2014年10月


 登記の登録免許税の負担は誰がする?(2014年10月29日・vol.209)

 登記の申請手続をする場合、特に法令等で非課税の扱いがされていない限り、登録免許税という税金を負担しなければなりません。登記をしてもらうメリットに対する課税といったところでしょうか。したがって、司法書士は、基本的に税金問題は業務範囲外ですが、殊この登録免許税に関しては必然的に税額計算と納付を要求されています。
 ところで、この登記手続に必要な登録免許税ですが、一体だれが負担するのでしょうか?法人登記の場合は、申請する法人が負担すればよいでしょう。では、不動産登記の場合、特に売買や贈与による所有権移転登記のように相対立する当事者間における登記手続の場合はどうでしょう。登記を受ける利益を得る不動産の譲受人が負担すべきでしょうか。それとも、登記をする義務がある不動産の譲渡人が負担すべきでしょうか。この点に関しては、不動産取引の慣行上は、前者のケースが圧倒的?に多いと思いますが、結局は当事者の合意によることになるでしょう。
 では、そのような不動産登記の登録免許税負担の実情において、もはや合意ができない死者(相続)が絡んでくる場合はどうでしょうか。これは、特に遺贈の登記(被相続人の遺産である不動産を第三者に無償で譲り渡すことによる所有権移転登記)についてですが、最近興味深い判決がありましたので、以下、ご紹介します。

○ 東京高裁平成26年7月16日判決(原審東京地裁平成26年3月13日判決)
 
 上記判決ですが、勝手に解釈させていただくと、

「遺贈による所有権移転登記(名義変更)は、遺言執行行為であり、遺言の執行に要する費用は、相続人の遺留分を侵害しない限り相続財産の負担とする(民法1021条)。したがって、遺贈による所有権移転登記の登録免許税については、遺言者が遺言で特に登録免許税の負担方について受遺者の負担とする等断っていない限り、原則として相続財産の負担、つまりは相続人が相続する相続財産の中から負担すべきである。」

ということのようです。
 上記判例の事案は、相当高額な(登録免許税額から逆算すると75億円くらい?)不動産の遺贈のようで、相続人からすれば「そんな高額な不動産を貰うんだから登記費用は負担しろよ」と言いたかったようですが、裁判所は相続人が取得する残りの遺産から全額支払うべしと判断したようです。
 このような遺贈の登記に関する登録免許税負担の考え方は、遺言執行実務においては一般的なようですが、日頃、登録免許税は譲受人負担という慣行が染みついている司法書士的には、ちょっと勘違いしがちかもしれませんので、注意したいところです。


 役員の本人性に関する登記上の問題(2014年10月25日・vol.208)

 つい先日の某朝刊紙の記事で、現行の法人登記制度の問題点が取り上げられていました。取り上げられていたのは法人登記の中でも株式会社等の役員登記(特に平取締役の登記)の問題です。
 まず、なぜ問題になっているかと言いますと、現行の法令・規則では、株式会社の代表取締役(要は社長)以外のいわゆる平取締役については、役員就任の登記をする際に本人性を確認する書面等(印鑑証明書等)が一切要求されていないため、まったくの虚偽の役員登記がなされる虞があるからです。例えば、現実に存在しない人物を取締役として登記されたり、本人の知らない間に勝手に取締役にされていたりするわけです。この点、会社の代表者については、基本的に就任承諾書に実印を押したうえで印鑑証明書の添付が要求されていますのでまだマシです。
 また、実際、虚偽の役員登記がなされるとどんな問題が生じるかと言いますと、例えば、虚偽の取締役の登記がなされた会社が何か不法行為を行った場合、まずは当該会社に対して損害賠償の請求を行いますが、一定の要件を満たせば、会社の役員に対しても損害賠償の請求ができるとされています(会社法429条1項)。そこで、会社に賠償能力が無い場合は、会社の役員に賠償請求せざるを得ませんので、いざその会社の取締役に損害賠償を請求しようと会社の役員登記を調査します。ところが、登記されている取締役が全くの虚偽の人物であったりするとどうしようもないからです。
 そんな問題点が指摘されている中で、管轄の法務省も法令規則の改正に向けて動き出すそうです。確かに現行の制度ですと、勝手に著名人を自社の役員にすることもできてしまうわけですから、問題があると思います。
 そういえば、現行の登記制度については、ほかにも法人の代表者の自宅住所を誰でも見ることのできる登記簿に載せるのは生命身体の安全上の問題がある、との指摘もあったりするようです。
 あまり手続要件を厳しくしますと手続が煩雑になり経済活動が滞る等の指摘もあるでしょうが、やっぱり登記は不動産登記も含め皆が見るものであり、それを見て経済活動をしていくわけですから、極力正確な内容が登記されるよう制度設計をすることは必要だと思います。


 評価証明書の記載と農地法の許可書の要否(2014年10月22日・vol.207)

Q. 売買や贈与を原因とする不動産の所有権移転登記の申請書に添付する固定資産評価証明書(又は評価通知書)における申請対象の不動産の記載として、登記地目が非農地(例えば雑種地)、課税地目が農地(例えば畑)と記載されている場合、当該評価証明書を添付しての所有権移転登記申請書には農地法の許可書を添付する必要があるか?
A. 添付する必要はない。

 上記のような質疑応答が其処彼処で見かけられますので、以下、ちょっと考えてみました。

@ まず、対象不動産の現況が農地であるならば、所有権の移転には農地法の許可が必要なのであるから(農地法3条、5条)、評価証明書の記載云々を検討するまでもなく、農地法の許可を取ったうえで、当該許可書を添付する必要があります(なお、前提として農地への地目変更登記も必要です)。この点、登記地目が非農地であり、評価証明書の記載は登記官の審査対象にならないことを理由に仮に登記が実行されたとしても、実際は農地である以上、許可が無ければ権利移転は生じないのであるから、そのような登記は無効です。

A 一方、現況が非農地である場合は、所有権の移転に農地法の許可は不要なので、念のため農業委員会に照会をかけて確認したうえで、できれば評価証明書の農地の記載を訂正してもらい、訂正後の評価証明書を登記申請書に添付すれば万全かと思います。なお、この場合、土地の評価額が地目によって上がってしまうのはやむを得ませんので念のため(あえて訂正しない手については何とも・・・)。

B なお、冒頭の質疑応答の話からは外れますが、登記地目が農地で、現況(課税地目)が非農地の場合は、形式的審査により農地法の許可書の添付が必要ですが、登記地目を非農地に変更すれば、農地法の許可書を添付しなくても所有権移転登記の申請は可能となります。

 というわけで、一番肝心なのは目的の不動産の現況が農地か否かでありまして、登記地目や評価証明書の記載がどうかではないのです。もっとも、冒頭に記載したような質疑応答は、おそらく現況が非農地であることを前提として、評価証明書の現況記載が農地であることをもって農地法の許可書の添付を要求することはできないということを述べているのでしょう。現況が農地であるのに登記地目が農地でないことを好機に農地法の許可(書)無しで登記申請を通そうとするのは無効な登記を作出するだけであり本末転倒です。



 ほったらかしの破産登記(2014年10月17日・vol.206)

 個人の債務者について破産手続開始の決定があった場合において、破産者に登記された不動産がある場合、裁判所書記官は、当該不動産に対して破産手続開始の登記を嘱託しなければならないのが原則ですので(破産法258条1項)、破産者所有の不動産には一旦破産手続開始の登記(以下、単に「破産登記」といいます。)がなされます(旧破産法当時も同様)。因みに、破産者が法人の場合は、法人登記簿に破産登記がされるだけで、不動産には破産登記はされません(破産法257条、なお旧破産法では法人破産でも不動産に破産登記がされていました)。
 ところで、この破産登記がなされた不動産ですが、売却処分が困難で税負担ばかりが掛かるような場合(例えば矮小な農地や山奥の山林)、破産管財人が破産財団から放棄(破産法78条2項12号)する場合が田舎では結構あります。そして、破産管財人が破産財団から放棄した不動産は破産者の自由財産となり、もはや破産手続の対象から外れてしまいますので、結果、当該不動産の管理処分権は破産者の元に復活します。
 そして、このように破産管財人が対象不動産を破産財団から放棄した場合、通常、破産管財人は不動産に対してなされた破産登記の抹消登記の嘱託がなされるよう裁判所書記官に対し申立てを行います(破産法258条3項後段)。
 ところが、このケースの破産登記抹消嘱託の申立てが失念等により破産管財人からなされずに放置されたまま現在に至るケースが間々見かけられます。通常、このような破産登記が存在したままの不動産については、売却等に支障が生じますので、速やかに抹消登記の嘱託を裁判所書記官からしてもらいたいところですが、年代の古い破産登記の場合、本来登記嘱託の申立てをすべき当時の破産管財人が既に死亡していたり、当時の資料が無いから分からない等主張されたりすると不動産の所有者としてはちょっと困ってしまいます。
 もっとも、そんな場合でも、すでに破産手続が終結している場合は、不動産所有者からの上申により抹消登記の嘱託をしてもらえるケースもありますので、詳しくは司法書士までお尋ねください。


 同じ遺産でも預金と現金は処理方法が違う?(2014年10月10日・vol.205)

 例えば、被相続人の遺産が現金1000万円の場合と預金1000万円の場合では、原則的な遺産の処理方法が異なってきます。
 まず、預金については、銀行に対する金銭債権であり、可分債権(単純に分けることが容易な権利)と考えられますので、遺産が預金の場合は、遺産分割の対象とならずに各相続人がその相続分に応じて自動的に権利を承継するとするのが裁判所の判例です(最高裁昭和29年4月8日判決、最高裁平成16年4月20日判決)。したがって、仮に相続人が配偶者、子2名であれば、相続開始と同時にそれぞれ500万円、250万円、250万円の預金(債権)を相続することになり、それぞれが銀行に対して預金払い戻し請求をすることができることになります(銀行が事実上これに応じるか否かは別問題です)。もっとも、相続人全員が合意するならば預金も遺産分割の対象にすることは実務上可能とされています。
 一方、現金の場合ですが、現金は有体物として動産と扱われるのが通常ですので、遺産が現金の場合は、相続人が各相続分に応じて当然に分割して承継するのではなく、相続人全員が現金全部を共有することになり、これを分割するには遺産分割をする必要があることになります(最高裁平成4年4月10日判決)。したがって、先の例でいえば、遺産分割が終了するまでは、相続人である子の一人が自分の相続分相当の250万円の現金を引き渡せとは言えないことになります。
 一般社会の通常の感覚では、預金も現金も同じ「お金」と考えますので以上の理屈はいまいちピンと来ないかもしれませんが、法的には全く別物扱いということを知っておくとよいと思います。



 会社を譲り受けるということ(2014年10月6日・vol.204) 


 中小零細企業(株式会社、特例有限会社)のオーナー社長さんが高齢その他の理由で事業を継続することができなくなり、また、適当な親族後継者もいなければ、通常は廃業することを考えられるかもしれませんが、適当な第三者の事業承継希望者が現れた場合は、会社(株式会社、特例有限会社)を有償又は無償で譲渡することもあるかと思います。
 このように第三者(他人)に会社を譲渡(通常は売買)する場合、通常、まずやるべきことは、株式の譲渡となります。「会社は株主のもの」であり、終局的には株主に会社の経営を決定する権限があるからです。したがって、単に代表取締役(社長)を第三者に変更したり、本店を移転したり、旧オーナー名義の社屋を新オーナーに譲渡したりしただけでは、実質的には会社を譲渡したことにはなりません。そのようなことは、決定権のある会社の株主(所有者)になった後に好きなようにすればよいことなのです。
 ところが、このまずやるべき株式の譲渡が案外難しかったりします。まず現在の株主の確定が必要ですが、そもそも株主名簿が作成されていなかったり、株主が行方不明になっていたり、複数の少数株主に数次の相続が発生していたり、名義株の問題があったりすると、なかなか困難です。また、中小零細の株式会社の場合、株式全部に譲渡制限が付いているため(なお特例有限会社は当然譲渡制限有り)、株式を第三者に譲渡するには、会社(株主総会、取締役会)の承認決議を得なければなりませんが、譲渡人である株主(旧オーナー)は当該承認決議において議決権を行使できない(取締役会の場合は微妙)とされているため(会社法831条1項)、株主構成によっては承認決議の方法に工夫が必要です。
 それから、株式の譲渡(売買)をする場合、譲渡価額をいくらにするのか(上場会社ではないので時価が不明)、譲渡当事者の税金面での扱いはどうなるのかについても検討が必要でしょう。
 たとえ譲り受ける会社に大した資産価値がなかったとしても、株式についてはきちんと確保しておくことが肝要です。


 公共用地の未登記問題(2014年10月1日・vol.203) 


 つい先日ですが、某新聞で「篠山市役所西紀支所の敷地の大部分が市有地としての不動産登記が約60年間されないまま、複数の個人名義のままになっている」といった記事が掲載されていましたが、この件に限らず、公共施設の敷地や公道(国道、県道、市道)の一部の登記が個人名義のままになっているケースは、司法書士の仕事をしていますと篠山市内でも間々見かけます。このような場合、登記名義は個人でも実際は公共用地(国、県、市の所有地)なので固定資産税は非課税の扱いとされているため、なかなか発覚することはありませんが、何かの拍子で土地の名義人本人やその相続人において発覚することもあると思います。例えば、相続手続の際に名寄帳や古い権利証を調査して判明したり、私有地の隣接地の所有者を調査したりして判明することもあります。
 ところで、上記のような個人名義の公共用地については、登記名義人が死亡していれば相続登記もできますし、相続人名義にしたうえでさらに第三者に譲渡(売買、贈与)して登記名義を移すことも手続的には可能です。そして、「先に登記をした者の権利が他に優先する」の原則(民法177条)により、先に登記名義を取得した第三者の権利(所有権)が公共団体(市等)の権利よりも優先すると裁判等で判断される可能性も理論的にはあり得ます(勿論、当該第三者が市有地であると知っていながら不当な目的で土地を取得したような場合は背信的悪意者であるとして保護されないという例外もあります)。
 そんなわけで、先の新聞のケースでは、篠山市は支所の敷地が第三者に譲渡され所有権移転登記までされると大変なので、念のため勝手に処分されないように処分禁止の仮処分(民事保全法23条1項)の申立てを管轄の地裁柏原支部へ申し立て(予納金はおいくらでしょうか?)、当該仮処分命令が下りたようなので、問題の土地には現在、処分禁止の仮処分の登記(民事保全法53条)が裁判所よりなされているかと思います。この処分禁止の仮処分の登記がなされていれば、仮に第三者へ処分されて登記されても、後に裁判等で市への所有権移転登記が命じられれば、市は第三者の登記を抹消したうえで市の名義に登記を変更できることになります。
 因みに、私が毎朝事務所に行く道中に通る道も、見かけはちゃんとした広い道路(たぶん県道?)ですが、一部区間が図面上は複数の土地に分かれており、しかもそれぞれの土地が個人の登記名義のままです。したがって、個人名義の土地を毎日何百、何千台もの車が通過しているのですが、仮に先の例のように発覚した場合、どうなるのでしょう。