家事事件


 利益相反する遺産分割と特別代理人選任申立てのコツ?(2013年10月30日)

 民法では、未成年者はその親の親権に服する(民法818条)とされています。よって、親権者には、未成年者の法定代理人として法律行為を代理したり、未成年者の法律行為について同意をしたりする権限があります。
 ところで、これら親権者の権限ですが、何の制限もなく普通に行使させると不都合が生じる場合があります。それは、親権者とその親権に服する未成年者との間で利益が相反するような行為について、親権者が代理権又は同意権を行使する場合です。このような場合、親権者は、未成年者に代わって代理権等を行使することにより、未成年者の利益を犠牲にして一方的に自らの利益を図るおそれがあるからです。親権者は、自分の判断だけで自分と未成年者の利害関係を決定できてしまうので危険であるというわけです。
 そこで、民法は、このような親権者と未成年者の利益が相反する行為について、次のとおり一定の制限を加えています。

第826条 親権を行う父又は母とその子との利益が相反する行為については、親権を行う者は、その子のために特別代理人を選任することを家庭裁判所に請求しなければならない。
2項は省略

 この規定により、親権者と未成年者の利益が相反する行為については、親権者は、管轄の家庭裁判所に対して、未成年者のために特別代理人なる人物を選任してもらい、その特別代理人が未成年者に代わって法律行為を行うことになります。
 さて、親権者と未成年者の利益が相反する行為の典型例といえば、やっぱり遺産分割でしょう。未成年者の両親の一方が死亡した場合、その相続人は他方の親(配偶者)と未成年子となります。この場合の遺産分割の協議は、相続人である配偶者とその未成年子が行うことになりますが、子については未成年者であるため本来ならその親(配偶者)が代わりに協議に参加する(又は同意権を行使する)ことになりますが、それでは親(配偶者)が未成年者の権利を無視して単独で遺産を独り占めするような協議を成立させてしまう可能性があるため、このような遺産分割は親権者と未成年者の利益が相反する行為に該当するとして、一律に未成年子のために特別代理人を選任することを家庭裁判所に請求しなければならない、とされています。この点、仮に未成年子に全財産を取得させる場合でも同様です。そして、遺産分割協議は、親(配偶者)と選任された特別代理人が行うことになります。このような制度になっているのは、未成年者の権利を保護するためです。
 ところで、未成年者のために特別代理人を選任するまではいいとして、選任後の遺産分割協議においても、未成年者の権利を保護するような内容の遺産分割をしなければならないのが原則です。具体的に言いますと、未成年者の法定相続分(上記例でいえば2分の1)が確保されているような遺産分割でなければなりません。特別代理人は、未成年者の権利を守るために選任されたわけですから、当然、そのように配慮しなければならないからです。しかし、この遺産分割協議の内容の点については、最終的には選任された特別代理人の責任において判断すればいいのであって、一律に未成年者の法定相続分を確保するようは遺産分割でなければならないというわけでもない、というのが実務の実際です。特別代理人において、未成年者の年齢や遺産の内容等の事情を考慮して判断すればよい、というような感じになっています。
 というわけで、家庭裁判所に対し特別代理人の選任申立てを行う際には、添付書類として実際に行う予定である遺産分割の協議書(案)を添付するのが通例ですが、その協議書(案)において、未成年者の取得分をゼロとするような内容であっても、ケースによっては一定の書類(親権者の誓約書等)を追加で添付すれば特別代理人を選任してもらえる場合があります。一見未成年者に不利な行為をすることが前もって分かっていても事情によっては特別代理人の選任をしてもらえるのです。
 したがって、いくら権利があるとはいえ意思能力もない未成年者(例えば1桁台の年齢)に多大な遺産を取得させるのには抵抗があるというような場合は、特別代理人の選任申立てに当たって一度検討してみてもいいかもしれません。
 もっとも、その遺産分割が原因で、将来、未成年者に不利益が生じたような場合は、そのような遺産分割を行った特別代理人の責任になるのでしょうから、特別代理人になる人物には慎重な判断が求められるのは当然でしょう。


 家事事件と自庁処理(2012年11月1日)

 以前、民事訴訟における管轄のお話をしましたが、今回は、家庭裁判所で扱われる事件であるいわゆる家事事件についての管轄に関するちょっと専門的なお話です。

 離婚や遺産分割といったいわゆる家事事件について家庭裁判所で行う調停や審判の手続については、法律である家事審判法のほかに裁判所の規則である家事審判規則も適用されます。規則とは、簡単に言うと裁判所における諸々の手続に関する細かな事務的な事項を定めたものですが、裁判手続を行う場合は、法律だけでなくこの裁判所規則にも則って行わなければならないのです。
 ところで、この家庭裁判所の手続規則である家事審判規則では、第4条において、次のような規定が定められています。

第4条 家庭裁判所は、その管轄に属しない事件について申立を受けた場合には、これを管轄家庭裁判所に移送しなければならない。但し、事件を処理するために特に必要があると認めるときは、これを他の家庭裁判所に移送し、又はみずから処理することができる。
2 家庭裁判所は、その管轄に属する事件について申立を受けた場合においても、事件を処理するために適当であると認めるときは、これを他の家庭裁判所に移送することができる。

 家庭裁判所で扱われる家事事件についても、民事事件と同様に管轄というものが規則で定められているのですが、上記第4条は、この管轄に関して、「間違った管轄の裁判所に事件の申立がなされた場合の家庭裁判所における取扱方」について定めているのです。そして、この第4条を要約すると、@原則として間違った管轄の申立事件は正しい管轄の家裁に移送する、A但し特別な必要がある場合は管轄外の他の家裁に移送するか自ら事件を処理する、B管轄が正しい申立事件でも事件処理上適当な場合は他の管轄外の家裁に移送できる、ということになります。
 そして、この規則4条(特に第1項但書)を前提に家庭裁判所の管轄を考えてみると、極端な話、家事事件については全国どこの家庭裁判所にも管轄が生じうる、つまり事件を受理して処理してもらえる可能性がある、といえます。実際にも、家事事件の管轄については、家庭裁判所ではこのように非常に柔軟な運用がなされているところが多いように思われます。中でも、規則第4条1項但書「・・・事件を処理するために特に必要があると認めるときは・・・みずから処理することができる」(これを実務上「自庁処理」といいます。)が実務上は非常に重要です。自庁処理とは、要は「管轄は間違っているんだけど特別な必要があるから今回はうちの裁判所で処理してあげるよ」ということです。

 それでは、以下、遺産分割を例に、この家裁の自庁処理について具体例で考えてみます。
(仮想事例)
 @ 篠山市被相続人甲が死亡し、相続が開始した。
 A 遺産は土地とその上の建物の不動産2件のみである。 
 B 相続人は、子である乙(篠山市在住)、丙(大阪市在住)、丁(東京都在住)の3名のみである。
 C 乙は、他の相続人丙丁に対し、遺産分割の協議を申し込んだが、丙は乙の協議案に同意せず、丁は全く取り合わない。
 D 乙は、やむなく遺産分割の調停を家裁に申し立てることにした。
(問題)
 さて、乙は、どこの家庭裁判所に調停を申し立てればいいのでしょうか?
(検討)
 @ まず、手続を行う裁判所は、家事事件に限らず地理的に近いに越したことはない。よって、乙としては、自らの住所地を管轄する家庭裁判所(神戸家裁柏原支部)に申立をしたいところである。
 A しかし、遺産分割調停(裁判所での話し合いによる解決)の管轄裁判所は、「相手方の住所地の家庭裁判所又は当事者が合意で定める家庭裁判所」とされている(家事審判規則129条1項)。よって、相手方である丙丁が合意しない限り、乙は柏原家裁に申立をすることはできず、丙の住所地を管轄する大阪の家庭裁判所か丁の住所地を管轄する東京の家庭裁判所に申立をしなければならないのが原則である。
 B もっとも、同じ家庭裁判所での家事事件手続でも、調停ではなく審判(遺産の分割を裁判所の決定で決めてもらう手続)の申立をする場合は、相続開始地(被相続人の最後の住所地、今回は篠山市)を管轄する家庭裁判所に申立をすることになる。但し、いきなり審判の申立てをしても、まずは調停に付される可能性がある。
 C よって、乙は、遺産分割調停の申立をするに当たっては、基本的に丙又は丁の住所地を管轄する遠方の家庭裁判所に申立をせざるを得ない。但し、乙において、自らの住所地を管轄する近くの家庭裁判所に申立てをせざるを得ない特別の必要がある場合は、家事審判規則4条により、乙の住所地を管轄する柏原家裁が自庁処理として、事件を受理してくれる可能性があるので、当該特別の必要の有無を検討してみる。
 D 特別の必要とは、要は遠方の家庭裁判所に出向いて裁判手続を遂行するのに支障がある場合のことであるが、例えば身体的な理由(身体に病気や障害があり遠距離移動が厳しい等)、経済的な理由(経済的に困窮しており旅費負担が厳しい等)、家庭生活の事情(乳幼児や要介護者を抱えており長時間の留守が厳しい等)といったことが考えられる。但し、事件当事者間の衡平(丙丁側の利益)も考えなければならないので、これらの諸事情を踏まえて総合的に検討されることになるものと思われる。
 E もっとも、あくまで調停による話合いで解決を目指すならば、丙や丁が裁判所に出頭することが大前提になるので、乙の住所地の家庭裁判所に申立をすることによって、却って調停が成立しなくなる虞があることに注意が必要である(相手方の住所地の家裁に申し立てる方が利便性からみて相手方が出頭する可能性が一般的に高い。)。
 F なお、仮に特別の必要があるとして乙の住所地を管轄する家庭裁判所が申立を受理した場合でも、相手方である丙や丁が管轄が間違っているとの移送の申立てをしてくる可能性があるので、予め留意しておく必要がある。
(結論)
 乙としては、自分の住所地を管轄する家庭裁判所に申立をする特別の必要がある場合は、まずは乙の住所地の家裁に申立てをしてみるとよい。特別の必要がなく、また、極力調停での解決を目指すなら、ある程度の負担を覚悟して丙又は丁の住所地の家裁へ申立てをするのが基本であろう。
(実務の実際)
 遺産分割事件に関していうと、調停の場合、例えば事例のように篠山で相続が開始し、財産も全て篠山にある場合であれば、特別の必要の有無の要件も有るが、割と自庁処理が認められるのではないかと思わなくもない。調停事件が不成立になると自動的に審判手続に移行することになるのだが、審判事件の管轄は篠山管轄の家裁なので尚更である。因みに、自庁処理を希望する場合は、調停申立書に上申書(自庁処理を希望する旨を書いた書面)を添付して調停申立を行います。

 家庭裁判所に提出する書類の作成は司法書士の専門業務です。ご相談は司法書士まで。

(追加)
 ある研修会での講義では、『複雑な事件の場合は、相続人全員が合意の上で遺産分割専門部のある家庭裁判所(例えば神戸、大阪、京都本庁)に申し立てるべきである、そうでないといつまで経っても解決できない虞がある。』とのことでした。なるほどである。
 やはり、遺産分割事件は、管轄についても「手続を進めた場合の先々のことまでしっかり見通して選択すべきである」ということなのでしょう。


 請求しようにも相手がいない・・・不在者財産管理制度(2012年8月6日)

 @ 親が亡くなったので相続人全員で遺産分割協議をしたいが、相続人のうちの一人が所在不明で協議ができない。
 A お金を貸した相手が所在不明で連絡がつかず、返済期日になっても支払ってもらえないので、所有する土地に強制執行したい。
 B 近隣の土地を時効により取得したが、その土地の所有者が所在不明で名義変更の登記を請求できない。
 C 隣地との境界を確定したいが、隣地の所有者が所在不明で協議ができない。
 D 土地を売った後に買主が所在不明になり登記名義を変更できない。

 以上のように法律上の権利を行使したり義務を履行したいが、行使等する相手が所在不明である場合は権利行使等ができません。これでは、いつまでたっても遺産分割ができず、借金は時効で消滅し、土地の名義変更もできず、境界も確定できません。
 そんなときは、不在者財産管理制度(民法25条〜29条)を利用し、不在者の財産管理人を管轄の家庭裁判所で選任してもらえば、選任された管理人に対して権利行使等ができるようになります。
 以下、不在者財産管理制度の概要をご紹介します。

1.制度利用の要件
 @ 管理を要する財産が存在
 A 権利行使をする相手が不在(生死を問わない)
 B 利害関係人等が家庭裁判所に管理人選任の申立て
 C 家庭裁判所が不在者の財産管理人を選任

2.申立手続
 @ 管轄:不在者の住所地(居所、最後の住所、財産の所在地)を管轄する家庭裁判所
 A 申立権者:利害関係人(例えば、相続人、債権者、担保権者、時効取得者)又は検察官
 B 管理人:申立人の側で適当な管理人候補者を挙げて申立てをするか、裁判所で適当な者を選んでもらう。
 C 申立書類等:家裁に尋ねるか裁判所HP等で取得する。司法書士に作成してもらうこともできる。
 D 費用:収入印紙800円、通信用の郵便切手、財産管理費用(必要な場合のみ)
 E その他必要書類:申立人の戸籍謄本及び住民票、不在者の戸籍謄本及び戸籍の附票、不在者財産管理人候補者の戸籍謄本及び住民票並びに身分証明書、不動産登記事項証明書、財産目録、申立人の不在者との利害関係を証する書面、不在者の不在を証する資料、等々

3.その他
 @ 不在者が長期間に亘って生死不明の状態である場合は、財産を清算するために失踪宣告の制度(民法30条〜32条)の利用も併せて考えましょう。
 A 多くの財産がある場合や複雑な利害関係がある場合は、不在者財産管理人の任務は相当の専門的な法律知識や能力が要求されるので、管理人候補者の推挙においてはよく検討をしましょう。

 司法書士は、書類の作成等を通して不在者財産管理人選任申立ての手続をサポートできますので、詳細についてはご相談下さい。


 離婚理由と離婚の有効性(2012年7月23日)

 離婚理由には様々なものがあります。
 法律上は、民法770条において、裁判上の離婚は、@配偶者に不貞な行為があったとき、A配偶者から悪意で遺棄されたとき、B配偶者の生死が三年以上明らかでないとき、C配偶者が強度の精神病にかかり回復の見込みがないとき、Dその他婚姻を継続し難い重大な事由があるときの5つの場合に限り離婚の訴えを提起することができるとされおり、裁判所に訴えて強制的に離婚ができる場合を限定していますが、協議上の離婚、つまり夫婦がお互い合意の上で離婚する場合については、特に制限はなく離婚理由を問わないとされています。従って、単なる性格の不一致での離婚も協議離婚の場合は可能ということです。
 ところで、協議離婚の場合、その離婚理由について特に法律の明文において制限がないならば、次のような理由による離婚も有効なのでしょうか?

 @ 戸籍の筆頭者を妻から夫へ変更するための離婚
 A 婚姻時に選択した夫の氏から妻の氏に氏を変更するための離婚
 B 債権者からの強制執行を免れるための離婚
 C 生活保護等の公的扶助を受けるための離婚

 結論としては、動機の是非は別にして、法律的にはすべて有効な離婚と考えられます。
 離婚の成立要件は、「離婚の意思」(実質的要件)と「離婚の届出」(形式的要件)の2つだけです。
 まず、離婚の意思とは、「法律上の婚姻関係を解消する意思」で足り、実質上の夫婦関係まで解消する意思は要求されないとされます。法律上離婚はするけど従前と変わらず一緒に暮らすのも認められるということです。
 次に、離婚の届出は、離婚届を役所に提出し受理されるという形式的なものであり、届出により離婚が成立します。
 従って、夫婦が互いに「法律上の婚姻関係を解消する(離婚の法的効果を受け入れる)」ことについて意思を合致させてさえいれば、婚姻関係を解消する理由(動機)については特段問題にしないとされており、後は離婚の届出さえすれば離婚は有効に成立するというわけですね。参考となる裁判例としては、@とAについては最判昭和38年11月28日、Bについては最判昭和44年11月14日、Cについては最判昭和57年3月26日があります。

 もっとも、Cの例などは場合によっては不正受給に該当する可能性がありますから厳に慎まなければなりませんし、たとえ一時的にでも離婚をするということは、社会生活への影響(保険や年金等諸種の手続、子供への影響等)について十分に考慮しておくべきでしょう。また、役所の窓口で上記のような具体的な離婚理由を述べると怪訝な顔をされることも有るやら無いやら・・・。

(おまけ)
 平成23年6月に民法が改正され、平成24年4月1日から施行されていますが、改正内容の一つに「離婚後の子の監護に関する事項の定め等」の改正があります。改正後の条文は以下のとおりです。

第766条 父母が協議上の離婚をするときは、子の監護をすべき者、父又は母と子との面会及びその他の交流、子の監護に要する費用の分担その他の子の監護について必要な事項は、その協議で定める。この場合においては子の利益を最も優先して考慮しなければならない。
 2 前項の協議が調わないとき、又は協議をすることができないときは、家庭裁判所が、同項の事項を定める。
 3 家庭裁判所は、必要があると認めるときは、前二項の規定による定めを変更し、その他子の監護について相当な処分を命ずることができる。
 4 前三項の規定によっては、監護の範囲外では、父母の権利義務に変更を生じない

 従前の規定は子の監護についての必要な事項という大まかな表現だったのを、子との面会交流とか監護費用(養育費)の分担という具合により具体的に規定することにより、離婚時に夫婦間でこれらの事項について子の利益を最も優先して明確に取り決めをするよう促すための改正であるということのようです。
 また、この法改正に伴い、離婚届の用紙の様式も変更され、面会交流や養育費分担の取り決めができているかのチェック欄が新たに設けられていますが、取り決めについての強制力は無いようですので、チェックしなくても離婚届は受理されるようです。


 養育費(2012年6月16日)

 巷では、夫婦の3組に1組が離婚するみたいなことを言われておりますが(実際は、若年夫婦の離婚率が突出して高い(60%近い)ために平均離婚率がその分上がっているだけらしいですが・・・)、子供がいる夫婦(事実婚、シングルF・M等も含む)の離婚に際して生じる問題の1つに子供の養育費負担の問題があります。この問題に関しては、昨今の景気の悪さも影響してなのか、結構ご相談が多かったりします。そんなわけで、今回はこの子供の養育費問題について、要点を取り上げてご紹介します。

1.養育費とは、『未成熟子が独立した社会人として成長し自立するまでに必要な衣食住、教育、医療、適度の娯楽などの費用』のことをいう。

2.養育費負担の法的根拠は、「直系親族間(親と子)の扶養義務(民法877)」とされています。親である以上、必要に応じて子を扶養しなければならないということです。親権の有無は関係ありません。認知の有無は裁判例では判断が割れています。また、孫が祖父に請求することも可能です。

3.養育費負担の程度(扶養義務の程度)は、扶養権利者(子)に扶養義務者(親)と同程度の生活を保持させなければならない(一般に「生活保持義務」といわれる。)とされます。よく例えて言われるところの「一杯の粥も分けて食べなければならない」ということです。よって、ある費用が養育費に含まれるかどうかは、その費用が親の生活水準と同等の生活水準を維持するために必要なものかどうかで判断されます。

4.養育親(母)が再婚し、再婚相手が子と養子縁組した場合、原則として実父は扶養義務を免れます(正確には、再婚相手が第1順位扶養義務者、実父が第2順位扶養義務者となる)。養子縁組をしなかった場合は、従前どおり扶養義務(養育費負担義務)があります。但し、再婚は、養育費の減額変更の判断要素になり得るとされています。

5.養育費の請求根拠の法的構成は、@養育親が他親に対して監護費用として請求する方法と、A子が扶養権利者として扶養料を請求する方法(実際は親権者が法定代理する)の2通りが考えられる。

6.養育費の支払方法は、原則月払い、当事者間で合意があれば一括払いも可能である。但し、一括払いした場合でも事情変更により追加請求が認められる場合があること、贈与税負担の可能性があることに注意。

7.養育費の計算方法は一般的に養育費算定表を用いた養育費標準算定方式が裁判所の調停、審判はもちろん裁判外での協議でも利用されている。養育費算定表は一般公開されており、養育費の計算を簡易・迅速に行えるため便利である(参考⇒養育費算定表)。詳しい使い方は、専門家等にお尋ね下さい。但し、個々の事案によっては、算定表がそぐわない場合もあることに注意。因みに、相場(家裁で決められた養育費月額)では、子供1人当り2〜4万が最も多いらしい。

8.過去の養育費の支払請求は原則として不可とする考えが一般であるが、裁判例では可能とされている。但し、遡れるのは、一般的には請求した時点(調停、審判の申立時)までとされています。また、養育費請求権も5年(民法169)で時効により消滅しますので注意が必要です(請求権の法的構成によっては10年、民法167)。

9.成人後の子に対する養育費の支払義務については、事情により認められる場合もある(子が大学等へ進学する場合、子の稼動能力がない場合等に問題となる。)。

10.いったん合意した養育費の負担額についても、その後の当事者の生活状況、社会情勢の変動等(再婚、リストラ、破産等)の「事情の変更」により、増額・減額の請求が認められる場合がある(民法880)。具体的には、当事者間での協議や審判で変更する。

11.離婚に際して養育費を一切請求しない旨の合意をした場合、当該合意は原則有効であるが、事情変更により養育費の請求が認められる場合もある。

12.被請求者が無資力の場合、被請求者の父母(子の祖父母)に対し養育費の請求ができる場合がある(東京高決昭58年6月28日)。

13.扶養義務者が破産した場合でも、養育費債権は非免責債権であるため(破産法253条1項4号)、破産手続で配分がなかった部分については、破産後も請求することができる。

14.養育費の発生時期は、夫婦の別居・離婚時、請求時(調停、審判の申立時)、審判時とされており、終了時は、義務教育終了時、高校卒業時、満18歳まで、成人に達するまで、とされるのが一般である。

15.養育費の請求方法は、@当事者間の協議(離婚協議時も可能)、A養育費請求調停(家事審判法9条1項乙類4号,8号)、B審判申立(同)、C内容証明通知書による請求、D民事訴訟等の提起を事件内容(前提としての養育費支払いの合意の有無)に応じて使い分けます。

16.養育費支払の履行確保の方法として、家庭裁判所を利用する方法がある(但し、養育費の支払い合意が家裁でなされている場合に限る)。具体的には、@裁判所から支払義務者に対して調査・履行勧告をしてもらう履行勧告制度(家事審判法15条の5・25条の2)、A裁判所から支払義務者に対し期限付き・制裁付きで支払いを命ずる履行命令制度(家審15条の6・25条の2)、B裁判所が支払義務者に対して財産仮差押え、養育費仮払仮処分等を行う審判前の保全処分制度がある。
 また、民事執行法により、養育費支払の不履行があった場合に、支払期限が到来していない将来の養育費分についても財産差押えができ、給与等に対する差押範囲も2分の1まで拡大されている(民事執行法151条の2、152条)。また、不履行のケースによっては、養育費を支払うまで一定の強制金を支払う負担を課すことにより支払義務者に心理的強制を加える間接強制の制度が利用できる場合もある(民事執行法167条の15)。
 因みに、養育費の支払いに関する合意を公正証書で作成しておけば、支払いが遅滞した場合に裁判等をすることなく強制執行が可能です。


(司法書士の利用方法)
 養育費の支払いに関する法的手続について、司法書士はどのような関与ができるのできるかについてですが、まず、当事者間で合意ができていない場合は、家庭裁判所に対する調停、審判の申立手続についての書類の作成、相談、助言という形で依頼者の方の援助ができます。また、既に合意はできているが支払いが滞っているような場合は、金額が140万円以内である場合は依頼者の方に代理して相手方に対して請求、交渉、訴訟(簡易裁判所)等をすることもできます。

(家庭裁判所への調停・審判の申立)
@ 申立人は、監護者(扶養親)である父又は母
A 申立先は、相手方の住所地の家庭裁判所又は当事者が合意で定める家庭裁判所
⇒例えば、相手方が篠山市や丹波市在住なら神戸家庭裁判所柏原支部(柏原町にある裁判所です)になります。
B 申立てに必要な費用は、収入印紙1200円分(子ども1人につき)、連絡用の郵便切手(申立てをする家庭裁判所へ事前確認・大体800円分)
C 申立てに必要な書類は、申立書(家裁や裁判所HPに様式備えあり)、申立添付書類(未成年者の戸籍謄本、申立人の収入に関する資料(源泉徴収票写し,給与明細写し,確定申告書写し,非課税証明書写し等))、その他(支出、資産、健康状態等を証する書面等)必要に応じて追加提出する。


 離婚(2011年12月17日)

 厚労省の統計上、今や婚姻夫婦の3組に1組の割合、つまり3割が離婚するとのことであるから驚きである。実際、当事務所のような小規模の司法書士事務所でも、年に数件は離婚に関する相談がありますし、司法書士会主催の法律相談会においても離婚相談は結構あります。
 というわけで、以下、離婚に際して起こる諸問題と解決のポイントを挙げてみます。

1.離婚の意思
 離婚するのは費用、労力、精神面で相当な負担がありますので、はっきりとした離婚の意思をもってから実行に移しましょう。
2.離婚の事由
 離婚する理由(不貞行為、悪意の遺棄、3年以上の生死不明、回復の見込みのない強度の精神病、その他婚姻を継続しがたい重大な理由として性格の不一致、暴力、親族との不仲、借金、ギャンブル・浪費、過度の宗教活動、性的不一致、過度の飲酒、異常性格、病気、精神的虐待、不就労、犯罪・服役、重大な侮辱、その他諸々)は何なのかきちんと整理しましょう。離婚方法によっては明確な理由が必要です。
3.親権
 未成年の子供がいる場合は、離婚に際して親権者を決めなければなりません。これまでとこれからの養育状況、環境、子供の意思等を総合的に考慮して、子供のためにベストの選択をしなければなりません。
4.面接交流
 子供が一方の親に監護されるようになった場合、原則として、他方の親にも子供と定期的に面会交流させ、子供の健全な発達に寄与できるようにしなければなりません。
5.婚姻費用の分担
 離婚前に別居期間がある場合等で、婚姻中の生活費等を負担しない相手方に対し、未負担の婚姻費用を請求できます。婚姻費用の金額の計算は、簡易に行えるよう算定表がありますので、この費用算定表を利用して具体的な金額の請求を行います。
6.養育費
 離婚した後も、実際に監護養育しない親は、監護養育する親又は子供に対し、子供が成年に達するまで監護養育費用を負担しなければなりません。この養育費も、費用算定表がありますので、こちらを利用して金額を計算しましょう。
7.財産分与
 婚姻中に形成した夫婦の共有財産は、離婚に際して分配します。まずは、夫婦それぞれの固有財産と共有財産を分け、共有財産について適正な金額の評価をしたうえで、財産形成への貢献度や今後の生活扶助等を総合的に考慮して財産を分け合います。分与後は、名義変更等も行いましょう。
8.慰謝料
 夫婦の一方が離婚原因を作ったような場合は、他方が慰謝料の請求を行うことができます。きちんとした証拠をもって離婚の際に請求しましょう。
9.税金
 離婚の場合も内容によっては税金がかかることもありますので注意しましょう。
10.年金分割
 厚生年金や共済年金については、離婚の際に分割請求をすることにより、婚姻中働いていなかった夫婦の一方も、相当分の将来の年金が直接受け取れるようになります。期限もありますので、忘れずに行いましょう。
11.強制執行 
 離婚時の諸々の約束も、離婚後の事情変更等で必ず守られるとは限りません。約束が守られない場合は、強制的に実現することも考えなければなりませんので、そのような場合に備えて、将来もしものときに強制執行できるような離婚方法を採りましょう。
12.離婚の方法
(1) 協議離婚(夫婦の話合いで離婚します。合意できたら離婚協議書を作成します。)
(2) 調停離婚(家庭裁判所に離婚調停を申立て、裁判所の調停委員会(審判官、調停委員)や家裁調査官に助力をいただき離婚が成立するよう手伝ってもらいます。)
(3) 審判離婚(わずかなことで調停での離婚が成立しない場合、家事審判官に離婚内容を決めてもらいます。)
(4) 離婚訴訟(調停や審判でも離婚が成立しない場合の最終手段ということで人事訴訟を提起し、裁判所の判決によって離婚します。)
13.戸籍の届出
 離婚が成立した場合、戸籍にその旨記載しなければなりませんので、所定の届出を市役所等に行いましょう。なお、離婚方法によって届出期間や必要書類が異なりますのでご注意下さい。
 また、必要に応じて、婚氏続称(婚姻時の氏を離婚後も使用すること)やこの氏の変更届出も速やかに行っておきましょう。

 以上、思いつくままですが、離婚のポイントを掲げてみました。
 やむを得ず離婚される場合は、これらの点を十分に考慮して離婚をするようにしましょう。
 最後に、司法書士は、上記12の各手続きに関する書類の作成を通して離婚手続のお手伝いができますので、必要な場合はお近くの司法書士にご相談下さい。