2015年7月


 相続放棄が絡む相続登記の添付書類(2015年7月23日・vol.228) 

 従来の登記実務によると、例えば法定相続分による相続登記を申請する場合において、相続人の中に相続放棄をした者がいる場合、登記申請書には、当該相続人の相続放棄の申述が家庭裁判所において受理されたことを証明する書類を添付しなければならないとされており、当該書類としては、原則的には、家庭裁判所が発行する「相続放棄申述受理証明書」のみが該当するとされていました。
 ところが、司法書士なら誰もが読んでいるであろう権威ある某登記専門誌の本年6月号によると、例えば上記のような登記申請の場合、「相続放棄申述受理証明書」はもちろん、相続放棄申述受理証明書と同等の内容が記載された@「相続放棄等の申述有無についての照会に対する家庭裁判所からの回答書」A「相続放棄申述受理通知書」も添付書類として認められる、といった趣旨の記事が掲載されていました。
 @は照会者(通常は相続放棄をした相続人本人以外の者)に家庭裁判所から自動的に交付されますし、Aは相続放棄をした相続人本人に同様に交付されます。一方、「相続放棄申述受理証明書」については、相続放棄の申述が受理された後、あらためて相続人等から家庭裁判所に対し、交付申請書を提出し、手数料(収入印紙)を納めて交付してもらう必要があります。したがって、相続登記の手続において、@やAの書類を相続放棄の証明書として使用できるということは、申請人等において労力やコストの面で手続の負担が軽減されますので非常に有り難いところです。
 司法書士としても、以上のとおり登記実務の取扱いが変更され定着すれば、有り難いところですが、これをもって家裁への「相続放棄申述受理証明書」の交付申請の件数はかなり減少するのでは?と思ったりもします。


 少額債権の回収はメリハリが大事?(2015年7月18日・vol.227) 

 5万円の未収金を回収するために、あなたはいくらまで回収費用をかけますか?
 
 簡易裁判所の代理権が司法書士に付与されてからは、司法書士においてもいわゆる債権回収業務をすることが従来に比べて多くなりましたが、司法書士の場合、回収する債権の金額は、代理権の範囲の制限(140万円以内)もある関係で少額であることが多く、債権額が10万円未満の債権の回収に関するご相談も結構多いのが実際です。したがって、必然的に債権回収コストを低額に抑えることが要求されます。
 ところで、債権回収を専門家(弁護士、司法書士)に依頼した場合のコストはどんなものかといいますと、まず、回収コストの内訳としては、通常、@着手金(回収の成否にかかわらず発生)、A成功報酬(回収額の何パーセント)、B実費(通信費、裁判費用、旅費等)が考えられます。したがって、専門家に依頼して裁判手続まで行ったうえでうまい具合に債権全額の回収ができたとしても、@ABのコストがすべて発生しますので、少額債権の場合は依頼者(債権者)の方の実入りがどうしても少なくなってしまいますし、場合によっては「持出し(赤字)」になることもあるでしょう。もっとも、C専門家名義での催告書等の文書の作成のみを依頼する場合であれば、回収コストをかなり低く抑えることが可能かもしれません。なお、専門家に依頼しなかった場合では、回収コストはBのみに抑えられます。
 したがって、専門家に依頼するにしても、自分で行うにしても、少額債権の回収に取り組む場合は、「その債権を回収するためにいくらのコストをかけるのかを予め決めておく必要がある」と思います。「もうちょっとやってみよう」とダラダラとやっていると、あっという間にコストが膨らんできますので、「ここまでやって駄目ならあきらめる」という姿勢も重要であると思います。
 ただし、「何もせずにあきらめる」という選択は、特に事業者の方の場合は、「風評被害(あそこは払わなくても問題ないという噂)」が発生する可能性がありますので、避けた方がいいかもしれません。

 さて、表題の質問ですが、自分で回収される場合は、赤字にはならないと思います。仮に裁判までしたとしても、裁判費用自体はそんなにかかりませんので(裁判所に納める手数料1000円と郵券代5000円くらい)、その他に交通費、電話代等がかかっても、全額回収できれば黒字でしょう。もちろん回収できなければ持出しになりますが、それでも実費だけなので、諦めもつきそうです。一方、専門家に依頼した場合ですが、さすがに裁判手続まで依頼すると全額回収できても赤字になりそうです。全く回収できなければ金銭的にはかなり辛いところです。しかし、専門家名義で催告書等を作成して1回程度の電話交渉のみを依頼する程度であれば、仮に全額回収できれば、黒字になると思いますし、回収できなくでも持出しは比較的少なくて済むうえ、「やることはやった」と踏ん切りは付くかもしれません。また、「気持ちの問題」として、裁判でも何でもとことんまでやるという方もおられるでしょうから、結局は、個々人の考え方次第でしょうか。


 間違いやすい相続関係 〜その5〜(2015年7月9日・vol.226) 

 養親子関係において、養親の一方が死亡した後に、養子が他方の生存養親と離縁されているケースがありますが、現行の民法においては、この離縁によって消滅するのは生存養親との絡みにおける当事者間の法定血族関係だけであり、死亡した養親との絡みにおける関係者間の法定血族関係は当然には消滅しません。そして、死亡した養親との絡みにおける法定血族関係も消滅させるには、家庭裁判所の許可を得たうえで離縁の届出をすることが必要です(民法811条6項)。後者の離縁を法律用語で「死後離縁」といいますが、現在の法律上、養子が両養親及びその血族との親族関係を完全に断ち切りたいのであれば、この死後離縁までする必要があるのです。なお、死後離縁をしたからといって養子の死亡した養親の相続人としての地位には影響はありませんので、この点の心配は無用です。
 ところが、昔の旧民法においては、上記のような離縁のケースについて、現行民法とは異なる取り扱いがなされていました。養親の一方が死亡した後に、養子が他方の生存養親と離縁した場合、その離縁の効力はすでに死亡している養親にも及び、死亡養親との法定血族関係も消滅すると解されていたのです(大正8年1月8日民2335回答等)。つまり、あらためて死亡養親と死後離縁の手続を踏む必要はなかったわけです。
 というわけで、相続登記等の相続関係の把握が必要な手続において、旧民法が適応されるような古い時代に上記のような生存養親との離縁がなされている場合(あくまで離縁した時期が重要です。)、現行法と旧法の死後離縁の違いを理解していないと正しい相続関係を判断できない場合があったりします。特に、被相続人の兄弟姉妹が相続人になる可能性のある相続の場合、相続人適格や相続分に影響するような場合もあるので、要注意でしょう。


 見上げてごらん〜♪(2015年7月6日・vol.225) 

 「最近空を見上げてないな〜」とふと思い、自宅の窓から空を見上げてみると以前は無かった電線が自宅敷地の上空を横切っているのを発見した、なんてことはないでしょうか?もちろん、自宅とは全く関係のない送電線です。土地上空に電線を設置することを承諾した覚えもないのにこれって法的に問題ないのでしょうか?
 この問題を考える場合、まず、そもそも土地の所有権の効力はどの範囲まで及んでいるのかということを考える必要がありますが、民法には次のような規定があります。

(土地所有権の範囲)
第207条  土地の所有権は、法令の制限内において、その土地の上下に及ぶ。

 つまり、土地の所有権は、その土地の地表面だけでなく、その土地の上空及び地下の一定範囲にも及んでおり(もちろん常識的な範囲であり、飛行機に上空を通過するな何てことはいえません。)、ただ、他の法令(これが結構多い)によりこれら所有権の及ぶ範囲が制限されることがある、ということのようです。
 では、送電線を土地の上空に設置(常設)する必要がある場合は、当該土地の所有権は無条件で制限される、というような法令はあるのかというと、私の知る限りそんな法令は知りません(電気事業法58条に一時使用の規定はありますが)。もちろん、区分地上権や地役権が設定された場合は(このケースはよく見かけます)、土地の所有者が承諾しているわけですから制限されるのは当然ですが、そのような権利設定もなく無断で他人所有の土地の上空(5メートル前後)に電線が設置されている場合は、やはり、明らかな所有権侵害ではないかと考えられます。
 というわけで、無断で自分の土地の上空に送電線を設置されたのであれば、これは早急に文句を言わなければなりませんが、どこに言えばいいかというと、やっぱりこれは電線を設置した(電線の所有者である)電力会社ということになるのでしょう(この辺でいえば関電?きん電?)。明らかに土地の上空に設置されているのであれば、相手もプロである以上、事実を認識している可能性が高いので、事実を伝えればそれなりの対応がなされるのではないかと思います。
 以上、たまには空を見上げてみましょうというお話でした。