丹波篠山市の司法書士事務所
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他人事ではないのです(2021年10月25日・vol.345)
民事信託(家族信託等)
が流行り出してから、粗雑な不良信託の事例が増えているということで、雑誌か何かで
「偽物(不良)の信託を排除しなければならない」
みたいなセリフを聞いたとき、どうしても昔ヘヴィメタルが流行りだした頃に放たれた
「偽物メタルに死を
」
(だったかな?)
という某有名大御所メタルバンドの名セリフをまず思い出してしまいました・・・。
さて、
生活保護の基準引下げに関する集団訴訟
が全国各地で起こされていることは新聞、ニュース等ですでに多くの人に知られていることだと思いますが、これって生活保護を受けていない人にとっても決して他人事ではないのです。
生活保護の基準は様々な社会保障の制度にリンクしていますので、これが引き下げられると最低賃金額や住民税、高額療養費、介護保険の負担額等にも影響がある
からです(社会保障額全般の引き下げが狙いかという意見もあるようです。)。
地裁では敗訴のケースが多いですが、勝訴のケース
(大阪地裁令和3年2月22日判決・
https://www.courts.go.jp/app/hanrei_jp/detail4?id=90135
)
もあるので、控訴審の状況を今後も注視していきましょう。
〇 主な裁判の状況
@ 令和3年2月22日大阪地方裁判所判決(勝訴、違法、取消し)
A 令和3年5月12日福岡地方裁判所判決(敗訴、却下、棄却)
B 令和2年6月25日名古屋地裁判決(敗訴、棄却)
C 令和3年3月29日札幌地裁判決(敗訴、棄却)
※ いずれの裁判例も裁判所HPで見ることができますが判決文が長すぎて読むのは辛いかも・・・。
会計監査限定でも責任は重い(2021年10月9日・vol.344)
仕事柄、ほぼ毎日官報(インターネット版)を見ていますが(といっても特定の記事(裁判所と会社の公告関係(前者は相続や破産、後者は解散等)のみ)、最近、特に司法書士が相続財産管理人に選任されている記事をよく見かけるようになったように感じます(特に都市部ではなく地方の裁判所管内で)。民法改正もあって、今後はますます増えていくのだろうなと思います。
最近の最高裁判所の判例で、下記のものが出ていました。
令和3年7月19日最高裁判所第二小法廷判決
(
https://www.courts.go.jp/app/hanrei_jp/detail2?id=90486
)
判決の理由中、
「監査役は,会計帳簿の内容が正確であることを当然の前提として計算書類等の監査を行ってよいものではない。監査役は,会計帳簿が信頼性を欠くものであることが明らかでなくとも,計算書類等が会社の財産及び損益の状況を全ての重要な点において適正に表示しているかどうかを確認するため,会計帳簿の作成状況等につき取締役等に報告を求め,又はその基礎資料を確かめるなどすべき場合があるというべきである。そして,・・・(略)・・・以上のことは会計限定監査役についても異なるものではない。 そうすると,会計限定監査役は,計算書類等の監査を行うに当たり,会計帳簿が信頼性を欠くものであることが明らかでない場合であっても,計算書類等に表示された情報が会計帳簿の内容に合致していることを確認しさえすれば,常にその任務を尽くしたといえるものではない。」
と述べられています。
また、補足意見では、
「監査役の職務は法定のものである以上,会社と監査役の間において監査役の責任を加重する旨の特段の合意が認定される場合は格別,そうでない限り,監査役の属性によって監査役の職務内容が変わるものではない」
とも述べられています。
たとえ会計限定の監査役であったとしても、法定の職務として就任した以上、法が求めるしかるべき水準の職務を遂行しなければ、その責任を問われるのであり、また、監査役が会計専門職(会計士、税理士)であろうが、身内の親族であろうが、その属性によって職務内容が異なることはない
、ということなのでしょう。
税理士さんや司法書士が付き合いのある会社の役員(特に監査役)に就任されているケースをたまに見かけますが、今回のような判例を見ると、会計や監査の専門知識や能力がない私には到底引き受けられないと思いました(頼まれたこともないですけど・・・)。
会社の規模や株主構成等の事情からみて、
監査役が不要な場合(旧商法次代から引きずられている飾りだけの監査役の場合等)は、定款改正と変更登記を行うことにより、会社組織の改革をしてみる
ことも検討されるとよいと思います。ご相談はお近くの司法書士まで。
写しと節税(2021年10月4日vol.343)
「みかん」をいただきました(もうそんな季節か・・・)。
ついでに命の水も付いていました(写真下の方)。
このセットを見ると、某メタルバンドの歌を思い出します
。
↑いただいたのは「愛媛のみかん」ではないですけどね。
さて、ニュースで収入印紙が滅びるみたいなことが言われていましたので、これに関連して、
田舎ではほとんどありませんが、例えば高額の不動産の売買契約をする際に作成する売買契約書について、印紙税(収入印紙代)を節約する目的から、
「契約書(原本)は1通のみ作成のうえ買主が所持し、売主は契約書の写しを所持する」
という手法がとられることがあります。
もっとも、契約書の末尾に「本契約の成立の証として、原本を1通、その写しを1通作成し、原本は買主が所持し、写しは売主が所持する」とした場合、写しについても契約成立の証拠として作成したことになるため、
写しの方も課税文書(1号の1文書)になってしまい
、節税の意味がないそうです。
そもそも課税文書ではない文書(遺産分割協議書等)については、あまり気にする必要はありませんが、売買契約書等の課税文書を紙で作成する際に印紙税を節約したい場合は注意が必要でしょう。
今後は、こういう節税目的の面からも、紙と印鑑の電子化が進んでいくのでしょう。
もっとも、印紙税については、紙は課税、データは非課税というのは不公平では?と思いますけどね(紙も非課税にしたらいいのに・・・)。
死因贈与の撤回(2021年10月2日・vol.342)
(ぼやき)
市役所等の行政機関に登録されている印鑑(いわゆる実印)は、まだまだ法律実務の世界においてはバリバリ通用していますが、実印による印影は、当然、印鑑証明書に印刷された印影と照合することになるため、紙に押す場合は鮮明に押さなければなりません。また、印鑑を押した結果、印影の写りが悪い場合は、紙に印鑑を押し直すことになります。では、反対に、行政機関に登録されている印影に不都合(かすれ、にじみ、欠け等がある)がある場合はどうするかというと、この場合は、不都合の程度がひどい(印影の照合の結果到底同一印と認められない)場合は、再度、印鑑を登録し直すしかありません。
大事な契約や取引あるいは不動産や会社の登記手続の場面で、用紙にいざ実印を押してもらい、渡された印鑑証明書の印影を見てみると、「なんじゃあこりゃああ!」と驚くことがたまにあります(印鑑証明書に印刷されている印影に上記の不都合(かすれ、にじみ、欠け等)があり、照合しても責任を持って登録された印鑑と同一の印鑑による押印であると言えない事態)。
そのような時、司法書士としては、印鑑を使用するイベントの重大性を念頭に置いたうえで、不都合の程度に応じて、泣く泣くクライアントの方に「申し訳ないですが、印鑑を登録しなおして下さい」と言わなければならないこともあったりします(心の中では、印鑑の登録事務をする行政機関の側で届出書に印鑑が鮮明に押されているかについて審査していないのかとぼやきます。)。
さて、本題、
死因贈与
と言えば、遺言と並ぶ自身の死後における遺産の行方を決定する方法の一つですが、不動産の死因贈与については、
始期付き仮登記(不動産登記法105条2号)
ができるため、司法書士の業務としてもお目にかかることがままあります(この点、
不動産の「遺贈」については2号仮登記ができません
ので大きな違いになります。)。
遺産の処分方法として、遺言(遺贈)ではなく、死因贈与を選択するメリットとしては、
@死因贈与はあくまで当事者間の契約であり、単独行為である遺言と違って方式が法律で厳格に決められていないので個人で作成・印字した書面や口頭でも可能である点
や
A契約において死因贈与に負担条件(例えば、贈与者の老後の世話をすることを条件に不動産をあげる等)を付けることができる点
が挙げられますが、やはり一番の利点としては、前記のとおりB不動産については権利保全のための仮登記ができる点があります(仮登記をしていることにより、受贈者側も安心して負担条件の履行ができることになります。なお、契約上では
死因贈与の撤回禁止条項
も入れておくとなお良いでしょう)。
一方、死因贈与の法律関係において一番厄介なのは、
撤回
に関する問題です。.
まず、
書面によらない
死因贈与については、通常の贈与と同じく、贈与の
未履行部分に限り各当事者が自由にいつでも契約の解除をすることができます
(民法550条、近年の法改正で条文の文言が「取消し」→「撤回」→「解除」と変わってきていますが実務的には特に影響なし)。よって、口頭での死因贈与については、贈与者あるいは贈与者の相続人(但し、過半数の決定による、東京地判平成28年4月19日参照)において、解除することが可能とされています。
次に、民法554条は、
「贈与者の死亡によって効力を生ずる贈与については、その性質に反しない限り、遺贈に関する規定を準用する。」
と規定していますので、死因贈与についても、原則として、
遺言の撤回に関する規定(民法1022条及び1023条)が準用される
、というのが判例、裁判例の傾向です(※)。
※ ただし、裁判例、学説ともに準用肯定説(撤回肯定説)と準用否定説(撤回否定説)で分かれており、とりわけ、負担付死因贈与については、負担の履行状況やその他の事情に応じて準用が否定(撤回を認めないと)されるケースも多くありますので注意が必要です(主な判例、裁判例は下記のとおり)。
@ 死因贈与の撤回を肯定した判例(裁判例)
・最高裁昭和47年5月25日判決
・広島地裁昭和49年2月20日判決
・宇都宮地裁昭和55年7月30日判決
・東京高裁昭和57年10月28日判決
・東京地裁昭和63年6月27日判決
・東京地裁平成7年10月25日判決
A 死因贈与の撤回を否定した判例(裁判例)
・最高裁昭和57年4月30日判決
・最高裁昭和58年1月24日判決
・東京地裁昭和44年1月25日判決
・名古屋地裁平成4年8月26日判決
・東京地裁平成5年5月7日判決
最後に、死因贈与をする場合は、
公正証書で契約書を作成
し、契約書において
死因贈与執行者も定めておく
ようにします(死因贈与執行者は、贈与者死亡後の死因贈与の執行(仮登記の本登記等)を円滑に実施するためには不可欠です。)。また、
不動産については、仮登記
をしておき、加えて、贈与者による
死因贈与の撤回についても制限する条項も定める
かどうか検討するようにしましょう。因みに、死因贈与は贈与税ではなく、
相続税の課税対象
となりますので、こちらもお間違えなく。
相続、遺言に加えて、死因贈与についての詳しいご相談は、お近くの司法書士まで!!
☆ 参考条文
民法
(書面によらない贈与の解除)
第550条 書面によらない贈与は、各当事者が解除をすることができる。ただし、履行の終わった部分については、この限りでない。
(死因贈与)
第554条 贈与者の死亡によって効力を生ずる贈与については、その性質に反しない限り、遺贈に関する規定を準用する。
(遺言の撤回)
第1022条 遺言者は、いつでも、遺言の方式に従って、その遺言の全部又は一部を撤回することができる。
(前の遺言と後の遺言との抵触等)
第1023条 前の遺言が後の遺言と抵触するときは、その抵触する部分については、後の遺言で前の遺言を撤回したものとみなす。
2 前項の規定は、遺言が遺言後の生前処分その他の法律行為と抵触する場合について準用する。