2021年6月


 新しい書籍の修正(2,021年6月28日・vol.336) 

 遺言で「甲居住建物は子Bに相続させる。配偶者Aに甲居住建物の配偶者居住権を遺贈する。」とあった場合、配偶者居住権の設定登記の前提として必要な甲居住建物のBへの所有権移転登記の原因は、「相続」か?、「遺贈」か?

 この問題について、先の通達(令和2年3月30日法務省民二第324号)では、「遺言書の全体の記載からこれを遺贈の趣旨と解することに特段の疑義が生じない限り、居住建物の所有権の帰属に関する部分についても遺贈(負担付遺贈)の趣旨であると解」するとして、原則、「遺贈」を原因として居住建物の所有権移転登記を申請すべし(登記義務者(遺言執行者又は相続人全員)と登記権利者(B)の共同申請)、とされていました。

 ところが、後の通達(令和3年4月19日法務省民二第744号)では、「遺言書全体の記載から当該居住建物の所有権の帰属に関する部分を特定財産承継遺言(遺産の分割の方法の指定として遺産に属する特定の財産を共同相続人の一人又は数人に承継させる旨の遺言(民法(明治29年法律第89号)第1014条第2項)。いわゆる相続させる旨の遺言のうち遺産の分割の方法の指定がされたもの。)の趣旨と解することができる場合」には、「相続」を原因として、登記権利者(B)が単独で甲居住建物の所有権移転登記を申請することができる、とされました。

 通常、いわゆる「相続させる」旨の遺言がなされた場合は、後の通達が言う趣旨と解することになるわけですから(ほとんどの人が相続を原因とする所有権移転登記を単独申請するはず)、結局、先の通達と後の通達で原則的な取り扱いが変更されたことになりそうです。

 登記が単独で申請できるか、共同で申請しなければならないかの違いは実務においては手続上の負担面でかなり影響が大きいですから、この取り扱い変更は申請人側(の代理人である司法書士も含む)にとっては「しかるべし」といった感じです。

 というわけで、まだ最近出たばかりの実務参考書籍では、この取り扱いの変更が内容に反映されていませんので、片っ端から手書きで修正の書き込みをしている今日この頃ですが、つい先日届いた登記専門誌の記事でも修正がされていませんでしたので、こちらにも書き込んでおきました。


 事業承継業務の研修(2021年6月12日・vol.335) 

 昨日テレビでグーニーズがやってましたので、懐かしくてつい見入ってしまいました(ゲームもよくやったもんです)。ちなみに名曲good enoughってcellador(超ハイスピードメタル御三家?)がメタルアレンジでカバーしてるんですけど、こっちもまた結構いいのです。

 さて、先日、中小企業の事業承継に関する研修を受けてきましたので、以下、講義の要点のまとめをしてみます。

1.事業承継を考えているなら今すぐに計画・実行に着手すべし
※ 経営者の高齢化や不慮の事故(怪我、認知症等)により事業継続が困難になってから事業承継を考えるようでは遅い。

2.事業承継に備えて、承継すべき事業に関連するもの(株式、事業用資産、資金、経営理念、技術・技能、ノウハウ、信用、人脈、顧客情報、知的財産、許認可等)の整備を常日頃しておくべし
※ 整備されていないといざ事業承継をすることになった時に手が着けられなくなるおそれあり)

3.事業承継は、まず長期(5〜10年程度)のスケジューリングを行い、それに従ってなすべき個別の作業(株式、経営資産、代表権、情報等の移転)に取り掛かるべし

4.事業承継作業の端緒として、まずは遺言の作成をすべし
※ 現経営者の万一に備えた最低限のリスクヘッジ
※ 持戻し免除等の必要な条項を書くこと

5.事業承継は、@事業承継の必要性の検討(会社の現状分析)、A事業の課題(経営上、法的)の見える化(ピックアップ)、B経営改善策の検討、C具体的な事業承継作業のスケジューリングという具合にステップを踏んでやるべし

6.事業承継の各形態(親族内承継、従業員承継、第三者承継)のメリット、デメリットを検討し、自社に相応しい承継方法を考えるべし

7.事業承継に関連して発生する手続費用や税金は事業経営の必要経費と考えて割り切るべし
※ 目先の出費にこだわると将来痛い目を見ることになる?

8.事業承継における司法書士の出番
@ 経営資産である不動産の移転等の登記手続
A 役員変更、種類株式の発行等の商業登記手続
B 株主名簿の整備、定款規定の見直し、その他企業法務
C 相続、会社非訟等の裁判手続書類の作成

 細かな事業承継実務のポイントはまだまだたくさんありましたが、取っ掛かりのためのご紹介としてはgood enoughと思いますので割愛します。

 事業承継について相談されたい方や既に事業承継を決心された場合は、お近くの司法書士に相談してみましょう。




 新型ヤミ金(2021年6月7日・vol.334) 

 最近、多少は事務所からのWEB会議にも慣れてきましたが、会議中に急なお客さんが来られたときに居留守みたいになるのが悩みです(一応玄関に会議中の貼紙はしていますけどなんか申し訳ないです・・・)。

 さて、つい最近まで「給与ファクタリング」なるヤミ金(給与債権を債権譲渡させるテイで譲渡人(借主)に譲渡代金(例えば10万円)を交付するが会社等からの給与の支払いは譲渡人(借主)に受けさせたうえで(労基法24条)、当該給与(例えば15万円)を譲受人(貸主)に交付させる、返済が遅れた場合は債権譲渡の旨を会社等に通知する(圧力をかける)という実質金銭消費貸借)がいましたが、それが収まりかけてきたかと思うと今度は「後払い・ツケ払い現金化サービス」なるヤミ金(価値の全くない情報商材(とすら言えないようなもの・例えばネット上で誰でも取得できるような画像とかパンフレット)等を代金後払い(次の給料日払い)で売買(例えば代金は4万円)するテイで買主(借主)にその商品のレビュー(1行程度)を書かせ、そのお礼として現金(例えば2万円)を交付するという実質金銭消費貸借契約)が現れてきているそうです。差額の利益を年利換算すると、年500%から4000%超にもなるそうです。
 試しに、ネットで検索をかけてみると出るわ出るわの状態です。
 金消じゃない「テイ」で実質金消をして暴利を貪るのが近年のヤミ金です。
 すでに大阪の司法書士さん達が訴訟提起等により闘っておられるようですが、コロナ禍の昨今、今後もこうゆう新手のヤミ金とのイタチごっこが続くのかもしれません。
 以上、消費者法ニュース最新号から情報をいただきました。



 相続放棄と配偶者短期居住権(2021年6月3日・vol.333) 

 う〜ん、今年も検討の余地なくコロナ禍対応型の株主総会(書面決議、書面投票、委任状勧誘、ハイブリッド(WEB併用)型等)にせざるを得ないとは去年の今頃は思っていませんでしたが、結果は去年と変わらず(あるいはもっと酷く)、会場参集方式は全然ダメみたいですね。もっとも、今の方式の方が株主の総会出席率が高いというのが大半のご感想です。

 さて、平成30年の民法(相続法)改正により、配偶者短期居住権という制度が新たに設けられ、令和2年4月1日から施行されています。条文は以下のとおり。

(配偶者短期居住権)
第1037条 配偶者は、被相続人の財産に属した建物に相続開始の時に無償で居住していた場合には、次の各号に掲げる区分に応じてそれぞれ当該各号に定める日までの間、その居住していた建物(以下この節において「居住建物」という。)の所有権を相続又は遺贈により取得した者(以下この節において「居住建物取得者」という。)に対し、居住建物について無償で使用する権利(居住建物の一部のみを無償で使用していた場合にあっては、その部分について無償で使用する権利。以下この節において「配偶者短期居住権」という。)を有する。ただし、配偶者が、相続開始の時において居住建物に係る配偶者居住権を取得したとき、又は第891条の規定に該当し若しくは廃除によってその相続権を失ったときは、この限りでない。
一 居住建物について配偶者を含む共同相続人間で遺産の分割をすべき場合 遺産の分割により居住建物の帰属が確定した日又は相続開始の時から6箇月を経過する日のいずれか遅い日
二 前号に掲げる場合以外の場合 第三項の申入れの日から6箇月を経過する日
2 前項本文の場合においては、居住建物取得者は、第三者に対する居住建物の譲渡その他の方法により配偶者の居住建物の使用を妨げてはならない。
3 居住建物取得者は、第一項第一号に掲げる場合を除くほか、いつでも配偶者短期居住権の消滅の申入れをすることができる。

 この配偶者短期居住権、実は相続放棄をした配偶者においても成立するとされています(一問一答37頁、法務省HP等)
 そして、相続放棄をした配偶者の配偶者短期居住権の存続期間は、居住建物取得者(相続又は遺贈により居住建物を取得した者)が配偶者短期居住権の消滅の申入れをした日から6か月を経過する日までとされています。
 また、配偶者短期居住権が成立する場合、居住建物の返還までの使用利益の償還は不要(つまり無償)とされています。

 ところで、某実務書によると最終順位までの相続人全員が相続放棄をして相続人が不存在となった場合においても配偶者短期居住権は成立し得るとされています(相続財産管理人に対して配偶者短期居住権の主張が可能だとか)。
 でも、その場合、配偶者短期居住権の存続期間はいつまでになるのでしょうか?(消滅の申入れは誰がするのか?)因みに、配偶者短期居住権は債権であり、第三者対抗要件は法律上規定されていませんので、居住建物が第三者に譲渡された場合は、当該第三者に配偶者短期居住権を対抗できないとされています(つまり、新たな建物取得者からの要請があれば即退去しなければならないことになります。)。
 また、その場合でも、居住建物の返還までの使用利益の償還は不要なのでしょうか(一問一答43頁)?

 被相続人に膨大な負債があり最終順位までの相続人全員が相続放棄をする場合は往々にしてありますが、その場合でも最低6か月以上の配偶者短期居住権が認められるのであれば、残された配偶者にとってメリットは大きいと思いますので、もうちょっと詳しく研究する必要がありそうです。