2022年4月


 預貯金債権の譲渡制限特約と死因贈与、遺贈、特定財産承継遺言(2022年4月25日・vol.356) 

 毎年、田植えの時期になると仕事の流れが停滞します(農家さんは忙しい)。ちなみに、土地の登記地目、課税地目に関係なく、現況が農地であれば農地法が適用されることになりますが(現況主義)、これが登記実務では結構悩みの種になることが多いのです(農地なのかい、農地じゃないのかい、どっちなんだいっ!?)

 さて、標記の論点に関する裁判例(東京地裁令和3年8月17日判決・金法2177号88頁)が月報司法書士で紹介されていたのが結構衝撃的に気になりました。
 裁判になっている(現在控訴中?)死因贈与についてはともかく、遺贈特定財産承継遺言との絡みではどうかについて、きちんと検討したうえで遺言書(案)を作っている専門職ってどれくらいいるのだろうとふと思った次第です。
 気になる方は月報司法書士をお読みください。


 相続分譲渡と遺産分割調停調書と登記(2022年4月12日・vol.355) 

 登記業務でも裁判業務でもその依頼を受ける端緒となる相談業務を行う場合は、やはり生の面談による相談(リアル相談)に勝るものは無いというのが現実でして、Web映像でのリモート相談、電話相談、メール相談等は何かしらの点でリアル相談に劣る感覚が拭えません(複雑に込み入った相談内容の場合は特に)。というわけで、こんなご時勢でもできるだけ相談業務(特に初回の相談)はリアル相談をするようにしていますが、これがなかなか毎回余計な神経を使うので、ちょっとしんどくなってきている今日この頃です。

 さて、遺産分割調停の手続において相続分の譲渡(自分が有する相続分を他の相続人等に譲渡し、自らは調停手続に参加しない方法)が多用されている現実は以前にも何度かお話させていただきましたが、相続分の譲渡のタイミングについてもう少し細かく見てみると、@調停申立ての前段階で相続分の譲渡を行い最初から調停の相手方にならない場合A調停申立ての段階では相手方として調停に参加するが調停手続の途中で相続分の譲渡を行い調停手続から脱退する場合があります。手続的には、@の場合は、調停申立書と一緒に相続分譲渡証書(印鑑証明書付き)を家裁に提出するので一度も調停の当事者にならないのに対し、Aの場合は、調停の途中で相続分譲渡証書(印鑑証明書付き)を提出し家裁において調停手続の当事者から排除してもらうことになります。

 では、最終的に遺産分割調停が成立した場合に、@とAで調停調書の記載内容やその後の登記手続において何か違いは生じてくるのでしょうか。

 まず、調停調書の記載内容についてですが、これは当然@とAでは全く異なってきます。調停自体への参加の有無に違いが出てきますので両者では当事者の表記が変わってきますし、@の場合は調停条項等において相続人として相続分の譲渡を行った事実が記載され、Aの場合は調停から途中で脱退(排除)した旨が記載されるのが通常です。

 次に、上記のように調停調書の記載方が異なってくる場合、@の場合とAの場合で、登記手続において何か影響が生じてくるのでしょうか。実務において参考になるのは、登記研究誌819号189頁がありますが、これをそのまま読んでいるとAの場合のケースでは迷いませんが、@の場合のケースではちょっと考え込んでしまうこともあるかもしれません。理論的には、@でもAでも実際に家裁が相続人全員の確定と相続分の譲渡の事実を確認しているのであるから調停調書だけで相続登記できるでしょ、と登記所に言っていくわけですが、調停調書の書きぶりによってはちょっと悩まされることがあったりするのも登記実務の現実ではないでしょうか。