2020年6月


 仮払いにおける相続預貯金分散のメリット(2020年6月23日・vol.310)  

 どうにかこうにか今月の司法書士会無料法律相談会は無事に開催することができました。
 コロナ禍においても多数の方にご相談をいただきました。
 少しでもお役に立てたなら幸いに思います。


 あちらこちらに複数の預貯金口座を持っていると相続の手続の際に相続人から「も〜、一か所にまとめといてよ!」と迷惑がられたり「ほかにもどっかの銀行に口座があるんじゃないの?」と疑われたりしますので通常はあまり歓迎されませんが、民法909条の2の規定に基づく遺産の分割前における預貯金債権の行使(いわゆる預貯金の仮払い請求、以下、「仮払い請求」といいます。)をする場面では、相続人の側においてもちょっとしたメリットがあります。

 と言いますのも、仮払い請求により各金融機関(債務者)から預貯金の払い戻しが受けられる金額の上限額は、法務省令で「金融機関(債務者)毎に150万円まで」とされているからです。これは、1つの金融機関にどれだけ高額の預貯金があっても当該金融機関から仮払いが受けられるのは150万円が限度ですよということが定められているわけですが、言い換えると、複数の金融機関に分散して預貯金が存在する場合は、各金融機関からそれぞれ150万円を限度に仮払いが受けられますよということが定められているのです。

 具体例でいいますと、例えば、被相続人がA、相続人が子B及びCの2名のケースにおいて、遺産としてX銀行に普通預金1口(300万円)、定期預金1口(900万円)がある場合、CがX銀行から仮払いを受けられる預金毎の金額の上限は、普通預金から50万円(300万円×3分の1×2分の1)、定期預金から150万円(900万円×3分の1×2分の1)となりますが、その合計(200万円)が150万円を超えていますので、結局、X銀行からは150万円までしか仮払いを受けられません(上限の範囲内でどの預金からいくらを払い戻すかは任意の選択による)。

 一方、X銀行に普通預金1口(150万円)、定期預金1口(450万円)、Y銀行にも同じく普通預金1口(150万円)、定期預金1口(450万円)と預金が分散してある場合は、X銀行からは総額100万円(普通預金から25万円、定期預金から75万円)の仮払いが受けられ、さらにY銀行からも総額100万円(普通預金から25万円、定期預金から75万円)受けられますので、結果として、両銀行から総額200万円の仮払いを受けることが可能となります。

 このように、預貯金を分散しておくことにより、相続開始後において仮払い請求をした場合に受け取れる金額の総額が異なってくるケースもあるのです。

 法務省令の上限金額150万円の根拠は、遺産分割が終了するまでの相続人の当面の生活費や葬儀費用の支払いとしてはそれぐらいで十分でしょみたいなことですが、遺産紛争が長引くようなケースや葬儀や法要に多くの費用がかかるケースではもっと大きな金額の仮払いが必要となることもあるでしょうから、場合によってはある程度は預貯金を分散させておくことにも一理あるということになりそうです。

 こうして考えると、もしかしたら、被相続人の方は相続人が遺産で揉めることを見越して預貯金を分散しておかれたのかもしれませんよね。

 ・・・だったら遺言書を作っておいてくれよ〜(-_-;)。
 
 ということで令和2年7月10日から法務局での自筆証書遺言書の保管制度が始まりますので、遺言書の作成・保管は司法書士までご相談ください。

※ 参考法令

(遺産の分割前における預貯金債権の行使)
第909条の2 各共同相続人は、遺産に属する預貯金債権のうち相続開始の時の債権額の3分の1に第900条及び第901条の規定により算定した当該共同相続人の相続分を乗じた額(標準的な当面の必要生計費、平均的な葬式の費用の額その他の事情を勘案して預貯金債権の債務者ごとに法務省令で定める額を限度とする。)については、単独でその権利を行使することができる。この場合において、当該権利の行使をした預貯金債権については、当該共同相続人が遺産の一部の分割によりこれを取得したものとみなす。

民法第909条の2に規定する法務省令で定める額を定める省令
民法(明治29年法律第89号)第909条の2の規定に基づき、同条に規定する法務省令で定める額を定める省令を次のように定める。
民法第909条の2に規定する法務省令で定める額は、150万円とする。