民事裁判手続


 売買代金の利息請求の要件事実(2014年7月1日)

 今回は先日開催の某研修会ネタです。
 通常、例えば訴訟において自動車の売買代金の支払い請求をする場合に原告(売主)が主張立証すべき要件事実(最低限主張立証すべき事実)は、@原告(売主)と被告(買主)の間で売買契約を締結した事実(特定の自動車を代金○○円で売ったという事実)です。したがって、「原告(売主)が売った自動車を被告(買主)に引き渡したかどうか」については、原告(売主)において訴状の請求の原因で主張立証する必要はなく、被告(買主)から「売主から自動車の引き渡しを受けていないから代金を支払わないのだ」という主張(これを「同時履行の抗弁」といいます。)があった場合に初めて、原告(売主)は再抗弁として「自動車を引き渡したこと」を主張立証すれば足りるのです。
 ところが、原告(売主)が売買代金の支払いのみならず、売買代金の支払いが遅れていることに対する利息(遅延損害金)についても請求をする場合は、上記@の事実に加えて、A原告(売主)が売買契約の目的となった自動車を被告(買主)に引き渡したこと、についても原告(売主)が請求の原因として先行して主張立証しなければなりません(民法575条2項)。
 よって、訴状において売買代金及びその利息の支払い請求をする場合は、上記@とAの両方の事実を原告(売主)において主張立証しなければならないのです。要するに、売買代金の請求と利息の請求は、全く別の請求権なので、その要件事実の主張立証も別々に検討しなければならないというわけなのです。
 さて、以上の点については、教科書でも見てきちんと検討すればわかる要件事実の基本的な理論ですが、売買代金請求の要件事実の方にばかり目が行っていると利息請求に関するAの事実の主張立証を落としがちな傾向があったりもするのかもしれません(それとも利息請求の軽視か?)。
 先日の研修会はそんなことがありましたので、自分への戒めも込めまして書き留めておきます。


 公示送達事件と欠席判決(2014年5月28日)      

 民事訴訟法には次のような条文が規定されています。

(自白の擬制)
第159条 当事者が口頭弁論において相手方の主張した事実を争うことを明らかにしない場合には、その事実を自白したものとみなす。ただし、弁論の全趣旨により、その事実を争ったものと認めるべきときは、この限りでない。
2 省略
3 第1項の規定は、当事者が口頭弁論の期日に出頭しない場合について準用する。ただし、その当事者が公示送達による呼出しを受けたものであるときは、この限りでない。

 この規定、要は、訴訟の当事者が相手方の主張する事実を争わない場合は、その事実を認めたものとみなすこととし、さらには、当事者(通常は被告)が訴訟の期日に出頭すらしない場合は、相手方(通常は原告)の主張する事実を全面的に認めるものとみなす(つまりは、被告の全面敗訴)、ということを規定しているのです。これがいわゆる「欠席判決」というやつです。
 ところが、条文の第3項但し書において、「公示送達事件は除く」とされています。公示送達事件とは、簡単に言えば、訴えたい相手(被告)の所在が不明であり、訴状や訴訟期日の呼出し状等の裁判書類の送達が通常の方法ではできないような場合に、裁判所の掲示板にいつでも書類を交付する旨の張り紙をし、一定期間が経過したら相手に書類が送達されたことにして訴訟手続が進行する事件のことをいいます。つまり、公示送達事件の相手方は、自分が訴えられていることすら知らない間に、訴訟を進行されてしまうことになるわけです。したがって、このような公示送達事件については、訴えられた相手方(被告)の不利益が大きすぎるので、さすがに欠席判決をするわけにはいかないというわけです。
 したがって、公示送達事件の場合は、通常どおり、訴えを提起した原告の主張する事実について、原告が提出する証拠に基づいてその有無を認定し、当該事実認定の結果に基づいて判決をする、という運びになり、欠席判決にはなりません。よって、相手方が出頭しない事件だからといって必要な立証(証拠の提出)をしないで舐めてかかると、請求棄却(原告敗訴)という痛い目に遭う可能性もあるわけです。
因みに、最近購入しました某出版社の不動産登記に関する書籍(結構売れているみたいです)において、『「公示送達による呼出しを受けたが被告が出頭しない」との記載のある判決は欠席判決だから証拠による事実認定がされている判決であるとは認められない・・・』みたいなことが書かれていました。う〜ん・・・・・。


 訴え提起前の和解(即決和解)制度の活用(2014年4月3日)      

 当事者間における権利義務関係の紛争について、とりあえず話し合いによる解決(和解)ができそうな場合でも、将来においてその和解内容(約束)が破られる心配は完全には拭えません。一旦紛争になった当事者間であれば当然です。
 したがって、そんな場合は、和解の内容について債務名義(約束違反をした場合は強制執行によって権利の実現をすることができる公文書)を取得しておきたいところです。この債務名義があれば、仮に相手方が和解した内容に違反した場合でも、改めて訴訟等を提起することなく直ちに相手方の財産に対する差押を行ったり、不動産の明渡しを強制的に行ったりといった強制執行を行うことができます。このように、和解した内容について債務名義を得ておくと非常に心強い面があります。
 ところで、この債務名義を得る方法としては、例えば紛争にかかる権利について裁判所に対して訴えを提起して確定判決をもらう方法がありますが、この方法だと時間と手間がかかりますし最初から和解するつもりの当事者においては不向きです。また、和解内容を公証役場で公正証書にしてもらうことによっても債務名義を得ることができますが、この方法は内容が金銭請求に限りますし、公証証書作成費用がかかるうえ、公証役場が近隣に存在しない場合(例えば、篠山市)は不便です。
 そこで、当事者間の紛争について端から和解できそうな場合において、和解内容について簡易、迅速、低廉に債務名義を得る方法として考えられるのが、訴え提起前の和解(即決和解ともいいます)の制度(民事訴訟法275条)です。

民事訴訟法第275条(訴え提起前の和解)
民事上の争いについては、当事者は、請求の趣旨及び原因並びに争いの実情を表示して、相手方の普通裁判籍の所在地を管轄する簡易裁判所に和解の申立てをすることができる。

 さて、この即決和解の制度ですが、申立ては通常相手方の住所地の簡易裁判所に対して行うので、相手方の住所が篠山市であれば、篠山市の簡易裁判所に対して申立てができるので非常に便利です。ただし、この制度を利用するにあたって特に注意を要するのが、「民事上の争い」があることが申立ての要件となっている点です。なぜなら、一般に争いがないのに締結された和解は無効とされているからです。この点、「民事上の争い」の解釈については、割と広く緩やかに解されているのが実務の実情であり、権利関係の不確実なことや将来の権利実行の不安、さらには将来における紛争発生の可能性が予測される場合なども含まれるとされています。但し、当事者間における具体的事実関係から将来における権利実行における紛争発生や不安が認められなかったり、単に契約締結に当たり予め債務名義を得ておくだけの目的であったりする場合は、申立てが却下された裁判例もあるので、即決和解の申立てにあたっては、この「民事上の争いがある」という点について裁判所に説明できるようにはしておくべきかと思います。
 いずれにしても、この即決和解の制度は債務名義を得るという意味では非常に便利な制度なので、悪用、濫用はいけませんが要件に該当する事案であれば積極的に利用を考えてみるとよいと思います。


 権利能力なき社団の登記手続請求訴訟の当事者適格(2014年3月14日)      

 地区の自治会や組合等のいわゆる権利能力なき社団(以下、単に「団体」といいます。)の構成員が総有する不動産(例えば山林や自治会館等)については、団体名義や代表者の肩書を付けた個人名義での登記ができませんので、やむなく構成員の内の代表者の肩書無しの個人名義で登記されているケースは、現在でも結構あります。そして、このような個人名義で登記をしていた場合、登記記録上では団体の所有物なのか個人の所有物なのかが判然としませんので、それが原因で団体と登記名義人となっている個人ないしその相続人らとの間で、当該不動産の権利関係について紛争になり、登記名義を団体の新しい代表者名義へ変更する登記手続がスムーズにできないケースが生じたりします。また、そのような場合は、登記名義の変更に応じない個人を相手に団体が登記手続を求める訴訟を提起し、裁判により解決することになることもあります。

 今回は、以上のような登記制度上の問題も絡んだ紛争について、訴訟により解決する場合の参考になる新しい判例が出ましたので、以下にご紹介します(要旨は最高裁HPより抜粋)。なお、判例の詳細は、最高裁ホームページでご覧ください。

○ 平成26年2月27日最高裁判所第一小法廷判決
 「権利能力のない社団は,構成員全員に総有的に帰属する不動産について,その所有権の登記名義人に対し,当該社団の代表者の個人名義に所有権移転登記手続をすることを求める訴訟の原告適格を有する。」

 そもそも権利能力なき社団自体には、民事訴訟法29条により訴訟の当事者能力が認められているところ、この最高裁判例のポイントは、先に述べたような登記に関する紛争を解決すべく、訴訟により現在登記名義人となっている個人から団体の新代表者への登記名義の変更(所有権移転登記)を求める場合、「新代表者個人が原告となる以外に(最高裁昭和45年(オ)第232号同47年6月2日第二小法廷判決・民集26巻5号957頁参照)、団体自身が原告となって訴訟を行うことも可能であり、当該訴訟による判決をもって新代表者への所有権移転登記手続ができる」という点を確認したところだと思います。

 また、上記判例では、団体代表者の肩書を付けた個人名での所有権登記もできないことについても再確認しています。

 前提となる訴訟手続を含む登記業務を生業とする司法書士としては、ぜひ押さえておきたい判例です。


 筆跡鑑定の信頼性(2014年1月10日)      

 ある私文書(例えば借用書のような処分証書)が真正に作成されたものであるかどうか(法律的に言えば「形式的証拠力」があるかどうか)については、基本的には当該文書に存在する署名又は押印が本人の意思により顕出されたものであるかどうかによって決まってきます(民事訴訟法228条4項)。この点、押印(印鑑)については、以前少し書きましたので今回は署名についてです。
 「署名」については、本人が自署したかどうかが問題になってくるわけですが、その真偽については、当該文書の筆跡と本人の筆跡の同一性について鑑定することになります。筆跡の鑑定の仕方については、大まかに言えば、紛争の当事者間において争いのない本人が自書した他の文書をできるだけたくさん集めて、それら文書の筆跡と問題の文書の筆跡を専門の鑑定人に鑑定してもらうといったところでしょうか。
 ところで、この筆跡鑑定ですが、巷では、鑑定手法については科学的に裏付けられた絶対的なものは未だなく、よって、その鑑定結果については、裁判所は慎重に採否を判断する(むしろ筆跡鑑定には懐疑的である裁判官も多い)というふうに言われていたりします。そして、文書の成立の真正(本人が作成したものであるかどうか)の判断においては、署名や押印だけに過度に傾注することなく、文書の物理的形状や内容を全体的に観察して総合的に判断すべきである、みたいなことが教科書的には言われています。したがって、裁判官が、鑑定人の鑑定結果と正反対の認定をすることも十分あり得るわけです。
 なるほど、素人目では、確かに筆跡なんてその時の気分や体調によって微妙に違ってきますし、経験上、毎回一見同じような筆跡の署名をする人もいれば、時々で別人が書いたような署名をする人もいたりしますから、署名自体の真偽の正確な判断はなかなか難しそうに思いますが、それはプロでも同じというわけなのでしょうね。
 ま、詰まるところ、「署名も印影も文書の真正判断の一材料に過ぎない」といった程度の認識でいるのが誤りを防ぐ上では良いのかもしれません。


 え〜っ!!篠山地方裁判所って?(2013年12月13日)      

 篠山市には、昔、歴史ある立派な裁判所がありました。
 元は篠山区裁判所といいまして、その後、篠山地方裁判所となったそうです。裁判所が設置されたのは明治10年頃だそうです。
 現在は、建物の一部が市の歴史美術館として残存しており、建物内には当時の裁判所の構造が残っていますので、テレビドラマ(裸の大将)の撮影で使用されたこともありましたし、観光目的としては裁判官体験(写真撮影)ができるそうです。
 ま、詳しい内容は他のウェブサイトでご覧いただくとして、司法書士の仕事をしていますと、現在の平成の世に至ってもそんな明治時代に存在した裁判所の事件に関わることもあったりします。それは、言わずもがな古い登記のお話ですが、篠山区裁判所(篠山地方裁判所)が行った競売事件なんかの登記が抹消されずに登記記録上で残ったままになっているケースがあったりするのです。地方裁判所なので、現在と同様に不動産の競売事件を扱っていたのでしょうが、当時の競売法(現在は民事執行法)や旧民事訴訟法では、現行法と同様、競売物件が競落された場合は、裁判所が嘱託により買受人への所有権移転登記と同時に競売申立登記も抹消しなければならない(旧民訴法700条1項2号・競売法は同規定を準用解釈)はずなのに、それをおそらく失念されたのでしょう、競売申立登記だけが抹消されずに現在も残っていたりするのです。
 何とも歴史を感じさせられる感慨深い事柄ですが、この競売申立登記も一応いわゆる処分制限の登記(差押や仮処分等の登記)の分類に属するものですから、こんな登記が記録上残っている不動産は、そのままでは売ったり担保に入れたりは事実上できません。また、法務局も当該競売申立登記が失効していることが明らかであっても職権で抹消してくれたりはしません。
 したがって、抹消登記を希望する場合は、この篠山区裁判所(篠山地方裁判所)が放置した競売申立登記を抹消するよう現在の管轄執行裁判所に掛け合わなくてはなりません。で、現在の管轄執行裁判所は何処かというと、篠山市にある不動産の競売事件の管轄は、現在は神戸地裁尼崎支部となっていますので、こちらの裁判所へ掛け合うことになります(因みに、競売申立にかかる担保権の登記まで残っている場合は、先に担保権を抹消する必要がありますのでご注意を)。
 さて、現在において、裁判所に抹消登記を嘱託してもらうには、ちょっとした申立手続が必要です(電話で文句言ってもしてくれません)ので、こういうのも申立書類の作成業務として司法書士のお仕事になります。詳しくはお尋ねください。


 支払督促の利点と注意点(2013年11月21日)      

 支払督促(旧支払命令)の手続については、民事訴訟法382条以下に規定されていますが、この支払督促という手続、特に金銭債権の強制執行による回収が簡易、安価、短期に実現できることから、この種の債権債務関係について比較的争いのない事件(例えば、滞納されているクレジット料金、通信料金等のいわゆる業者債権)においてよく利用されています。
 この制度の主なメリットは以下のとおりです。
(メリット)
@ 通常の訴訟に比べ申立の手続が簡単(申立書は裁判所で手に入る、審査は申立書のみで行われるので証拠等の添付は不要)
A 申立の手数料が通常の訴訟の半額
B 申立から債務名義(確定支払督促)を取得するまでの期間が訴訟に比べて短い(約1〜2か月)
C 債権額に関係なく簡易裁判所(の書記官)に申立てることが可能

 一方、デメリットとしては、主に以下のような点があります。
(デメリット)
@ 申立先は原則として債務者の住所地(営業所の所在地)となる(民訴383)。
A 支払督促に異議が出た場合は通常の訴訟手続に移行することになるが、訴訟の管轄は結果的に債務者の住所地(営業所の所在地)を管轄する簡易裁判所又は地方裁判所になる(民訴395)。
B 支払督促に異議が出たことによる訴訟手続への移行の事務手続(手数料、郵券の差額の追納等)が面倒
C 既判力がない(請求内容について再度訴訟で争うことが可能)
D 支払督促の公示送達はできないため債務者が所在不明の場合は使えない(民訴382)。

 以上から考えると、支払督促の方法を利用して債権回収をするのに適した場合としては、@債務者の所在が判明しており、A債務者が債権債務関係(金額も含む)自体を争う可能性が低く、B債務者の住所地(営業所の所在地)への債権者のアクセスが容易であり、C債務者が支払督促の圧力により任意に支払う可能性がある、又は、債務者の財産(又は勤務先)が判明しているのですぐに強制執行できる、ような場合が適していると思われます。
 反対に、債務者が遠方に居住しており、明らかに請求内容を争っている場合は、支払督促を行っても異議申立てがなされて遠方の裁判所での通常訴訟に移行する可能性が高いので、そういった場合は支払督促ではなく最初から債権者の住所地の裁判所に通常の訴訟を提起したほうがよいと思われます。
 因みに、債務者に支払督促が送達される際は、異議申立書と異議申立てに関する注意書が同封されますので、債務者は容易に異議申立てが可能です。また、異議申立て理由としては、単に請求金額の分割払いの話合いがしたいだけでもよく、また、特に理由がなくても督促異議申立は可能とされています。よって、支払督促に対しては、督促異議がなされる(つまり訴訟に移行する)可能性が割と高いと考えておいた方がよいかもしれませんね。


 訴訟と登記と相続証明情報(2013年10月18日)      

 一般に、本来であればある人物に対して請求すべき権利について、当該請求権を行使して権利を実現する前にその者が死亡し相続が開始した場合は、被相続人に代わってその相続人全員に対して請求することになる場合があります。例えば、XがAから甲土地を買い受けましたがその所有権移転登記をする前にAが死亡したとします。この場合、X名義に所有権移転登記をするには、Aの相続人全員(B、C、D)に協力してもらわなければなりませんが、これら相続人が登記手続に非協力的である場合、Xは相続人全員を相手に裁判所へ訴訟を提起し、相続人ら全員に対して登記手続を命ずる判決を得たうえでなければ、X名義への所有権移転登記を実現することはできません。
 さて、ここでまず訴訟手続ですが、このような本来の登記義務者(A)の相続人を相手方とする訴訟手続においては、訴訟の相手方が義務者の相続人であることを証明する必要があるため、通常、被相続人(A)の出生から死亡までの戸籍謄本等を裁判所へ証拠として提出する必要があります。
 そして、無事、原告(X)勝訴の判決が出た場合、続いて、その判決を用いてAからXへの所有権移転登記を申請することになりますが、この際も、原則的には、被相続人(A)の出生から死亡までの戸籍謄本等を法務局へ提出しなければなりません(昭52年12月15日民三6043民事局長回答、登記研究382号80頁、最高裁平成元年7月14日等々)。
 ここまでは、登記実務の常識です。
 ところが、これには例外がありまして、登記手続を命ずる判決の理由中において、例えば「売主Aの相続人は被告B、C、Dの3名のみである」旨の認定がある等、当該訴訟において相続人全員が参加していることが明らかなときは、当該判決の正本を相続証明情報として取り扱って差し支えないとされています(登記研究382号80頁、平成11年6月22日民三1259民事局第三課長回答)。つまり、登記手続において用いる判決正本中において登記義務者の相続人全員を被告として登記手続を命じていることが明らかな場合は、登記申請に際しあらためて被相続人の戸籍謄本等を添付しなくてもよい、というわけです。
 そんなわけで、司法書士が訴訟手続と登記手続の両方を行う場合、訴訟の段階で裁判所に対し被告が相続人全員であることの認定をお願いしたりするわけです。この点も、司法書士なら当然承知のことです。
 ところが、この便宜的な取扱い?にはちょっとした落とし穴があったりします。それは、判決がいわゆる欠席判決(調書判決)の場合です。欠席判決(調書判決)とは、要するに被告が訴訟期日に裁判所に出頭せず訴訟の請求内容を全く争う姿勢を見せないような場合に、裁判官が内容について特に審理することなく原告の請求を全て認める旨の判決を出すことをいいます(民事訴訟法159条1項3項)。
 そして、登記手続を命ずる判決が欠席判決(調書判決)の場合、仮に判決書の中において被告らが登記義務者の相続人全員である旨が記載されていても、それをもって前記の登記実務における便宜的な取扱いはできず、原則どおり登記申請に際して相続証明情報を添付しなければならないとされるのです(登記研究774号139頁)。その理由はというと、欠席判決(調書判決)の場合は、裁判官は原告の請求内容について証拠等による事実認定を行わないのであるから、たとえ判決中において被告らが登記義務者の相続人全員である旨が記載されていても、その記載事実については裁判官の認定の及ばない単なる原告の言い分に対する被告の自白に過ぎないからであるとされています。要は、証拠に基づく裁判官の判断が何らなされていない相続人の該当性に関する文言には何の信憑性もないので、これをもって登記申請手続に必要な相続証明情報に代えることは認められないということでしょう。
 この登記研究774の記事自体はわりと新しいですが、ちょっと古い(平成9年頃)本にも同じ趣旨のことが書いてありました。
 この手の登記訴訟は、割と欠席判決も多いうえ、必要な戸籍の部数も大部になるケースが多いので、後に続く登記手続も考慮に入れて訴訟手続をする必要があると思います。


 年金等受給口座の差押(2013年9月18日)      

 年金や生活保護費は原則として差押が禁止されています(国民年金法24条、生活保護法58条等)。
 ところが、これら差押禁止債権は、いったん預金口座に振り込まれると、差押えは可能とされています(最高裁平成10年2月10日判決)。その理由は、概要、振り込まれたことにより一般の預金債権に転化したこと、年金等以外の預金債権と区別することが困難であること等とされています。
 年金や生活保護で生活されている方の場合、これらを差押えられるということは、生活を営むうえで致命的です。また、差押命令が債務者に送達されてから1週間が経過すると債権者の銀行等に対する直接取立てが可能となり、一旦取立てられるとこれを取り戻すのはなかなか大変です。
 したがって、預金口座に入金された年金等が差押えられた場合は、早急な対応が求められますが、このような場合、一般的に採られる対応策としては、差押禁止債権の範囲の変更申立て(民事執行法153条)が考えられます。条文は以下のとおりです。

(差押禁止債権の範囲の変更)
第153条 執行裁判所は、申立てにより、債務者及び債権者の生活の状況その他の事情を考慮して、差押命令の全部若しくは一部を取り消し、又は前条の規定により差し押さえてはならない債権の部分について差押命令を発することができる。
2 省略
3 前二項の申立てがあつたときは、執行裁判所は、その裁判が効力を生ずるまでの間、担保を立てさせ、又は立てさせないで、第三債務者に対し、支払その他の給付の禁止を命ずることができる。
4以下省略

 したがって、差押を受けた債務者は、「差押えられた預金口座の原資が年金や生活保護費等であることを証明して」、差押命令の取消し等を求めていくことになります。 


 裁判所の夏休み(2013年6月15日)    

 裁判所、と言いますか裁判官にも夏休みがあります。
 そして、裁判官が夏休みの場合、裁判の法廷自体が開けませんので、その間は訴訟等の手続の進行が事実上停止してしまいます。
 これを「夏季休廷」といいます。
 この夏季休廷の期間は、裁判所(裁判官や部署)によって違い、また特に期間が決まっているわけではないそうですが、篠山の簡易裁判所だと、通常、7月後半くらいからお盆明けくらいまでだそうです。
 したがって、6〜8月の間くらいに訴訟等の裁判手続をしようとする場合は、この夏季休廷のことも念頭に置いておかなければなりません。特に、事件解決までの期間について予定することが必要な場合は注意が必要でしょう。
 ところが、司法書士は基本的に自営業なので夏休みの感覚は基本的にはありませんし、法務局なんかの行政機関も夏休みなんてありませんので、裁判所の夏休みのことなんて、基本的に頭からすっ飛んでいます(私だけかもしれませんが・・・)。
 「夏場の裁判は要注意」ということを、夏が近づくと思い出せるように何か工夫をしないといけません。
 なお、裁判官は夏休みの間も遊んでいるわけではなく、判決書を書いたりとお仕事をされているそうなので、この点、誤解してはいけません。


 不動産登記訴訟の管轄は何処?(2013年6月13日)    

 例えば、篠山市の不動産(評価額400万円の土地)に設定されている抵当権(抵当権者は丹波市在住、債権額400万円)の抹消登記請求訴訟を提起する場合、裁判所の管轄はどうなるのでしょうか?因みに、丹波地方では、篠山市には篠山簡易裁判所があり、丹波市には柏原簡易裁判所、神戸地方裁判所柏原支部、神戸家庭裁判所柏原支部がありますが、通常このうちの何処かになります。

 まず、事例の訴訟は民事に関する訴訟なので、主に家事事件を扱う家庭裁判所は除かれます。それから、事物管轄ですが、裁判所法第33条では、「訴訟の目的の価額が140万円を超えない請求については、簡易裁判所が第一審の裁判権を有する。」としていますので、簡裁と地裁の場合分けでは、訴訟の目的(訴訟物)の価額を算定しなければなりません。今回の場合は、土地の価格と抵当権の債権額を比較して決定することになります。なお、訴訟物の価額算定において、土地については、不動産の価格(これは固定資産評価額の2分の1)の2分の1とされていますので、結果、評価額に4分の1を掛けて計算します(思いのほか価額が低くなるのです)。また、土地の価格と債権額では、低い方の額を訴訟物の価額とします。

 土地=400万円 × 1/2 × 1/2 = 100万円
 債権額=400万円

 ということで、事例の訴訟の訴訟物の価額は100万円になるので、事物管轄については、原則として、簡易裁判所に有ります(但し、複雑な事件の場合は民事訴訟法19条2項により地裁へ移送申立をされる可能性がありますので注意が必要です)。

 次に、土地管轄ですが、民事訴訟法には次のような規定があります。

第4条 訴えは、被告の普通裁判籍の所在地を管轄する裁判所の管轄に属する。
2 人の普通裁判籍は、住所により、日本国内に住所がないとき又は住所が知れないときは居所により、日本国内に居所がないとき又は居所が知れないときは最後の住所により定まる。
3項省略
4 法人その他の社団又は財団の普通裁判籍は、その主たる事務所又は営業所により、事務所又は営業所がないときは代表者その他の主たる業務担当者の住所により定まる。
5項6項省略

第5条 次の各号に掲げる訴えは、それぞれ当該各号に定める地を管轄する裁判所に提起することができる。
1号から11号は省略
12 不動産に関する訴え   不動産の所在地
13 登記又は登録に関する訴え   登記又は登録をすべき地
14号以下省略

 さて、まず、民訴法4条1項、4項により、相手(抵当権者)の所在地(個人なら住所、法人なら本店等所在地)を管轄する裁判所に管轄権があります。それから、上記訴訟は「不動産」の「登記」に関する訴えなので、民訴法5条12号、13号により、不動産の所在地と管轄法務局の所在地をそれぞれ管轄する裁判所に管轄権があります。これらを整理すると次のとおりです。

4条裁判籍:丹波市を管轄する柏原簡易裁判所
5条裁判籍:土地所在地(篠山市)を管轄する篠山簡易裁判所、法務局所在地を管轄する柏原簡易裁判所

 というわけで、事例の訴訟については、篠山と柏原のどちらの簡易裁判所にも訴えを起こすことができることになります。
 また、どちらの裁判所も裁判官は同じなので(掛け持ちです)、それなら当事者にとって地理的、経済的に都合のよい方の裁判所に訴えを提起すればよいでしょう。

 以上、不動産登記訴訟の管轄に関するお話でした。篠山市は数年前に法務局が無くなりましたが、篠山市の不動産に関する登記訴訟については、以前と変らず篠山簡易裁判所に訴えを起こすことができるというのが今回のポイントでしょうか。因みに、この点について、直接ハッキリと言及してる手近な文献は、伊藤眞先生の民事訴訟法の本くらいしか知りませんが、これは、言及するまでもない当然のことだからなのでしょうか?個人的には、この点について結構悩みましたけど・・・。


 すぐに訴えたいのに対応できる相手がいない場合の対処法(2013年6月4日)    

事件によっては、すぐにでも相手を訴えないと損害を被る場合があります。ところが、そんな場合に、訴える相手に訴訟能力(自ら単独で有効な訴訟行為をしたり受けたりする能力)が無い場合(例えば、相手が未成年であったり成年被後見人である場合)には、相手の行う訴訟行為は無効であるため、例え訴訟能力の欠缺が見過ごされて勝訴しても、判決が後で取り消される可能性があります。
 したがって、訴える相手に訴訟能力が無いことが訴える前から分かっている場合や訴訟の途中で分かった場合は、そのまま訴訟を続行するわけにはいきません。そこでよく利用される制度が、訴訟上の特別代理人の制度(民事訴訟法35条)です。

第35条 法定代理人がない場合又は法定代理人が代理権を行うことができない場合において、未成年者又は成年被後見人に対し訴訟行為をしようとする者は、遅滞のため損害を受けるおそれがあることを疎明して、受訴裁判所の裁判長に特別代理人の選任を申し立てることができる。

 つまり、未成年者や成年被後見人は、訴訟能力が無いので、これらの者を相手に訴訟をした場合は、本来なら代わりに親権者や成年後見人といった法定代理人が相手方として訴訟行為をするのですが、これら法定代理人がいない等の場合は、そのままでは訴訟を進めることができないわけで、それによって訴える側が損害を被る場合は、当該訴訟に限って未成年者等に代わって訴訟行為をする代理人を裁判所に選任してもらうことができる、というわけです。
 また、この訴訟上の特別代理人の制度、会社等の法人の代表者が存在しなかったり代表権を行使できない場合(このような場合も、上記の未成年者等の場合と同様、このままでは訴訟を進めることができません)、にも準用されます(民事訴訟法37条)。むしろ、実務上はこちらのケースの方が多いのでしょうか。

第37条 この法律中法定代理及び法定代理人に関する規定は、法人の代表者及び法人でない社団又は財団でその名において訴え、又は訴えられることができるものの代表者又は管理人について準用する。

 なお、特別代理人というと、よく思い浮かべるのが、民法826条の親権者と未成年子の利益相反行為における特別代理人の規定ですが(例えば、被相続人の遺産についてその妻(単独親権者)とその未成年の子が遺産分割協議をする場合、親と子の利益が相反するので、子のために家裁に特別代理人を選任してもらわなければなりません)、この特別代理人と上記の民事訴訟法の特別代理人は全く別物なのでご注意下さい。

 さて、訴訟上の特別代理人制度の利用方法ですが、本題の訴えを提起しようと考えている裁判所(受訴裁判所)の裁判長宛に、特別代理人選任の申立を行います。具体的には、申立書に申立原因の疎明資料を添付してこれを提出して申し立てます。また、訴訟の途中で特別代理人が必要になった場合も同様です。
 そして、裁判長において、特別代理人が必要であると判断した場合は、これを選任することになるのですが、一体誰がこの特別代理人に選任されるのかというと、基本的には弁護士さんが選ばれるようです。簡易裁判所の事件であれば、代理権を有する司法書士でもよさそうですが、やっぱり原則弁護士選任だそうです(そうでない裁判所もあるかもしれませんが)。また、この特別代理人、もちろん無償では引き受けてくれず、特別代理人の報酬や訴訟費用に充てるための相当額の予納金を裁判所に納めなければなりません。申立手数料(裁判所に納める印紙代)は500円と安いのですが、予納金は結構な金額になりますので、注意が必要です。

 以上、訴訟上の特別代理人の制度について、簡単ながらご紹介しました。
 因みに、この制度、司法書士業務においてよく利用するケースとしては、やはり「休眠担保権等の抹消登記請求訴訟」が多いのではないかと思います。


 元T富士からの訴訟とその対応(2013年5月30日)    

 特に一部イニシャルにする必要もないのでしょうけど。
 平成22年に大手消費者金融の1つであるT富士が会社更生手続を採って倒産したことは、まだまだ記憶に新しいところですが、その際は、借り手である多くの消費者のいわゆる過払金債権が踏み倒された(わずか数%しか返らなかった)ことは周知のとおりです。
 ところで、過払金債権とは逆に、債務が残っていた貸金債権についてはどうなったかというと、会社更生手続の一環でN保証(元は〇プロ、N栄)という会社に売却承継され、当該会社が貸金債権の取立てを行っているのが現状です。
 さて、元N栄といえば、いわゆる商工ローンと呼ばれる類の主に事業者向けの金融業者ですが、一時期(12年くらい前かな?)過酷な取立で社会問題になったことは、ご存知の方も多いでしょう。
 そういうわけで、現在のN保証の取り立ても過酷である、というのが、消費者問題に取り組む専門家の間でちょっとした話題になっています。どう過酷かというと、残った債務については、利息や損害金の減額交渉や分割払いの提案には応じず、元利金全額を一括で支払うように強行に求めてくるうえ、支払いが滞っている債務者についてはどんどん訴訟を提起しているようです。
 もちろん、一般的にはこれらの行為は違法ではありませんので、法的にどうこうは言えませんが、このような対応をされると任意整理(交渉により返済額、返済方法について和解をすることにより債務を整理する方法)ができませんので、債務者は困ります。
 しかし、それ以上に、今、問題視されているのが、N保証が取立てをしている貸金債権の内容についてです。どういうことかと言いますと、N保証がT富士から承継した貸金債権の中には何年も塩漬けになって放置されていたようなものも含まれているため、中には既に消滅時効が成立しているようなものもあるようなのです。にも拘らず、N保証は、消滅時効云々は関係なく、取立てや訴訟提起を行うので(もっとも、時効債権の取立て自体は適法です)、既に消滅時効が成立しているため時効を援用しさえすればもはや返さなくてもよい借金について、時効成立を知らない借主は一部(例えば5000円とか)の返済をしたり、提起された訴訟を放置してしまい、結果、消滅時効の援用ができなくなってしまう(最高最昭和41年4月20日判決により、時効成立後に返済をした場合は債務を承認したものであるから、もはや消滅時効の援用は信義則上許されない、というのが実務のスタンダードです)、という事態に陥ってしまうのです。
 もちろん、すでに言いましたように時効債権について取立てをしたり、訴訟を提起したりするのは何ら違法性はありませんし、時効成立を承知で債務を返済するのも自由です。しかし、時効制度(消滅時効の成立)を知らないがために、膨大な借金の支払いを再び背負うことになるのは、どうも腑に落ちません。膨大というのは、例えば、元金50万円、利息年18%の債務を5年間放置していると元利で合計90万円(約倍)になるということです。
 というわけで、上記のように、時効債権について、取立てや訴訟提起をされた場合の対応方法について、一般的なものを以下にご紹介します。なお、消費者金融の貸金債権についての時効の成否に関する時効期間の基本的な考え方としては、債権者に最後に返済した日から5年以上経過していれば、時効が成立する可能性があると考えます。

1.取立てがあった場合
 督促状や自宅訪問等により取立てがあり、「とりあえず一部だけ(数千円)でいいから今支払って」といわれた場合、すぐに支払うのは控えましょう。債務を一部でも支払うと、債務の承認(民法147条3号)に該当するため、前述のとおり時効援用が制限される可能性があります。相手は、それを狙って少しでも払わせようとするので、要注意です。このような場合は、とりあえずその場の返済は見合わせて、時効成立の有無について過去の記憶を喚起したり取引履歴を取寄せる等により調査をしてから、対応を検討します。そして、時効が成立してそうなら、時効援用の意思表示を相手方に内容証明郵便で通知します。
 なお、すでに相手の要求に応じて一部の返済をしてしまっていても、相手方債権者が、欺瞞的な方法で債務者を騙したり、債務者の無知や畏怖に乗じて甘言を弄したり、貸金業法に違反する違法な取立てをしたり、威圧的な言動により脅したりして債務者に支払わせた場合や、一部支払額が総額に比してわずかな額であったりする場合は、債権者には信義則上保護すべき信頼利益はないので、債務者は消滅時効の援用権を失わないとする裁判例がいくつかありますので、すぐに諦める必要もありません。

2.訴訟提起があった場合
 債権者が有無を言わせず裁判を起こしてきた場合は、まずは、訴えてきている内容をよく確認します。訴えられた場合、裁判所から、相手が提出した訴状が送られてきますが、その訴状には、通常、債権者との取引の経過を示した取引履歴や契約書が一緒に添付されていますので、その取引履歴の最後の取引日(返済日)の確認をします。その最後の取引日が、訴えの提起日から5年以上前ならば、他に時効の中断事由(過去の訴訟判決、弁済和解契約等)が無い限り、時効が成立している可能性が高いので、相手方に対する反論として「本件訴えに係る請求債権はすでに時効期間の経過により消滅しているため、時効を援用する」旨の主張を答弁書を提出することにより行います。
 また、前述のN保証のような業者は、訴訟提起を東京と大阪の裁判所に集中して行っているようですので、訴えられたのが地方在住の方の場合は、このような訴訟に高い交通費や宿泊費を負担してまで応じることは時間的にも経済的にも困難です(しかも、N保証は、関西在住者は東京の裁判所へ、関東在住者は関西の裁判所へ訴訟提起をしているようなことも言われたりしています)。したがって、これではまともに裁判手続もできませんので、場合によっては、審理をする裁判所を地元の裁判所に移してもらうよう移送の申立ても考えます。ただし、東京簡裁は、なかなか移送(民訴法17条)を認めないような話も聞きますので、この点留意しておく必要があります。
 なお、訴訟提起された場合は、絶対に放置するようなことはしてはいけません。放置してしまうと、債権が時効で消滅していようが関係なく、欠席判決により元金、利息、損害金の全額について相手方の言い分が認められてしまうからです。

 以上、消滅時効が成立している可能性がある債権について、取立てや訴訟提起をされた場合の対処法のお話でした。ご参考まで。


 売られた喧嘩は買わねばならぬ!?(2012年12月17日)    


 以前にも少し触れたことがありましたが、裁判手続(ここでは民事訴訟手続のことをいいます。)においては、訴えられた側(被告という)は、たとえ訴えの内容が何ら理由の無い荒唐無稽のものであったとしても無視をしてはならず、必ず期日に裁判に出席して反論するか又は欠席する場合でも書面(答弁書という)で反論をしておかなければなりません。
 というのも、民事訴訟法という法律に次のような規定があるからです。

第159条 当事者が口頭弁論において相手方の主張した事実を争うことを明らかにしない場合には、その事実を自白したものとみなす。ただし、弁論の全趣旨により、その事実を争ったものと認めるべきときは、この限りでない。
2 省略
3 第1項の規定は、当事者が口頭弁論の期日に出頭しない場合について準用する。ただし、その当事者が公示送達による呼出しを受けたものであるときは、この限りでない。

 第1項は、相手方の主張事実について争わない者は、その主張を認めた(自白という)ものとみなすとしており、第3項が裁判の期日に出頭しない者についても、相手方の主張を争わず全て認めたものとみなすとしています。よって、裁判(民事訴訟)を起こされたのに無視して何らの対応もしなかった場合は、裁判官は、例え荒唐無稽の主張内容であったとしても被告が全て認めたものとみなし、よって、訴えた側(原告という)の全面勝訴として判決します。

 民事裁判の運営は以上のとおりですので、もし訴えられたら決して無視してはならないのです。
 ところが、昨今、弁護士等の専門家や裁判所等の役所を語った架空請求事件(お金を騙し取るためのでっち上げの請求を送りつける事件)が起こっています。通常、このような単なる架空請求であれば無視しておけばいいのでしょうが、本当に裁判所からの通知であればすでに見てきたとおり無視してはいけません。
 それじゃあ、裁判所からの正式な通知かどうか見極める方法は?ということになりますが、一番確実なのは、裁判所に直接電話等をして送られてきたような事件が本当に起こっているのかを確認してもらうことでしょうか。
 それでも不安であれば、司法書士等の専門家に一度ご相談いただくのも1つでしょう。
 因みに、民事訴訟の訴状(原告の訴えの内容が書かれた書面)や期日呼出状は、ハガキで送られて来たりはせず、裁判所名の記載された封筒で特別送達という特殊な郵便で送られてきますので、この点でまず架空かどうかを見分けることもできます。
 以上、売られた「正式な」喧嘩は買わねばならぬというお話でした。


 裁判と郵券(2012年9月28日)    

 印紙と切手は、法律実務を行ううえ欠かせないものですが、今回は、切手についてのお話です。
 裁判所に対して訴訟、調停、その他何らかの手続を申し立てるときは、ほとんどの場合、裁判所に対する手数料(収入印紙等)や予納金(官報公告費等)に加えて郵便切手(これを実務では「郵券」といいます)も一緒に予め納付しなければなりません。そして、この郵券は、裁判所から事件の当事者等に対して書類を送付する際に使用されます。つまり、裁判所からの郵便代についても、手続を申し立てた者がとりあえず負担しなければならないこととされているのです。
 ところで、申し立てる手続によって、この予納する郵券代が結構お高い場合があるのです。例えば、裁判所が事件の当事者に対して訴訟の判決書を送付する場合は、特別送達という種類の郵便が用いられます。裁判官が書いた判決書という極めて重要な書類を送付するため厳重な送付方法が用いられるということなのでしょうが、1回の送付に最低でも1040円がかかります。容量がある場合は通常と同じで重量加算されます。そして、裁判所からの送付は1回だけとは限りませんので、手続を申し立てる者は、特別送達数回分の郵券(裁判所により異なりますが、相手方が1名だけの通常訴訟の場合だと大体5000円〜6000円くらいです。)を納めなければなりません。足りなくなれば追加納付が必要です。もちろん、事件が終了して余りがあれば返してもらえます。また、納める切手の種類も裁判所によって決まりがあり、例えば500円を8枚、100円を8枚・・・といった具合に決められています。金額の大きい切手や小さい切手ばかりで納めてはいけません。
 もっとも、上記のような特別送達ではなく、普通郵便で書類が送付されるような事件もあり、そのような事件の場合は80円と10円の切手を数枚納付すれば足ります。
 したがって、裁判所に何らかの手続を申し立てる場合は、予め必要な郵券の種類と枚数を裁判所に尋ねて準備し、申立ての際に持参しなければなりません。

(余談)
 司法書士として裁判事務をある程度経験していても、この郵券について面食らうこともたまにあったりします。例えば、あるAという種類の事件の申立てについて、5年ぶりに申立てをしたりすると、同じ裁判所に対する同じ種類の事件にも拘らず、予納する郵券の種類と金額が変わっていることがあったりします。以前は普通郵便相当の郵券を納めればよかったのに今回は特別送達相当の郵券を納めなければならなくなっていた、という具合です(その理由はよくわかりませんが・・・単なる方針変更か?)。それにもかかわらず、裁判所に普通郵便数回分程度の切手しか持参していないと、再度持参しなければならなくなり、とんだ赤っ恥をかいてしまいます。また、これまで手続を申し立てたことのない遠くの裁判所などは、必要な郵券の種類や金額がもちろん分かりませんので、必ず事前に電話等で確認します。
 そんなわけで、専門家でもこの郵券については事前に裁判所に確認することが多いのです。
 因みに、裁判所に行く際は、事前確認をしていても、万一の郵券の不足に備えて、ある程度の種類と金額の切手を入れたファイルを持参する人もいたりします。


  負け試合でも負け方がある(2012年9月1日)  

 民事裁判では、訴える側を原告、訴えられる側を被告といいますが、通常、原告はそれなりの理由があってそれなりの準備をしたうえで裁判を起こしているわけですので、一部の不当な訴訟を除いて、裁判の情勢は被告側が圧倒的に不利な場合が多いでしょう。
 しかしながら、仮に99%負ける裁判であっても対応の仕方次第で、幾分か被告に有利な結果を導き出せることもあったりします。
 そんなわけで、一般的に不利な被告裁判事件においても、やってみる価値のある対処法を以下にいくつかご紹介します。
 
1.保全異議の申立て
 訴訟に先行して財産に仮差押等の保全処分(裁判をしている間に財産を隠したり処分したりされないように保全しておくための裁判所の決定)がなされたような場合は、これを外すために保全異議の申立て(不当な保全処分だから取り消せという申立て)をしてみると、認められることがあります。相手側は仮差押えをして早々に観念させようと企てている場合もありますので、特に被告が商売をしている場合は、仮差押は致命的なので本題の訴訟手続に入る前に活用したいところです。

2.移送申立て
 以前、「まずは土俵を勝ち取ろう」の記事でもご紹介した「裁判をする場所を変更する」ための制度です。通常、原告は自分に地理的、経済的に有利な裁判所で裁判をしようとしますので、これを被告側に有利な裁判所に変更できれば、「ある意味勝ったようなもの」です。というのも、原告は、裁判の管轄が自分に不利な裁判所に変更されると、「時間と費用を掛けてまでそんな遠い裁判所まで行くくらいなら少しぐらい負けてもいいから和解する」という気持ちになり易いからです。

3.調停・和解申立て
 通常の訴訟が提起された場合でも、訴訟の中で、付調停の申立て(訴訟じゃなくて調停(話合い)での解決をしたい旨の申立て)や和解手続回付申立て(受諾和解、裁定和解等の申立て等)をして、時間をかけた柔軟な話合いの中で被告に少しでも有利な内容(一部減額、分割払い、支払猶予等)の和解による決着を目指します。もし調停が成立しなくても裁判所が決定により解決案を示してくれることもあります。

4.実印が押してあっても諦めることなかれ
 これも以前ご紹介した「実印ってなんで大事なのか?」に関連することですが、実務上、契約書等の私文書に本人の印鑑が押してあると、「本人の意思に基づいて印鑑が押されていること」が推定され、「本人の押印がある文書は真正に成立したもの」と推定されますので、結果として、当該文書に記載された法律行為が適法に成立したものと推定されてしまいます。しかしながら、これら推定を覆すような反対の事実を証明できれば、結論が変わることは十分にあり得るところです。実際に実印を押した覚えがないのであれば、大いに争うべきでしょう。

 以上、裁判で被告になったときの対処法(ちょっとしたテクニック)でした。被告になったときの一番悪い対応は、「無視すること」です。訴訟を起こされても無視して答弁書も提出せず、裁判期日にも出頭しなかった場合は、訴えの内容を全部認めたものとみなされ、その結果敗訴となってしまい、行き着く先は問答無用の強制執行を受けるということになってしまう虞がありますので、十分に注意しましょう。
 また、反対に、訴える側の原告としては、被告(というより被告側の弁護士)が上記のような対応を採ってきたときは、「相手にはそういう狙いがあるんだな」ということも知っておいて損はないでしょう。
 
 被告になった際、ご自分だけでは対処が難しい場合は、一度、お近くの司法書士まで相談されてもいいでしょう。訴えられた側は仮に裁判で勝っても金銭等を回収できるわけでもないので、あまり費用を掛けたくないのが実情かもしれません。しかし、そんな場合にこそ、比較的低廉な費用の司法書士の書類作成と助言を利用して本人訴訟で対応してみるべきところなのでは、と先日の研修を受けて改めて思いました。


  家賃滞納と建物明渡し(2012年7月17日)

 空いている建物(一戸建、アパート、マンション、長屋、間貸し等)を賃貸することは個人や業者を問わずよくあることですが、賃料(収入)を得る目的で他人に貸し渡す以上、家賃を支払ってもらえない場合は、退去してもらいたいと考えるのが通常です。というわけで、今回は家賃不払いに伴う建物明渡しの手続について簡単にご紹介します。

Q,建物を賃料月額7万円、期間2年という条件で他人に貸していますが、半年ぐらい前から家賃の支払いがありません。再三催促していますがその都度、「もう少し待って欲しい」とばかり言ってはぐらかされます。どのように対処したらいいでしょうか?


1.方針の決定
 まずは、大方の方針を決定しましょう。
(1) 滞納家賃さえ支払ってもらえれば引き続き貸して構わない。
(2) 滞納家賃を全額支払ってもらった上で建物を明け渡してもらう。
(3) 滞納家賃の回収は全部又は一部放棄してでも建物を明け渡してもらう。場合によっては引越し代を負担してもかまわない。
 要は家賃回収に重きを置くのか建物明渡しに重きを置くのかです。後述するように強制的に建物を明け渡してもらう場合はけっこうな費用がかかりますので、どういったスタンスで相手方と交渉していくかは重要です。


2.法的手続
(1) 内容証明郵便で滞納家賃支払いの催告
 まずは、明確な方法で滞納家賃の支払いを期限付きで催促しましょう。

(2) 内容証明郵便で賃貸借契約解除の通知
 催告しても期限までに支払いがない場合は、続いて契約解除及び建物明渡しの通知をします。契約解除により相手はとりあえず不法占拠になります。なお、(1)の支払催告通知とこの解除通知は「期限までに支払わなければ解除する」という具合に同一書面で行っても構いません。

(3) 民事調停・即決和解
 あくまで話合いで解決すれば任意に家賃の支払いや建物明け渡しが実行される可能性が高いため、裁判所に民事調停や即決和解を申し立てます。調停・和解が成立したにも拘らず支払いや明渡しの約束が破られた場合は、調停調書や和解調書(債務名義)をもって強制執行(財産差押え・強制的な明渡し)ができます。

(4) 民事保全手続
 話合いの余地もなく、訴訟を提起して強制的に明渡しを執行せざるを得ない場合、訴訟の相手(建物の占有者)を特定しなければなりませんが、占有者が入れ替わり立ち代り次々と変わっているような場合は、相手を固定する必要があるため、民事保全手続(占有移転禁止の仮処分)を利用します。なお、民事保全申立ての際は、相当程度(裁判所が決定、家賃の3〜6月分が多い)の保証金を納めなければなりません。ただし、保証金は訴訟で勝てば返還されます。

(5) 民事訴訟
 賃貸借契約の解除に基づく建物明渡しの訴訟(+附帯して滞納家賃と実際の明け渡しまでの家賃相当額の損害賠償も請求できます。)を裁判所に提起します。請求が認められれば、相手(被告)に対して建物明渡し及び滞納家賃等の支払いが命じられます。

(6) 民事執行
 裁判所の判決が出たにも拘らず、相手が建物の明渡し等を履行しない場合は、いよいよ強制的に明け渡しを執行していかなければなりません。大まかな流れとしては、裁判所で@判決が相手に送達されたことの送達証明書を発行してもらい、A判決に執行文(有効に強制執行できるという認証文)を付けてもらい、それらを添えてB裁判所所属の執行官に強制執行申立てをし、C執行現場で明渡し催告を行い、最後はD強制力を用いて(鍵の開錠、動産の搬出・換価・処分、人の退去、鍵の交換)明け渡させます。なお、強制執行の費用は、実質債権者(貸主)の負担ですので、鍵業者、荷物搬出業者等は債権者が準備し、費用も負担しなければなりません。

 以上が、家賃滞納者の建物明渡しに関する法的手続のザックリとした概要です。こうして見ると、法律に則って家賃を滞納している賃借人を退去させるには相当な時間と手間と費用を費やさなければならないということが分かります。賃借人に支払能力が無い場合は、滞納家賃の回収も不能となる場合が多いでしょう。家財道具についてもほとんど差し押さえされないことが多いので(法律上、日常生活に必要なものは差押え禁止財産とされています。)、換価して滞納家賃に充てることもできないでしょう。これらの家賃滞納に伴う建物明渡しの実情も踏まえて考えると、むしろ家賃滞納者に引越代相当の立退き料を支払ってでも速くスムーズに退去してもらい、次の借主を探して家賃収入を得る方が得策である場合もあるのかも知れませんね(実際、そんなケースも稀ではありません。)。

(注意) 間違っても近年問題となった追い出し屋のように実力行使で賃借人を追い出したりしてはいけません。日本の法律は自力救済を原則認めていませんので、建物明渡しはあくまで法に則って手続を踏まなければなりません。実力行使をして勝手に家財道具を搬出したり、鍵を取り替えたりした場合、反対に不法行為等で訴えられかねませんのでご注意下さい。


  まずは土俵を勝ち取ろう(2012年7月5日)

 テレビでサッカーの試合を見ていて、「ホーム試合」「アウェー試合」という言葉をよく聞きますが、これは裁判でもあると思います。
 そんなわけで、今回は民事裁判(民事訴訟)のお話です。

 民事訴訟というと、例えば「相手にお金を貸したけど約束の期限になっても返してくれないので裁判所に訴えて国家の力(強制力)を借りて解決しよう」という類の裁判のことです。
 この民事訴訟という裁判の手続では、訴える側を原告、訴えられる側を被告といいますが、訴える側の原告は、民事訴訟を起こしたい場合、通常、管轄の裁判所に訴状を提出して行います。訴状とは、簡単にいうと「裁判所に訴えたい内容である被告に対する請求内容を記載した書面」のことでして、これには「誰が誰に対してどういう理由でどういった請求をするのか」が大方の証拠も示して書いてあるわけです。この原告からの訴状は裁判所を通じて被告側に送られるのですが、これに対して今度は被告が、この訴状の内容について反論書(実務では答弁書といいます。)を裁判所と原告に提出し、さらに原告が被告の答弁書に反論し、その反論に対して被告がまた反論する・・・といった具合に民事訴訟手続は進んで行き、最終的に裁判所が原告の請求を認めるか否かの判断を下すわけです。もちろん、訴えを起こしてすぐに終わる(反論がない)裁判もありますし、裁判の途中で当事者が折り合いを付けて和解して終わる場合も多くあります。

 さて、前置きが長くなりましたが、ここからが今回の本題です。今回は前述の民事訴訟を起こされた場合、つまり被告となった場合において特に気を付けたい民事裁判の管轄について考えてみたいと思います。
 まず、裁判の管轄と一口に言いましても、法律的には@職分(審級)管轄、A事物管轄、B土地管轄・・・といった具合に複数の意味で使われるのですが、取り分け被告となった場合においては、B土地管轄が重要になります。土地管轄とは、要するに「何処の裁判所で裁判をするのか」についての取決めのことです。全部ひっくるめますと日本全国には裁判所が1000箇所以上(最高裁判所:1庁、高等裁判所:8庁(支部:6庁、知的財産高等裁判所:1庁)、 地方裁判所:50庁(支部:203庁)、家庭裁判所:50庁(支部:203庁、出張所:77庁)、簡易裁判所:438庁)あるらしいのですが(もちろん場所的には同じ所の同じ建物の中にある裁判所もありますし、家裁は今回は関係ないですが)、この中でこれから戦う裁判の場を決めるということは、当事者にとっては非常に重要な関心事となってきます。といいますのも、例えば、篠山市在住の当事者が東京の裁判所で裁判をするということになりますと、交通費、宿泊費、専門家に依頼した場合の日当・・・といった具合にまず経済的に相当な負担を強いられますし、裁判というそもそも心理的な負担が重い行為を見知らぬ土地で行うということになると更に心理的な負担が重なりなすので、結果、それらの理由だけで戦う前から戦意喪失という事態にもなりかねないからです。
 それでは、まず、法律(民事訴訟法)では、民事訴訟の土地管轄をどのように規定しているかをみてみますと、次のとおりです。

(土地管轄の一般原則)
第4条 訴えは、被告の普通裁判籍の所在地を管轄する裁判所の管轄に属する。
⇒ 普通裁判籍とは、「人の住所等、法人の主たる事務所等」により定まります。よって、民事訴訟は、原則として相手方である被告の住所地等を管轄する裁判所に提起することになります。従って、例えば東京の業者が篠山市在住の個人を相手に訴訟を提起する場合は、篠山簡易裁判所(篠山市)又は神戸地方裁判所柏原支部(丹波市)に対して行うことになり、結果、訴えられた側(被告)にとって地理的・心理的に有利な裁判所で裁判ができるということになります。これが、まず原則です。

(特則・財産権上の訴え等についての管轄)
第5条 次の各号に掲げる訴えは、それぞれ当該各号に定める地を管轄する裁判所に提起することができる。
1 財産権上の訴え → 義務履行地
(省略)
9 不法行為に関する訴え → 不法行為があった地
(省略)
12 不動産に関する訴え → 不動産の所在地
13 登記又は登録に関する訴え → 登記又は登録をすべき地
14 相続権若しくは遺留分に関する訴え又は遺贈その他死亡によって効力を生ずべき行為に関する訴え → 相続開始の時における被相続人の普通裁判籍の所在地
(以下省略)
⇒ 事件の内容に応じて、4条の普通裁判籍に加えて認められる特別の管轄です。5条規定の事件に関しては、同上規定の裁判所にも土地管轄が認められます。
 従って、例えば、東京の貸金業者が篠山市在住の個人に対して貸金返還請求の訴訟を提起する場合は、5条1項1号により東京簡易裁判所又は東京地方裁判所に対して行うこともできることになります。これは、借金債務の義務履行地(つまり返済する場所)が債権者の住所地(東京)とされるためです。

(合意管轄)
第11条 当事者は、第1審に限り、合意により管轄裁判所を定めることができる。
⇒ 金銭消費貸借契約書等の書面による当事者の合意により土地管轄を定めることもでき、適法な合意が成立している場合は合意した裁判所に管轄を生じさせることができるということになります。例えば、借用書に「本件金銭消費貸借契約に関して当事者間に訴訟の必要が生じたときは東京地方裁判所を第1審の専属的合意管轄裁判所とする。」というような条項が予め書かれている場合が該当します。

(応訴管轄)
第12条 被告が第1審裁判所において管轄違いの抗弁を提出しないで本案について弁論をし、又は弁論準備手続において申述をしたときは、その裁判所は、管轄権を有する。
⇒ 原告が訴えを提起した裁判所の管轄が誤っているにも拘らず、異議を述べずに応じた場合はその裁判所に管轄が生じるということです。

 以上のとおり、民事訴訟の土地管轄というのは、複数の裁判所に生じ得るということになっています。そして、その中で何処の裁判所で裁判をするのかの選択権は、まずは訴えを起こす側である原告に与えられています。従って、原告は、通常、自分に有利な場所の裁判所を選択して裁判を起こします。
 では、反対に、自分に不利な場所の裁判所に裁判を起こされた被告には、対抗手段はあるのでしょうか。先にも述べましたように、篠山の人が東京まで行って裁判をするのは経済的・心理的に相当な負担を強いられます。いくら法律で一応認められている管轄であるとはいえ、有無を言わずにこれに応じなければならないとすれば、裁判の公平性を害する場合もあるでしょう。
そんなわけで、法律(民事訴訟法)では、対抗手段として訴えられた側である被告に対して、「移送」という制度を用意しています。「移送」とは、簡単に言うと「裁判をする裁判所を別の裁判所に変更する」という制度です。概要は次のとおりです。

(管轄違いの場合の取扱い)
第16条 裁判所は、訴訟の全部又は一部がその管轄に属しないと認めるときは、申立てにより又は職権で、これを管轄裁判所に移送する。
⇒ 原告が選択した裁判所がそもそも管轄権を有しないような場合、つまり管轄の無い誤った裁判所に訴えが起こされた場合は、正しい裁判所に移送するということです。

(遅滞を避ける等のための移送)
第17条  第1審裁判所は、訴訟がその管轄に属する場合においても、当事者及び尋問を受けるべき証人の住所、使用すべき検証物の所在地その他の事情を考慮して、訴訟の著しい遅滞を避け、又は当事者間の衡平を図るため必要があると認めるときは、申立てにより又は職権で、訴訟の全部又は一部を他の管轄裁判所に移送することができる。
⇒ 訴訟を起こされた事件の諸事情を考慮して、訴えが起こされた裁判所で裁判を続行した場合、訴訟手続が遅滞したり、訴訟当事者間の公平性を害するような場合は、当該裁判所を他の管轄のある適切な裁判所へ変更できるということです。

(簡易裁判所の裁量移送)
第18条 簡易裁判所は、訴訟がその管轄に属する場合においても、相当と認めるときは、申立てにより又は職権で、訴訟の全部又は一部をその所在地を管轄する地方裁判所に移送することができる。
⇒ 簡易裁判所(請求金額140万円以下の比較的簡易な事件を簡易な手続で扱う裁判所)ではなく、通常の審理手続を行う地方裁判所で訴訟を行うのが相応しい事件は、簡裁から地裁に移送できるということです。

(必要的移送)
第19条  第1審裁判所は、訴訟がその管轄に属する場合においても、当事者の申立て及び相手方の同意があるときは、訴訟の全部又は一部を申立てに係る地方裁判所又は簡易裁判所に移送しなければならない。
(省略)
⇒ 当事者双方が合意しているなら合意した裁判所に移送するということです。

(即時抗告)
第21条 移送の決定及び移送の申立てを却下した決定に対しては、即時抗告をすることができる。
⇒ 裁判所の移送決定に異議がある場合は、抗告(再度検討してくれという申立て)ができるということです。

(移送の裁判の拘束力等)
第22条  確定した移送の裁判は、移送を受けた裁判所を拘束する。 移送を受けた裁判所は、更に事件を他の裁判所に移送することができない。移送の裁判が確定したときは、訴訟は、初めから移送を受けた裁判所に係属していたものとみなす。
⇒ いったん移送することが確定した以上、移送先の裁判所はそれを受け入れなければならない、事件のたらい回しをしてはならないということです。

 さて、上記のような複数の移送制度が法律上は用意されているわけですが、今回のように訴えられた側(被告)にとって一番関心を持つべき重要な規定としては、やっぱり17条(遅滞を避ける等のための移送)です。裁判実務でもこの規定が一番利用されます。つまり、複数の裁判所に裁判管轄が認められる場合において、原告がその中から選択した裁判所で訴訟を遂行すると、訴訟手続が著しく遅滞したり、当事者間の公平が害されるような場合には、被告が主張するところの別の管轄のある裁判所に事件を移してもらえる制度です。
 この17条移送を認めるかどうかについては、@当事者又は証人の裁判所への出頭の労力・時間・費用の点、A証拠調べの種類と難易度等、B請求の種類と内容、C当事者の身体的な事情、D訴訟代理人の有無やその事務所の所在地、E当事者双方の経済力、その他諸々を総合的に考慮して「訴訟遅滞のおそれの有無」や「当事者の公平を害しないかどうか」が判断され、これらに該当する場合は裁判所が移送決定を行います。
 よくある具体例としては、
@ 事件の証人や証拠は移送先の裁判所に偏在しておりそちらの裁判所で裁判をするほうがスムーズに裁判が進行する場合
A 原告は資本金○○億円の大企業で従業員もたくさんいるうえ代理人弁護士も立てているが、被告は一般の給与所得者であり経済的余裕もなく本人訴訟をしなければならない場合
B 被告本人の尋問が必須にも拘らず、被告は高齢の年金生活者であり身体的にも弱っており、原告が訴訟提起した裁判所まで出頭するのが難しいような場合
などが考えられます。このような場合には、被告は、自分に有利な裁判所で裁判をすることができる可能性があるというわけです。

 長々とややこしいことを書きましたが、要するに

 訴える側(原告)は、自分に有利な裁判所で裁判をしようとしますが(特に弁護士等が付いたときはなおさら)、これを受ける訴えられた側(被告)としては、その選択された裁判所を無批判に受け入れるのではなく、明らかに被告側に不利で公平性を欠くような場合は、きちんと被告側に配慮した裁判所で裁判をするよう申立てをしましょう。

ということです。裁判は、戦う場所においても公正・公平なものでなければなりませんからね。もっとも原告選択の裁判所に文句がなければそのまま応じて結構ですが。

 以上、事件によっては、
「本題に入る前に場所取りから戦わなくてはならない場合もある」
というお話でした。
 もし、誰かに訴えられるようなことがあった場合は、焦って本題について反論したりせず、まずは戦う場所から考えてみましょう。司法書士は、本人訴訟(代理人を立てずに行う訴訟)を書類の作成等を通じて援助しますので、訴えられた際はまずは気軽に相談してみてください。


  和解の方法(2011年4月27日)

 いわゆる裁判実務をしていると、裁判官から判決をいただいて強制的に紛争を解決する方法よりも、むしろ相手方と和解をして解決することの方が多いように感じます。
 そこで、実務上は、どういった方法で和解をするかということになってきます。
 思いつくまま挙げてみると、@当事者同士での任意和解、A裁判所への訴え提起前の和解(即決和解)、B裁判上和解(訴え提起後の和解)、C調停和解(決定)、D書面受諾和解、E弁論準備期日和解(電話会議可能)、F和解に代わる決定(簡裁のみ)・・・。
 以上のように、和解の手段は多々ある中、その時々の状況や相手方の性質に応じて、最適な和解方法(債務名義の要否、迅速・簡潔等)を選ばなければなりません。
 和解方法で悩まれたら、司法書士までご相談下さい。


  法務局での申請書類等の閲覧(2011年04月18日)

 不動産の名義変更等の登記手続が終了した後しばらく時間が経過した頃、「自分はそんな登記申請をした覚えはないのに知らない間に名義変更がされている」、「私はそんな書類に署名捺印した覚えはない」ので「どうしたらいいでしょうか」といった相談が、司法書士の仕事をしていると年に1〜2回ほどあります。その中でも特に多いのが相続登記に関するものです。よくある例を挙げますと、「自分が知らない間に兄が勝手に亡くなった父親の不動産を相続し名義変更をしていた」というケースがあります。そして、このような相続登記の例では、他の相続人(例では兄)に@実印を勝手に使用して遺産分割協議書に押印され、A印鑑証明書も知らない間に取得されてしまったことが原因となっているケースが圧倒的に多いようです。ご本人の実印と印鑑カードの保管方法にも問題があったことが起因しているようです。
 ところで、上記の例のような場合、有効な遺産分割協議は成立していないのであれば、相続登記は無効ですので、通常、遺産分割協議書の偽造等を主張立証して相続登記の抹消登記をするよう交渉または裁判をしていくことになるのでしょうが、その前に、まずすべきこととして、なぜ今回のような相続登記がなされてしまったのかを調査しなければなりません。そして、その調査は、まず相続登記がされた物件の所在地を管轄する法務局へ赴き、当該相続登記の申請書類等の閲覧を行います。そして、その申請書類等の中に遺産分割協議書(通常写し)が綴じられておりますので、その協議書に押印されているのは自分の実印なのか、自分の印鑑証明書が添付されているのか、書面の筆跡は自分の筆跡かはたまただれの筆跡か、申請手続を行ったのは誰か(司法書士等は関与しているのか)等々を調査します。また、申請書類等はコピーをすることができませんので、重要な部分はカメラ等で写真を写しておきます。
 以上のような調査を行った結果、実印が冒用され書類等が偽造されたことが明らかであれば、次に冒用、偽造に至った経緯(誰が実印、印鑑カードを持ち出したのか、印鑑証明書を取得したのか等)を調査し、その結果をもとに、以後、相手方と交渉したり裁判をしたりしていくことになるわけです。
 ちなみに、法務局での申請書類等の閲覧は誰でもできるわけではありません。当該登記申請に利害関係のある者でなければできませんので、閲覧に赴く際は、運転免許証等の身分証明書や相続関係等を証する戸籍謄本等を携行するようにしましょう。


  裁判費用の回収

 裁判(訴訟)をした結果、めでたく勝訴(全面的に自分の主張が認められた)した場合、裁判官が書いてくれる判決書には訴訟費用の負担者も記載されます。つまり、今回の裁判にかかった費用等は誰が負担すべきかということも記載されるわけです。通常、この負担させられる者は、裁判に負けた方となります。
 例えば、AさんがBさんにお金を貸していたところ、Bさんが何度催促をしても返してくれないので、Aさんはお金を返してもらうために仕方なくBさんを訴えたとします。その結果、原告であるAさんの言い分が全面的に認められてAさんが勝訴しました。そして、Bさんは観念してAさんにお金を全額返しました。ところが、Aさんとしては貸したお金は返ってきたものの、それ以外に裁判費用が掛かってしまいましたので、この費用もBさんに払ってもらいたいところです。
 さて、AさんはBさんから裁判費用まで回収することはできるのでしょうか?また、できるとしたらいくらぐらい回収できるのでしょうか?
 まず、Bさんから裁判費用の回収をすることはできます。Aさん勝訴の裁判が確定したら、裁判所の書記官に「訴訟費用確定処分の申立て」をすればいいのです。
 そして、「訴訟費用確定処分の申立て」をすると、裁判所の書記官が、Aさんの裁判費用を確定してくれますので、その確定した金額についてBさんに支払うよう求めればいいのです。
 なお、裁判費用の計算方法や基礎となる金額等は「民事訴訟費用等に関する法律」で定められております。よって、とりあえずはAさん自身で法律に則り計算をしたうえで、裁判所の書記官に申立てをしなければなりません。参考までに言いますと、Aさんの日当や裁判所までの交通費なんかも一定金額が認められます。
 あと、弁護士費用や司法書士費用は法律上、裁判費用には含まれませんので、ご注意下さい。
 以上、裁判に勝ったはいいけど、裁判費用を自分が負担していることに納得がいかない方は、一度ご検討されてもいいかも・・・。


 少額訴訟について  

 全国各地に点在する簡易裁判所における手続の一つに少額訴訟手続というものがあります。少額訴訟とは、訴額(訴えにおいて請求の目的となる金額)が60万円以下の金銭の支払請求をする場合において利用することができる簡易裁判所における訴訟手続の一種です。
 この手続は、訴訟といっても一般にイメージされるものとは異なり、原則として一回の期日(約1時間半〜2時間)で判決が出るうえ、訴えの提起から判決の確定までに要する期間は平均1〜1.5ヶ月という非常に迅速かつ簡明な訴訟手続となっています。ただし、1日のうちに弁論・判決を終えてしまう以上、比較的複雑な事件や争点の多い事件は利用を避けるべきです。したがって、証拠等が十分に揃っており事前準備が十分にできる場合で、訴えの相手方も少額訴訟手続での解決を望むような場合に利用するといいでしょう。
 篠山市にも簡易裁判所がありますので、もし上記に該当するような紛争があり、少額訴訟手続を利用して解決を図りたいという場合には、一度利用してみるのもいいでしょう。
 司法書士は少額訴訟手続の代理を業として扱っておりますし、勝訴等をした後の執行手続も代理できますので、必要な際は是非ご利用下さい。