2020年5月


 昔は課税、今は非課税(2020年5月26日・vol.309)  

 今年の7月1日から法務局における遺言書の保管制度が始まります。遡って、去年の7月1日からは改正民法(相続法)が施行されています。が、実務の現場では新しい法律が定着していると言うにはまだまだ程遠い感じです(預貯金の仮払いは扱ったことはないです・・・みたいな)。

さて、今回は不動産登記名義人の住所変更の登記についてのネタです。

(事例)
@ 登記記録上の住所はA市
A 平成5年5月1日、住所をB市へ移転
B 令和1年5月1日、行政区画の名称の変更により、B市がC市に変更

(昔の登記実務)
 登記原因 平成5年5月1日住所移転
 登録免許税 課税(不動産1個につき1,000円)
 ※ 昭和50年5月23日民甲2692号回答

(今の登記実務)
 登記原因 平成5年5月1日住所移転
          令和1年5月1日行政区画変更
 登録免許税 非課税(登録免許税法5条5号)
 ※ 平成22年11月1日民二2758号回答

 登記の対象不動産の数が数十筆に及ぶような場合は、登録免許税の課税と非課税の違いによる影響は結構大きいですよね。

 というわけで、丹波篠山市になる前(平成31年4月30日以前)に登記記録上の住所を移転していた方は、市の名称変更後に住所変更登記を上記の要領で申請すれば登録免許税が非課税になるので、結構お得かもしれません。


 コロナ禍と定時株主総会(2020年5月8日・vol.308)  

 新型コロナウイルス感染症の影響により、兵庫県司法書士会たんば支部主催の無料法律相談会は今月も中止が決定しました。一番必要な時に相談ができないようでは何のための相談会かということになりますので、今後も会場開催ができない状況が続くようであれば、代替案(電話相談等)を早急に検討しなければならないでしょう。

 さて、今年も5月に入ったことですし、3月決算の株式会社(以下、閉鎖会社の中小企業を念頭に置きます。)ですと、通常は株主総会の開催準備で忙しくなる時期ですが、今期は件の新型コロナウイルス感染症(COVID-19)の影響下にありますので、例年どおりに会場出席型で定時株主総会の開催した場合は、感染拡大の原因となるいわゆる3密状態(密閉、密集、密接)が生じるおそれがあり、これは避ける必要があります。この点については、すでに行政機関(経済産業省、法務省)から情報が発信されておりますのでまずはそちらをご覧いただけたらと思いますが、以下、もう少し踏み込んで検討してみます。なお、検討が必要な会社として想定されるのは、比較的株主数が多い中小企業であり(例えば50名とか100名とか)、株主数が極少数の同族会社等においては検討する必要性はあまりないものと思われます(そもそも株主総会を例年開催していない会社は別として・・・)。

1.定時株主総会自体を全く開催しないというのはどんな事情があっても基本的に認められませんが、その開催時期については、定款規定や会社法(296条1項)等による一定の制約はあるものの、「天災その他の事由により所定の時期に定時株主総会を開催することができない状況が生じた場合」においては、当該状況が止むまで開催を延期することは可能との解釈が上記行政機関からも示されています。よって、現在のコロナ禍の状況においては、開催時期を延期することは可能でしょう。なお、役員の任期は、延期後に実際に開催された株主総会の終結時まで伸びることになります(法務省の見解。特例?)。

2.ただし、通常、多くの会社が定款上で基準日を事業年度末(3月末日)と定めていることとの関係から、例えば開催時期を基準日から3か月以上先の令和2年7月以降に延期する場合は、「新たに議決権行使のための基準日を定め、当該基準日の2週間前までに当該基準日及び基準日株主が行使することができる権利の内容を定款所定の方法で公告する」必要があります(会社法124条2項、3項)。よって、この場合、会社において公告手続の手間と費用負担が生じます(官報で大体3〜4万円くらいかな?)。


(令和2年5月11日補足)
 定時株主総会の開催時期を延期した場合の基準日の再設定について、「定款で定時株主総会の議決権行使のための基準日が定められいる場合で、新型コロナウイルス感染症に関連し、当該基準日から3か月以内に定時株主総会を開催できない状況が生じたときでも、定時株主総会の議決権行使のための基準日は、会社法上必ず定めなければならないものではないため、定時株主総会の開催時期を延期する場合でも、必ず新たな基準日を定めなければならないということはない」との趣旨の説明が本日日司連より出ていました。
 この説明によれば、仮に令和2年7月以降に延期して定時株主総会を開催する場合でも、新たな基準日を定めない方針を採ることは可能となります(当然、公告手続等も不要)。なお、その場合は、原則に戻り、現実に定時株主総会を開催した時点の株主が議決権を行使することになります。
 そうすると、結局、延期した場合に新たな基準日を定めるかどうかは、基準日後の株主の異動等の状況により判断する必要があるようです。
 確かに、例えば、閉鎖会社で株主構成が知れたる極少数の者だけであり、およそ短期間では株主の異動が生じないような会社であれば、特に新たな基準日の設定をしなくても結果的に問題がないであろうケースもあるのでしょう(臨時総会を開催する場合にいちいち基準日なんか定めていないような会社とか)。


3.基準日の公告をする手間や費用をかけられない会社においては、株主総会を通常の時期に開催する選択をすることになりますが、その場合でも可能な限り感染拡大リスクを低減する対策を講じる必要があるでしょう。具体的には以下のような方法が考えられます。
 (1) まずは、株主に対し会場への来場を控えるよう要請します。
 (2) その上で、株主の議決権行使の機会を保障する措置として、以下の方法を株主に提示します。
@ 書面による議決権行使(いわゆる書面投票)の方法
A 受任者空欄の委任状を提出する方法(いわゆる委任状勧誘)
 (3) それでも来場した株主への安全対策として、会場の設営を工夫して行う。

4.書面投票制度(会社法298条1項3号)を採用する場合
 (1) 特に会社の定款においてその旨の規定がなくても可能
 (2)取締役会の決議により採用することを決定する
 (3) 株主総会の招集通知(必ず書面で行う)において、書面投票により議決権を行使することができることを案内する。なお、招集通知の発送は、発送日から投票期限までの間に2週間以上の期間を置く(閉鎖会社(全株式譲渡制限会社)の場合、通常(最低1週間)より早く発送する必要がありますので要注意)。
 (4) 招集通知に併せて、@株主総会参考書類A議決権行使書面を株主に交付する。
 (5) 株主総会参考書類については、議案の内容に応じて会社法施行規則73条以下を参照のうえ、必要な事項を漏れなく記載して作成する(これが一番のハードルか?)。なお、必要な記載事項については、他の株主提供書面(招集通知等)の記載を援用することが可能です。定時総会の一般的な議案としては、役員の選解任、役員の報酬、計算関係書類の承認等があると思いますので、それらの議案についての必要的記載事項には特に注意をしましょう。
 (6) 議決権行使書面については、以下の点に留意して作成します。
  @ 各議案についての賛否を記載する欄を設ける。
  A 2人以上の役員等の選任に関する議案がある場合は、候補者ごとに賛否が表示できるようにする。
  B 賛否の表示がない場合の取り扱いに関する定め(予め取締役会で取り扱いを決定しておく)を記載する。
  C議決権の行使の期限(例:総会開催日の前日の営業時間終了時)を記載する。
  D 議決権を行使すべき株主の氏名又は名称及び行使できる議決権数を記載する。
 (7) 書面投票制度を採用した場合においても希望する株主は総会会場に出席して議決権を行使することが可能であるため、同一株主で書面投票と会場投票が重複しないよう、議決権数の集計の際は注意をする。なお、書面投票をした株主については通常どおり出席株主の議決権数に算入する。
 (8) 書面投票を実施した場合は、会社は、株主総会の日から3か月間、提出された議決権行使書面を本店に備え置き、会社の営業時間内において、株主から、提出された議決権行使書面の閲覧又は謄写の請求をされた場合は、これに応じる義務があります(会社法311条3項・4項)。

5.委任状勧誘を行う場合
 (1) 委任を受けた代理人が大人数で会場に出席しては意味がないので、委任状の受任者欄を空欄にしてもらうよう招集通知等で株主に依頼する。
 (2) 受任者欄が空欄の場合は、代理人の選定は会社に一任として扱うのが通常なの で、会社は、当日出席者(議長でも可)の中から適宜の受任者を指定することが可能です。なお、委任状の様式は包括的委任型委任事項限定型(各議案の賛否も指示)が考えられますので(←いずれも勝手に命名)、事情に応じて適宜作成します。

6.株主総会の会場での開催自体を省略する制度(いわゆる書面決議)も会社法(第319条1項)で認められていますが、その要件の1つとして提案に対する株主全員の書面(または電磁的記録)による同意が必要とされているため、コロナ禍で通常開催が躊躇われるほど株主が多数の会社においてこの書面決議を行うのはかなり難しいでしょう。

7.前記の行政機関情報では、延会・継続会の方法も提示されています。これはコロナ禍で計算書類の確定等の総会の準備が難しい場合等に対する対処法であり、延会や続行をするにはまずは通常どおりの時期に定時株主総会を開催し、そこで延会や続行の決議をする必要があります(会社法317条)。

 以上、ザックリですが新型コロナウイルス感染症の影響下における定時株主総会の開催方法について検討してみました。使える情報があればご活用ください。

(参考になる文献)
@ 株主総会ハンドブック(第3版)・商事法務刊
A 株式実務ガイダンス・中央経済社刊
B 株主総会招集通知作成の実務Q&A・商事法務刊
C 招集通知・議案の記載事例・商事法務刊
D 実務解説 中小企業の株主総会−手続と書式−・新日本法規刊