2020年1月


 戸籍証明書の本人等請求と第三者請求(2020年1月20日・vol.304)  

 かなり遅くなりましたが、新年明けましておめでとうございます。
 本年もどうぞよろしくお願いいたします。

 さて、最近同業や他士業の方と会話をしていると、「某市役所の窓口で戸籍証明書の交付請求をすると請求書に記載した事項以外の事情まで聞かれる(ちょっと珍しい?理由で請求した時などは特に)」との不満の声をよく聞きます。これについては、戸籍法で市区町村長が戸籍という極めて秘匿性の高い重大な情報の公開事務を担うとされている以上、証明書交付の審査に必要な範囲での質問は明文の規定がなくても法が当然に予定していると思いますので、多少のことは聞かれても仕方がないと思います。ただし、依頼者に対する守秘義務やプライバシーの問題もありますので、答えるにも限度はあると思いますが。因みに、市町村長は、交付請求書の記載内容から交付要件や必要な理由等が明らかでない場合は、請求者に対して必要な説明を求めるものとされており(戸籍法第10条の4)、また、戸籍証明書の請求が不当な目的によることが明らかなときは、これを拒むことができることになっていますので(戸籍法10条2項)、請求内容において疑わしい点があるときはこれらの規定を根拠にいろいろ質問されることもあるのかも知れません。

 一方で、士業者ではない市民の方と会話をしていると、「相続手続をするために市役所の窓口で自分の配偶者の親や自分の兄弟姉妹(甥姪)の戸籍証明書を請求したら、直系血族じゃないから本人や直系血族からの委任状がないと交付できませんと言われました」みたいな話をお聞きすることが結構よくあります。こちらは半分不正解(というか不親切)。この場合、たしかに市役所が言うように本人等請求(戸籍法10条1項)はできませんが、第三者請求(戸籍法10条の2第1項)は可能ですので、請求書で戸籍証明が必要な理由等の必要事項を明らかにしたうえで必要に応じて疎明資料を添付すれば、交付を受けることは可能なはずです。したがって、市役所が第三者請求の方法を説明せずに戸籍法10条1項の要件だけを根拠に請求をはねるという対応はちょっと不親切ではないでしょうか。たしかに、実務的には、戸籍証明書が必要な関係者(他の相続人等)に本人等請求をしてもらった方が簡単かもしれませんが、当該関係者の協力を得るのが容易でない場合(疎遠、敵対等)もあるわけで、そんな場合には第三者請求を認めないと、戸籍証明書が必要となる手続を専門家(士業者)に依頼せずに自身で行うことが不可能になってしまい、これは大問題です。したがって、請求者に対して必要に応じて第三者請求の方法を教示することも行政の対応としてあるべきだと思います。
 ちなみに、ご自身が法的に取得できない戸籍証明書を司法書士等の士業なら取得できる、ということは基本的にありません。士業者は依頼者の方が本来取得できるものを業務の依頼を受けたことを理由として代わりに取得しているに過ぎないからです。したがって、役所が必要な戸籍証明書を発行してくれないことを理由に仕方なく司法書士等に業務を依頼する、というのは、少なくとも理論上はおかしな話であるということになります。よね?

(参考)
戸籍法(昭和22年法律第224号)
第10条 戸籍に記載されている者(その戸籍から除かれた者(その者に係る全部の記載が市町村長の過誤によってされたものであつて、当該記載が第24条第2項の規定によって訂正された場合におけるその者を除く。)を含む。)又はその配偶者、直系尊属若しくは直系卑属は、その戸籍の謄本若しくは抄本又は戸籍に記載した事項に関する証明書(以下「戸籍謄本等」という。)の交付の請求をすることができる。
2 市町村長は、前項の請求が不当な目的によることが明らかなときは、これを拒むことができる。
3 省略
第10条の2 前条第一項に規定する者以外の者は、次の各号に掲げる場合に限り、戸籍謄本等の交付の請求をすることができる。この場合において、当該請求をする者は、それぞれ当該各号に定める事項を明らかにしてこれをしなければならない。
@ 自己の権利を行使し、又は自己の義務を履行するために戸籍の記載事項を確認する必要がある場合 権利又は義務の発生原因及び内容並びに当該権利を行使し、又は当該義務を履行するために戸籍の記載事項の確認を必要とする理由
A 国又は地方公共団体の機関に提出する必要がある場合 戸籍謄本等を提出すべき国又は地方公共団体の機関及び当該機関への提出を必要とする理由
B 前二号に掲げる場合のほか、戸籍の記載事項を利用する正当な理由がある場合 戸籍の記載事項の利用の目的及び方法並びにその利用を必要とする事由
以下省略
第10条の4 市町村長は、第10条の2第1項から第5項までの請求がされた場合において、これらの規定により請求者が明らかにしなければならない事項が明らかにされていないと認めるときは、当該請求者に対し、必要な説明を求めることができる。


平成20年4月7日付け法務省民一第1000号通達
戸籍法及び戸籍法施行規則の一部改正に伴う戸籍事務の取扱いについて
第1 戸籍謄本等の交付の請求