2019年3月


 任期10年の落とし穴(2019年3月2日・vol.286)   

 後期ロスジェネ世代の司法書士です。というか、パソコンでロスジェネと打って普通に単語として変換されるのがすごい。
 
 現行の会社法では、非公開会社(全株式譲渡制限会社)については、定款で定めることにより役員(取締役、監査役)の任期を10年(選任後10年以内に終了する事業年度のうち最終のものに関する定時株主総会の終結の時)まで伸長することができますので、定期的に役員構成に変動が生じることが想定されないような家族経営の会社等においては、任期を最大限まで伸長しておくと、登記費用の節約になったりします。
 ところが、役員の任期を長くするとその弊害もありまして、例えば、何らかの理由でその役員に辞めて欲しいような状況になった場合、自主的に辞任してもらえないのであれば、会社としては株主総会の決議で解任するしかありません。でも、会社の登記記録に「解任」の文字が記録されるのは、ちょっと抵抗がありますよね。会社内において何かトラブル(不正、内紛等)が生じたのではないかなどと取引先等から勘繰られたりもするかもしれませんので、会社のイメージ的にはあまり好ましくない。
 そこで、登記に「解任」の文字が記録されない方法で辞めて欲しい役員を強制的に事実上解任する方法がないだろうかと考えてしまうわけですが、その方法の1つが、株主総会の決議で定款の変更を行い、役員の任期を短縮してしまう方法です。基本的に、変更後の定款の規定は、在任中の役員にも当然に適用されるとするのが登記実務(平成18年3月31日法務省民商782号通達)と裁判例(東京地判平成27年6月29日)ですので、例えば、任期10年で在任中の取締役がいる場合において定款変更により任期を2年に変更すれば、当該取締役には変更後の2年の任期が適用されることになります。そして、その結果、当該取締役の任期が満了していることになる場合(例えば既に選任から5年が経過している場合)は、当該取締役は任期短縮にかかる定款変更の効力発生時(株主総会の決議時とか)をもって「退任」することになります。また、この場合の登記の内容は、任期満了による「退任」であるため、登記の記録も「退任」と記録されます。これで、辞めさせたい役員は事実上解任できたうえ、登記の記録上では任期満了により退任したように見えるため会社の体裁も悪くならず、万々歳というわけです。
 た・だ・し、何度も言いますように「事実上の解任」であるという点には要注意です。なぜなら、解任には必ず付いて回る問題として、不当な解任には対抗措置として損害賠償請求がなされる可能性があるからです。会社法339条2項では、「解任された者は、その解任について正当な理由がある場合を除き、株式会社に対し、解任によって生じた損害の賠償を請求することができる。」と規定されています。また、ここでいう「損害」の範囲は、「解任されなければ残存任期期間中と任期満了時に得られたであろう利益(役員報酬)の損失である」と一般に解されています(残任期間が長いほど損害額が多額になることになります。)。ちなみに、正当理由とは、例えば、職務上の不正行為、法令定款違反、心身の故障のよる職務執行不能、職務への著しい不適任等の事実がある場合とされています。
 したがって、正当事由がない解任を行った場合に元役員から損害賠償請求がなされるのと同様に、正当事由がないにもかかわらず定款変更により任期満了退任させた場合は、会社法339条2項の類推適用により、こちらも同様に損害賠償請求がなされる可能性があるのです(前掲裁判例参照)。
 結局、リスクのない役員の解任はできないということですので、任期10年の選択は会社の現状や将来を考慮して慎重にした方がよいかもしれません。