
2025年6月
法律相談は難しい(2025年6月27日・vol.405)  |
日本には多種多様ないわゆる士業が存在しており、多くの士業団体では、無料の相談会が日々開催されているものと思います。そして、相談会を担当する各士業者は、限られた時間の中で相談者のニーズをくみ取り、相談内容に対して正確で的確な回答をすべく、悪戦苦闘されているのでしょう。
一方、相談者の側では、インターネット等で事前にある程度の調査をされていたり(最近の検索エンジンでは、AIが自動的にネット上の情報を収集・要約して回答を示してくれます(正解かどうかは別にして))、すでに複数の相談会に行かれていたりして、それなりの知識を備えたうえで相談に臨まれていることも最近は非常に多くなっているように思います。
よって、相談担当者の悪戦苦闘ぶりは今後も増していく一方なのでしょう(前に別の司法書士から聞いた回答と違う、ネット情報と違う・・・みたいな)。
さて、今回は、そんな法律相談の現場からの小ネタのご紹介です(もちろん架空のお話)。
例えば、相談会場に相談者の方が自筆の遺言書原本を持参され、「この遺言書は有効でしょうか」と質問があったとします。
相談担当の司法書士としては、まずは、民法968条の形式的要件(全文、日付、氏名の自書と押印、財産目録の形式)を満たしているかの確認をします。
(参照条文)
民法
(自筆証書遺言)
第968条 自筆証書によって遺言をするには、遺言者が、その全文、日付及び氏名を自書し、これに印を押さなければならない。
2 前項の規定にかかわらず、自筆証書にこれと一体のものとして相続財産(第997条第1項に規定する場合における同項に規定する権利を含む。)の全部又は一部の目録を添付する場合には、その目録については、自書することを要しない。この場合において、遺言者は、その目録の毎葉(自書によらない記載がその両面にある場合にあっては、その両面)に署名し、印を押さなければならない。
3 自筆証書(前項の目録を含む。)中の加除その他の変更は、遺言者が、その場所を指示し、これを変更した旨を付記して特にこれに署名し、かつ、その変更の場所に印を押さなければ、その効力を生じない。
ここで、一見して明らかに日付や氏名の記載がなかった場合、基本的には「この遺言書は残念ながら無効だと思います」と言わざるを得ないでしょう。
では、一見して明らかに押印が無い場合はどうでしょう。ここでも同じ回答をしそうなところですが、実は次の裁判例があります。
1.平成6年6月24日最高裁判所第二小法廷判決
→ 原審:平成5年8月30日東京高等裁判所判決
2.昭和25年4月27日静岡地裁浜松支部判決
詳細は、裁判例を読んでいただくとして、要は内容物の遺言書本体に押印が無くても封入されていた封筒に押印がある場合は、遺言書が有効になることもありうるということです。
よって、相談担当者としては、遺言書の封入の有無、仮に封入されていたのであれば、封筒の状況等についても聴取、確認すべきことになります。
なお、封筒が封緘されていなかった場合や家庭裁判所の検認前に封緘を解いて中身の遺言書を取り出している場合は、遺言書と封筒の一体性の問題が生じると思いますが(※1)、ここでは、あくまで相談対応としては、「遺言書本体だけではなく、封入されていた封筒への押印の有無も念のため確認すべき」ということです。
※1 封緘された自筆証書遺言と封筒の関係性(2022年6月30日・vol.359)参照
また、仮に自筆証書遺言が形式上一見して無効と思われる場合でも、死因贈与契約の成立が認められる可能性もあるため、この点についても相談対応としては言及して差し上げるべきでしょう(※2)。
※2 自筆証書遺言無効と死因贈与(2023年11月27日・vol.384)
最後に、現在、法制審議会(民法(遺言関係)部会)で遺言制度のデジタル化等について審議されている状況ですので、近い将来、遺言の作成方式についても大きく変わってくるかもしれません。こちらも注目です。