2019年7月


 法律番号(2019年7月23日・vol.294)  


 以前出てきたO司法書士からまた質問ネタの提供がありましたので、アレンジして以下掲載します(ご本人が載せるネタをあげようとおっしゃったものですから・・・)。

 なお、以下、私基準の思い込みですので、多少間違っていてもご勘弁を。


Q,作成を依頼された土地売買契約書の文中に「・・・農地法第5条第1項の許可を得ることを条件に・・・」と記載していたら、依頼者の方から「法律番号が書いてないじゃないかっっっっっっっっ!!!!」と怒られましたが、これって普通書かないとダメなの?


A,まず、法律番号とは何かですが、六法等で何でもいいので法律(憲法は法律じゃないのでダメ)を引いてもらうと法律名の後に括弧書で「昭和何年何月何日法律第何号」とか書いてあると思いますが、これのことです(文中で引用する場合は「何月何日」は省略するのが通例なので以下では省略します)。政令、省令等も含めて法令番号と言ったりもします。質問の農地法だと下記のとおりです。


農地法(昭和27年法律第229号)


 ところで、法律を作ったときに法律番号を付ける意味って何かというと、それは単純に「法律を特定するため」であり、これは法律によっては同じ名前の法律が毎年のように作られることもあるので(例えば○○法の一部を改正する法律とかいうやつです)、法律を作るごとに異なる法律番号を付けておかないと、題名だけでは指している法律の特定ができなくなるため、とされています。なお、法律が一部改正されても元である法律の同一性は失われませんので法律番号は変わりませんが、全面改正で新たに同名の法律が作られた場合は法律番号も新たに付されることになります(例えば民事訴訟法は旧法が明治23年法律第29号で新法が平成8年法律第109号)。

 ・・・というふうに学生のときに習いましたのでたぶん合っているはずです(たぶんね)。


 さて、O司法書士の質問の件になりますが、農地法についてみると、法律番号は、「昭和27年法律第229号」となっており、昭和27年に同年中229番目に成立した法律であること(さすがに当時は近年に比べると成立数が多い)、同名の現行法はほかに存在していないのでその後全面改正等により新たに同名の法律はできていないことがわかります。また、昭和27年より前に同名の法律はあったのかというと、農地法という題名の法律ができたのは昭和27年が最初であり、それより前は農地調整法という農地法と似たような法律はあったものの、これは題名も法律の目的も異なる全く別の法律ですので、現行の農地法と間違うおそれはありません。


 そうすると、質問の件も、「別に法律番号を付していなくても農地法と記載されていれば法律の特定としては十分である」と言えそうです。


 一般に、法律や条例等の文中で特定の法律を引用する場合は法律番号を付けるのが通例ですが、組織や団体等の内部規律として定められる規程や規約あるいは事業者が不特定多数の取引相手との契約内容を一律に規律するために定める約款といった比較的広範囲の人を対象にするような類のものにおいても、文中で法律を引用する場合は法律番号が付けられていることが多いように思います。しかし、個々で締結する契約書や特定の相手を訴える場合の訴状等では、法律番号まで記載して法律を特定することはあまりないと思います(あくまで個人的な感覚ですが)。

 文書の種類を問わず一律に法令番号を付けた方がすごく丁寧なのかもしれませんけど、かえって分かりづらい、読みづらい、という感想もあるかもしれませんので、そこは何とも言えません。


 というわけで、質問のO司法書士としては、「農地法という名前の法律は過去から現在までを通して1個しか存在しておりませんので、今回のように個々人間で締結するような売買契約書レベルでは、法律番号まで付さなくても法律の特定方法としては問題ないとの考えでこの契約書を作っております」と説明されてみてはいかかでしょうか?

 余計に怒られたらゴメンなさいですけど(笑)。




 企業法務をやってますねん(2019年7月6日・vol.293)  

 毎年5月から7月は登記から始まる会社関係の仕事にドップリはまっています。

 そんな中で、 「わたし、企業法務やってますねん」 と格好のいいことを一度言ってみたいのですが、これでやっていると言えるかどうか自信がないので未だに言ったことはありません(笑)。会社・法人の登記以外でもいろいろとやらせていただいたような感覚はあるのですが・・・・やっぱり都会の司法書士さんとはちょっとスケールが違いますのでデカいことは言えませんよね・・・・。

 てなわけで、司法書士会から企業法務の一種と言っていいであろう定款と株主名簿の整備に関する広報用チラシをもらいましたので、以下、活用してみました。興味のある会社の方はご覧くださいませ。

定款を整備しましょう!teikan-seibi.pdf

株主名簿を整理しましょう!kabumei-seibi.pdf

 定款や株主名簿が整備されていなくてもとりあえずの会社の経営(お金儲け)はできますが、法的に正しい会社の運営はできませんので、会社の内外で法的トラブルが発生した場合の対応や将来の事業拡大を目指す際において大きな障害になりかねません。また、不整備の状態のままで時間が経てば経つほど、法改正や相続の発生等により整備するのが困難となります。法的に安定した会社の経営をされたい場合は、早い段階で整備に取り掛かられるのがよいでしょう。

 なお、定款の整備を行う場合は株主総会の特別決議(会社法466条、309条2項11号)が必要ですが、株主の多くが不明な場合は株主総会の開催自体が困難な場合もありますので、その場合は、株主名簿から先に整備する必要があるでしょう。


 使わなくなる?登記原因(2019年7月2日・vol.292)  

  昨日(令和元年7月1日)から改正民法(相続関連)の原則施行となりましたが、この改正内容の中には遺留分の侵害に関する改正も含まれており、結論だけ言えば、今後発生する相続に関しては、従来から行われていた「遺留分減殺請求権」という物権的効果(減殺請求することにより当然に侵害額相当の権利が減殺請求者に移動しその結果不動産等の遺産が共有状態になる効果)を生じさせる権利から新たに「遺留分侵害額請求権」という権利行使により受遺者(受贈者、特定財産承継遺言の相続人)に対する金銭債権が発生する権利に変わりました(改正民法1046条)。これは、要するに、「いったん遺産を受遺者等と遺留分権利者(相続人)の物権的共有状態に戻したうえで共有物(遺産)の処分を行う形態から遺産は要らないから代わりにお金をもらう形態」に変更になったというわけです。これにより、解消するには何かと面倒な遺産の物権共有状態が生じなくなりますし、遺留分権利者からすれば管理・処分が大変な不動産等の物ではなく侵害額相応の金銭がもらえるわけですから、不動産神話が崩壊した今の時代では遺留分を侵害された方がある意味ラッキーかもしれませんよね。

 他方、登記手続の面では、今後発生する相続に関しては遺留分減殺請求による所有権の移転というものは生じなくなるわけですから、「遺留分減殺」を登記原因とする所有権の移転登記を申請する機会も無くなっていくことになりそうです。もっとも、施行日(令和元年7月1日)より前に発生した相続に関しては、依然として遺留分減殺請求は可能であり(改正法附則第2条)、また、いったん減殺請求がなされると当然に物権変動が生じることになるので、過去に遺留分減殺請求がなされているケース及び今後しばらくの間(旧法1042条の1年または10年の期間制限にかからない間)に遺留分減殺請求がなされるケースに関しては、依然として「遺留分減殺」を原因とする所有権移転登記を申請する機会もあるのでしょうね。

 皆さん、これから発生する相続において、生前贈与、遺贈、相続させる遺言(遺産分割方法の指定)等により遺留分が侵害された場合は、「減殺請求」ではなく「侵害額請求」をされるようご注意ください。