2022年10月


 遺産分割協議と特別代理人(2022年10月29日・vol.365) 

 この季節、ハロウィン(ハロウィーン)を Helloween と書く人はきっと生粋のメタラーに違いないと勝手に思っている今日この頃です。

 さて、今月号の月報司法書士(608号)に表題の記事(東京地裁判決令和2年12月25日判例時報2513号42頁の紹介・検討)が載っていました(ほかの記事は読まなくてもここの連載は読んでいる同職は多いはず。)。

 掲載の裁判例の内容は、簡単に言うと、父親が早逝し、その妻と未成年の子2名が相続人となったケースで、遺産分割協議をするために子2名について家庭裁判所で民法826条の特別代理人を選任のうえ、妻と特別代理人2名の三者間で遺産分割協議を成立させたが、遺産分割の内容(大部分の遺産を妻が取得し、子らの取得分は法定相続分はおろか遺留分をも下回るもの)が不公正である等として子の一人が遺産分割協議から約24年後に同協議の不成立ないし無効を主張して妻(母)を相手に不当利得返還請求の訴訟を提起した事例です(詳細は雑誌を買って読みましょう)。

 記事に載っていた判旨のポイントとその検討で個人的に興味が引かれたのは、以下の2点です。

1.事例の場合で、特別代理人が未成年の子の遺産取得分が法定相続分又は遺留分を下回るような遺産分割協議を成立させることは許されるか。

2.特別代理人が家庭裁判所で選任される前にした遺産分割協議の瑕疵(無権代理行為)は、後日の選任審判により治癒されるか。

 まず、1の点については、私も前(利益相反する遺産分割と特別代理人選任申立てのコツ?(2013年10月30日))に書きましたが、原則的には法定相続分の確保が必要だと思いますが、家裁の実務ではそれなりの合理的な理由があれば子の取得分が法定相続分(あるいは遺留分)を下回るような遺産分割協議(案)であっても特別代理人の選任審判がなされることはあるわけで(遺産の内容によっては妻10、子0もあり得る)、後は特別代理人の責任でやって下さいという感覚でしょうか。ただ、記事の裁判例の事案については、遺産の内容からすれば、さすがに子の取得分をここまで少なくするような遺産分割協議は家裁が選任してくれたとしてもマズいんじゃないかなと個人的には思いましたので、仮に私がこの遺産分割協議案で特別代理人になって下さいと頼まれたらまず引き受けなだろうなと思いました(十数年後〜が怖いので・・・)。

 次に、2の点についてですが、こちらは普通はやらないでしょうが、知らずに遺産分割協議をやってしまった場合のリカバリー策としては参考になるかもしれません。

 最後に、記事では特別代理人の報酬の出どころ(申立人負担か未成年者負担か)についても検討されていたのでこちらも参考になると思いました。



 会社に戻る気はないのだが・・・(2022年10月20日・vol.364) 

 さて、最近は、司法書士会の研修もWEBで受講できるようになったので、他府県の司法書士会の研修でも受講可能なものがあったりします。
 以下、昨日受講した群馬県司法書士会の労働問題研修(講師は弁護士さん)の一つのネタですが、興味深かったのでご紹介します。

 勤務先の会社から不当解雇された場合で会社相手に訴訟をする場合、従業員(原告)がもうその会社に戻る気は無くても、とりあえず

1.地位確認(解雇無効確認)
2.賃金請求(民法536条2項)
3.不法行為の損害賠償請求(慰謝料請求)

の3本立てで訴訟物を定立するのがスタンダードですが、これに対し、最近は、相手方の被告会社から、
1.請求の認諾(全面降伏)
→ 解雇は撤回する、裁判確定までの分は賃金を支払う、慰謝料も支払う

あるいは、請求の認諾とまではいかなくても、

1.解雇撤回、出社要請

の主張をしてくる場合がある模様(特に解雇無効を最初から認識している悪質な会社に多い)。

 被告会社の狙いは、まずは2と3の賃金と慰謝料の金銭支払いの減額ですが(請求の認諾をして早々に幕引きを図れば支払金額は抑えられるし、解雇撤回のうえ出社できるようにすれば2の賃金請求の主張は潰せる)、それに加えて後日会社に出社しない原告(就業環境が改善されていない会社に改めて出社する気になれない)を晴れて正式に解雇することも画策されているようです。

 これに対する対応策もいろいろ考え出されていますが(不法行為で再提訴、解雇撤回(受領拒否の撤回)は不可、信頼関係の破壊等)、どれも決定力に欠けるみたいで、なかなか難しい問題です。