丹波篠山市の司法書士事務所
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土地を所有していることの証明(2014年11月21日・vol.212)
皆さん、ご自分が所有している土地について、第三者から「あなたが所有していることを証明してみろ」と言われた場合、どのようにして証明されますか。権利自体は目には見えませんので、これが案外厄介です。
例えば、「私はこの土地の上に建物を建てて住んでおり、固定資産税等の税金も私が支払っているのだから、この土地の所有権は私にある」といった事実を主張立証してみても、それは単に土地の占有や管理の事実を主張立証しているだけであり、所有していることの直接の証明としては不十分です。
また、「この土地の登記簿には私が所有者として登記されているのだから私がこの土地を所有している」という主張はどうかというと、これも以前お話ししたように登記には事実上の推定力(判断する者の内心において経験則上たぶん登記どおりの権利関係があるのだろうと推定される効力)しかないとされていますので、登記の存在だけではこれまた不十分です。
では、「この土地は前の所有者であるAから私が購入したのだから、私がこの土地の所有者である」という主張はどうかというと、これは一応正解です。裁判実務においては、自分がある土地を所有していることを主張立証するには、自分が
その土地の所有権を取得するに至った具体的な取得原因事実を主張立証する必要がある
とされていますので、その土地について過去のある時点においてAとの間に売買契約が成立したことを売買契約書等で証明できれば、自分が「Aから」その土地の所有権を承継取得したこと延いては現在所有していることが認められることになります。ただし、「一応」としましたのは、紛争の当事者間において「Aがもと所有していたこと」について何ら争いが無ければという前提が付くからです。つまり、「Aがその土地を所有していた」という事実が動かないのであれば、Aからその土地を買ったことを証明できれば、自分が現在所有していることを証明できるというわけです。
では、Aあるいはそれ以前の所有関係について争いがある場合はどうなるのでしょうか。この場合における「現在所有していることの主張立証」としては、原則的には、Aからの所有権取得原因事実の主張立証のみでは足りず、
当事者間において争いのない時点の所有者まで(究極は原始取得者にまで)遡って所有権の取得原因事実を主張立証しなければならない
、とするのが裁判実務の考え方です。例えば、前主がA、前々主がB、その前がC、そのまた前がD、さらに前がEの場合において、Dが過去所有していたことについて当事者間に争いがなければ、D→C→B→A→自分までの所有権の取得原因事実を主張立証しなければならないことになるのです。理論上は、これができて漸く自分の所有が証明できることになるというわけです。
さて、理論上は以上のとおりですが、前主との関係だけなら兎も角、実際、数代前の所有者にまで遡って所有権の取得経緯を証明できるのかといえば、そんなことは事実上不可能に近いでしょう。仮にその土地が先祖代々のものであったとしても、数代前の相続関係(あるいは贈与契約等)を証明することは書類(特に遺産分割協議書などの押印書類)の保管の関係で難しいでしょうし、まして、過去の赤の他人の所有権取得原因を証明することなどは相当困難です(よって
「悪魔の証明」
といわれたりします)。
では、実際の訴訟手続において、「現在所有していること」について、どの程度の主張立証を要求されるのかと言いますと、その辺りは担当裁判官と個別事案の内容によって多少の幅もあるかと思いますので一概には言えませんが、基本的には裁判官の訴訟指揮の様子を見つつ可能な限りの主張立証を尽くすべきかと思います。因みに、過去に遡っての所有権取得原因事実の主張立証が困難な場合、
時効取得の主張
をするのも一考でしょう。自己の所有物でも時効取得は可能ですし、時効取得は原始取得なので、仮に時効取得が成立しているなら、それのみの主張立証をもって自己の所有していることの証明ができるからです。
以上、ざっと書いてみましたが、
「土地を所有していることの証明」の難易度は、結局のところそれを争っている相手方の対応次第
ということになるのかなと思うところです。
応訴管轄と答弁(2014年11月12日・vol.211)
民事訴訟法に次のような規定があります。
(応訴管轄)
第12条 被告が第一審裁判所において管轄違いの抗弁を提出しないで本案について弁論をし、又は弁論準備手続において申述をしたときは、その裁判所は、管轄権を有する。
この規定は、簡単に言えば
「たとえ原告が間違った管轄の裁判所に訴えを提起した場合でも、相手方である被告が異議なく応じるのであれば、当事者双方に管轄の不利益は生じないので、その裁判所で裁判をすればよい。」
という趣旨の規定ですが、この規定があるため、管轄違いの訴えが提起された裁判所も、応訴管轄の可能性を考慮してか、訴状を受け付けたうえで被告に対して訴訟書類を送達してくることもあったりします。また、原告側において、応訴管轄を狙ってわざと管轄違いの裁判所に訴え提起がなされることもあります。
では、管轄違いの訴えの相手方となる被告としては、どのように対処すべきでしょうか。もちろん、その管轄裁判所で訴訟をすることに問題が無ければそのまま応訴すればよいですが、もし被告にとってその裁判所で裁判をすることに不利益があるならば、正しい管轄の裁判所で訴訟手続が行われるように
反論(管轄違いの主張、移送申立て)
をしなければなりません。この点、管轄違いの主張等を行わずに原告の請求内容に対して具体的に事実上あるいは法律上の主張(反論)を行ってしまうと、被告が当該裁判所で裁判をすることに応じたと判断され、上記の応訴管轄が生じてしまうおそれがあるので、原告の請求に対する被告の
答弁の仕方には注意が必要
です。
そこで、まず、具体的な答弁の仕方についてですが、
本案前の答弁として管轄違いの抗弁及び移送申立てを行い、念のため予備的に原告の請求の趣旨及び請求の原因に対する答弁をする
のが一般的かと思います。
また、期日延期・変更の申立て、忌避の申立て、訴訟要件欠缺による訴え却下の申立て等は「本案についての弁論」には当たらないので、応訴管轄は生じないとされています。
さらに、一応請求棄却の判決を求めておいて、答弁は次回に行うとして期日続行を求めている場合も「本案についての弁論」には当たらないとされています(大判大9,10,14)。
因みに、被告の反対申立て及び請求原因事実に対する認否や被告の主張を記載した答弁書(準備書面)は提出したが期日には欠席し、答弁書が
擬制陳述扱い(民事訴訟法158条)となった場合は、それによって応訴管轄は生じない
とされていますので、すでに答弁書を提出している場合でも、期日に出頭して口頭で明示の陳述をしていなければ、いまだ応訴管轄は生じていないと扱われる可能性もあると思います。
いずれにしても、自分に不利な裁判所に訴えが提起された場合は、安易に応答せずに一度裁判所の管轄について検討してみるのがよいと思います。
転用物訴権の理論の活用(2014年11月7日・vol.210)
(設例)
甲自動車の所有者Xは、知人Yに対し甲自動車を無償で貸与したところ、Yは運転中に事故を起こし、甲自動車を損傷した。Yは、自己の責任で甲自動車を修理してから返還することをXに約束し、Z修理業者へ修理に出した。その後、Z修理業者は、甲自動車の修理を完了し、Yの指示によりXへ甲自動車を返還した。ところが、Yは修理代金を支払うだけの資力が無いため、Z修理業者に対し代金を一向に支払わず、そのまま行方知れずになってしまった(あるいは自己破産した)。
上記設例のような場合、Zとしては、Yからの代金回収は望めないため、甲自動車の所有者であるXに対し、代金の支払いを請求したいと考えるのが一般的かと思います。この点、甲自動車の修理請負契約の成立に至る態様によっては、XZ間の直接の契約関係が認められる場合もあるかもしれませんが、基本的には、YZ間の契約であり、XZ間には契約関係が無いと考えられるため、ZがXに対し請負契約に基づく代金支払い請求をするのは難しそうです。また、債権者代位権を行使する(ZのYに対する請負代金請求権を保全するためにYのXに対する有益費償還請求権を代位行使する)方法も考えられますが、設例のような場合は難しそうです(有益費どころか事故車になったことによる格落ちが発生するかもしれません)。
では、そのほかにZがXから修理代金相当額を支払わせる方法はないのかということになりますが、ここで考えられるのがいわゆる
「転用物訴権」の理論
です。この理論、ごく簡単に言ってしまえば、
「ZのYに対する請負代金債権が無価値(回収不能)であり、かつ、Xが対価関係なく(Xの経済的不利益なく)自動車修理による利益を受けている場合は、ZのXに対する修理代金相当額の不当利得(?)返還請求を認める」
という理論です。この理論に関する代表的な最高裁判例として下記の2つの判例がありますので、実際に事件にあたられる場合はご参照のうえ要件等について判例の充分な検討が必須でしょう。
因みに、設例のような場合に、転用物訴権の理論によりZのXに対する請求が認められるかについては、各位ご検討ください。
(参考判例)
1.最高裁昭和45年7月16日判決
2.最高裁平成7年9月19日判決