2025年9月


 旧根抵当権の登記あり(2025年9月15日・vol.408)  

 旧根抵当権とは、昭和46年改正民法施行前に設定されたちょっと古い根抵当権のことですが、古いといっても昭和46年までのものなので、普段から古いものばかり扱っている司法書士にとってはそんなに古いものとは感じないかもしれません。実際、田舎では旧根抵当権の設定登記を見かけることもしばしばありまして、その中には、すでに死んでいる(使われないまま登記が放置されている)根抵当権もあれば、まだまだ現役で生きている(しっかり債権を担保しているが登記は放置されている)根抵当権もあるのです。

 さて、この旧根抵当権の登記ですが、実体上死んでいるか生きているかにかかわらず、これを触る(何らかの登記をする)場合は、ちょっと注意が必要であるとされていますので、今回はこの件について、ちょっと触れてみましょう。

1.旧根抵当権は、なんだかんだ言っても現在の民法(根抵当権に関する規定がしっかりと規定されている)が施行される前に設定登記された旧時代のものであるため、中には登記事項に不備がある根抵当権もあり、その不備の最たるものは、登記原因に取引基本契約(現行法でいうと債権の範囲)の記載がないものでしょう(いわゆる包括根抵当状態)。ちなみに、包括根抵当権(何でもかんでも一切の債権を担保する根抵当権)は、旧根抵当権の時代においても認められていたわけではありませんが、昭和30年6月4日民事甲第1127号の先例で登記を受理しないとされるまでは、取引基本契約の記載のない包括根抵当権の設定登記もそのまま受理されていた例もあった模様です。

2.昭和46年改正民法施行に伴い、登記先例(昭和46年10月4日民事甲第3230号)が発出され、取引基本契約(債権の範囲)の記載を欠いた根抵当権登記については、債権の範囲の遺漏を更正する登記をしない限り、そのままの登記記録の状態では変更登記や移転登記の申請は受理しないとされました。
 よって、現在の登記実務においても、取引基本契約(債権の範囲)の記載を欠いた旧根抵当権の登記を生かす場合は、前提として債権の範囲を登記記録に加える更正登記をしなければならないということになっています。

3.一方、この不適法な旧根抵当権登記をすでに死んでいるものとして抹消する場合については、前提としての更正登記を要せず、そのままの状態でも抹消登記の申請は受理されています。

4.では、この不適法な旧根抵当権の@移転登記とA抹消登記を連件で申請する場合はどうでしょう。この場合の更正登記の要否については、昭和46年の登記先例の解説からすると移転登記が入るので必要となるのが原則ですが、法務局の登記官の判断によっては、更正登記なしで便宜受理してもらえる取り扱いもあるという感覚です。

 以上、簡単に触れてみましたが、根抵当権の登記の処理手続をする場合は、まずは旧根抵当権でないかどうかの確認をするようにしましょうということです。
なお、債権の範囲の更正登記の具体的な登記手続やその他の旧根抵当権に関する注意点等については、下記の参考文献等をご参照ください。

(参考文献等)
@ 月報司法書士(2014,7・No509)
A 大阪司法書士会研修資料(2012,7,21)
B 例解新根抵当登記の実務(法務省民事局第3課編)、等々