2024年4月


 法人名義の休眠抵当権の抹消登記と司法書士の裁判業務(2024年4月30日・vol.388) 

 裁判業務に関する研修会を受講すると、毎度のように最近の司法書士の裁判業務への関わりについてのお寒い事情の話をよく聞きますが、特に簡裁代理業務については、司法書士が代理人として関わっている事件数の減少傾向が著しいようです。以前のいわゆる過払金請求事件が盛んであった時期と比べると簡裁の事件数自体が減っているので司法書士代理人の関与数が減少するのは当然ですが、それでも弁護士さんに比べると減少幅が大きいようです。もっとも、弁護士さんは自動車保険の弁護士特約の関係もあってか簡裁での交通事故案件を多くされているので、その点だけを見れば司法書士と比べると減少幅が少ないのは納得できるところです。

 さて、令和5年4月1日から改正不動産登記法が施行されましたが、その改正において新たに次のような規定が新設されました。

(解散した法人の担保権に関する登記の抹消)
第70条の2 登記権利者は、共同して登記の抹消の申請をすべき法人が解散し、前条第2項に規定する方法により調査を行ってもなおその法人の清算人の所在が判明しないためその法人と共同して先取特権、質権又は抵当権に関する登記の抹消を申請することができない場合において、被担保債権の弁済期から30年を経過し、かつ、その法人の解散の日から30年を経過したときは、第60条の規定にかかわらず、単独で当該登記の抹消を申請することができる。

 要するに、以下の要件を満たせば、登記権利者(抵当権等の対象不動産の所有権登記名義人等)が単独で解散法人名義の抵当権等の登記の抹消登記を申請できるとされています。

1.法人の解散日から30年が経過していること
※ 承継法人がある場合は、承継法人の解散から30年が経過していること。

2.抵当権等の被担保債権の弁済期から30年が経過していること

3.解散法人の清算人の所在が判明しないこと
※ 清算人が死亡している場合はこれに該当する。

 現在も消し残されている法人名義の休眠担保権といえば、大正から昭和初期、中期頃に設定登記されたものが大半ですので、上記の要件を満たすことがほとんどであり、よって、この改正法第70条の2の単独申請による抹消登記の方法が採れるものと思われます。

 この改正不動産登記法第70条の2の規定に基づく抵当権等の抹消登記申請手続を行う場合は、実務上、上記の3要件を満たしていることについて必要な調査を行ったうえで、調査報告書を作成し、当該報告書に上記の3要件を満たしていることを証明できる証拠資料を添付して登記申請を行う必要がありますが、調査のポイントは以下のとおりです(なお、イレギュラーなケースについては別途要検討ですが、基本的に法務省通達をよく読めば調査方法は大体分かります。)。

1.要件1は、解散法人(承継法人を含む)の解散の記載がある閉鎖登記簿謄本を取得して証明します。

2.要件2は、被担保債権の弁済期の記載がある担保不動産の閉鎖登記簿謄本を取得して証明します。

3.要件3は、まず、@解散法人の本店(主たる事務所等)に宛てて配達証明郵便を送付して不達で返送されたことを証明したうえで、A解散法人の閉鎖登記簿に記載の清算人全員の死亡の記載がある戸籍抄本を取得し、B何らかの事情で死亡を証する戸籍抄本が取得できない清算人については、その住所に宛てて文書を送付し、それが不達であったことを証する配達証明郵便をもって証明します。

 さすがに、休眠担保権とはいえ、登記権利者単独での抹消登記申請を認める以上、それなりの厳格な調査を要求してはいますが、従来から休眠担保権の抹消登記の手続業務を行ってきた司法書士であれば苦も無くこなせる程度の調査内容です。
 
 ところで、上記の解散法人名義の休眠担保権の抹消登記手続について、改正不動産登記法ができる前は主に以下のような方法が採られていました。

方法1:地方裁判所で解散法人の清算人を新たに選任してもらい、当該清算人と共同で抹消登記申請をする方法(清算人が抵抗を示す場合は訴訟提起による判決抹消)

方法2:簡易裁判所で解散法人の特別代理人を選任してもらい、当該特別代理人を相手に訴訟をし、勝訴判決をもらったうえで、当該判決に基づく登記権利者の単独申請による抹消登記申請をする方法

 ご覧のとおり、いずれの方法も、まずは裁判所の手続を踏んだうえで、抹消登記手続を行っていたのです。

 そして、この実情が司法書士の裁判手続の関与率を多少なりとも押し上げていたのであろうと思います。

 冒頭の話に戻りますが、司法書士の裁判業務への関与がますますお寒い事情にならないことを祈るばかりです。