利を受け取り続けていた貸金業者等は、特に長年取引を継続してきた顧客から、今度は逆に過払金を返せと迫られるようになりました。取引が長い場合は過払金が数百万に上ることもあります。

 次回は、過払金返還請求の方法についてご紹介します。


 危機的状況下の財産処分(破産の場合)(2011年10月8日)

 借金等により個人や会社が経済的に破綻をした場合、通常、破産手続等の申立をし、経済的再生を目指すことになりますが、破産の場合、原則的には裁判所より破産管財人が選任され、その破産管財人が破産者が所有する財産を金銭に換価し、債権者に衡平に配当するということになります。
 ところで、上記のような破産手続に関連してよくあるご相談に、「近々破産する予定だから今のうちに自宅不動産の名義を家族に変更をしたい」、「あの債権者にだけは迷惑掛けられないので破産する前に支払いたい」といったものがあります。さて、このようなことは認められるのでしょうか?
 破産法には、破産管財人に否認権(破産法160条以下)というものが与えられております。否認権とは、破産手続開始決定前に、破産した債務者によって責任財産(換価して債権者に配当すべき財産)を不当に減少させたり、債権者の衡平を害する行為がされた場合、その行為の効力を破産財団(債権者に換価配当すべき財産の集まり)との関係において失わせ、いったん失われた財産を財団に回復させることができる権利です。要するに、「自己の財産を換価して債権者に衡平に配当することで、残った負債を免れる(免責手続きは別途ですが)という破産手続を行う以上、本来債権者に平等に配当されるべき財産を減少させたり、債権者の平等に反するような行為は認めないから、元の状態に戻しなさい。」という法的権利が破産管財人には与えられているのです。よって、もはや経済的に破綻している状態で、破産間際に財産を処分したりすると、後々破産管財人に見つかり、否認(元に戻せ)されてしまうおそれがあります。場合によっては、犯罪(破産法265条)になることもあります。
 以下、参考までに否認される行為を掲げておきますので、ご参考まで。いずれにしても、客観的にみて経済的にすでに破綻している場合に自分の財産を「さわる」のは控えた方がよいと思います。

1.破産債権者を害する行為
 @破産者が破産債権者を害することを知ってした行為(ただし、これによって利益を受けた者が、その行為の当時、破産債権者を害する事実を知らなかったときは、この限りでない)。 
 ※ 行為の時期を問わない。
 A破産者が支払の停止又は破産手続開始の申立てがあった後にした破産債権者を害する行為(ただし、これによって利益を受けた者が、その行為の当時、支払の停止等があったこと及び破産債権者を害する事実を知らなかったときは、この限りでない)。
 ※「支払停止」とは:「弁済能力の欠乏のために弁済期が到来した債務を一般的、かつ、継続的に弁済することができない旨を外部に表示する債務者の行為」
 ex,手形の不渡りによる銀行取引の停止
 B破産者がした債務の消滅に関する行為であって、債権者の受けた給付の価額が当該行為によって消滅した債務の額より過大であるもの。
 C破産者が支払の停止等があった後又はその前6月以内にした無償行為及びこれと同視すべき有償行為は、破産手続開始後、破産財団のために否認することができる。

2.相当の対価を得てした財産の処分行為
 @破産者が、その有する財産を処分する行為をした場合において、その行為の相手方から相当の対価を取得しているときは、その行為は、次に掲げる要件のいずれにも該当する場合に限り、破産手続開始後、破産財団のために否認することができる。
 ア)当該行為が、不動産の金銭への換価その他の当該処分による財産の種類の変更により、破産者において隠匿、無償の供与その他の破産債権者を害する処分をするおそれを現に生じさせるものであること。
 イ)破産者が、当該行為の当時、対価として取得した金銭その他の財産について、隠匿等の処分をする意思を有していたこと。
 ウ)相手方が、当該行為の当時、破産者が前号の隠匿等の処分をする意思を有していたことを知っていたこと。

3.特定の債権者に対する担保の供与等
 @破産者が支払不能になった後又は破産手続開始の申立てがあった後にした行為(ただし、債権者が、その行為の当時、次のア又はイに掲げる区分に応じ、それぞれ当該ア又はイに定める事実を知っていた場合に限る。
 ア)当該行為が支払不能になった後にされたものである場合 支払不能であったこと又は支払の停止があったこと。
 イ)当該行為が破産手続開始の申立てがあった後にされたものである場合 破産手続開始の申立てがあったこと。
 A破産者の義務に属せず、又はその時期が破産者の義務に属しない行為であって、支払不能になる前30日以内にされたもの(ただし、債権者がその行為の当時他の破産債権者を害する事実を知らなかったときは、この限りでない)。

4.権利変動の対抗要件の否認
 支払の停止等があった後権利の設定、移転又は変更をもって第三者に対抗するために必要な行為(仮登記又は仮登録を含む。)をした場合において、その行為が権利の設定、移転又は変更があった日から十五日を経過した後支払の停止等のあったことを知ってしたものであるときは、破産手続開始後、破産財団のためにこれを否認することができる。ただし、当該仮登記又は仮登録以外の仮登記又は仮登録があった後にこれらに基づいて本登記又は本登録をした場合は、この限りでない。

5.執行行為の否認
 否認権は、否認しようとする行為について執行力のある債務名義があるとき、又はその行為が執行行為に基づくものであるときでも、行使することを妨げない。

6.支払の停止を要件とする否認の制限
 破産手続開始の申立ての日から一年以上前にした行為(第百六十条第三項に規定する行為を除く。)は、支払の停止があった後にされたものであること又は支払の停止の事実を知っていたことを理由として否認することができない。


 債務整理は十分な相談と説明が受けられる専門家へ依頼しましょう!

 近年、過払金の返還請求手続を含む債務整理の宣伝広告を行う事務所(ほとんどが都会の事務所)が増えてきていますが、そんな中、最近、当事務所に「テレビで宣伝していた都会の事務所に債務整理(過払金返還)の依頼をしたが、気に入らないので再度手続をお願いできないか?」といったご相談が何件かありました。詳しくお話を聞いてみると、@専門家本職と直接話ができない(ひどいケースでは一度も話したことがない)、A手続が遅い、Bこちらから催促しないと進捗状況の説明がない、C費用の説明が曖昧だ、D過払金の返還額について妥協を迫られた、といったことが理由のようです。
 司法書士、弁護士の業界内でも、上記のような苦情に対処すべく、債務整理業務のあり方に規制を設けるべき等の意見が出ているようです。
 そもそも債務整理手続というものは比較的長期間(平均して6ヶ月くらい)に亘って行う手続ですので、やはり依頼をする側と依頼を受ける側の間にある程度の信頼関係が築けないと、途中でトラブルが生じてくるものと思います。
 また、一旦手続を依頼すると、その後依頼を解約して改めて他へ依頼をし直すのは、費用と時間の面でも、かなりの無駄になります。
 そういうわけで、債務整理手続に限らず、およそ法律的な手続を司法書士等の専門家に依頼する場合は、「まず一度専門家本職と面と向かってじっくり相談をする」ことが大事であり、その上で、「大切な手続を依頼してみようと思える」専門家に依頼することがまず重要だと思います。少なくとも、顔も見たことがない電話やメールだけで依頼を受けるような人物に依頼することは、避けた方が良いでしょう。
 それから、「近所に知られるのが嫌だから、地元の専門家には相談したくない」というご意見を持たれている方も少なからずおられるかと思いますが、司法書士を含め、およそ法律専門職には、法律で守秘義務が課せられております。従いまして、相談、依頼の内容等については、必ず秘密が守られるようになっていますので、その点は、是非気にせず、地元の「よく顔の見える」=「信頼できる」専門家を利用していくのも、有用かと思います。
 以上、大切な手続で専門家との余計なトラブルを招かぬよう、ご参考まで。