丹波篠山市の司法書士事務所
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土地の所有権の放棄(2019年1月17日・vol.284)
新年早々、風邪で寝込んでしまいましたが(インフルじゃなくてよかった
)、ようやく頭がちょっとだけ回り始めましたので、今年最初の一題です。
昨今の
「負動産」問題
で、できるものなら土地(あるいは建物)の所有権を放棄したい、との希望を持たれる方も増えているようですが、土地の所有権を放棄するのは実際に可能でしょうか?
まず、土地の所有権放棄の背景問題(動機)ですが、土地の所有権を放棄したいという場合のその土地はどういう土地なのかというと、言うまでもなく
いわゆる「価値のない土地」
である場合がほとんどでしょう。都会の一等地の土地が要らないので所有権を放棄したいという人は通常いないわけで(引き取り手は数多いるのだから、放棄するまでもなく売買なり贈与なりすればよい)、放棄の対象となるのは田舎の田畑、山林、原野等の市場価値がほとんどないため処分ができず、また、自己で使用する予定もたたないにもかかわらず、管理コスト(固定資産税、草刈等の維持管理費等)と所有者責任だけが伸し掛かってくるような土地なのです。このような土地だから、いっそのこと「捨ててしまいたい」となってくるのでしょう。
それでは、ここから法律上の問題を検討していきますが、まず、
法律(民法)の条文上では、不動産の所有権を放棄することができるということは書かれていません。
しかし、法理論上、不動産の所有権についても他の権利と同様に放棄することは
一般論として可能である
とするのが学説の多数といわれており、最近の裁判例でもそのように述べられたものがあります(
広島高裁松江支部平成28年12月21日判決
)。
では、理屈の上では土地の所有権も放棄できるとして、次に、土地の所有権を放棄するとその土地は一体誰のものになるのかというと、民法の条文では、
「所有者のない不動産は、国庫に帰属する。」(民法239条2項)
とされています。よって、その場合は、国が新たな所有者となることになりそうです。
さて、そうすると、とりえあえず理屈の上では、個人がその所有する土地の所有権を放棄すると、その土地の所有権は国に移り、以後、国有地として国が責任をもって管理していくことになるので、「バンザーイ
」となりそうですが、実際、そんなことが認めてもらえるのでしょうか?
ここで、まず、
登記手続上のハードル
があります。所有権を手放すことができても、所有権の登記名義も変更できなければ登記上は依然として所有者のままなので、実質的に意味がありません。したがって、国(財務局)の協力を得るかたちで(登記は原則共同申請・不登法60条)、国の名義へ所有権の移転登記をすることになりますが、
通常、国(財務局)はそんな登記手続には協力してくれません。
そうなると、今度は、国を相手に訴訟(
登記引取請求訴訟
)を提起して、裁判所から登記手続を命じる判決をもらえば、単独申請の方法で国名義への所有権移転登記が一方的にできるんだから(不登法63条1項)、その方法を採ろうということになってきそうですが、裁判(訴訟)になると、裁判所は登記の原因である土地の所有権の放棄の有効性についても判断することになりますので、裁判所の土地の所有権放棄に対する考え方が問題になってきます(
裁判上のハードル
)。この点において、先の高裁の裁判例では、一般論として土地の所有権の放棄が可能であることを示したうえで、
「権利の濫用」
を理由に該当土地の所有権の放棄を認めませんでした。簡単に言えば、
「負担や責任を負いたくないとの観点から価値のないものを一方的に相手方(国)に押し付けるような行為は認めない」
という感じでしょうか。(そのほか
公序良俗違反
で無効とかも理由としていわれたりします)。
以上のように、現状では、確実に土地の所有権を放棄して土地所有者としての束縛から逃れることはなかなか難しいのです。
となれば、次の一手として、「わしの代ではこの土地を放棄することは難しそうじゃが、息子よ、わしが死んだ後の相続の際にこの土地だけ相続放棄をするがよい
」、「ラジャー、おやじ
」という考えが浮かんできそうです。相続放棄により相続人が不存在となった土地は、一定の清算手続を経た後、最終的に国庫に帰属するとされていますので(民法959条)、それなら文句ないだろうというわけですが、残念ながら、民法は、
相続財産の部分的な放棄を認めていません(民法939条)
。よって、もし相続放棄した場合は、他の預貯金等の財産を含む一切の財産を相続できなくなってしまいますので、現実的にはこれもちょっと使えそうにありません。
う〜ん、こうなってくると、もう法改正でもされないと土地の所有権を放棄することはできそうにありません。というわけで、現在、将来的な法改正の可能性も見据えた議論が所々で行われているようです。さて、どうなることやら。