2019年8月


 再転相続と相続放棄に関する最高裁判例が出た(2019年8月24日・vol.297)  

 いわゆる再転相続(@被相続人A死亡、Aその相続人Bが相続の承認又は放棄をしないまま死亡、B被相続人Bの相続人はC)の場合において、Cが行う@の相続(第1相続)についての相続放棄の熟慮期間(民法916条)の起算点に関する最高裁判所の判例が出ました(令和元年8月9日最高裁判所第二小法廷判決)。この論点に関する従来の通説・実務の考え方(Bの相続に関する熟慮期間と統一してAの相続に関する熟慮期間が進行する、(法曹会決議明治40年5月18日等)とは異なる見解となっているようですので、相続放棄の実務においては、要チェックの判例でしょう。詳細は、最高裁HP(http://www.courts.go.jp/app/hanrei_jp/detail2?id=88855)や判例雑誌等をご覧ください。

 比較的短期間で複数の相続が立て続けに発生した場合、再転相続により第1相続における相続債務の請求が第2相続の相続人に対して行われるケースは間々ありますが、第2相続の承認・放棄の場面において、第1相続の相続債務の存在を把握することが難しい場合もありますので(例えば「生前にまったく交流の無かった伯父伯母の相続債務の請求が甥姪に対してなされる」ケース)、今後は、そういった場合における相続放棄が認められやすくなるのかもしれません。

○ 最高裁判例のポイント
1.民法916条にいう「その者の相続人が自己のために相続の開始があったことを知った時」とは、相続の承認又は放棄をしないで死亡した者の相続人が、当該死亡した者からの相続により、当該死亡した者が承認又は放棄をしなかった相続における相続人としての地位を、自己が承継した事実を知った時をいうものと解すべきである。
2.なお、この場合、第1相続の相続人において自己が相続人であることを知っていたか否かにかかわらず民法916条は適用される。

○ 関連法令
民法(抜粋)
(相続の承認又は放棄をすべき期間)
第915条 相続人は、自己のために相続の開始があったことを知った時から3箇月以内に、相続について、単純若しくは限定の承認又は放棄をしなければならない。ただし、この期間は、利害関係人又は検察官の請求によって、家庭裁判所において伸長することができる。
2 省略
第916条 相続人が相続の承認又は放棄をしないで死亡したときは、前条第1項の期間は、その者の相続人が自己のために相続の開始があったことを知った時から起算する。



 見た目だけじゃわからん土地(2019年8月8日・vol.296)  

 小さいころから「人を見た目で判断してはいけません」とはよく言われてきましたが、今回は、「土地を見た目で判断してはいけません」というお話です。

 農作物栽培高度化施設(農地法第43条第2項・農地法施行規則第88条の3)である建物の敷地については、全面をコンクリートその他これに類するもので覆われたことにより一見宅地に見えるような状態となっても依然として農地法の適用を受ける「農地」であるとされています。同施設内で農作物を栽培していることがその敷地での耕作とみなされるからだそうです。
 よって、同施設の敷地となる当該土地については、農地法第4条または第5条の転用には該当せず、また、土地の地目の変更登記も不要であるとされています。また、固定資産税の課税においても、農地として扱われるようです。
 このような種類の施設が存在することになった以上、今後は建物が地上に建っているという外観だけではその土地が宅地であるとの判別が難しくなりますので、土地の調査にあたっては、登記記録(土地及び建物の両方)、課税記録(土地及び建物の両方)、農地台帳等の資料の調査がこれまで以上に必要となるでしょう(同施設に該当する建物について登記がされている場合の建物の種類は「農作物栽培高度化施設」とするとの取扱いとなっています。よって、建物の登記記録も判断材料の一つとなります。)。

 当の施設を建てたご本人は当然上記の事情はご存知なわけですからそれを失念しない限り判断を誤ることは少ないのでしょうが、その方が亡くなった後の将来の相続等の際には、間違っても、「え〜、この土地、記録上は農地やのに現状が宅地になってるやん。お父ちゃん、無断転用してるんちゃうん、どないしよ〜」とか言って大騒ぎにならないよう注意する必要がありそうです。

 追伸、私の夏場の上半身の服装は、半袖、ポロシャツ、シャツ出し、がド定番ですが(法廷を除く)、シャツ出し(ズボンにシャツの裾をしまわない)については、場(会議とか)によってはやや視線を感じます(気のせい?)。丈長カッターのシャツ出しはNGですがポロシャツだったら夏場くらいいいじゃん、というのが私の勝手な感覚ですが、信用第一の司法書士業界では見た目も大事なので夏場でもカッター裾入れが今でもド定番なんでしょうね。まぁ、上の私の感覚も多少の見た目の視点は入っていますけど。


 ニセ科学(2019年8月8日・vol.295)  

 最近、継続購読をしている月刊誌を読むのが若干追い付いていないような気がしますが(読み切る前に次号が届く)、愛読している某消費者情報誌では、「ニセ科学」の特集が組まれていました。

 ニセ科学とは、科学的な実証がされていないのにあたかも科学的根拠が存在するように見せかける言説のことをいうそうです。例えば、血液型性格診断なんかもこの類だそうですが、このニセ科学を根拠とする商品や役務の拡散によって多数の(潜在的な)消費者被害がもたらされている現状が問題とされています。ニセ科学の拡散は主に種々のメディアによってなされるわけですが、表現の自由等からこれを抑制することは難しいのでその改善はメディアの良心と行動力に期待するしかなく、また、個々の消費者の被害自体もなかなか自分では認識できないくらい薄くて小さいものが多いので表立って問題になりづらく、よってニセ科学問題を全体的に解決していくことは相当に難しいようです。

 「テレビで○○が体にいいってやってたから私も試しにやってみよう」と乗っかった後に「○○が体にいいってやってたけど実は効果が無いんだって」となっても反対に健康被害を被った等の事情がなければ「じゃあ嘘の情報を流したあなたが損害(商品代金)を賠償しろ」とはなかなかならないというのが世間一般の実相だと思いますので、ニセ科学の拡散の抑制がかなり困難なことはなんとなくわかるような気がします。

 私のような一般消費者レベルだと、正反対の見解をぶつけられると、「そもそも何がほんまですのん」ということになってきますので(自分で科学的な検証なんてできません)、結局のところ、真偽不明で落ち着いてしまいそうですが(自分が満足ならそれで良し、むしろもう後の祭りなので真相は知りたくないみたいな)、やっぱり「真偽不明なことを根拠に金儲けをする」というのはよくないと思いますので、もっと批判的思考をもって物事にあたれるよう日頃から心掛けたい、と記事を読んで思った次第です。まぁ、そんな私でも血液型云々でどうのこうの言われるのは結構ウザいと感じますけどね(笑)。
 ん、そういえばうちの事務所の空気清浄機は常時「マイナスイオン」なるものを撒き散らしてくれていますが(そのはず・・・)、これって何がいいんだっけ?