2020年2月


 退社した合資会社の無限責任社員の責任(2020年2月8日・vol.305)  

  法律関連の公的機関の方にたまに言われますが、法律系三士業では司法書士が「いろんな意味でちょうどいい」んですって!具体的にどういう意味かはここでは言えませんが、毎度おおきに!!

 さて、今回は最近気になった判例のご紹介

〇 令和元年12月24日最高裁判所第三小法廷判決

判決要旨:合資会社を退社した無限責任社員が負担すべき損失の額が当該社員の出資の価額を超える場合には、定款に別段の定めがあるなどの特段の事情のない限り、当該社員は、当該会社に対してその超過額を支払わなければならない。

(事実関係の要点)
1.Aは合資会社Xの無限責任社員
2.Aが後見開始の審判を受けたことによりXを退社
3.Xは、Aの退社当時、債務超過の状態

(論点)
1.Aは、債務超過であるXを退社する場合において、Aが負担すべき損失の額がAの出資の価額を超える場合、AはXに対してその超過額を支払わなければならないか。

(関連知識)
1.会社法
(社員の責任)
第580条 社員は、次に掲げる場合には、連帯して、持分会社の債務を弁済する責任を負う。
@ 当該持分会社の財産をもってその債務を完済することができない場合
A以下略
(法定退社)
第607条 社員は、前条、第609条第1項、第642条第2項及び第845条の場合のほか、次に掲げる事由によって退社する。
@からE
F 後見開始の審判を受けたこと。
G
2項略
(退社に伴う持分の払戻し)
第611条 退社した社員は、その出資の種類を問わず、その持分の払戻しを受けることができる。ただし、第六百八条第一項及び第二項の規定により当該社員の一般承継人が社員となった場合は、この限りでない。
2 退社した社員と持分会社との間の計算は、退社の時における持分会社の財産の状況に従ってしなければならない。
3項以下略
(退社した社員の責任)
第612条 退社した社員は、その登記をする前に生じた持分会社の債務について、従前の責任の範囲内でこれを弁済する責任を負う。
2 前項の責任は、同項の登記後2年以内に請求又は請求の予告をしない持分会社の債権者に対しては、当該登記後2年を経過した時に消滅する。
(社員の損益分配の割合)
第622条 損益分配の割合について定款の定めがないときは、その割合は、各社員の出資の価額に応じて定める。
2項略

(判決理由の概要)
1.無限責任社員が合資会社を退社する場合、退社時の会社の財産状況に従って社員と会社との間の計算がされ(会社法611条2項)、その結果、社員が負担すべき損失の額が社員の出資の価額を下回るときには、当該社員は、その持分の払戻しを受けることができる(同条1項)。
2.であれば、上記計算がされた結果、社員が負担すべき損失の額が社員の出資の価額を超えるときには、定款に別段の定めがあるなどの特段の事情のない限り、当該社員は、会社に対してその超過額を支払わなければならないと解するのが相当である。
3.このように解することが、合資会社における無限責任社員の存在意義や合資会社における損益分配等の制度の仕組みに沿うことになり、合資会社の社員間の公平にもかなうことになる。
4.よって、無限責任社員Aが合資会社Xを退社した当時において、Xが債務超過の状態にあった場合は、退社するAは、退社時の計算の結果により、Aが負担すべき損失の額がAの出資の価額を超える場合には、特段の事情のない限り、Aは、Xに対してその超過額の支払債務を負うことになる。

 この裁判、事件の本題は遺留分減殺請求に関するものですが、遺留分侵害額の計算上において考慮すべき被相続人の債務として、合資会社を退社した無限責任社員の会社に対する金銭支払債務の有無が争点になったもののようです。

 たしかに、会社法の条文上、持分会社の債権者に対する社員の責任(対外的責任)については、規定がいろいろありますが(会社法580条、612条等)、社員の会社(ひいては他の社員)に対する責任(対内的責任)については、出資責任を除いてあまり見たことがないような気がします。
 
 実際、債務超過の状態にある合資会社を退社する無限責任社員は、仮にその時点で会社が倒産した場合は、債権者に対して無限責任を負い、また、他の社員との関係では求償関係(民法442条)が発生しうる関係にあるわけですから、そんな状況の中、先だって退社する場合において、会社(他の社員)に対して何の責任も負わないというのは、ちょっと都合がよすぎるようにも思います。
 
 合資会社については実務であまり見かけませんが(当方の市内では何社かあるみたいですが)、社員の退社に際しては、今後は上記判例にも留意する必要があるでしょう。