2015年5月


 死跡相続って何ですのん?(2015年5月30日・vol.221) 

 100年以上前の古い登記記録を調べたりすると、現在ではおよそ見かけることの無い登記原因を発見したりします。その一つを挙げますと「死跡相続」なんてのがあります。もちろん、現行の民法の条文においては「死跡相続」などという言葉は出てきませんし、その前の旧民法典においても見当たらないところ、登記された年代から考えると、旧民法の施行前の制度であることが想像できます。
 さて、この「死跡相続」ですが、所有権移転に関する登記の登記原因として登記簿に記載されている以上、所有権の移転が生じる物権変動の原因となる事実であることは容易に推測されるわけですが、ちょっと調べてみたところによると、「ある戸籍中の全員の死亡により本来であれば絶家となるべきところ、戸主死亡後6か月以内に跡目となる相続人(跡相続人)を定めた場合は、絶家とならず跡相続人が前戸主の家督を相続する」という制度のようです。
 要するに登記の原因となる物権変動の原因事実としては家督相続と同じであると考えてよさそうですが、それなら登記の原因として登記簿に記載する場合、単純に家督相続としてはいけなかったのでしょうか?このあたりは不明です(因みに、死跡相続の場合、原因日付が登記されないという違いがあります)。
 見たことのない登記原因に出くわしますと、登記手続に直接関係がなくても気になってついつい調べてしまいます。


 付加金と訴額算定(2015年5月29日・vol.220) 

 以前に労働者に対し解雇予告手当等が支払われなかった場合の付加金(労働基準法114条)請求のお話をいたしましたが(「労働者に払わなかったら倍返しだ!?(2013年12月19日)」をご参照ください。)、訴訟において付加金請求をする場合に当該付加金の金額が訴額に含まれるか否かについて、今回、「含まれない」との最高裁判所の判断が示されましたので、興味のある方は最高裁ホームページをご覧ください。

○ 平成27年5月19日最高裁判所第三小法廷決定
 「労働基準法114条の付加金の請求の価額は,当該付加金の請求が同条所定の未払金の請求に係る訴訟において同請求とともにされるときは,当該訴訟の目的の価額に算入されない。」

 今回の最高裁決定をもって今後は全国の裁判所での取り扱いも統一されるのでしょうね。


 無効な遺言は無用ですか?(2015年5月16日・vol.219) 

 遺言の方式は法律できっちりと規定されていますので、その方式に則っていない遺言は原則として無効です。この点に関しては、特に、自筆証書遺言(遺言者が本人だけで作成する遺言)について、民法968条1項において、「遺言者が、その全文、日付及び氏名を自書し、これに印を押さなければならない。」と定められていますので、最低限これらの要件を満たした遺言を作成する必要がありますし、また、遺言の内容の訂正方法についても、同条2項において「自筆証書中の加除その他の変更は、遺言者が、その場所を指示し、これを変更した旨を付記して特にこれに署名し、かつ、その変更の場所に印を押さなければ、その効力を生じない。」と定められていますので、この方式に違反した遺言内容の訂正については原則として無効であり、訂正がなかったものとして扱われることになります。また、民法975条では、「遺言は、二人以上の者が同一の証書ですることができない。」と規定されており、このような共同遺言は無効とされています。
 では、上記のような法定の方式に違反した無効な遺言はもはや無用なものとなるのでしょうか?確かに遺言自体は無効であるため、当該遺言書をもって直接遺言者の遺志を実現することはできないでしょう。しかしながら、法的には無効な遺言であっても、その内容自体は遺言者が書いたものであり、それが遺言者の遺志であるならば、遺産の処理の場面においては、ある程度尊重されても良いのではないかとも思えます。例えば、先の民法968条1項の自筆証書遺言の要件のうち、印鑑だけ押し忘れられているケースを考えてみるとよいかもしれません。
 したがって、せっかく書かれた遺言が方式不備により無効な場合、一般的には相続人間で遺産分割の協議をして遺産の処理が行われることと思いますが、この遺産分割の協議の際には、その無効な遺言の内容を尊重しつつ話し合いをされるのもよいかもしれません。また、相続人間で遺産分割の協議が調わないため、家庭裁判所において遺産分割の調停を行うことになった場合でも、調停の際の参考として方式不備による無効な遺言を提出すると、調停の進行おいて判断の基礎とされるかもしれません。
 そんなわけで、仮に、せっかくの遺言が無効な場合であっても、それが単なる方式違反によるものであれば、無効な遺言書は廃棄せずに保管しておいた方がよいと思います。


 思わぬ権利が其処にある?(2015年5月2日・vol.218) 

 通常、土地を売買する場合、当事者(特に買主)は、まず登記簿を調査し、担保権(抵当権、先取特権、質権)、仮登記、用益権(地上権、永小作権、地役権、賃借権)等の所有権を妨害するような権利の登記がなされていないかを確認されるでしょう。
 ところが、登記簿上は現れていない権利によって、買主がせっかく買った土地の所有権が制限されることもあったりします。その代表的な一例がいわゆる通行権の問題ですが、特に本来は登記できる権利である通行地役権(民法280条)が登記されていないケースに関しては、以下のような判例があり、参考になります。
 

○ 最高裁第二小法廷平成10年2月13日判決(裁判所HP要旨参照)
 通行地役権の承役地が譲渡された場合において、譲渡の時に、右承役地が要役地の所有者によって継続的に通路として使用されていることがその位置、形状、構造等の物理的状況から客観的に明らかであり、かつ、譲受人がそのことを認識していたか又は認識することが可能であったときは、譲受人は、通行地役権が設定されていることを知らなかったとしても、特段の事情がない限り、地役権設定登記の欠缺を主張するについて正当な利益を有する第三者に当たらない。

○ 最高裁第三小法廷平成25年2月26日判決(裁判所HP要旨参照)
 通行地役権の承役地が担保不動産競売により売却された場合において,最先順位の抵当権の設定時に,既に設定されている通行地役権に係る承役地が要役地の所有者によって継続的に通路として使用されていることがその位置,形状,構造等の物理的状況から客観的に明らかであり,かつ,上記抵当権の抵当権者がそのことを認識していたか又は認識することが可能であったときは,通行地役権者は,特段の事情がない限り,登記がなくとも,買受人に対し,当該通行地役権を主張することができる。

 前段の判例は通常の売買のケースであり、後段の判例は競売による売却のケースですが、いずれのケースにおいても、事情によっては土地の買受人において登記のない通行地役権を第三者から対抗される可能性があることを示唆しているのです。

 以上、登記簿を調査するだけでは分からない第三者の権利によって土地の買主の所有権が制限されるというお話でした。通常、土地を買う場合、現況を一切調査せずに買われる方はあまりおられないと思いますが、今回の通行地役権や囲繞地通行権(民法210条等)といった通行権が存在する可能性もありますので、現況(当該土地の状況及び近隣の状況)を調査して怪しいと思った場合は、念のため周辺土地の所有者への照会等もした方がいいのかもしれません。