2024年6月


 農地の共有関係の解消方法(2024年6月30日・vol.390) 

 遺言に関する研修会を受講していると、「年齢に関係なく遺言書は作っておくべき」なんて話をされることがよくありますが、私はというと、遺言書こそ作っていませんが(理由は今のところ必要性に迫られていないだけ)、財産目録は作り置き(変化があれば随時更新)しています。遺産の相続の手続をする際にまず最初に困るのが、遺産の正確な内容が分からないことだからです。また、近年はネット銀行やデジタル遺産なんてものもあり、遺産の内容が複雑化する一方なので、残された相続人に対して遺産の内容を明確にしておく必要性はますます高くなっていると思います。
 遺言書は作らないまでも、財産目録を作っておくことは、去り行く者の一つのマナーではないかと最近よく思います。

 さて、話は変わって表題のお話です。
 司法書士の仕事をしていると、昔に行った共有登記名義の不動産について、共有関係の解消(ここでは共有者のうちの1名に権利を集約するという趣旨)とそれに伴う登記手続のご相談を受けることは結構多いのですが、とりわけ田舎では共有関係を解消したい不動産が農地(田、畑)であることがよくあります。

 そして、農地の共有関係を解消する場合、まず最初に頭をよぎるのが農地法における権利移動の制限、つまり農地法第3条の許可の問題です。共有関係を解消するということは、農地の所有権(共有持分権)を他者へ移すということですから、必然的に農地法の規制がかかってくるのです。

 そこで、農地の共有関係を解消する場合、解消する方法に応じて、農地法の許可の要否、可否の検討が必要となります。

 まず、通常よくとられる解消方法(共有持分の売買、贈与、共有物分割等)については、基本的に農地法の許可を受ける必要があります。

 では、田舎の経済的価値の低い農地の共有関係を解消するために農地法の許可手続のような手間、時間、費用がかかることなんてできれば避けたいという場合、どうすればよいのでしょう。

 この点、通常よく使われる方法は、民法の共有持分放棄の方法です。

民法
(持分の放棄及び共有者の死亡)
第255条 共有者の一人が、その持分を放棄したとき、又は死亡して相続人がないときは、その持分は、他の共有者に帰属する

 この民法第255条による共有者の持分放棄による権利移動については、農地法の許可は不要とされていますので、権利放棄の対価が不要で課税問題(贈与税等)もクリアできるのであれば、まず、この方法が使えないか検討することになるのでしょう。

 なお、共有者が3名以上の場合における共有持分の放棄に伴う権利移動の経過が複雑になるという問題がありますが(例えば、共有者ABCDEの場合で、Eが放棄した共有持分はABCDに移り、Dが放棄した共有持分はABCに移り、・・・)、少なくとも登記実務上では、一括申請の方法が認められているので(BCDEが共有持分を放棄してまとめてAに移転したという原因関係)、そこはあまり難しく考えなくてもよいでしょう。

 次に、共有名義の登記が、法定相続分に従ってなされた遺産分割未了状態での相続登記の場合は、もう少し深く方法を検討することになります。

 まず、遺産分割による権利移動については、農地法第3条の許可は不要とされています(農地法第3条第1項12号)。

 また、令和5年4月1日より、法定相続登記後に遺産分割が成立した場合は、権利取得者の単独申請により遺産分割を登記原因として所有権更正登記が可能となっています。

 加えて、相続税は別として、あくまで遺産分割による相続権利関係の確定なので、課税問題(贈与税、不動産取得税)もクリアできそうです。

 そうすると、共有名義の登記がなされた実体関係を調査したうえで、それが法定相続分による共有名義の登記である場合は、共有持分の放棄ではなく、遺産分割による方法を採る方が、よりメリットが多そうです。

 なお、相続を原因として共有名義での登記がされている場合でも、それが法定相続分による登記とは限らない(遺産分割の結果、一部の相続人の共有としている場合や、法定相続分とは異なる割合で登記している場合もある)ので、そこは要注意でしょう。

 以上、ザックリとした内容でしたが、ご参考まで。