2021年1月


 相続分の譲渡の応急的活用(2021年1月30日・vol.320)  

 民法(相続法)が改正されてからは、仮に「○○銀行△△支店の預金は、Xに相続させる」旨の公正証書遺言書(これを「特定財産承継遺言」という。)がある場合でも、そのうち時間がある日に銀行の窓口に行って単純に当該預金の払い戻しを受ける、というだけでは足らず、他の相続人の債権者からの差押が入るおそれがある等、場合によっては、受益相続人(X)又は遺言執行者から銀行に対し、確定日付のある証書(内容証明郵便)による通知をすべきというケースもあります(民法899条の2第1項、第2項)
 最近は、巷の銀行支店では内容証明郵便が届くことが増えているのでしょうかね?

 さて、遺産分割を行う場合において、相続人が多数いる、一部の相続人だけ反対している等の事情により、長期間に亘り協議が成立しないケースがあります。そして、あまりに時間をかけていると、そのうち相続人の一部が死亡し、さらに相続(数次相続)が発生することで相続関係が複雑化してしまうケースもあります。
 そんな場合は、さっさと見切りをつけて家庭裁判所に遺産分割の調停を申し立てるのがベターですが、身内での裁判沙汰はちょっと・・・という方もおられるでしょう。
 そんなときの応急的な対策として、相続分の譲渡(民法905条)を活用する方法があります。相続分の譲渡とは、「遺産全体に対する包括的持分権ないし相続人たる地位を譲渡すること」をいい、相続分を譲渡したときは、譲渡した相続人が有する一切の権利義務(積極・消極の両財産)が譲り受けた相続人に移転することになります。そして、譲渡した相続人はその相続における相続人たる地位を失い、他方、譲り受けた相続人は、その相続において自らが有する相続分がその分増加することになります。例えば、被相続人がX、相続人が子A、B、C、D、Eのケースで、C、D及びEがAに相続分の全部を譲渡した場合は、Xの遺産において、権利を有するのはAとBだけになり、また、Aの相続分は5分の4となり、Bの相続分は5分の1のままという具合です。そうなると、あとは、AとBだけで時間をかけて遺産分割の協議でも調停でもすればいいことになり、その遺産分割においては、C、D、Eの事情は考慮する必要はなくなります(仮に、相続分の譲渡後にCらが死亡しても関係相続人が増えることもありません。)。また、相続分の譲渡を受けたAは、残る相続人Bとの関係では、相続分の割合において優位な立場に立てます。言うならば、「我々は、遺産はいらないし、揉めごとにもかかわりたくないので、相続関係から撤退するが、遺産の処遇についてはAの意見を尊重するので、Aに我々の地位を託します」みたいな感じでしょうか。
 相続分の譲渡の方法については、法律上の明確な規定はありませんので、方式は自由ですが、実務では相続分譲渡証書を作成して、譲渡の当事者が署名押印(実印)を行い、印鑑証明書(特に譲渡人)を添付する、というのが一般的な方法です。
 いつまでたっても遺産分割が終わらないという方は、応急的な処置として、相続分の譲渡を活用されてもいいかもしれません。


 アソート(2021年1月16日・vol.319)  

 機能性重視と言い張って、業務用かばんは3WAY使用(持つ、掛ける、背負う)を愛用していますが、周りを見る限り業界的には少数派の様子です。ちなみに、愛用かばんはビクトリノックスです。メタルなロゴが好きなもので。

1.ドッカーンと買いました。


 隅々まで読完(ドッカン)

 読感(ドッカン)は、裁判実務の要点の復習と改正法によるアップデートってところでしょうか。
 細かいことを言えば、執筆者によっては誤植が目に付くパートがありました。


2.未登記建物を売買して(売買物件の一部に未登記建物がある場合も含む。)、所有権移転(保存)登記をしないような場合、従来の契約実務と同様に、契約書の文言では売主の対抗要件具備義務(改正民法560条)を免除しておく必要があります。

民法560条(権利移転の対抗要件に係る売主の義務)
 売主は、買主に対し、登記、登録その他の売買の目的である権利の移転についての対抗要件を備えさせる義務を負う。


2.最新の最高裁判例案内
☆ 令和2年12月15日 第三小法廷判決
要旨:同一の当事者間に数個の金銭消費貸借契約に基づく各元本債務が存在する場合における借主による充当の指定のない一部弁済は,特段の事情のない限り,上記各元本債務について消滅時効を中断する効力を有する。 
 ※ 詳細は、裁判所HPをご覧あれ