不動産登記


 一部抹消登記の注意点?(2013年11月29日)

 例えば、共同抵当権の一部抹消登記のケースでは、抵当権者Xが債務者A所有の甲土地と乙土地に抵当権を設定している場合において、乙土地の抵当権設定登記のみを(合意)解除を原因として抹消する場合、通常どおり抹消登記を申請すればよいです。
 ところが、このケースで甲土地がB所有、乙土地がC所有の場合(いわゆる物上保証のパターン)は、そう簡単にはいきません。この場合は、B、Cは互いに相手方に対する法定代位権(民法501条後段4号)があるので、一方の不動産に対する抵当権の抹消登記について他方は利害関係があることになります。よって、乙土地に対する抵当権のみを合意により解除して消滅させる場合、甲土地の担保権設定者(物上保証人)Bの承諾がなければ、Bに対して抵当権の消滅を対抗できません。よって、乙土地の抵当権抹消登記において、Bは登記上の利害関係人に該当しますので、Bの承諾書の添付がなければ抵当権抹消登記はできないのです(不動産登記法68条)。

(2018,4,25・追記)
・・・・・・・・・という趣旨の解説が法律書籍専門の某出版社が刊行中のシリーズものの某書籍で述べられています。
抹消の原因が弁済とかだったら全く問題ないはずですので、あくまで合意解除のケースに限定した執筆者の独自の見解なのでしょうけど、実際、このパターンで解除を原因として共同担保物件の一部の抹消登記を承諾書無しで申請しても法務局から何か言われたことはありません。ていうか、これって単に民法504条の問題であって解除やそれによる抹消登記の時点でどうのこうのいう問題ではないと思うのですが、どんなもんでしょうか?

(2020,6,18・修正・追記)
この記事の内容について、「そんなこと聞いたことない」等のご批判が結構ありましたので、消してしまおうと思いましたが、出版元からは訂正も出ていないみたいですので、そういう考えもあるんだという趣旨から、このまま載せておきます。
ちなみに、民法(債権法関連)改正により、「弁済による代位」関連の規定も条文の内容が結構変更されていますので、実務家は念のため確認しておくべきでしょう。


 剥がれ難い登記識別情報目隠しシール対処法(2013年11月9日)

 不動産登記法の改正(平成16年)により従来の権利証制度に代わって登記識別情報制度(要は不動産毎、名義人毎のパスワード制度)が始まってからもう随分と時間が経ちましたので、この登記識別情報制度も少しは世間一般にも根付いてきたのでしょうか?(ご存じない方は法務省のサイトでご確認下さい)
 ところで、この登記識別情報ですが、登記が終わった後に法務局から発行される際は、専用用紙(登記識別情報通知書)に識別情報(以下、単に「パスワード」ということもあります。)が記載され、その上に目隠しシールが貼られたうえで交付されます。そして、将来、不動産の名義変更等でパスワード使用する際は、この目隠しシールを剥がして使用することになります。
 さて、ここで問題が起こることがあります。実は、この目隠しシールですが、現在までに発行された登記識別情報通知書に貼られた目隠しシールの中にはいざ剥がそうとした時になかなか剥がれず、剥がれても剥がし後にシールの残骸が残ってしまい、パスワードが読み取れない事態に陥るケースがあるのです。具体的に言いますと、平成21年10月までに発行された登記識別情報通知書の目隠しシールにおいて、このような現象が起きやすいそうです(法務省HPより)。実際、私も何度かシールがうまく剥がれない現象を経験しましたが、確かにその頃に発行された目隠しシールばかりでした。
 登記識別情報は従来の権利証と同じ役割を果たすわけですから、いざ必要な時にシールがうまく剥がれないためにパスワードを使用できないようでは、大問題です。
 そこで、法務省では目隠しシールがうまく剥がれずパスワードが読み取れない場合は、登記識別情報の再作成(パスワードの再発行)をすることで対処されるそうです(詳しくは法務省HP参照)。
 しかし、再作成の手続も面倒ですし、すぐにパスワードを使用しなければならないときもあるわけですから、できるだけうまく剥がしてその登記識別情報を活かしたいところです。そこで、剥がれ難い目隠しシールをきれいに剥がすための対処法ですが、巷ではハンカチ等で当て布をしてアイロンをかけて温めると剥がれ易くなるみたいな解説があったりします。でも、いちいちアイロンまでかけて対処するのも面倒ですし、事務所にアイロンを備え置いたり外出時に携行するのは大変です(というか公文書にアイロンがけって・・・)。
 そこで、私が思い付いたのはドライヤーです。要は粘着質部分を温めてシールを剥がし易くすればいいんだから、ドライヤーで温めてもいいんじゃないかと。検証結果は、今のところ成功しておりまして、ドライヤーでしばらく温めるとスッと剥がれてくれております(もちろん、うまくいかなくても責任は持ちませんが)。
 他にもいい方法があるかも知れませんので、いろいろ挑戦されてもいいかもしれませんが、平成21年10月までに発行された登記識別情報通知書の目隠しシールを剥がす際は、ちょっと注意して剥がすようにされるといいでしょう。


 包括的「相続させる」遺言と登記(2013年11月1日)

 遺言に関する有名な最高裁平成3年4月19日判決は、要旨次のとおり判示しています。

 「特定の遺産を特定の相続人に「相続させる」趣旨の遺言は、遺言書の記載から、その趣旨が遺贈であることが明らかであるか又は遺贈と解すべき特段の事情のない限り、当該遺産を当該相続人をして単独で相続させる遺産分割の方法が指定されたものと解すべきである。」

 「特定の遺産を特定の相続人に「相続させる」趣旨の遺言があった場合には、当該遺言において相続による承継を当該相続人の意思表示にかからせたなどの特段の事情のない限り、何らの行為を要せずして、当該遺産は、被相続人の死亡の時に直ちに相続により承継される。」

 そして、登記実務では、上記判例のいうような「特定の遺産(不動産)を特定の相続人に相続させる旨の遺言」があれば、不動産を取得する特定の相続人は当該遺言をもって単独で直接自分名義に所有権移転登記をすることができるとされています(昭和47年4月17日民事甲第1442号民事局長通達)。この点、他の相続人が存在する場合に、それら相続人に協力してもらう(印鑑を貰う)必要もなく、遺産を取得する相続人だけで手続ができるので、大きなメリットがあります。
 ところで、遺言の中には、「遺言者は、遺言者の有する一切の財産を相続人○○○○に相続させる」というような全財産を特定の相続人に包括的に相続させる旨の遺言も比較的多く見られます。例えば、子供のいない夫婦間の遺言やいわゆる跡継ぎ遺言なんかでよく使われる文言です。単純明快で非常にわかりやすい遺言ですが、このような遺言の場合、「特定の遺産」を相続させる旨と解することができるかという点で若干疑問があります。この点、「一切の財産」とは特定の遺産の集合体に過ぎないから上記判例や先例どおりの取扱いができるとされており、また、上記先例でも具体的に触れられており、包括的「相続させる」遺言であっても当該遺言をもって直接相続人名義に所有権移転登記ができるとされています。まぁ、当然といえば当然のような気もする細かい論点ですが、後々の登記手続のことを考えるとちょっと気になったりするところです。

 因みに、今回のような包括的「相続させる」遺言をする場合、他の遺留分を有する相続人の遺留分を侵害する可能性が非常に高いので、相続開始後に他の相続人から遺留分減殺請求をされる可能性も視野に入れておきたいところです。この点、民法1034条が、「遺贈は、その目的の価額の割合に応じて減殺する。ただし、遺言者がその遺言に別段の意思を表示したときは、その意思に従う。」と規定していることから、遺言者は遺留分減殺の順序や割合を遺言で指定することができるとされており、例えば、「預貯金から減殺すべき」、「長男に相続させる財産から減殺すべき」といった具合に遺言者の意思である程度減殺方法を予め決定できるとされている点が1つ参考になります(但し、民法1033条、1035条の順序(遺贈と贈与は遺贈から減殺、贈与は後の贈与から減殺)は変更できませんので注意が必要です。)。仮に遺留分減殺請求するならば、このように減殺せよと遺言で指定することにより、特定の財産への減殺請求を阻止することができる点で有用かもしれません。


 不動産譲渡担保の登記上の問題(2013年9月30日)

 譲渡担保とは、「債権を担保するために債務者(又は物上保証人)の財産権(主に所有権)を債権者に譲渡する」という債権担保の方法を言います。担保の目的物が不動産の場合を例にもっと具体的にいいますと、概要は以下のとおりです。

@ 譲渡担保権者(債権者、以下単に「担保権者」といいます)と譲渡担保権設定者(債務者、物上保証人、以下単に「設定者」といいます)が不動産の所有権を目的とする設定契約を締結します。この契約により、当該不動産の所有権は譲渡担保権者にとりあえず移転します(もっとも、不動産の占有自体は設定者に残すケースが多いです)。

A 債務者が債務不履行(例えば貸金の返済懈怠)を起こしますと、担保権者が確定的に不動産の所有権を取得します(若しくは第三者に換価処分することができます)。但し、担保権者は、担保の目的不動産の価額と未履行の被担保債権の残額との差額を清算金として、設定者に支払わなければなりません。

B 一方、設定者は、担保の実行手続の終了時(担保権者から設定者への清算金の支払時(清算金が無い場合は設定者への担保権実行通知時)又は目的不動産の第三者への処分時)までに被担保債権を弁済して担保不動産を取り戻すことができます(これを「受戻権」といいます)。

 簡単に言いますと、「債権担保のために不動産の所有権をいったん債権者に移転しますが、債権を弁済期限までにちゃんと返済した場合は当該不動産を取り戻せます。しかし、弁済できなかった場合は当該不動産の所有権は債権者に確定的に帰属し、設定者(債務者)は差額の清算金を受け取ることになる。」ということです。

 ところで、この不動産の譲渡担保権の設定を登記記録上に表す方法としては、担保不動産について設定者から担保権者へ譲渡担保を原因とする所有権移転登記をすることになりますが、この登記手続で登記される事項は登記原因を除くと普通の売買による所有権移転登記の場合と何ら異なりません。つまり、一見、債権担保のために不動産の所有権を移転していることは判明しますが、それ以外の情報(債権額、弁済期等)が不明なのです。また、債務者が弁済期までに債務を弁済しなかったために担保不動産の所有権が担保権者に確定的に帰属したことを表す登記方法もありません。
 そうすると、問題が生じてきます。例えば、甲不動産について、AからBへの譲渡担保を原因とする所有権移転登記がなされている場合において、Aが債務不履行をしたのでBが甲不動産を確定的に取得したとして更にCに甲不動産を売却しようという場合、買主Cとしては、Bが本当に確定的に甲不動産の所有権を取得し、Aからもはや受戻権を行使されるおそれが無いということを登記記録から判断することができないからです。要は、登記記録上からはBが甲不動産の確定的な所有者かどうか判別できないということです。もっとも、買主Cには、一定の保護が図られています(最高裁昭和49年10月23日判決、同昭和62年2月12日判決、同昭和62年11月12日判決、同平成6年2月22日判決等)。また、譲渡担保による所有権移転登記の登記原因証明情報がある程度詳細なものであれば、それを閲覧すればある程度の予防はできるかもしれません。

 というわけで、譲渡担保を原因として所有権移転登記がなされている不動産について、何かアクションを起こそうという場合はちょっと注意が必要なのです。因みに、登記の原因が譲渡担保でない場合でも、譲渡担保であると判断される場合もあるようです(最高裁平成18年2月7日判決、東京地裁平成2年10月8日判決)。


 登記がされていれば万全か?(2013年9月7日)

 日本の不動産登記制度においては、法律上、登記に公信力が与えられていません。したがって、ある不動産について名義人として登記されている者が登記されている権利を必ず有するということは法律上保証されていないのです。これは、例えば、ある者がある土地について書類を偽造して自分名義に所有権の登記をした場合、確かに登記記録上はその者がその土地の所有者のように記録されますが、実体上はその者が所有権を有することにはならないということから理解できます。
 そうすると、「登記って確実に信用できるものではないのですね」と言われればそういうことになるでしょう(司法書士が言うのも何ですが・・・)。したがって、登記だけではなく、登記をするに至った原因事実を証する書類(売買契約書や遺産分割協議書等及び実印+印鑑証明書)が最終的には重要になってくることになります。
 一方、登記には対抗力があるとされています(民法177条)。したがって、対抗関係にある当事者間では登記を先に具備した方がその権利関係において勝者となります。例えば、Aが自分が所有する甲土地をBとCに対して、それぞれに売買した場合(つまり二重売買)、BとCの間においては、先に登記した方が甲土地の所有権を主張することができることになります。いずれの売買契約も有効であれば、先に登記した方が勝つという具合です。この対抗力の点で、登記をすることにはメリットがあります。

 ところで、登記にはもう一つ、権利推定力という効力があります。これは、どういう効力かというと、「登記というのは国家機関(登記所)が行うものだから、その登記内容は真正であり、実体上の権利関係と一致するであろうと推定される効力」とされています。そして、裁判所の判例によれば、ここでいう推定とは、「登記された権利の所在自体又は登記原因として記録された権利取得原因事実を事実上推定する」ことをいうとされています(最高裁昭和34年1月8日判決等)。ここでは、「法律上の推定」ではなく「事実上の推定」であるとしている点がポイントです。
 「事実上の推定」とはどういうことかというと、例えば、ある訴訟手続において、ある土地の所有権の有無について証明する必要がある場合、通常、まずその土地の所有権名義人が記録されている不動産登記事項証明書(登記簿謄本)を証拠として提出します。ここで、登記には事実上の権利推定力がありますので、所有権の登記がされている名義人がその登記原因に基づいて所有権を取得したということが、裁判官において、経験則上、推測されることになると思われます。裁判官の内心における心証(要は裁判官の印象)が「登記されているこの所有権登記名義人が所有権を有する」という方向に傾く、という感じでしょうか。しかし、これはあくまで内心における印象の程度の問題なので、仮に訴訟の相手方が所有権の帰属について積極的に争い、反証(所有権は別にあることの反対証明)をしてきた場合、裁判官の心証が変わってくる(真偽不明状態になる)可能性があるので、自己の所有権を主張する者は、登記の事実だけでなく、更に所有権の取得原因事実について売買契約書等で証明しなければならないことになります。このことを、登記による事実上の推定力では法律要件事実である所有権の存在についての証明責任は転換されない、というふうに言われたりします。この点、証明責任の転換が起こる「法律上の推定力」と大きく異なります(例えば民法186条なんかは法律の条文に「・・・と推定する」と規定されていますので、事実はそうではないと主張する側が反対の事実を証明しなければなりません)。

 なんか小難しいことを言っておりますが、要は「登記がある=権利がある」とは必ずしも認められない、登記は万全ではないということを言いたかったわけです。


 借地の分筆と借地権の対抗力(2013年8月23日)

 例えば、X所有のA土地があり、当該A土地についてXはYに対して借地権を設定し、YはA土地上にY所有の甲建物が建てたうえでその建物について登記をしているとします。
 ここで、XがA土地は甲建物の敷地としては広すぎるため、A土地を甲建物が建っているB土地とその残余のC土地に分筆して、C土地を第三者Zに売却したいと考えました。
 この場合、Yの借地権との関係で何か問題は生じないのでしょうか?
 まず、Yは甲建物について登記をすることでA土地に対する借地権を第三者に対抗することができるとされています(借地借家法10条1項)。
そうすると今回の場合、YはA土地全体についての借地権を第三者に対抗することができることになります。そして、この対抗力は、A土地が分筆された後のB土地とC土地の双方に及ぶとされています(最高裁昭和40年5月7日判決等)。
 したがって、仮にC土地をZが買ってその所有権の登記をしたとしても、ZはYからC土地に対する借地権を対抗されてしまうことになり、C土地購入の目的を達せられないことになる可能性があるので注意が必要です。
 この点、借地権の存在が登記記録や現地から容易に判明すれば、トラブルになることもあまりないのでしょうが、事例のように建物登記により借地権の対抗力が備えられているケースで借地が複数に分筆されると、一見しただけでは借地権の有無が分明でなくなる場合があるので厄介です。
 この手のトラブルを防止するには、分筆地の購入の場合は、まず現地において対象土地及びその周辺の分筆前の土地上に建物は建っていないかを確認し、仮に建物が存在するならば、その建物について登記があるかないかを確認することが一番だと思います。もちろん、分筆後に建っている建物は問題ありません。


 不動産の時効取得と登記原因証明情報(2013年7月31日)

 不動産の時効による取得については、民法162条によると、
@ 20年間、所有の意思をもって、平穏に、かつ、公然と他人の物を占有した者は、その所有権を取得する。
A 10年間、所有の意思をもって、平穏に、かつ、公然と他人の物を占有した者は、その占有の開始の時に、善意であり、かつ、過失がなかったときは、その所有権を取得する。
とされています。
 また、民法186条は、
@ 占有者は、所有の意思をもって、善意で、平穏に、かつ、公然と占有をするものと推定する。
A 前後の両時点において占有をした証拠があるときは、占有は、その間継続したものと推定する。

 以上の民法の規定によると、
@ 20年間の占有による時効取得を主張したい場合は、占有を開始したある時点における占有とその後20年が経過した時点における占有の事実を証明すればよい。
A 10年の占有による時効取得を主張したい場合は、@に加えて占有開始時におけて自己の所有物であると信じたことにつき無過失であったことを証明すればよい。
ということになります。
 
 ところで、時効取得を原因として、土地や建物の所有権移転登記(名義変更)の申請手続をする場合、原則として申請情報(申請書)と一緒に登記原因証明情報(登記原因証書)なるものを法務局に提供しなければならないとされています(不動産登記法61条)。この登記原因証明情報とは、簡単に言うと、「登記の原因となる事実又は法律行為及びこれに基づき物権変動等が生じたことを明らかにした情報(書面)」のことをいいます。要するに、「今回申請する登記はこれこれこういう原因に基づくものです」ということを記載した書面を申請書に添付して提出しなければならないということです。そして、もちろんこの登記原因証明情報も登記官の審査に付され、内容が不備であれば登記の実行が行われず申請は却下されることになります(不動産登記法25条9号)。したがって、登記原因証明情報については、登記官の審査に耐えられるよう、登記原因である物権変動等が生じていることが判断できる最低限の事項を記載した適切なものを作成しなければなりません。
 
 さて、ここからが本題ですが、不動産の時効取得を原因とする所有権移転登記を申請する場合、どのような内容の登記原因証明情報を作成して提供すればいいのでしょうか?という問題です。この点、不動産登記法が改正されて登記原因証明情報の提供が必要的になった当初は、割とザックリした内容で作成・提供されていたように思います。市販の参考図書なども同様であり、例えば10年の短期時効取得であれば、@年月日、占有者は平穏・公然・善意・無過失にて不動産の占有を開始した、A占有開始から10年が経過した年月日時点でも占有を継続していた、B占有者は時効を援用した、Cよって、所有権は時効取得を原因として移転した、のような割と抽象的な記載例が出回っており、また、その程度の記載でも登記申請が通っていたように思います。
 ところが、法改正から年月が経過すると共に、もっと時効取得の要件について詳細な具体的事実をもとに記載すべきである、というような流れに実務が変わってきました。例えば、単に「無過失」であったでは足りず、無過失を基礎づける具体的な事実を記載せよ、さらには、単に「年月日占有を開始した」では足りず、具体的にどういう状況で占有を開始したのか(建造物を建てたのか等)について記載せよ、という具合です(このようなことを登記実務の専門誌である「登記研究」という雑誌にも書いてあります)。
 なるほど、そこまで詳しく書いてあると登記原因を判断する登記機関も、後でそれをみる関係者も詳しい事情がわかって良いように思います。でも、こうなってくると、訴訟手続において訴状等に記載する時効取得の要件事実の主張の記載と大して変りません(登記では立証までは要求されませんが)。
 一方、登記申請の当事者が原因事実を認めたうえで記載して署名押印してるんだから、もうちょっとラフな記載内容「単に無過失」でもいいんじゃないの?的な意見もあると思います(プロ以外の方が申請する場合は大変ですから)。
 まぁ、少なくとも登記のプロである司法書士としては、時効取得の原因事実が誰が見ても十分に判断できるような記載を今後は心掛けるべきということなのでしょう(当事者ご本人さんには何十年も前のことをしっかり思い出していただいて・・・・。だって登記原因が年月日不詳時効取得では原則登記申請は通りませんから・・・・。)。


 判決による担保権の抹消登記と登記原因について(2013年7月5日)

 通常、抵当権等の担保権の抹消登記を申請する場合、設定者(不動産の所有者)と担保権者が共同して登記の申請を行いますが、担保権者が登記申請に協力しない場合は、担保権者を相手に訴訟を提起し、裁判所から担保権者に対して抹消登記申請手続を命じる判決をもらい、当該判決(確定していることを要する)をもって、設定者が単独で抹消登記の申請をすることができます(不動産登記法63条)。
 そして、この登記手続を命じる判決をもって抹消登記の単独申請をする場合は、登記申請書に判決の正本(確定証明書付き)を添付しなければなりませんが、当該判決正本には、判決の主文と理由が記載されています。そして、登記実務においては、基本的に判決の主文をもって為すべき登記が判断されます。したがって、判決の主文には、その内容として、対象不動産、申請人の住所、氏名、登記の目的、登記の原因及びその日付、その他登記すべき事項が特定できるように記載されていなければならない、とするのが登記実務における原則的な考え方です(平成12年1月15日民三第16号民事局第三課長回答参照)。
 ところが、裁判実務では、とりわけ担保権等の抹消登記手続に関する訴訟の判決においては、判決の主文において、上記登記実務上要求されている内容のうち、登記の原因及びその日付については、これを記載しないのが通例とされています。したがって、裁判官が下す担保権の抹消登記手続を命ずる判決の主文においては、登記手続上要求される登記の原因及びその日付が特定できないことになることが非常に多いのです。
 この点、司法書士としては、当然、判決に基づく登記の実務を熟知しているわけですから、その前提となる訴訟手続にも関与する場合は、基本的に訴状の請求の趣旨(これが勝訴した場合の判決の主文に反映されます。)には、抹消登記の登記原因とその日付も記載するようにしたいところです。ところが、裁判実務上は、上記の通例もあり、これをなかなか認めてくれないのが現状でして、ときには請求の趣旨に登記原因及びその日付を記載した訴状を提出すると、記載した登記原因及びその日付の記載を削るように補正を求められたりします。
 以上のように、登記実務の考え方と裁判実務の考え方には乖離があるわけですが、原則的には、裁判実務(裁判官の判断)が尊重されなければなりませんので、裁判官において、判決の主文中に登記原因及びその日付の記載の無い判決が下された場合は、登記実務(法務局)の側において、これを工夫してなんとか登記してくれないと、当事者である国民は困ります。
 そこで、登記実務では、上記のような判決に基づいて登記をする場合は、一般的に次のように取り扱われています。

〇 昭和29年5月8日民事甲第938号民事局長回答(なお書き部分)
 「なお、判決に基き登記を申請する場合における登記原因は、判決書に、登記すべき権利の変動の原因の記載があるときは、その原因により、その記載がないときは、「判決」とする例であり・・・」

〇 下記最高裁昭和32年9月17日判決内容を尊重
 「売買を原因として所有権移転登記手続をなすべき旨を命ずる判決をなす場合、その売買の日附は必ずしも主文に表示するを要せず、理由中にこれが明示されおれば足るものと解するのが相当であり、・・・」

 そして、これら登記実務の取扱いを踏まえて判決による担保権の抹消登記手続の考え方を纏めると、

 「判決の主文に登記原因及びその日付の記載があれば当該記載に従い登記をし、主文に記載がなければ判決の理由中の記載を考慮して登記原因及びその日付を判断して登記をし、主文にも理由中にも登記原因及びその日付の記載が読み取れない場合は単に「判決」(日付は判決の確定日)を原因として登記をする。」

ということになりそうです。
 
 さて、この登記実務の取扱い、基本的には特例的な取扱いの位置付けのようですが、特例と言いつつ、これが結構使われることが多いです。まず、既に述べましたように担保権の抹消登記手続請求事件における裁判実務の取扱いでは、判決の主文には登記原因及びその日付を記載しないのが通例ですので、裁判官に何とか理解を頂いて登記原因及びその日付を判決の主文に記載して貰いでもしない限り、判決の主文だけをもって申請人が希望する登記原因及びその日付での登記をすることは困難です。それなら、次に、判決の理由中において登記原因及びその日付が特定できればいいじゃないかとなりますが、この特定ができないケースもよくあります。というのも、担保権の抹消登記請求訴訟では、通常、所有権に基づく妨害排除請求権を訴訟物として訴えを提起することが多いのですが、この場合、訴える側(原告)が最低限まず主張立証すべき事実(要件事実)は、@原告が担保権の目的となっている不動産を所有していること、Aその所有不動産に担保権が設定登記されていること(よって所有権を妨害している)、の2点だけです。そうすると、原告が、この2点のみを請求原因として訴訟提起したのに対して、被告が特に反論をしなかった場合、当然、原告の請求が認められた判決が出ますが、この場合、判決書の主文はおろか理由中にも原告が主張した@とAの点しか記載されませんので、結局、登記原因及びその日付はどこにも記載されない判決書が出来上がり、それをもって登記申請をしなければないことになるわけです。そうすると、この場合は、もはや前述の登記実務の特例的扱いにより、登記原因及びその日付は単に「判決(日付はその確定の日)」とならざるを得ないことになります。

 訴訟における攻撃防御の構造から考えれば、登記原因及びその日付の特定ができない判決が出てしまうのもやむを得ないところと思いますが、抹消登記に際して登記記録に記録したいと考える登記原因及びその日付が登記できないというのは、司法書士的には何かスッキリしないところです。

 

 不動産登記簿はどこまで調査する?(2013年6月19日)

 不動産について何らかの登記申請をする場合は、例えどんな種類の登記であっても、まずは現在の登記記録を調査するのが鉄則ですが、現在の不動産登記は全て電子化され電磁的記録により管理されています。したがって、通常、登記記録を調査する場合は、この電子化された登記記録を調査することになります。
 ところが、不動産登記記録の調査において、最新の電子化された登記記録(以下、「現在登記事項」ということにします。」だけを調べていれば万全かというと、必ずしもそうとは言えなかったりします。というのも、現在登記事項は、法務局において、昔の紙の登記簿の記載を電子記録としてコンピュータに書き写した(移記した)ものですが、この移記作業において、遺漏や誤記があった可能性があるからです。そして、移記作業において仮に遺漏等があった場合でも、遺漏等された登記は、効力(対抗力)を失うことなく依然として有効であるとする古い判例(大審院昭和10年4月4日判決)があります(但し、対抗力を失うとする学説もあります。)。したがって、例えば、登記簿のコンピュータ化による移記作業において、抵当権の登記が遺漏された結果、現在登記事項には当該抵当権の登記が記録されていなかったとしても、遺漏された抵当権の登記は現在も有効に存在することになる可能性があるわけです。なお、土地の分筆等により転写された場合の遺漏等も同様です。
 そうすると、登記記録をより確実に調査するためには、現在登記事項だけでなく、閉鎖登記簿まで調査しなければならないことになってしまいますが、例えば、土地1筆だけを調べるならまだいいですが、何十筆と調査する場合は大変です。さらに、調査費用も単純に2倍かかります。
 そもそも、移記や転写のミスは、他の誰でもない法務局(国)のミスなのですから、登記名義人等が登記簿の調査にそこまでの負担を強いられる必要もないと思います。しかし、第一次的に不利益を被るのは不動産に利害関係を有する当事者ですから、重要な取引等に際しては、自ら閉鎖登記簿にまで遡って調査することも必要かもしれません。


 消滅時効の起算日と登記原因日付(2013年6月7日)

 司法書士の登記実務では、訴訟案件でもない限り消滅時効(申請実務上は時効消滅と書きますが)を原因とする登記申請を行うことは稀ですが、今回は、この消滅時効と登記原因の日付について考えてみたいと思います。

 まず、消滅時効の効力発生日については、民法の次の規定を参照します。

第144条 時効の効力は、その起算日にさかのぼる。

第166条 消滅時効は、権利を行使することができる時から進行する。
2項以下は省略

第140条 日、週、月又は年によって期間を定めたときは、期間の初日は、算入しない。ただし、その期間が午前零時から始まるときは、この限りでない。

第167条 債権は、10年間行使しないときは、消滅する。
2項以下は省略

 ちょっと纏めてみますと、『債権は、その権利を行使することができる時から10年間行使しないときは、その起算日に遡って時効により消滅する。なお、10年間の計算にあたっては、原則として初日は算入せずに計算する。』ということになります。
 以下、具体例で考えてみます。

(仮想事例)
 個人Aは、個人Bに対し、弁済期日を平成15年6月10日とする金100万円の貸金債権を有している。また、Aは、この金100万円の債権を担保するために、B所有の甲土地に対し、抵当権を設定し、その登記を経由している。さて、Aが権利行使せずに債権を放置していた場合、Aの貸金債権の消滅時効はいつ完成し、その効果はいつに遡るでしょうか?また、Aの貸金債権が時効により消滅している場合、当該債権を担保する抵当権もその付従性により消滅するので当該抵当権の抹消登記を申請すべきですが、この場合、抹消登記の登記原因とその日付はどのように記載すべきでしょうか? 
 
(考え方)
 まず、Aの貸金債権の消滅時効の起算点(起算日)ですが、通常、その弁済期日が該当します。Aは、この期日が到来すれば、Bに対して返済を請求できるので、この弁済期日が民法166条のいう「権利を行使することができる時」に該当するからです。従って、本事例のAの貸金債権の消滅時効は、弁済期日である平成15年6月10日から進行することになります。そして、その時効期間は10年(民法167条、但し、商事債権の場合は商法第522条により5年)なのですが、この10年の期間は、期間計算の初日にあたる起算日を算入せずに計算することになりますので、本事例の場合は、起算日(弁済期日)である平成15年6月10日の翌日である平成15年6月11日から10年の期間を計算することになるので、結果、平成25年6月10日(24時)の経過をもって、時効期間が満了、つまり消滅時効が完成することになります。また、完成した時効の効力は、その起算日に遡りますので(民法144条)、結果、本事例のAの貸金債権は、その弁済期日である平成15年6月10日に遡って消滅する、つまり、貸金債権は弁済期日からその効力を失っていたことになります。
 さて、ここまでが実体法のお話ですが、ここからは登記手続について考えます。Aの貸金債権は、時効により、弁済期日である平成15年6月10日をもって消滅したことになりますので、この貸金債権を担保するために甲土地に設定された抵当権も債権の消滅に伴いその効力を失ったことになります。したがって、被担保債権の時効による消滅を原因として、当該抵当権の抹消登記を申請することができます。そこで、まず、この場合の抵当権抹消登記の申請書に記載すべき登記原因ですが、通常「時効消滅」と記載します。次に、登記の原因日付ですが、被担保債権の消滅時効の効力は起算日に遡りますので、実務上は、消滅時効の起算日である債権の弁済期日、つまり本事例でいえば平成15年6月10日を記載することになります。この点、時効期間の計算上の起算日である平成15年6月11日をとって原因日付としている例を割とよく見かけますが(その原因はたぶん消滅時効の起算日の考え方の違い)、民法の条文、判例(大審院大正6年11月8日判決)、実務書(私がよく使う「時効の管理」という2冊の本とか)の一般的な見解に従えば、債権の弁済期日(権利行使可能日)をもって遡及的に被担保債権が時効消滅したと考えるのが妥当であるから、当該弁済期日を抹消登記の登記原因日とすべきだと思います。

 以上、単純に消滅時効が成立しているかどうかの判断をするだけでなく、時効の効力発生日(起算日)まで正確に表さなければならないという登記実務ならではの問題を考えてみました。長年放置されたいわゆる休眠担保権について、時効消滅を原因とする訴訟提起の上、判決に基づき抹消登記を申請することも結構あるかと思いますので、ご参考まで。

(追加記事)
 因みに、法務局へ上記事案について照会したところ、両方の意見が出たものの、多数意見は登記原因日付は、弁済期の翌日とのことでした。弁済期を期限と判断された(つまり「その日の24時までは返済しなくてよい」と読まれた)ということでしょう。あ〜、確かに登記簿には弁済「期」と記載されているので、その日一杯は権利行使できないと読めないこともないかも・・・。もし弁済「日」だとまた結論が違ってくるのでしょう。
 

 登記名義の不一致問題(2013年5月23日)

 例えば不動産の売買や相続が生じた場合には、該当する不動産の登記名義を変更するために管轄の法務局に対して登記申請手続を行いますが、当該申請手続においては申請書を作成し、これに住民票写し、印鑑証明書、戸籍謄本等の書類を添付して申請しなければなりません。そして、申請を受けた法務局は、これらの書類と登記記録の記載とを照合して検討し、当該申請のとおりの登記を受理し実行すべきかどうかを判断することになります。
 ところで、登記業務をしていますと、前述の申請書類や添付書類と登記記録の記載がどうしても一致しない場合に出くわすことが結構あります。特に不動産の動きが鈍い地方だと、何十年も前に登記された物件について申請手続をすることも多いので、そのような事例に出くわすことはよくあります。
 今回は、上記のような問題に当たった場合に、どう対処すればいいのかについて、一般的な例をちょっとご紹介します。

(仮想事例)
 甲山太郎の父親甲山二郎は、1年前に亡くなり(享年100歳)、相続が開始している。太郎は、そろそろ相続登記をして登記名義を自分に変更しようと思い、他の兄弟姉妹に相談したところ、皆、快く合意してくれました。そこで、太郎は、相続登記の一般的な手順どおり、まずは二郎の遺産であるすべての土地と建物について、管轄の法務局で登記記録を調査し、また、二郎の本籍地兼住所地のある市役所で戸籍謄本等を取寄せました。すると、二郎の遺産である不動産の中のある土地の名義人の表示が、二郎の正しい氏名と下記のとおり一致しないことに気付きました。

〔戸籍・住民票の記載〕
 本籍:A市B町325番地
 住所:A市B町145番地
 氏名:甲山二郎

〔登記記録の記載〕
 所有者住所:A市B町325番地
 所有者氏名:甲山三郎

 要は、登記記録の二郎の名前が「三」郎と誤って記載されているというわけです。因みに、登記記録上の住所は住民票の住所又は本籍と一致していればOKです(比較的古い登記の場合は本籍としか一致しない場合が多いです)。
 しかしながら、当該土地は、二郎の代から毎年固定資産税をきちんと納めており、使用管理も二郎がしていた土地なので、二郎の所有物に間違いないはずです。
 このような場合、特に何ら手立てを講じなくても法務局で相続登記は受理されるのでしょうか?
 
(回答)
 普通に相続登記を申請したのでは、おそらく登記は受理・実行されないでしょう。法務局の登記官(登記申請の審査をして登記を受理・実行するかどうかを判断する人)は、基本的に書面だけで形式的に審査するところ、「二郎」と「三郎」では形式的に見て明らかに別人なので、本件土地は戸籍に死亡したと記載されている二郎の所有物ではないと判断されるからです。
 では、一体どうすれば相続登記は受け付けてもらえるのでしょうか?

(一般的な対処法)
 まず、なぜ登記記録では三郎と誤記されたのか、その原因を調査します。調査方法としては、現在のコンピュータ化された登記記録よりも古い閉鎖登記簿謄本(紙の登記簿)を法務局で閲覧ないし謄本請求します。とりあえず遡れるだけ遡って調査します。もし、調査した閉鎖登記簿で「二郎」と記載されているのであれば、誤りの原因は法務局にあることになりますので(つまり登記簿の転写・移記ミス)、その場合は、法務局に職権で訂正してもらうか、その旨説明して相続登記の審査方針について回答をもらいます。
 一方、閉鎖登記簿を調べてもすべて三郎であれば、法務局のミスではないと思われるため、その場合は、相続登記の申請人側で何らかの対処をしなければなりません。その対処法としては、一般的に次のような書類を相続登記の申請書と一緒に提出することで、登記記録上の名義人が戸籍等に記載の被相続人と相違ないことを疎明することにより、相続登記が受理されるように法務局に働きかけます。

1.登記済権利証
 本来、相続登記には必要ないですが、「権利証を所持しており、しかも権利証には「二郎」と書いてあるんだから、この土地は二郎の所有物に間違いないです」ということを主張するために提出します。

2.不在籍・不在住証明書
 登記記録上の住所地、本籍地における「甲山三郎」なる人物の記録が過去から現在までの戸籍や住民票の記録上存在しないことを市役所等で証明してもらいます。これにより、登記記録上の「三郎」の記載が誤りであり、正しくは「二郎」なのではないかという推測が働きます。要は、反対証明を試みるわけです。

3.上申書
 「登記記録上の三郎は誤りであり、土地の所有者は二郎に相違ないので何卒登記を受理・実行して下さい。」とお願いする文書を作成して提出します。名義の不一致に関する意見があればそれも書いたりします。

4.納税証明書
 「この土地の税金は二郎が納めているんだから、所有者も二郎に相違ない」ことを主張するために提出します。

 大体が、以上のような書類を提出して、何とか登記をしてもらうよう努力するのです。ご参考まで。
 上記のようなイレギュラーな登記事件については、他にもいろいろと工夫したりしますが、ま、こういう一工夫必要な登記手続については、登記の専門家である司法書士に依頼していただいた方が確実かもしれませんね。


 土地改良の換地処分と登記済証(2013年5月11日)

 篠山市はいわゆる農村地域ですので、農地がたくさんあります。そして、土地改良事業により整備された農地が多いです。
 さて、今回はこの土地改良が施された農地に関するお話ですが、この土地改良実施済の農地に関する登記済権利証(いわゆる権利書、現在は登記識別情報)が、市民の方にとっては結構分かり難かったりするかもしれません。そこで、以下に例を挙げてご説明します。

(仮想事例)
 Aさんがある地区に農地W、農地X、農地Y、農地Zを所有していたとします。
 今回、当該地区について土地改良事業が実施され、農地W、X、Y、Zについて換地処分が実施されたとします。
 @ 農地Wについては、いわゆる1対1型換地により農地甲が割当てられました。
 A 農地Xと農地Yについては、いわゆる合併型換地により農地乙が割当てられました。
 B 農地Zについては、いわゆる分割型換地により農地丙と農地丁が割当てられました。
 さて、この場合、Aさんが所有することになった農地甲、農地乙、農地丙、農地丁の権利証(登記識別情報)はいずれが該当するのでしょうか?

(回答)
 まず、@の場合ですが、1対1型換地の場合、換地処分に伴い新たに権利証(登記識別情報)は発行されませんので、農地甲の権利証はAさんが従来から持っていた農地Wの権利証が該当します。よって、将来、農地甲の売買等をする場合の所有権移転登記申請の際は、農地Wの権利証が必要となります。
 次に、Aの場合ですが、合併型換地の場合、換地として割当てられた農地乙について、新たに権利証(登記識別情報)が発行されます。よって、将来、農地乙の売買をする場合の所有権移転登記申請の際は、換地処分により新たに発行された農地乙の権利証を使用することになります。ただし、登記手続の便宜上、従来から所持していた農地X及び農地Yの権利証を併せて農地乙の権利証として使用することも可能とされています。
 最後に、Bの場合ですが、分割型換地の場合も@と同様に換地処分に伴い新たに権利証(登記識別情報)は発行されませんので、農地丙及び農地丁の権利証はAさんが従来から持っていた農地Zの権利証が該当します。よって、将来、農地甲の売買等をする場合の所有権移転登記申請の際は、農地Zの権利証が必要となります。

 基本的な知識としては以上のとおりです。したがって、土地改良が実施されたからといって、安易に古い土地の権利証を廃棄したりしないように注意しなければなりません。

 それから、土地改良事業の施行に係る地域内の土地については、一括して換地処分の登記を申請しなければならないとされています(土地改良登記令第12条第1項)。よって、同じ実施地区内の換地については、全部同じ受付年月日・受付番号で換地の登記がなされます。したがって、合併型換地により新たに発行される権利証(登記識別情報)の受付年月日・受付番号も全部同じ(つまり権利証に同じ登記済の印鑑が押されている)なので、「この権利証、間違っているんじゃないのか」とか「偽造じゃないのか」と安易に疑ってはいけません。

(発展問題)
 土地改良換地処分と登記済権利証に関するちょっと専門的な知識なのでご参考まで。

1.土地改良事業の際、農地の所有者に代わって事業実施者が換地処分の前提として必要な相続等の所有権移転登記をすることがあります。これを代位登記といいますが、通常、代位登記により所有権移転登記をした場合、登記名義人に対して権利証(登記識別情報)は発行されません(不動産登記法21条)。ところが、土地改良事業に伴う代位登記の場合は、権利証(登記識別情報)が登記名義人に対して発行されます(土地改良登記令第3条第1項)。そういうわけで、代位登記だからといって権利証(登記識別情報)が発行されていないと判断すると誤りになります。

 今回のように登記手続に必要な権利証(登記識別情報)の判断は、案外難しい場合があったりしますので、大事な取引の際は事前に司法書士に見てもらうようにしましょう。


 電子申請(オンライン申請)は減少するか?(2013年3月22日)

 以前にもお話しましたが、現在、不動産登記や商業法人登記についても、所得税の確定申告等と同様に電子申請(オンライン申請)ができるようになっております。私の事務所でも、基本的に全て電子申請にしております。
 電子申請をするメリットとしては、主に次の点が挙げられます。

@ 一定の登記については、登録免許税の減税措置が受けられるため、印紙代が安くる。
A 登記の順位の確保が迅速にできるので、一刻を争う登記の場合に便利である。
B 登記完了後に登記所から発行される完了証の記載内容が豊富である(登記申請の詳細な内容まで記載される)。
C 申請に不備があった場合や登記が完了した場合に法務局から電子メールで連絡があるので、事件の進行具合がよく分かる。

 ところが、今月、平成25年3月末で@のメリットが無くなるようです。
 よって、当事者(依頼者)の方ご本人には電子申請による金銭面でのメリットが無くなることになります。
 したがって、来年度からは電子申請が減少するのでは?みたいな事が巷では囁かれたりしています。
 しかしながら、あまり実感できないかもしれませんが、AやBも依頼者の方にとってはメリットなのであり、専門家たる司法書士にとってもA、B、Cは大きなメリットに違いありません。
 そんなわけで、私としましては、電子申請を止めるつもりは毛頭なく、今後も電子申請を続けていくつもりです(巷の噂から想像するに私が止めたら篠山で電子申請している司法書士がいなくなるんじゃないかと思ったりもしますし・・・)。 


 仮登記を放置していませんか?(2012年10月3日)

 仮登記とは、読んで字の如く「仮にする登記」のことでして、簡単いいますと「登記の順位を予め保全しておくために行う登記」のことをいいます。これまでも何度かご案内しておりますとおり日本の登記制度においては「登記は早い者勝ち」という一面がありまして、早い順位で登記された権利が後から登記された権利に優先されるという大原則があるのです。従って、不動産に対してある種の権利を有する者は一刻も早く自己の権利を登記すべく申請手続を急いで行うことになります。ところが、本来行う予定の登記(これを仮登記に対して「本登記」といいます。)を行うための手続要件や登記すべき権利の発生要件等が具備されていないため、本登記を申請することができない場合も実社会では往々にしてありまして、そんな場合でもとりあえず順位だけでも早急に確保しておくために利用されるのが仮登記という制度なのです。
 この仮登記という制度は、不動産登記法の第105条に規定されておりまして、同法では仮登記を第1号仮登記(以下「1号仮登記」という。)と第2号仮登記(以下「2号仮登記」という。)の2種類に分けて規定しています。
 まず、1号仮登記ですが、「登記申請手続において提供しなければならない一定の書類又は情報を提供できないとき」にすることができるとされています。ここでいう一定の書類又は情報とは、@登記済証(登記識別情報)、A第三者の許可、同意、承諾を証する書類又は情報のことをいうとされています。因みに@はいわゆる権利証のことであり、Aは例えば農業委員会の許可書、未成年者の法律行為に対する親権者の同意書、利益相反取引に対する会社の承認決議議事録などを指します。本登記をする場合は本来こういった書類(情報)を提出しなければならないのですが、それが提出できない場合については1号仮登記によって順位保全をすることが認められることになります。つまり1号仮登記のは、実体上の権利関係は既に発生しているが本登記に必要な書類がすぐには準備できない場合に可能な仮登記といえます。例えば、土地の売買契約を締結し、所有権は売主から買主に移転したが、その所有権の名義変更に必要な権利証が手元にないのでとりあえず仮登記をするような場合が該当します。ポイントは、「権利の移転等の実体上の法的効力は既に発生している」というところでして、この点が次の2号仮登記と大きく異なります。
 次に、2号仮登記ですが、これは未だ本登記ができるような実体上の権利関係(例えば土地の売買による所有権の移転)は発生していないものの、これを発生させるための請求権(例えば売買の予約完結権)は発生しているような場合、又は、将来において始期の到来又は条件の成就さえあれば権利が発生するような場合(例えば一定の時期が来れば効力を生じる期限付きの土地売買契約、農業委員会の許可があり次第効力が発生する農地の売買契約)に順位を保全するためにすることができる仮登記をいいます。そして、これらような場合に仮登記をしておくと、将来本登記をするための要件が整った(予約完結権の行使、期限の到来、農業委員会の許可が下りた)際には、予め確保しておいた仮登記の順番で本来予定していた本登記を行うことができることになります。その結果、仮登記の後にされた他の者の権利の登記に優先する本登記を遅まきながら得ることができることになるわけです。ポイントは、「権利の移転等の実体上の法的効力は未だ発生していない」というところでして、この点が後に述べる時効の関係で問題になります。
 以上が簡単ではありますが仮登記制度の概要です。
 さて、前置きが長くなりましたが、ここからが本題の「仮登記の放置」のお話です。すでにご説明しましたとおり、仮登記はあくまで予め順位を保全しておくためだけの登記であり、第三者に自分が権利者であることを対抗できる効力があるわけではありません。従って、可及的速やかに本登記をすべきことには何ら変わりはありません。
 ところが、現実問題として、登記義務者が仮登記には協力したのに本登記の際に協力してくれないため仮登記のまま放置されているケースやとりあえず仮登記ができたことに安心(?)をしてそのまま本登記をせずに放置されているケースが間々あります。
 まず、前者のような場合は、相手方が協力しないのであれば速やかに訴訟等を提起して、裁判所の判決をもって本登記をすればいいでしょう。
 一方、後者のような場合は、早く本登記をしないと後々大変なことになるという意識を持たなければなりません。大変なことの例としては、次のようなことが挙げられます。

@ 所有権の仮登記の本登記をする際に登記上の利害関係人(例えば所有権移転仮登記に後れる所有権登記名義人)がある場合は、当該利害関係人の承諾(承諾書)を得なければ本登記はできません。仮登記のまま長期間放っておくと利害関係人が発生する可能性が高くなり、本登記をする際の障害になりかねません。もし、利害関係人が承諾しない場合は裁判までしなければならなくなります。

A 仮登記義務者(所有権登記名義人)に相続が発生した場合、事情を知らない相続人が本登記に協力しない可能性がある。

B 権利の移転等の実体上の法的効力は未だ発生していない2号仮登記の場合、仮登記で保全している請求権(例えば売買予約完結権)や条件付権利の条件成就請求権(例えば農地法の許可を条件とする売買契約に基づく許可申請協力請求権)が時効で消滅してしまい、その結果、本登記ができなくなる虞がある。

 上記いずれの場合も手続が相当面倒になりますので、仮登記をしたことで安心し切ってしまうのではなく速やかに本登記に着手するのが肝要であるということでしょう。


 不動産取引の注意事項(2012年9月13日)

 土地や建物といった不動産を売買や交換する場合(以下、「不動産取引」といいます。)、一般論として、どういった点に注意をして行わなければならないのかというと、主として次のようなことを挙げることができます。

1.契約について
 □ 契約書の作成(物件・代金・支払・引渡し等)
→ 契約の証拠を作ることは基本中の基本です。
 □ 売主の所有権の有無(名義貸し・譲渡担保・共有・信託)
→ 名義は売主でも権利の有無は別問題です。
 □ 自己資金・住宅ローン融資の確認
→ そもそもお金が出なければ買えません。

2.人物について
 □ 契約相手の本人確認・意思確認・意思能力(制限能力者でないか)の確認
→ 成りすまし、契約意思が無い、意思表示ができない場合は無効です。
 □ 買主の名義(単独・共有)
→ 出資者に応じて登記名義を受けましょう

3.物件について
 □ 登記簿の確認(物件の表示・名義人の表示・権利の表示)
→ まずは登記簿を入念に調査します。
 □ 隣接地との境界の確認(境界標の有無・隣地所有者の合意)
→ 境界が明確に決まってないと隣人との将来の紛争の種になる。
 □ 現況測量・形質確認(実測面積・位置・形状・方角)
→ 現状と登記や地図は異なること多いので必ず現地確認をする。
 □ 道路の確認(接道状況・私道負担・地役権等の通行権)
→ 進入路がきちんと整理されていないと土地利用(建物建築等)に支障が出ます。
 □ インフラ設備(電気・水道・ガス・排水)
→ 最低限の生活設備は整っているか。
 □ 瑕疵の調査(土壌汚染・雨漏り・シロアリ・電気水道設備の故障等)
→ 一見して判らない欠陥でも最低限の調査はしておく。
 □ 建物の現況確認(増改築の有無・面積異同・未登記・滅失等)
→ 現況と登記をよく比べましょう。
 □ 占有者の確認(賃借権者や不法占拠者の有無)
→ 必ず誰か占有者が存在しないかの現地確認をする。

4.法令・権利制限について
 □ 制限物権の確認(担保権、用益権、賃借権・買戻特約等の有無)
→ 買う前に必ず抹消しましょう。閉鎖登記簿の確認も忘れずに(移記漏れ等)。
 □ 農地法の制限の確認(農地法3条、4条、5条・農業振興地域)
→ 農業委員会等の許可が無ければ買えません。
 □ 建築規制の内容(建築基準法、都市計画法・条例等)
→ 事前に市役所等で確認しましょう。
 □ 土地区画整理事業の有無
→ 事前に市役所等で確認しましょう。
 □ 仮登記・仮差押・差押・仮処分の有無
→ 買う前に必ず抹消しましょう。閉鎖登記簿の確認も忘れずに(移記漏れ等)。
 □ 地目による各種法令上の制限(農地・森林・境内地・墓地・保安林・公園等)
→ 取引物件によりいろんな制限や届出制度があります。
 □ 立木登記、明認方法の有無(山林取引の場合)
→ 立木の所有者は別人かもしれません。
 
5.その他
 □ 売主の税金等の滞納・信用情報
→ 買主名義になる前に差押が入る可能性あり。
 □ 税金(所得税・取得税・固定資産税・登録免許税・事業税・印紙税・都市計画税等、各種控除の可否)
→ 不動産を取得するといろんな税金が発生します。
 □ 敷金引継の問題(賃貸借物件の場合)
→ 敷金の清算引継ぎを忘れずに。
 □ マンション管理規約の内容(区分建物の場合)
→ 規約の事前チェックをする。
 □ 登記と現状の合致(事前の分合筆・変更・更正・滅失登記の要否)
→ 現況と登記が不一致の場合の対処方を検討する。
 □ 必要書類の確認(権利証・印鑑証明書・住民票等)
→ 契約や名義変更に必要な書類等の準備をする。
 

 以上、ザッと挙げてみましたが、結構いろいろと留意すべき点があるわけです。
 ところで、不動産取引をする場合、仲介業者(宅地建物取引業者)が間に入っている場合とそうでない純然たる個人間で行う場合が想定されますが、適正な仲介業者がいる場合は上記の項目は大方を業者が対処してくれるのでそう問題は生じないでしょうが、個人間で行う場合は、基本的に当事者自身で調査等をして対処しなければならないので、十分な注意が必要でしょう。いずれにしても、不動産取引は一生に一度あるかないかの買い物なのが通常でしょうから、買った後で後悔することにならないように他人任せではなく主体的に入念な準備をしたいものです。
 因みに、司法書士に不動産取引に関して登記手続の依頼をされた場合、一般的には、上記のような項目について司法書士の業務範囲内の事項については対処されるでしょうが、それ以外の部分についてはアドバイスをされる程度にならざるを得ず、仲介業者のような責任をもっての対応は難しいでしょう。


 相続時の未登記建物の処遇(2012年8月26日)

 被相続人が死亡により相続が開始した場合、不動産については相続人名義に相続登記をしていくことになります。そこで、手続に必要な調査の一環として被相続人所有の土地や建物といった不動産を登記簿等を参考に調査していくわけですが、特に建物については、登記がそもそもなされていない、つまり未登記の状態であることが田舎ではよくあります。通常、建物を建てる際には大金が要りますので、住宅ローンを組んで建てる場合が多いですが、その場合は、建てた建物を住宅ローンの担保に入れる、つまり建物に対して抵当権設定の登記をするのが通常ですので、その関係でまずは抵当権設定登記の前提となる建物新築の登記(表題登記と保存登記)をしなければなりません。しかし、別にローンを組まなくても現金で建物を新築できるような方の場合、登記をする必要性に迫られることがありませんので(ただし、法律上は登記をする義務がありますが・・・)、建てたきりで登記までしていないケースが出てくるのだと思われます。そして、建物を建てた方が亡くなられて、いざ相続登記をする際に、「元々の建物の登記がないのでこのままでは相続登記はできません(登記名義がそもそも無いので名義を変えようがないということです。)」ということになり、相続人名義で登記をしたければ、結局は建物新築の際にする登記(表題登記と保存登記)をしなければならないということになります。
 ところで、実際、相続人の方が「それじゃあ建物も相続人の名義に登記をしましょう!」となるかというと、そうもならないのが大勢のような気もします。その理由はというと、
 @ 新築でもない古い建物に測量等の調査費(結構な金額になる場合もある)まで掛けて登記をするのは気が進まない
 A 建物は土地と違っていずれ朽廃して潰れるので登記までしなくてもいいのではないか
 B 将来立替えた時にでも一緒にすればいいのではないか
といった具合でしょうか。
 そんな傾向がある中で、それでは建物の登記をしないまま放置した場合の不利益はどんなものかというと、次のようなことが想定できます。

 @ 建物の登記がないので、第三者に対して権利(建物の所有権)を対抗できない。例えば、相続人間の遺産分割協議を経て建物を単独相続したが、登記をしないで放っておいたところ、それを奇貨として他の相続人が建物表題登記をしたうえで法定相続分の共同相続登記をして、自分の共有持分を第三者に売ってしまった場合、せっかく建物を相続により単独で取得していても勝手に売られた持分は第三者に権利を主張できなくなります。

 A 上記@と同じ例で登記をせずに放置していたところ、他の相続人の債権者がその相続人の相続共有持分について差押をして登記までされた場合、その共有持分については債権者の差押が優先してしまい、結果、競売で第三者に共有持分の権利を取得されてしまう可能性が生じます。

 B 建物の登記をしていないと、将来、ローンを組んで建物の増改築をする際に、一旦古い建物全部を取り壊す場合は別にして、建物登記をしてからでないと担保設定登記ができないため、すぐに融資がなされず改築作業に入るのに時間がかかるかもしれません。

 C 法律上は、建物を新築した場合は、1か月以内に登記をしなければならないとされ、違反した場合は10万円以下の過料に処せられます。

 以上を踏まえると、建物の現状(居住の実態、築年数等)や相続人間の事情(遺産争いの経緯がある、経済的に困窮している相続人がいる等)によっては、ある程度の費用が掛かっても早々に未登記の建物についても登記をしてしまった方が無難な場合もあるかもしれません。 なお、繰返しになりますが、建物の登記は法律上は一応義務付けられていますので誤解なく。


 相続登記はいつまでにしなければならないのか?(2012年8月11日)

 相続登記に関してよく聞かれる質問として、「登記をしなければならない期限はあるのか?」という質問があります。
 法律的な答えとしては「いいえ」です。相続登記をするもしないも相続人の自由であり、いつ何時までにしなさいと強制されたりはしません。もっとも、裏を返せば登記をしなかったことにより不利益を被ってもそれは自己責任であるともいえます。
 というわけで、法律上は強制されないものの、相続登記の手続をするべき時期について以下のとおり考えてみました。あくまで個人的な考えですので、ご参考まで・・・。

1.早すぎるのはあまり良くない?
 被相続人の方が死亡してまだ数日や数週間程度しか経過していない段階で、相続登記手続をしようとすると、他の相続人の方から「待った!」がかかることがあります。「亡くなって間もないのに財産分けの話をするなんてけしからん!」というお考えの相続人の方もおられるでしょうから、あまり早い時期に手続をしようとするのは今後の相続人間の関係を拗らせる原因になりかねず、注意が必要かもしれません。もっとも、相続人全員が「早く済ませてしまおう」と合意されている場合は何の問題もありません。また、相続登記(そのための遺産分割を含む)をした後に、多額の負債が判明した場合、相続放棄をするのに支障が生じる可能性がありますので注意が必要です。

2.次代の相続人が元気な間にしてしまおう!
 例えば、被相続人である父Xが亡くなり相続が開始し、相続人が妻Y、子A、B、C、の4名である場合について、次のようなことが考えられます。

@ 遺産分割協議及び相続登記をせずに放置していたところ、妻Yが死亡してしまいました。そして、YにはA、B、C以外にXとの婚姻前に儲けた子Dがいたことが判明しました。この場合、X所有の不動産に関する遺産分割協議やその相続登記は、A、B、C、Dの4名で話し合ってしなければなりません。これまで何の面識も無い異父兄弟であるDを相手に遺産分けの話合いをするのはもしかすると骨が折れるかもしれません。

A 遺産分割協議及び相続登記をせずに放置していたところ、妻Yが認知症になり意思表示ができなくなってしまいました。これでは、Yを交えての遺産分割協議ができませんので、協議をするにはYのために家庭裁判所で成年後見人等を選任してもらい、その後見人と遺産分割協議をすることになります。この場合、後見人としては、原則としてYの法定相続分に相当する遺産についてはYに取得させなければなりませんので、Yが元気なうちであればできていたであろう遺産の分け方(例えば跡継ぎとして長男にすべて相続させること)ができなくなるかもしれません。

B 遺産分割協議及び相続登記をせずに放置していたところ、Bが不慮の事故で死亡してしまいました。Bの相続人は妻Eと子F、Gの3名です。この場合、X所有の不動産に関する遺産分割協議やその相続登記は、Y,A,C,E,F,Gの6名で話し合ってしなければなりません。Eやその子F、Gと以前から折合いが悪かった場合は、分割協議が困難になるかもしれません。

C 遺産分割協議及び相続登記をせずに放置していたところ、子Cが音信不通になり行方知れずになってしまいました。これでは、Cを交えての遺産分割協議ができませんので、協議をするにはCのために家庭裁判所で不在者財産管理人を選任してもらい、その管理人と遺産分割協議をすることになります。この場合、管理人としては、原則としてCの法定相続分に相当する遺産についてはCに取得させCが帰ってくるまで保管しなければなりませんので、Cと交流があった間であればできていたであろう遺産の分け方ができなくなるかもしれません。

 以上のように考えてみると、最低でも被相続人の妻や子供が元気で交流があるうちに遺産分割をして相続登記をしてしまうべきといえるかもしれません。もっとも、人生いつ何が起こるか分かりませんので、結局は、「できるだけ早い時期に」ということになるのでしょう。

3.書類の保存期限に注意
 相続登記の手続においては、除籍謄本、改正原戸籍謄本、戸籍謄本、住民票(除票)、戸籍の附票(除票)、印鑑証明書等々といった具合にケースによっていろんな書類が必要になったりします。そして、これらの書類の中には、保存期限(短いものは5年)が来たら廃棄されるものもあります。従って、あまりに長期間相続登記手続をせずに放置すると、いざ手続をする際に必要な書類が入手できなくなり、何とか登記をするために余分な労力や費用を費やさなければならなくなったりすることがあります。

4.登記は早い者勝ち
 相続人間で遺産分割協議をしてAが不動産全部を取得する旨の合意をしたが相続登記はせずに放置していたところ、Cが勝手に相続人4名の共同名義で相続登記をして、第3者であるHに自分の持分6分の1を売ってしまいその登記までしてしました。こうなると、AはHに対して不動産の所有権はCの分も含めて全部自分にあると主張することができません。Cの相続分については先に登記した方が優先されるのです。その結果、AはあらためてHから買い戻すなりしなければならなくなります。遺産分割協議をするだけでなく、分割協議が成立したらすぐに登記をしなければならないということです。

5.税金のことも考える
 相続税の申告期限は原則として相続開始を知った時から10か月以内なので、相続税を支払わなければならないような相続の場合は10か月以内に遺産分割協議をした方がよいでしょう。そうすると、先の事例4のとおり相続登記も協議成立後速やかにするということですと概ね相続開始後1年以内には相続登記をしてしまう場合が多くなるのかもしれません。

 さて、以上のざっと思いついたことをまとめると、あまりに早い時期に手続を進めようとするのは他の相続人との関係上よろしくない場合があるが、最低でも相続人全員が健在で意思表示ができるうちに遺産分割の協議を行い、協議が成立すれば速やかに不動産については相続登記をするべきである、そして、あえて時期を示して区切るなら税負担がある場合は1年以内、それ以外でも遅くとも5年以内ということになるのでしょうか。
 因みに、私の経験上だと、相続登記をされる時期は両極端でありまして、約7割くらいの方が相続開始後大体半年から3年以内にされ、残りの3割の方は10年以上経過してからされているように感じます。
 というわけで、いろいろ考えてはみましたが、相続の形態や相続人間の事情は千差万別ですので、遺産分割と相続登記をする時期を考える際の目安としてご参考にしてください。
 ちょうどお盆で親族が集まられる時期です。遺産分けせずに長年不動産名義を放置しているような場合は、ちょっと話を切り出してみるのもいいかもしれません。


 住所、氏名の変更・更正登記(2012年4月25日)

 今回は不動産登記のお話です。
 皆さんがお持ちの不動産(土地や建物)の登記記録には、通常所有者等の「住所」と「氏名」が記録されております。土地の所有権であれば、所有権者の住所(会社等の法人の場合は本店所在地等)と氏名(会社等の法人の場合は商号等)が記録され、抵当権等の担保権であれば担保権者の住所(会社等の法人の場合は本店所在地等)と氏名(会社等の法人の場合は商号等)が記録されるという具合です。
 ところで、皆さんが現在の住所から他の住所へ引越ししたり区画整理事業により住所が変更された場合や結婚、離婚、養子縁組等により氏名が変更された場合、登記記録の住所や氏名はどうなるのでしょうか?また、皆さんの住所や氏名が登記記録に間違って記載されていた場合は、どうすればいいのでしょうか?
答えは以下のとおりです。

1.まず、住所移転や区画整理等により住所に変更が生じた場合、市役所等に住所移転の届出をして(区画整理の場合は不要)住民票記載の住所が新しい住所に変更されますが、登記記録の住所は当然には変更されません。変更するには住所の変更登記を自ら管轄の法務局に対して申請しなければなりません。この住所の変更登記は、住所変更を証明する住民票の写し等を添付して申請します。

2.それから、結婚等により氏名に変更が生じた場合も、市役所等に婚姻届等を提出することにより戸籍や住民票の氏名の記載が変更されますが、登記記録の氏名は当然には変更されません。やはり、変更するには氏名の変更登記を自ら管轄の法務局に対して申請しなければなりません。この氏名の変更登記は、氏名変更を証明する戸籍謄本及び住民票の写し等を添付して申請します。

3.登記記録の住所や氏名が登記した当初から間違って記録されている場合は、住所や氏名の更正登記を管轄の法務局に申請し、間違った住所や氏名の登記記録を正しい記録に訂正します。この住所等の更正登記は、住所や氏名が間違って登記されたことを証明する戸籍謄本や住民票の写し等を添付して申請します。

問題点
1.住所や氏名等に変更が生じた場合において、登記記録についても変更登記をすることは案外忘れがちで、あまり気に掛けられていません。また、直ちに登記申請をしなければならないものでもありませんし、所有者等が亡くなられた場合、住所や氏名の変更登記を省略して次の代へ相続登記をすることもできるため、住所等の変更登記をしなくても問題ないとして敢えて放置されるケースも多いです。また、住所等の変更登記にも登記費用はかかりますので、必要な時まではしないという場合もあるでしょう。

2.一方、不動産を売買、贈与等により移転する登記を申請する場合、その前提として、所有者の登記記録上の住所・氏名が現在の住所・氏名と合致していなければなりません。合致していない場合は、住所・氏名の変更・更正登記を申請して合致させなければなりません。

3.そこで、いざ住所等の変更登記をする必要に迫られた場合(土地を売ることになった等)に、漸く住所等の変更登記をすることになるのが大半のように思います。

4.ところで、先にも述べましたように住所等の変更登記の申請にあたっては、住所等の変更を証明する書面を添付しなければなりません。そして、この変更を証する書面は、住民票写し等が該当します。しかし、この住民票については、古いもの(除票)につき保管期限(5年)があります。よって、保管期限が経過した古い住民票は廃棄される可能性があります。

5.ここでちょっと問題が発生するわけです。住所等の変更登記をしたいのに登記申請に添付する住民票(除票)の写しが保管期限の経過により破棄され取得できないといった問題です。

6.このようにどうしても住所移転の経緯を証明する住民票等が取れない場合は、市役所の廃棄証明書、所有権の登記済権利証、上申書等で代替し対応したりしますが、結構面倒です。

7.もっとも、最近は住民票等の保管期限が経過しても保管を継続している市役所もありますから相当古くても取得できる場合もあります。また、戸籍の附票には過去から現在までの住所移転の経緯が記載されていますので、この戸籍の附票をもって変更証明書とするこので足ります(ただし、転籍をされている場合は古いものは廃棄されている場合もあります。)。

まとめ
 土地や建物といった不動産をお持ちの方(名義人となっている方)の中でも、特に住所や本籍を転々とされている方、数度の婚姻と離婚により数回に亘り氏の変更が生じている方は、落ち着いた段階で住所等の変更登記をしておいてもいいかもしれません。


 休眠担保権−篠山版−(2012年5月25日)

 依然ご紹介しましたが、既に実体上の効力を失っているにもかかわらず登記簿上に残存している古い抵当権等のことを休眠担保権といいます。休眠担保権が存在する原因は、既に金銭を返済をしているにもかかわらず登記だけ消すのを忘れていたケースが多いのですが、この休眠担保権は、既に効力を失っているにもかかわらず登記簿上から消し去るのに多大な労力を要するという誠に厄介なものであります。
 ところで、実はこの休眠担保権、多く存在する地域とほとんど存在しない地域があるんです。一般的には都市部の不動産にはほとんど存在せず(実際、都会の方の司法書士に聞くと「そんなの見たことない」という方も結構います)、地方に割合多いといわれますが、地方の中でも特に昔は地場の金融機関がたくさんあった(現在は解散、統合等でほとんど存在しない)ような地域には、いまだに相当数の休眠担保権が存在しているといわれています。そして、丹波地方(篠山市、丹波市、京都府の一部)は、ズバリこの休眠担保権多数存在地域に該当すると考えられます。
 そんなわけで、今回は、この休眠担保権について特に篠山地域によく残っているものの代表例について、名称と抹消登記の方法を簡単にご紹介しようと思います。具体的には次のとおりです。

@ 株式会社137銀行 → 三井住友銀行(現存)が承継 
⇒ 銀行に協力依頼のうえ抹消する

A 篠山信用組合(多紀郡信用金庫) → 中兵庫信用金庫(現存)が承継 
⇒ 銀行に協力依頼のうえ抹消する

B 株式会社古市銀行 → 解散・清算
⇒ 裁判所で清算人選任のうえ抹消する

C 株式会社兵庫県農工銀行 → 株式会社みずほ銀行(現存)が承継
⇒ 銀行に協力依頼のうえ抹消する

D 株式会社兵庫銀行 → 解散・清算(株式会社みなと銀行が関係)
⇒ 裁判所で清算人選任(既に選任されている場合あり)のうえ抹消する

E 中丹銀行(篠山銀行) → 解散・清算
⇒ 裁判所で清算人選任のうえ抹消する

 上記はごく一部であり、他にもたくさんあります。抹消登記の方法の詳細については、依然の記事「眠れる抵当権を起こせ!! 第3回」をご覧下さい。

 もし、ご自分所有の不動産に上記金融機関等の古い担保権が付いたままであることを発見された場合は、お早めに抹消されることをお勧めします。詳しくは司法書士までご相談下さい。

(ご注意)
 返済し終わった住宅ローン等に関する担保権の登記はどれだけ時間が経っても勝手に消えてくれたりはしません。消すには、法務局に対する申請手続が必要です。この申請手続をせずに放置してしまうと、上記の休眠担保権になってしまい、登記を抹消するのが困難になりかねません(必要書類を紛失したり、担保権者が倒産したり、世代が替わってそもそも返済したのかが不明になったりします。)ので、住宅ローン等の返済が終わった場合は、法務局への抹消登記の申請も速やかに行うようにしましょう。
 登記手続は素早くするのが肝要です。


 地縁団体(村)所有の不動産の名義(2012年3月17日)

 篠山市にも多くの自治地区(自治会部落)があり、各地域においては、その多くが昔からのその地域の住民全員の共有(法的には総有)の財産、特に山林、原野、雑種地、公民館敷地、運動場等の不動産を持っておられます。そして、これら不動産に対する権利についての一般的な認識としては、当該地域に住む住民が所属する村ないし自治会の所有物といったものでしょう。しかしながら、不動産登記法に基づく日本の不動産登記制度においては、従来から○○自治会、□□町内会、△△管理組合といった地縁団体の名称で登記名義を記録することが認められておりません。これは、通常、一定の地域住民で構成するいわゆる自治会や町内会といった団体は、法律的には「権利能力なき社団」、「法人格なき社団」とされており、登記名義人となるための権利能力や法人格がないため、不動産に対する権利(所有権)の主体として登記簿に登載することはできないからである、というのが理由とされています。
そこで、多くの自治会等では、団体としての登記ができないため、総会等で当該自治会等の中から代表者として登記名義人になる者を1名ないし数名選任し、便宜これらの者の名義で登記をしているところが多いのです。
しかしながら、このようにやむなく個人名義で登記をする場合、以下のような不都合、問題点も生じてきます。
@ 代表者個人の不動産と混同されてしまい、個人の所有物と主張される虞がある。
A 代表者の交代の度に名義変更の登記が必要となり、特に代表者の死亡に伴う交替の場合は、その相続人に名義変更の手続に協力してもらわなければならないため大変である。
上記のような問題への一般的な対処方法としては、以下のとおりです。
@ 名義人となる代表者から、個人所有物ではない旨の念書等をもらっておく。
A 代表者名義人の数を極力少なくし(せいぜい1名〜3名くらい)、また、死亡のリスクを抑えるためできるだけ年齢の若い人を代表に選出する。
B 認可地縁団体の制度(地方自治法260条の2)により、市町村長から認可を受けて、法人格を付与してもらう。
 将来的なことも考えると、Bの利用がベストかもしれませんが(現に篠山市内でも結構増えてきたように感じます)、地域によって事情や考え方は様々なので、一概に認可地縁団体名義にすることがいいとはいえないようにも思いますし、もちろん認可要件や申請手続の負担(規約作成等)はあります。しかし、前記の問題点を考えると、認可地縁団体にならない場合でも、最低でも@やAの対策は採っておいた方がいいかと思います。また、代表者が死亡しているのに登記名義の変更手続を行わずに長年放置していると、代表者の相続人の数が膨大に膨れ上がり、名義変更の手続が極めて困難になることもあります(相続人全員の協力が必要です。1人でも協力してもらえないと、裁判等により解決せざるを得ません。また、相続人が行方不明等になるケースもあります)ので、速やかに名義変更手続を行うべきでしょう。
 地縁団体所有の不動産の登記について、お困りの方は、司法書士までご相談下さい。


 不動産に関する登記は2種類あり、専門家も2種類います(2012年3月11日)

 今回は不動産登記のお話です。
 実は、不動産(土地や建物)に関する登記は、2種類あり、1つは表示に関する登記、1つは権利に関する登記です。
 まず、表示に関する登記とは、簡単に言うと、@土地の所在・地番・地目・地積に関する登記と、A建物の所在・家屋番号・種類・構造・床面積に関する登記です。例えば、農地から宅地への地目変更の登記や、建物を新築した際の新設の登記、土地の分筆・合筆の登記などが該当します。言ってみれば、不動産の現況を登記簿に表す登記です。
 一方、権利に関する登記とは、不動産(土地や建物)の所有権や不動産に対する各種権利(抵当権、地上権等)についての、権利者(名義)や権利の内容に関する登記のことをいいます。例えば、相続・売買・贈与等による所有権等の権利移動の登記や、住宅ローン借入に伴う担保権の設定登記、住宅ローン返済に伴う担保権の抹消登記などが該当します。こちらは、不動産の権利関係を登記簿に表す登記です。
 ところで、上記のとおり不動産登記には2種類あるわけですが、不動産登記に関する専門家もそれに応じて2種類あります。表示に関する登記の専門家は、土地家屋調査士という職業です。不動産の現地で測量等をすることにより表示に関する登記を依頼者に代わって法務局へ申請します。一方、権利に関する登記の専門家は、我々司法書士です。不動産に関する権利の移転・設定・変更・消滅の法律判断をし、その結果を登記簿に反映する権利に関する登記を依頼者に代わって法務局へ申請します。
 というわけで、依頼者の皆さんからすれば大変ややこしいことですが、一口に不動産登記といいましても、登記の内容によってそれぞれ専門家が異なるということをとりあえずご理解いただければと思います。
 もっとも、両職業とも、同じく登記の専門家ですので、どちらに相談に行けばいいのか判らない場合でも、とりあえずどちらかにご相談されれば、他方職を紹介する等の適切な対応がなされるのが通常ですのでご安心下さい。


 相続登記の手順(2012年3月5日)

 数ある登記手続の中でも、比較的多くの方が経験するメジャーな登記手続として「相続登記」があります。「相続登記」は、亡くなった被相続人の遺産たる不動産について、その登記名義を相続人に変更する所有権移転登記を管轄法務局へ申請することにより行います。
 以下、極一般的なケースの「相続登記」の手順について、簡単にご案内します。

1.遺言の調査
 まず、遺言の有無を確認しましょう。公正証書遺言の場合は、該当しそうな公証役場へ問合せます。自筆証書遺言の場合は、金庫等を調べたり、預っていそうな人に聞いたりします。もし自筆証書遺言があれば、速やかに家庭裁判所に検認申立をします。

2.遺産たる不動産の調査
 遺産たる被相続人所有の不動産について、漏れなく調査します。調査方法は、権利書、固定資産課税明細書、名寄せ帳等々を基に、法務局の登記簿を調べます。田舎の場合、ため池や公衆用道路、他人との共有物件などが比較的調査漏れしやすいので注意しましょう。

3.相続関係の調査
 相続する権利のある人物を漏れなく調査します。調査方法は、基本的に、被相続人の出生から死亡までの戸籍、除籍、原戸籍の謄本を調べることにより、相続人(配偶者、子又は親又は兄弟姉妹)が誰であるかを洗い出します。極稀に、戸籍上からは分からない相続人がいることもありますが・・・。

4.評価額の調査
 相続対象物件たる土地、建物の固定資産評価額を市役所等で調べます。登記申請の際の登録免許税の計算に必要です。

5.その他関係書類の取寄せ
 相続人全員の現在の戸籍騰抄本、住民票(相続する人だけでもOK)、印鑑証明書(遺産分割協議等をする場合)、住民票除票又は戸籍の附票(被相続人の本籍と登記簿住所が異なる場合)などを取寄せます。

6.遺産分割協議等の法律行為
 相続人が複数の場合は、遺産たる不動産の分け方を協議して決定します。相続放棄する場合は、家庭裁判所へ申述します。

7.書類の作成
 遺産分割協議書等の書類を作成し、相続人全員が実印を押したりします。
 また、登記申請書類(申請書、相続関係説明図等)を作成し、申請人が押印します。

8.書類の提出
 管轄の法務局へ、上記7の書類を提出します。

9.登記の完了
 数日待てば、登記が完了します。完了したら、完了書類(登記識別情報、登記完了証、戸籍等の還付書類)を法務局から受け取ります。また、確認のため、登記完了後の登記簿謄本の交付も行います。

10.最後の確認
 法務局から書類を受け取ったら、きちんと申請どおりの登記が行われているかどうかを書類で確認します(たまに字が間違っていたりすることもあったりします・・・)。

 以上が、極一般的な相続登記の手続の流れです。複雑なケース(数代相続、相続人の行方不明、遺産争い、相続人が海外在住等々)では、更にいろいろと検討しなければならない点も出てきます。
 こうして見ると相続登記も結構大変なのかもしれません。相続登記でお困りの場合は、司法書士までご相談下さい。


 中間省略登記はできません(2012年2月19日)  

 「中間省略登記」とは、読んで字の如く、「中間の権利移動(名義人)を省略して、最終の権利移動(名義人)のみを申請する登記」のことをいいます。
 例えば、次のようなケースをいいます。
 甲が乙にA不動産を売り渡し、さらに乙が丙にA不動産を売り渡しましたが、登記名義は甲にある場合において、中間の権利取得者である乙をすっ飛ばして直接甲から丙へA不動産を売り渡したかのように装い、甲から丙へ直接名義変更をするような場合です。
 さて、この「中間省略登記」は、現在の不動産登記の法制度においては認められておりません(ただし、例外として、相続登記や、住所等の変更登記などでは、認められるケースもあります。)。不動産登記制度では、現実の権利変動の過程を忠実に登記記録に反映しなければなりませんので、先の例では、甲→乙→丙の順に登記の名義変更をしなければなりません。
 ところで、中間者に行政(市町村)が入っている場合にも、依然は、中間省略登記がされることが多々ありました。例えば、市がA土地を甲から買収し、その代金の一部として、乙から買収したB土地を譲渡するような場合のB土地について、本来であれば、乙→市→甲と権利移動があったので、この順番で名義変更の登記をしなければなりませんが、中間の市をすっ飛ばして直接乙から甲へ売買したかのように名義変更を行うケースです。もちろん、間に公的機関が入っていても中間省略登記に変りはなく、このような登記申請は行うべきではありませんが、法改正前の旧不動産登記法では完全に防止できなかったため、事実上このような中間省略登記がまかり通っておりました。
 しかし、不動産登記法の改正に伴い、現在は、登記を申請する際に、権利変動の実体を詳しく記載した登記原因証明情報という書面(情報)を原則提供しなければならなくなりましたので、あえて虚偽の登記原因証明情報を作成して提供でもしない限り、中間省略登記は、法務局の側でも容易に判断できるようになり、受け付けられなくなりました。
 いずれにしても、中間を省略した虚偽の登記を申請することは、後々の紛争等にも繋がりかねませんので、止めておきましょう。因みに、司法書士は、中間省略登記の依頼はお受けしませんので、ご承知おきください。
 なお、以上のとおり中間省略登記はできませんが、「第三者のためにする契約」や「買主の地位の譲渡」という方法を用いることにより、結果として中間省略登記と似たような効果を発生させることがあります。しかし、これらの方法はあくまで中間省略登記とは別物であり、不動産登記制度上も適法であるとされていますので、誤解なく。


 電子申請(2011年12月13日)

 ありとあらゆる商品等がインターネットで購入できる現代社会においては、行政機関等への各種手続もインターネットを利用して行えるようになってきていることは皆様ご承知のとおりであります。代表的なものでは税金の確定申告がありますが、我々司法書士の業務におきましても法務局への不動産登記や商業・法人登記の申請手続、供託手続、裁判所への支払督促申立、電子定款の認証手続といったものがあります。
 さて、上記のような電子申請手続が導入された目的は、国民の利便性の向上、行政の効率化に資するためというのが一番であるかと思いますが、一方でなかなか一般に浸透しない現実があったりもします。その原因は、機械(パソコン)に不慣れ、手続が複雑、確実性に疑問といったところがあるかと思います。
 そこで、国は電子申請を行ってもらうためのインセンティブ(奨励)として、減税等の負担軽減を行ったりしております。例えば、登記手続でいうと、一定の登記申請手続に関しては、電子申請をすると登録免許税(登記等をするときに納める税金)をちょっとお安くしたりしています。
 というわけで、我々司法書士も、依頼者の方の利益になることは積極的に取り組まなければなりませんので、ここ数年、司法書士会を挙げて電子申請に積極的に取り組んできております。しかしながら、いまだ手続上の問題点・改善点等もあるため、なかなか業界の中で浸透しきれない現実もあったります(ちなみに聞くところによると篠山管内は電子申請率がすこぶる悪いとのこと)。
 当事務所は、ご依頼の内容にもよりますが、極力、電子申請をするよう取り組んでおりますので、ご相談の折は、ご参考下さい。


 登記と税金(2011年12月7日)

登記を申請する場合、ほとんどの場合その登記を申請するに至った原因行為又は原因事実というものがあります。例えば、原因行為としては、売買、贈与といった法律行為があり、原因事実としては、時効取得といった事実状態があります。そして、これらの原因行為ないし原因事実があったから登記を申請するということになります。
 ところで、登記の原因に対しては、原因行為等を行う前に常に税金のことを念頭に置いておかなければなりません。そうでないと、想定外の税金が課税され、登記が終わってから後悔することをもしばしばです。
 すぐに思いつく課税の例としては以下のようなものがあります(もちろん、課税が発生しない場合もあります)。
@ 売買の場合
 買主には不動産取得税、固定資産税が発生します。安く買いすぎた場合は贈与税が発生することもあります。一方、売主には、譲渡所得税が発生します。
A 贈与の場合
 受贈者には贈与税、不動産取得税が発生します。
B時効取得の場合
 取得者には、不動産取得税、一時所得税が発生します。
C相続の場合
 相続人に相続税が発生します。
 その他、離婚に伴う財産分与、建物の増改築、不動産の交換なども注意が必要です。
 また、税金の猶予、免除等を受ける場合(住宅ローン減税、相続時清算課税制度、贈与税の農地等納税猶予制度、譲渡所得税の交換特例など)は、その要件に合致しているかを事前に十分に確認しておかなければなりません。
 さらに、自然人(個人)と法人(会社等)では課税対象等が異なることもあり要注意です。
 
 さて、登記の専門家である司法書士としては、基本的に税金については責任ある詳細なご説明はできません。もちろん、ある程度のことは登記に関連してアドバイスいたしますが、最終的には依頼者の方の自己責任です。
 というわけで、登記が絡むような行為を行われる際は、それによりどういった税金が発生するのかということを事前に税理士さんや税務署に対し入念に確認しておきましょう。後から思わぬ税金が課せられることのないようくれぐれもご注意下さい。


 権利証(登記識別情報)がない場合の登記手続

 例えば、Aさんが所有する土地をBさんに売買や贈与した場合、Aさん名義の登記をBさん名義に変更する所有権移転登記の申請手続をすることになります。ここで、所有権移転登記の申請手続には、Aさん名義に登記をした際の「権利証(又は登記識別情報)」が必要となってきます。ところが、Aさんはこの権利証を紛失してしまっています。さて、このような場合、どうすればBさん名義に登記名義を変更することができるのでしょうか?
 そもそも、上記のような登記手続をする際に権利証が要求されるのは、通常権利証は登記の名義人となっている者本人が所持しているものと考えられるため、このような本人しか持ち得ないであろう書類を提出させることによって、登記の申請が本人の意思に基づいた真実の申請であることを手続上担保するためです。つまり、法務局の登記官(登記手続の審査をする人)は権利証の提出があれば、名義人本人が申請をしているを形式的に判断するわけです。
 そこで、今回のように現在の名義人であるAさんが権利証を失ってしまっている場合は、権利証の提出に代わる「本人性を確認するための手続」を踏まなければなりません。そこで、このような場合に通常利用される方法としては、@事前通知制度の利用とA資格者代理人による本人確認情報の提供の2種類の方法が考えられます。
 まず、@の「事前通知制度の利用」とは、本来必要な権利証を付けずに登記申請をすると、法務局より「このような登記の申請が貴方からありましたが間違いないですか?」という通知書が本人宛に郵送されます。但し、この郵送は本人限定受取郵便という特殊な郵便でなされます。これは本人しか受け取れない郵便物と考えればいいでしょう。そして、この通知を受け取った本人さんが今度は法務局に対し「間違いないです」という申し出を行います。これによって登記の申請が本人によってなされていることが法務局の側で確認され、権利証がなくても登記が実行されることになります。
 一方、Aの「資格者代理人による本人確認情報の提供」とは、登記申請手続の代理人である司法書士が、「この登記申請は本人さんが行っているものに間違いないですよ」という内容を記載した情報を権利証の代わりとして法務局に提出することにより、登記申請が本人の関与のもとで行われていることを証明する方法です。この本人確認情報が提出された場合は、法務局の登記官が本人に間違いないだろうと判断すれば登記を実行してくれます。
 以上、かなり簡単な解説になりましたが、要するに、万一、権利証を紛失等してしまった場合でも登記をする方法はあるということですので、ご安心下さい。


 眠れる抵当権を起こせ!! 第3回  

 今回は、前回までと異なり、法人(会社とか)名義の抵当権の抹消登記の方法についてご紹介します。
 まず、法人の場合でも、前回までにご紹介した供託して抹消する方法は使えます。ただし、法人が行方不明というためにはその登記簿(閉鎖登記簿を含む)が全く存在しないという場合でなければなりません。しかし、現実に抵当権名義人たる法人の登記簿が見つからないというのは極めて稀であり、ほとんどの場合は法務局の方にその閉鎖登記簿が存在します。したがって、この場合個人の場合のように供託して抹消することはできません。ちなみに運よく(?)登記簿がない場合はそのことを自分で証明して抵当権者の行方不明を証する書面とすることができます(調査報告書を作って実印を押印の上、印鑑証明書を添付します)。
 さて、抵当権者たる法人A株式会社の商業登記簿を調査したところ、A株式会社の登記簿が見つかったとします。もっとも、ここでは休眠抵当権の抹消登記のお話をしているわけですから、このA会社は何十年も前に解散しているのが通常です。そこで、まずA会社の解散原因に着目します。A会社が解散に際して合併等でどこそこの現存するB会社に承継されている場合、話は簡単です。そのB会社に抹消登記をしてくれるよう依頼すればいいだけです。当然債権自体も消滅時効にかかっているわけですからお金を返してくださいという話にもならないでしょう(費用負担については別です)。問題は、ただ単に解散して清算事務を行っている場合です。この場合は、解散後の清算人(会社の清算事務を行う人。たいていは登記簿に載っています。)に対して抹消登記を依頼します。この清算人が今現在も生存していればこれで話は進むことでしょう。
 しかし、そうもいかないのが法人の休眠抵当権抹消の難しいところです。例えばA会社が大正時代に解散していた場合はどうでしょう。会社の清算人には当時の取締役等が就くことが多いですが、取締役というからには当時は結構なお歳の方がやっておられます(最近はそうでもないですが)。そうすると、大正時代に例えば50歳だったとすると今現在その方が生存している可能性は普通に考えても皆無でしょう。え〜っ!!それじゃあ一体誰を相手に抹消登記を依頼すればいいの?という話になってきますよね?
 さて、抵当権を抹消しようにも相手方となる金融機関がすでに存在せず解散時の清算人もすでに亡くなっているような場合、どのようにして抵当権を抹消すればいいのかということですが、最も基本的な方法としてはその解散会社の清算人を作り出すことが考えられます。ここでいう作り出すとは裁判所に清算人を選任してもらうということです。
 まず、裁判所に清算人選任の申立てをすることになるのですが、そのためには解散会社の清算人が欠けていることを疎明しなければなりません。そこで、会社の閉鎖登記簿を調査して登記簿上記載されている最後の清算人全員の存否を調査します。これは戸籍等を調査して死亡しているか等を調べるということです。そして、全員死亡していることが判明すれば、その戸(除)籍謄本と調査結果を申立書に添えて裁判所へ提出します。
 また、申立てをする際には予め裁判所に選任してもらう清算人の候補者を申立人の側で立てておきます。そうすると清算人として問題なければその候補者を清算人として選任してもらえます(ただし、裁判所によって運用が異なるようですので予め内諾を得ておきます)。
 最後に、新しく選ばれた清算人の方に協力していただいて抵当権の抹消登記を申請します。この際、登記申請に必要な抵当権設定の権利証がありませんので、事前通知制度等を利用しなければなりません。
 以上が、手続きの概略ですが、実際は相当細かい手続きが要求されますので、万が一このような事例に出くわした場合はお近くの司法書士に依頼されたほうがよろしいかと思います。
 ちなみに、このような事例は通常1つだけではありませんので、他の方が過去に上記の手続きを採ったことがあるはずです。したがって、過去に裁判所に選任されてそのまま残っている清算人の方がおられるかもしれませんのでそのあたりも確認するといいでしょう。


 眠れる抵当権を起こせ!! 第2回

 前回の続きですが、Dの方法は大まかに言うと以下のように行います。

 ア まず、抵当権者の住所に宛てて被担保債権を受領するよう要請する旨の債権受領催告書を送付します。現在の住所が分からない場合は(むしろこちらの方が通常でしょう)、登記簿上の住所に宛てて出します。この場合、配達証明郵便で出します。そうすると、宛先に抵当権者が住んでいなかったり宛先自体が既に存在しない場合は不到達で返ってくるでしょう。
 イ 次に、抵当権の被担保債権の全額及びそれに対する借入日から弁済期までの利息と弁済期から現在までの遅延損害金の全額を抵当権者に対して供託します。注意すべき点は、例え一部返済していても必ず全額を供託することです。
 ウ それから、弁済期から20年を経過していることを証明するために債権の弁済期を証する書面を入手します。一般的には閉鎖登記簿謄本でしょうか。
 エ 最後に、アの不送達を証する書面とイの供託書正本とウの閉鎖謄本を抹消登記申請書に添付して法務局に申請します。

 かなり省略して説明しましたが、大体上記のようにして行います。この方法だと何とかできそうな気がしませんでしょうか?ちなみにアとウの書類は別の書類でも代替できます。
 詳しく書き出すとキリがないのでここまでにしておきますが、もしご自分の土地に変なのもの(?)が付いているのを発見されたときは、事案によっては時間がかかるものもありますので、後々のためにも早めに着手されることをお勧めします。
 なお、アの催告書を出される場合は、万一届いてしまった場合のことも考えて慎重に行わなければなりません。というのも抵当権者の相続人等に受け取られたり、場合によっては債権の消滅時効の利益を放棄したものとみなされることがあるからです。そうなってくると手続きの方がかなり紛糾してきますので、十分注意しなければなりません。


 眠れる抵当権を起こせ!! 第1回

 皆さんがお持ちの不動産に眠っている抵当権はありませんか?
 一体なんのことや?と思われるでしょうが、例えば先祖代々の土地やかなり古い建物で全く名義変更等されていないものをお持ちの場合、ごくまれにではありますが、明治時代に設定された抵当権や質権なんかが残ったまま放置されている場合があります。このような抵当権等はかなり昔のものであるため金額も何十円、何百円といったものが殆どですが、だからといって放っておいていいかといいますとそうでもありません。
 何故なら、たとえ100円の抵当権であっても、それがあるがために土地を売れなかったり、新しく融資を受けられなかったりするからです。また、そんな予定は全くないという場合でも、未来永劫に亘って100円抵当権が自分の土地に付いてまわるというのは人によってはなかなかうっとうしいものです。
 では、どうやってこの忘れ去られた抵当権を消せばいいのでしょうか?相手方である抵当権の名義人が分かっているならその人と交渉すればいいだけですので話は簡単です。しかし、明治や大正時代に設定されたものとなると、もはやその抵当権者は亡くなっている可能性が高いですし、たとえ生きておられても所在不明な場合が多いでしょう。そこで、このような場合の抵当権を抹消するために考えられる主な方法としては以下の5つがあります。

 @ 抵当権者又はその相続人を探し出して抹消してくれるように交渉する。
 A 公示催告、除権判決を経て単独で抹消登記を申請する。
 B 抵当権者を裁判で訴えて抹消登記をする旨の判決を得る。
 C 債権証書(借用書)と受取証書(領収書)を付けて単独で抹消登記を申請する。
 D 休眠担保権の抹消登記制度を用いて単独で抹消登記を申請する。

 さて、どの方法が一番有用でしょう?
 まず、@ですが、皆さんもお分かりのとおりこの方法は原則的な方法ではあるものの極めて困難です。時間、労力、費用の点から考えれば現実的ではありません。
 次に、A、B、Cですが、ABは裁判所を通してやる以上、ある程度の時間と費用は覚悟しなせればなりません。また、ABCに共通するのは一定の証拠(借用書、領収書)がいるということです。しかし、そんなものがあればとっくの昔に気付いて抹消しているわけですし、明治時代の借用書等がきちんと残っていることは殆どないでしょう。従って、この方法もいまいち実効性がありません。
 そこで、一般的に採られるのがDの方法です。・・・が詳細は次回で。


 相続登記

 一般に人が亡くなった場合、相続という法律上の効果が生じるということは皆さんご存知のとおりでありますが、この相続に関連して、仮に土地や建物の所有者(登記上の名義人となっている方)が亡くなった場合、その亡くなられた方の名義を相続人の方に変更する必要が生じてきます。そこで、必要となってくる手続きが相続登記というものです。
 さて、この相続登記ついてですが、不動産の登記上の名義人の方が亡くなられたらすぐにしなければならないのかというと、法律上はそのようになっておりません。また、相続登記をするには税金や申請手続の面でけっこうな費用が掛かりがちです。そういうわけで、亡くなられてもすぐには相続登記がなされない状況が結構あるわけです。
 しかし、あまりにこれを放置しすぎると後々大変なことにもなりかねません。というのも、人というものは時が経つにつれてどんどん世代を重ねていきますので、その血族関係は次第に複雑多岐に亘っていきます。そこで、相続登記をせずに長年放置しておくと、いざ亡くなられた方の名義の不動産を処分しようとする場合、その前提として相続登記が必要になるのですが、相続関係が複雑化してしまっているが故に、その相続登記に膨大な時間、費用、労力を要することになり、必要なときにすぐに処分できない事態が生じてきます。
 従って、相続登記は 『出来るときにやってしまう』 のが最良の策であり、自分の子や孫に難解な課題を残さないためにも、簡単に出来るときにやってしまうのがよいでしょう。
 司法書士は相続登記の法律専門家ですので、思い立たれた日には一度相談されるとよろしいでしょう。