2023年11月


 自筆証書遺言無効と死因贈与(2023年11月27日・vol.384) 

 遺言に関する最近の話題と言えば、遺言書のデジタル作成(自筆証書遺言の自書要件を廃止し、パソコン等で作成できるものとすること)の件がありますが、これが実現するとすると、将来的には、実際は誰が作ったかわからないような遺言が出現してくるのではないかと心配です(電子署名だけでは、真実性の担保は不十分だと思います。)。
 やはり、自筆証書遺言の真実性を担保するなら、作成場面を映像と音声で残しておくのが一番だと思います。え?その画像はAIが作ったフェイクじゃないかって?そんなご無体な・・・。

 ところで、自筆証書遺言といえば、様式(民法968条)不備で無効と考えられる遺言書をまま見かけますが、一見してそうであっても、それだけでその遺言書を無下に扱ってはいけません。その遺言書が作成された経緯や背景事情によっては、死因贈与契約書として有効と扱われる可能性があるからです。

 よって、巷の法律相談に行った結果、「この遺言書は要件不備で無効です」とだけ言って諦めなさいというのは、あまりよい回答ではないのでしょう。

 もっとも、様式不備の自筆証書遺言をもって、「これは死因贈与契約として有効だからこれで登記してくれ」というのは、また話が違います。法務局の登記官の審査権では、遺言書の作成経緯や背景事情まで考慮しての審査はしてもらえませんので、通常は「あきまへん」と言われるのがオチでしょう。

 このような面倒な事態にならないように、あえて自筆証書遺言をするのであれば、せめて法務局の遺言書保管制度を利用するくらいのことはしておくべきです。様式不備に関しては、担当官から指摘してもらえますからね。

 ちなみに、司法書士的(というか私的)には、今のところ、少々費用がかかっても公正証書遺言の作成をお勧めしておりますが、急迫の事情(あと1週間も寿命がもちそうにない等)がある場合は、簡単な遺言であれば「とりあえずの遺言書」をその場で自筆で書いてもらうことが多いのかもしれません。



 ホームページ作成商法のトラブル(2023年11月8日・vol.383) 


 何もかもが値上がりしているご時世ですが、普段よく読む法律系雑誌もどんどん値上がりしています(大概のものは1冊1,000円を超えてしまいました。)。そんな中で、我が業界機関紙の 月報司法書士だけは変わらずお安い値段です。今どき 1冊250円で読める法律系雑誌なんてそうはないと思いますので有り難い限りです。

 会員の司法書士は無料で配布を受けていますが、一般の方でも購入できますので、司法書士や法律に興味のある方はぜひ読んでみてください(なお、機関紙とはいえ、決してレベルの低い雑誌ではなく、他文献で引用されたり、大学の学者先生も寄稿されたりするような雑誌です。)。


 さて、私が司法書士の仕事を始めたころ、多機能電話機や自動販売機等のリース商法が最盛期であり、中には勧誘方法や契約内容等が悪質なケースも多々見聞きしましたが、近年でもいまだにこの類の商法として標記のホームページ作成商法のトラブルを見聞きします(最近はリースではなく個別クレジットも多い)。


 一般的に、この類の商法は、契約の「営業性(事業性)」を理由に、いわゆる消費者保護法令(特定商取引法、消費者契約法等)の適用がないことを狙って、実質的には一般消費者と大差ない小規模零細事業者(個人、法人は問わない)を相手に商品の販売や役務の提供をすることを目的としているケースが多くあり、電話機や自販機等の機械器具の契約の場合は、特定商取引法に関する経産省通達(法26条関係)裁判例(名古屋高裁平成19年11月19日判決等)を根拠に「営業性」を争うことが可能ですが、ホームページ作成商法の場合は、契約者の事業に関する内容の掲載を目的としたホームページ作成が契約の目的になっているため、通達等を根拠に「営業性」を争うことが基本的に難しいのが特徴です。


 実際、うっかり契約をしてしまった場合に、地元の消費生活相談センター等に駆け込んでも、「営業(事業)に関する契約なので・・・」とあっさり門前払いされることも多いようです(それはそれでちょっと冷たいのではと思わなくもないですが・・・)。


 そして、契約の「営業性(事業性)」を理由に特定商取引法によるクーリング・オフや消費者契約法による契約取消し等が認められない場合は、民法の規定(詐欺・強迫取消し、信義則違反、公序良俗違反、暴利行為、不法行為等)を根拠に相手方事業者に主張をしていかざるを得なくなりますが、これはこれで結構ハードルが高いです(訴訟になった場合は、工夫を凝らした細かな事実の主張・立証が必要)。


 このように、ホームページ作成商法は、一度契約してしまうと、後戻りが困難な類の商法であるため、特に小規模零細事業者の方は、契約をする際は、慎重な対応を心掛けたいところです。


(対策)

 悪質な業者は、外観上、消費者に当たらない「小規模零細事業者」に目をつけて用意周到な準備をして契約を持ちかけてきますが、ほとんどの場合、その場ですぐに契約の申込みをするよう仕向けてきますので、まずは、相手業者が営業を仕掛けてきても、少なくともその場の空気に流されて「即」契約をしないことが重要です(実際、契約をしたことを後悔するのは当日や翌日が一番多いようです。)。