2023年8月


 単に権利を得、又は義務を免れる法律行為(2023年8月23日・vol.379) 


 事務所前にて、毎年恒例の無主物先占(民法239条1項)からの山へリリース

 子供の頃に人から物をもらって家に持って帰ると、親から「勝手に人から物をもらってはいけません。すぐに返してきなさい。」とよく怒られた記憶がありますが、民法には次のような規定があります。

(未成年者の法律行為)
第5条 未成年者が法律行為をするには、その法定代理人の同意を得なければならない。ただし、単に権利を得、又は義務を免れる法律行為については、この限りでない。
2 前項の規定に反する法律行為は、取り消すことができる。

 この条文をさらっと読むと、人から物をもらう行為は、贈与契約(民法549条)であり、れっきとした法律行為である。よって、未成年者(18歳未満)が受贈者の場合は、法定代理人(親権者)の同意を得なければならず、同意がない場合は、贈与契約を取り消すことができる(もらった物を返すことができる)とまず考えてしまいそうです。

 ところが、民法5条1項但書では、「単に権利を得、又は義務を免れる法律行為については、この限りでない。」とされているため、贈与契約において負担等がなく、単純に物をもらうだけの場合は、ここでいう「単に権利を得」る法律行為にあたり、親権者の同意を得る必要はありません。よって、同意を得ていないことを理由に贈与契約を取り消すこともできないことになります(物をくれた人に返しに行ったら受け取ってもらえなかった場合はあきらめるしかありません。)。

 さて、では、ここでいう物が不動産の場合はどうでしょう。

 例えば、高校2年生(17歳)のA君が親戚の叔父さんに「もう住まないから田舎にある家とその近辺にある広大な山を君にあげるよ」と言われ、親に確認もせずに「ありがとう、いただきます」と答えた場合はどうでしょう。

 この場合も、先に述べた考え方と同じであり、不動産の贈与契約は有効に成立しており、契約内容も単に不動産の所有権を得るだけのものであるため、民法5条1項但書に該当し、よって、同条2項に基づき、親権者の同意を得ていないことを理由に贈与契約を取り消すことはできない、というのが一般的な回答になりそうです。

 でも、この結論は妥当なのでしょうか。確かに、A君は、契約上では何の負担もなく単純に不動産の所有権を得ているだけですが、不動産を所有するということは、後から負担(固定資産税、その他の維持管理費、管理義務等)が発生することは明らかです。まして、叔父さんがくれたのが「負動産」と揶揄されるような売却等による処分が容易でない田舎の不動産の場合は、A君の将来的な負担はより重いものとなる可能性もあります。果たして、このような重い負担が生じうる不動産の贈与を受けることを未成年のA君だけで判断させて良いのでしょうか。おそらく、A君は後で親にめちゃくちゃ怒られ、親は叔父さんに「要りません」と言うかもしれませんが、叔父さんの対応によっては面倒なことになるかもしれませんよね。

 ちなみに、不動産の贈与契約が有効に成立した場合は、所有権の移転登記申請(いわゆる名義変更)を行うのが通常ですが、先の例では、A君は意思能力があるため、親権者の同意や代理を要せずに、自身で叔父さんと共同して所有権移転登記申請をすることが可能であるというのが登記実務(明治32年8月1日民刑1361)最高裁判例(昭和43年3月8日民集22・3・540)です。よって、すでに贈与不動産の名義変更が終わった後に親に発覚することも無きにしも非ずということになります。

 それでは、最後に、司法書士が、意思能力のある未成年のA君とその叔父さんから上記の贈与契約に基づく登記申請の依頼をされた場合、どのような対応をするのでしょうか。

 (心の声)契約は有効だし、後から親権者に取り消されるおそれもないし、未成年とはいえ登記申請の意思能力はあるみたいけど、親の同意は得ていないようだから後から苦情を言われるかもしれないよな〜・・・。

 ※ 話のネタや事例はすべて妄想ですので、おかしなところがあってもご勘弁。




 保存行為による相続登記申請の応用版3(2023年8月8日・vol.378) 



○ォーリーを探せじゃないですが、この画像の中にカエルが少なくとも4匹います。
探してみましょう(ヒント:顔だけ、お尻だけの子もいます)。


 さて、前々回からの表題のネタの第3弾です。
 今回のネタはわりと新しい令和5年4月1日施行の改正不動産登記法第63条第3項の規定に基づく遺贈の登記です。厳密には今回は相続登記ではないですが、相続人に対する遺贈は相続登記と実質的に同じなのでこのような規定ができたというわけで、今回とり上げました。条文は以下のとおりです。

不動産登記法第63条
第3項 遺贈(相続人に対する遺贈に限る。)による所有権の移転の登記は、第60条の規定にかかわらず、登記権利者が単独で申請することができる。

(例題)
 遺言者(被相続人)Xは、遺産である甲土地を、相続人A、B、Cのうち、A及びBに対し各2分の1の割合で遺贈する旨の遺言を残して死亡した。
 相続人である受遺者Aは、当該遺言に基づき、甲土地について遺贈による所有権移転登記を申請しようとしたが、相続人Bは精神上の障がいにより意思能力がないため登記申請ができない。
 この場合、Aは、不動産登記法第63条第3項の規定に基づく単独申請で遺贈による所有権移転登記を行う場合、いかなる名義形態での登記申請を行うことができるか。

(回答)

1.まず、Aは、自己の持分(2分の1)のみについて、遺贈による所有権一部移転登記を単独で申請することができると考える(c.f.相続が原因の場合は不可)。

2.また、Aは、民法第252条第5項に基づく有者の保存行為として、A及びBの共有名義(各持分2分の1)での遺贈による所有権移転登記を単独で申請することもできると考える。


という趣旨の先例解説が、民事月報令和5年5月号に載っているそうです(研修会の講師の先生が言っていましたので確かでしょう)。

 ちなみに、この遺言のケースで、遺言執行者Yが選任されている場合、Yは、不動産登記法第63条第3項に基づき、単独で回答2のような登記申請をすることができるのでしょうか。
 
 この件は、今年1月31日の記事で言及しておりましたとおり、個人的にけっこう気になっていましたが、こちらはなんと「不可」との解説が同誌でなされているそうです(同)。詳しくは、同誌をご確認ください(近々登記研究誌にも載ると思いますが)。