2025年7月


 役員変更登記手続請求訴訟(2025年7月29日・vol.406)  

 今年上半期の企業の倒産件数が例年に比べ多くなっているそうです。原因はいろいろでしょうが(巷では物価高や人手不足などと言われていますが)、司法書士業務に関連して言えば、企業の景気が悪くなると、関連して起こりがちなのが会社の登記(特に役員変更登記)懈怠の問題です(会社の登記をするにはお金がかかりますので、そういうものは後回しになりがちかと)。
 
 さて、本題ですが、会社の役員を退任したのに会社が役員変更登記手続をしてくれない場合の対処法の一つである役員変更登記手続請求訴訟(裁判手続)について、あまり参考になる書籍等がないので、以下、ざっくりと整理、検討してみました。

(仮想事例)
 最近、会社の経営状態がよくないみたいで、役員報酬ももらっていないので、早々に会社との関係を断つべく、辞任届(退社届)を会社に提出し、役員を退任したが、会社が役員変更の登記手続をしてくれない。

(検討事項)
1.訴訟の目的:役員退任登記がされずに放置されていることのリスク回避(会社法908条1項)、ただし、当該役員が権利義務状態になっている場合(会社法364条1項)は、勝訴しても登記できないので注意

2.訴額:160万円(非財産権上の請求)

3.管轄:会社本店所在地の地方裁判所
→ よって、司法書士は訴訟代理できないが、退任の事実が証拠上明白であれば(他に争点がなければ)、書類作成援助での対応も十分可能かも

4.被告:会社
→ 登記懈怠の過料制裁(会社法976条1号)や訴状等送達(民事訴訟法102条1項)は会社代表者宛ですが、被告はあくまで会社

5.訴訟物:役員退任登記手続請求権(?)

6.要件事実:@原告の被告取締役就任、A同登記の存在、B原告の取締役退任、C同登記の未了

7.登記申請:退任した元役員(原告)が会社(の代表者)を代理して申請する。
→ 不動産登記のような法令上の規定はないが、登記先例あり。ちなみに、添付書類は、勝訴判決正本(確定証明書付き)と委任状(代理申請の場合)、登録免許税は申請人(退任した原告元役員)でいったん負担せざるを得ないか

(参照法令)
○ 会社法
(登記の効力)
第908条 この法律の規定により登記すべき事項は、登記の後でなければ、これをもって善意の第三者に対抗することができない。登記の後であっても、第三者が正当な事由によってその登記があることを知らなかったときは、同様とする。
2 故意又は過失によって不実の事項を登記した者は、その事項が不実であることをもって善意の第三者に対抗することができない。
(変更の登記及び消滅の登記)
第909条 この法律の規定により登記した事項に変更が生じ、又はその事項が消滅したときは、当事者は、遅滞なく、変更の登記又は消滅の登記をしなければならない。
(変更の登記)
第915条 会社において第911条第3項各号又は前3条各号に掲げる事項に変更が生じたときは、2週間以内に、その本店の所在地において、変更の登記をしなければならない。
2 以下省略
(過料に処すべき行為)
第976条 発起人、設立時取締役、設立時監査役、設立時執行役、取締役、会計参与若しくはその職務を行うべき社員、監査役、執行役、会計監査人若しくはその職務を行うべき社員、清算人、清算人代理、持分会社の業務を執行する社員、民事保全法第五十六条に規定する仮処分命令により選任された取締役、監査役、執行役、清算人若しくは持分会社の業務を執行する社員の職務を代行する者、第960条第1項第5号に規定する一時取締役、会計参与、監査役、代表取締役、委員、執行役若しくは代表執行役の職務を行うべき者、同条第2項第3号に規定する一時清算人若しくは代表清算人の職務を行うべき者、第967条第1項第3号に規定する一時会計監査人の職務を行うべき者、検査役、監督委員、調査委員、株主名簿管理人、社債原簿管理人、社債管理者、事務を承継する社債管理者、社債管理補助者、事務を承継する社債管理補助者、代表社債権者、決議執行者、外国会社の日本における代表者又は支配人は、次のいずれかに該当する場合には、100万円以下の過料に処する。ただし、その行為について刑を科すべきときは、この限りでない。
@ この法律の規定による登記をすることを怠ったとき。

(参照裁判例)
○ 昭和40年1月28日大阪高等裁判所判決

(参照先例)
○ 昭和30年6月15日付民事甲第1249号民事局長回答