2016年6月


 商業登記規則改正と株主リスト(2016年6月25日・vol.244) 


 毎年のことですが、6月は決算に関するいわゆる定時株主総会の時期でありまして、これに関連して司法書士の仕事の一つである商業登記申請の仕事が増える時期でもあります。会社法の施行に伴い小規模閉鎖会社の役員(取締役、監査役)の任期がMAX10年まで伸長できるようになったため、業界では以前に比べると商業登記の仕事は随分減ったそうですが(商業法人登記の仕事をする機会が無い若手司法書士の登記離れの話が出たりするわけで・・・)、それでも今年は会社法施行から10年目の年でもあるためか(任期10年にした会社の役員もそろそろ任期満了です)、例年に比べると申請依頼の件数がやや多いように感じます。
 さて、前置きはこの程度にしまして、最近は、会社法の改正があった関係もあり、商業登記手続に関連する規則の改正も頻発しておりましたが、今年も商業登記規則の改正がありまして、今度は、「株主リスト」なるものを登記の申請にあたって添付しなければならない場合が出てくることになります。

( 改正商号登記規則抜粋 )
第2項 登記すべき事項につき次の各号に掲げる者全員の同意を要する場合には、申請書に、当該各号に定める事項を証する書面を添付しなければならない。
@ 株主 株主全員の氏名又は名称及び住所並びに各株主が有する株式の数(種類株式発行会社にあっては、株式の種類及び種類ごとの数を含む。次項において同じ。)及び議決権の数
A 種類株主 当該種類株主全員の氏名又は名称及び住所並びに当該種類株主のそれぞれが有する当該種類の株式の数及び当該種類の株式に係る議決権の数

第3項 登記すべき事項につき株主総会又は種類株主総会の決議を要する場合には、申請書に、総株主(種類株主総会の決議を要する場合にあっては、その種類の株式の総株主)の議決権(当該決議(会社法第319条第1項(同法第325条において準用する場合を含む。)の規定により当該決議があつたものとみなされる場合を含む。)において行使することができるものに限る。以下この項において同じ。)の数に対するその有する議決権の数の割合が高いことにおいて上位となる株主であって、次に掲げる人数のうちいずれか少ない人数の株主の氏名又は名称及び住所、当該株主のそれぞれが有する株式の数(種類株主総会の決議を要する場合にあっては、その種類の株式の数)及び議決権の数並びに当該株主のそれぞれが有する議決権に係る当該割合を証する書面を添付しなければならない。
@ 10名
A その有する議決権の数の割合を当該割合の多い順に順次加算し、その加算した割合が3分の2に達するまでの人数
附則  この省令は、平成28年10月1日から施行する

 特に実務上影響が大きいと思われるのが、規則第3項でありまして、要は、「平成28年10月1日以降において、株主の決議を証する株主総会の議事録を添付するような登記の申請をする場合は、株主リスト(総株主の議決権数に対する議決権数割合が高い上位10名の株主又は議決権数割合上位3分の2以上にあたる株主の氏名(名称)、住所、株式所持数、議決権数及び議決権割合が記載された書面)をも添付しなければならない」ということになるのです。
 さて、商業登記の手続が上記のように変更されますと、その前提作業として、株主(名簿)の整理が必須の作業となるでしょう。会社の株主構成が正確に把握できていないようでは、株主リストなんて到底作成できませんから当然です。
ところが、以前も書いた記憶がありますが、株主(住所、氏名、持株数)を正確に把握できていない会社は意外と多いと思います。例えば、株主名簿なんてそもそも作ってないし、何年も前に株主に相続が発生したがほったらかしであるとかです。そして、このように株主構成が明確でない会社では、これまでは、有効性があいまいな株主総会を開催し(あるいは開催したことにして)、適当な内容を記載した株主総会議事録を作成して、有効性があいまいな登記を繰り返してきたところも多いのではないかと思われます。
 最近の商業登記規則の改正は、「登記の真実性の向上」が主な目的だそうで、今回の規則改正で、商業登記実務がどう変わっていくか興味深いところですが、株主の整理は事案によってはかなり大変なので、株主構成が正確に把握できていない会社におかれては、登記申請が必要な時期になって慌てないように、早めに株主の整理に着手されることをお勧めします。


 戸籍と認知・養子縁組の今昔(2016年6月16日・vol.243) 

 現行の戸籍制度のもとでは、子を認知したり養子縁組をしたりした場合、その親(養親)の戸籍の身分事項欄に認知の事実や養子縁組の事実が直接記載されるため、仮にその親が死亡し相続が開始した場合でも、相続人の調査には特に支障はありません。
 ところが、旧法の戸籍制度においては、これら認知や養子縁組の事実について、親(養親)の戸籍の身分事項欄には記載されませんでした。なぜなら、認知や養子縁組の当事者となった被認知者や養子は、親(養親)の戸籍に入籍することになっていたため、親(養親)と子(被認知者、養子)が同籍する戸籍のみを見れば、親子関係は明白となっていたからとされています。
 ただし、前述の旧法戸籍の記載方についても、認知に関しては例外があり、親に認知された子がその親の戸籍に入籍しない場合がありました。これが、被相続人である親の相続人の調査をする際に、大きな問題となります。なぜなら、通常、相続人を調査する場合、被相続人(親)の出生から死亡までの戸籍を間断なく調査しますが、被認知者である子が認知者である親の戸籍に入籍しない場合に該当する場合は、親の戸籍をいくら調査しても認知された子を発見することができないため、本来相続人であるはずの子(被認知者)を除外して相続処理が完了してしまうおそれがあるからです。
さて、被認知者が認知者の戸籍に入籍しない場合ですが、例えば、
@ 認知当時に、被認知者が既に婚姻や養子縁組等により他家に入っていた場合
A 認知者が戸主でない家族の場合で、戸主が被認知者の入籍を認めない場合
などが考えられます。
 では、上記のような認知者である親の戸籍から判明しない被認知者である子を探索する方法はあるのかというと、認知者(親)から生前に被認知者の存在を聞いているとか、親戚縁者で事実関係を知っている者がいるとか、当事者である被認知者(子)からの申出でもない限り、確実な調査方法は無いといわれています。
 ただし、そうは言っても、認知者(親)の在籍した戸籍全体の記載事項をみれば、認知者(親)の戸籍から判明しない被認知者(子)の存在を疑うべき記載事実がある場合があります。例えば、認知者(父親)の戸籍に庶子出生届や認知届により入籍している子がある場合であり、そのような場合は他にも入籍していない子が存在する可能性が疑われるため、その母親の戸籍の調査もしてみる契機になります。反対に、被相続人が母親の場合でも、母親の戸籍に在籍のまま認知された子がある場合は、庶子出生届により父の戸籍に入籍した子の存在を疑う契機にもなります。
 被相続人(親)の戸籍を調べただけでは判明しない相続人(子)が存在し得るというのは、何とも困ったことですが、旧戸籍の制度上の問題であり、今さらどうしようもありません。よって、不動産登記、銀行預金等の各種相続手続の実務においては、被相続人の戸籍の記載事項のみで相続人の認定を行っているのが現状ですが、前述のような疑わしい事情がある場合は、戸籍の調査範囲を広げてみるのも一考かもしれません。