2017年7月


 相続放棄と空き家問題(2017年7月22日・vol.257) 

 空き家の問題がクローズアップされてきた今日では、「亡くなった親が住んでいた田舎の実家が空き家になったが今後は管理できないので相続を放棄したい。」というご相談がある一方で、「近所の家が空き家になっていて荒れ放題で物騒あるいは壁や屋根が崩れかけていて危険だが相続人がきちんと管理しないので困っている。」というご相談が間々あったりします。
 まず、相続放棄した相続人の空き家の管理についてですが、民法940条では「相続の放棄をした者は、その放棄によって相続人となった者が相続財産の管理を始めることができるまで、自己の財産におけるのと同一の注意をもって、その財産の管理を継続しなければならない。」と規定してあります。よって、空き家について相続放棄をした相続人は、次順位の相続人(相続人が存在しなくなる場合は相続財産法人(相続財産管理人))が当該空き家を管理することができるまで一定の管理義務を負うことになります。ただし、この管理義務は、他の相続人や相続財産法人に対して負う義務であり、第三者や行政に対する義務ではないとされていることに注意が必要です。
 次に、空き家の関係では、最近できた「空家等対策の推進に関する特別措置法(以下、「空家特措法」といいます)」の関係でも相続放棄をした相続人の管理義務を検討しなければなりません。空家特措法第3条では、空家等の所有者等の責務として「空家等の所有者又は管理者(以下「所有者等」という。)は、周辺の生活環境に悪影響を及ぼさないよう、空家等の適切な管理に努めるものとする。」と規定されており、また、 同法14条では、特定空家等に対する措置として、概要「市町村長は、特定空家等の所有者等に対して、特定空家等に対する適切な措置をとるよう助言、指導、勧告、命令(過料の制裁あり)を行うことができる」と規定されています。よって、もし、相続放棄をした相続人も、空家特措法でいう「管理者」に該当する場合は、同法の適用対象となる可能性があるからです。
 この点については、まず、空家特措法第3条の関係では、「相続の放棄をした者も空き家を事実上管理している者については、同条の「管理者」に含まれると考えられています。よって、民法第940条により相続放棄をした相続人が空き家の管理を継続している場合は、空家特措法第3条の適用対象になる(管理の努力義務がある)と考えられます。
 しかし、相続放棄をした者の管理行為については「民法第103条の範囲(保存、利用、改良行為)に限られ、処分行為は含まれない」と解されており、また、相続放棄をした者が処分行為を行うと、民法第921条により単純承認を行ったとみなされる(つまり空き家を相続したころになる)おそれがあるため、空家特措法により民法に規定されている以上の義務や責任を負う必要はないと考えられます。
 よって、結論としては、仮に、相続放棄をした者に対して空家特措法第14条の助言、指導、勧告、命令がなされたとしても、そもそも必要な措置をとる権限がないので、これに応じる義務はない(必要な措置をとらない正当な理由がある)と考えられます。
 もっとも、空き家の放置による社会的な不利益は大きいものがありますので、やむなく相続放棄をされた相続人の方においても、自らの負担を軽減する意味でも、早急に他の相続人に空き家を引き渡すか、最終的に相続人が存在しなくなった場合は相続財産管理人の選任を家庭裁判所に申立てるべきかと思います(←とは簡単に言うものの、人間関係や費用面でこれがうまくいかないから滞ってしまうのですが・・・)。