2025年10月


 遺産分割の形態と登記手続(2025年10月27日・vol.409)  

 特に目新しい問題ではありませんが、先日、同職の方から表題に関連する質問があり、改めてちょっと検討してみましたので、以下、書き留めておきます。

1.遺産分割の形態といえば、

@ 協議による遺産分割(民法907条1項)
A 調停による遺産分割(家事法244条・別表第2の12等)
B 審判による遺産分割(民法907条2項本文、家事法191条以下、別表第2の12)

の三類型が通常は想定され、これらに基づき相続等の登記申請手続を行うときは、

@は、遺産分割協議書+関係相続人全員の印鑑証明書
Aは、遺産分割調停調書の正本又は謄本
Bは、遺産分割審判書の正本又は謄本

を登記原因証明情報として添付することになります。

2.ところが、ごくまれ(?)に上記三類型以外の形態で遺産分割がされるケースがあり、その中の一つとして、訴訟上の和解手続において遺産分割をしているケースがあります(私自身がこれまでに関与できたのは、職歴約20年で3回くらい?)。

 そして、今回の質問もこのケースになります。

 なお、訴訟上って何の訴訟?ということが気になりますが、これは遺産相続に関係する多種多様な訴訟が考えられ、例えば、遺産確認訴訟、遺言無効確認訴訟、証書真否確認訴訟等が想定できます。要するに、遺産紛争に関連する訴訟における和解手続の際に、せっかくだからついでに遺産分割も一緒にしてしまいましょう、ということなのでしょう。

3.さて、ここからが検討事項になりますが、まず最初の問題として、上記三類型以外の方法で遺産分割を成立させてもよいのか(家裁ではなく地裁や簡裁で遺産分割してもよいのか)と思ってしまいます。が、そもそも遺産分割の協議自体、場所的にはどこでやっても問題ないはずなので、別に地裁や簡裁の和解の席で遺産分割協議をしたっていいでしょ、手続法的にも訴訟上の和解の要件(@和解の対象となる権利関係が当事者の自由な処分に委ねられていること及びA和解の内容が公序良俗違反その他法律上許されないものでないこと)を満たしているなら和解の一環として遺産分割を成立させても問題ないでしょう、ということでここはスルーします(←あくまで私見ですよ〜。)。

4.では、次に問題となるのが、訴訟上の和解手続において遺産分割を成立させ、当該和解内容に基づく相続等の登記申請手続を行う場合において、法務局に提供すべき登記原因証明情報として、何を提供すべきかという問題であり、登記手続の専門家である司法書士としては、主としてこちらの問題が気になるところでしょう。

 @ まず、和解調書の正本又は謄本(申請する登記の内容によっては正本でなければならない場合もありますので注意)が必須なのは当然です。なお、言うまでもありませんが、当該和解手続に関係相続人全員(代理人弁護士を含む。)が関与していることは絶対条件です(家裁での遺産分割手続じゃないので念のため注意)。

 A 次に、@を提供する以上、関係相続人全員の印鑑証明書の提供は要しない(調書に押印は付いていないのでしても意味がない)ことになりますが、それでもって遺産分割の真正な成立を担保できるのかを一応考えますが(上記3の検討事項の絡みもあるので)、ここはもう地裁(簡裁)の関与のもとで成立した和解内容である遺産分割に基づく登記申請であることを前面に出しますので、法務局もスルーしてくれるでしょう。

 B 最後に、被相続人にかかる相続関係を証する戸籍資料一式の提供を要するか問題ですが、これは基本的に必要と考えます。地裁や簡裁での訴訟上の和解手続は、家裁の遺産分割調停や審判手続とは異なり、裁判所が職責として相続人全員の確定作業をしているとは限らないので、法務局側としては、相続人の確定資料として戸籍資料を要求してくるのが通常と思われるからです。これを言うと、和解調書に「参加者全員は、参加者が相続人の全員であることを確認した」との記載があるから戸籍資料は省略できるでしょ、と言われることがありますが、確認したのはあくまで和解手続の参加者であって裁判所ではないのでは?というのが、個人的反論ですが、如何に?

 C 最後にと言っておきながら、もう一つおまけで、家裁での遺産分割調停でも同じですが、裁判所の調書の記載から、複数の当事者(相続人)を一人の弁護士が代理して和解期日で和解を成立させている場合、「これって双方代理(民法108条1項)じゃないの」と考え、登記手続の際に法務局から指摘されないか心配になる方もいるかもしれませんが(私は昔思いました・・・)、その辺は裁判所の手続の中で当事者本人から予め許諾が得られているはずでしょ、ということで登記手続の際に指摘されることはないのが通常でしょう(なお、裁判外での遺産分割の場合は要注意)。

 以上のようなことを考えつつ大まかに回答しましたが、結局最後は「経験と感覚」で「いいんじゃないの(知らんけど)」というお決まりのフレーズを差し上げました。

※ 後日談で、件の結果はアーライだったそうです。めでたしめでたし