2022年8月


 無効な法律行為と登記と第三者保護(2022年8月22日・vol.362) 

民法
第3条の2 法律行為の当事者が意思表示をした時に意思能力を有しなかったときは、その法律行為は、無効とする。

 当然のことが債権法改正により現在明文化されているわけですが、この場合の無効については、他の民法の規定による無効(93条、94条)、取消し(95条、96条)、解除(545条)等の場合と異なり、第三者を保護する規定(例えば、「善意の第三者に対抗することができない。」みたいな規定)がありません。

 また、この場合、意思表示をした(とされる)本人に落ち度がないのが通常でしょうから、お馴染みの民法94条2項類推適用による第三者保護も期待できません。

 というわけで、意思能力を有しない者の無効な法律行為に基づきなされた無効な登記を信頼して取引をした第三者については、後日法律行為の効力と登記の効力が否定された場合には、ほぼ保護されないと言ってよいと思います。

 では、登記記録を信頼して取引に入る第三者としては、上記のようなリスクを回避するためにどのようなことをすべきなのでしょうか。登記内容を鵜呑みにすることなく必要に応じて「権原」調査をするしかないのでしょうが、それはそれで、言うは易し、行うは難し、というのが実情です(法務局保管の登記申請添付書類を閲覧調査のうえ、当時の登記申請の当事者から事情聴取するのは結構ハードルが高い)。

 これって、登記の仕事をしている司法書士にとってはず〜っと悩まされている問題だと思いますが、登記に公信力が無い以上、仕方がないので、少しでもリスクを下げるために個々人で業務の質を上げるしかないのだろうな・・・と、先日、登記と対抗要件に関する研修を受けて思いました。




 相続させる、それとも、遺贈する(2022年8月10日・vol.361) 

 遺言で特定の相続人に対して特定の不動産を取得させたい場合、例えば、「甲土地は、長男Aに相続させる」のように遺言(特定財産承継遺言)をするのが過去の判例(平成3年4月19日民集45・7・477)と公証実務を踏まえた司法書士実務の常識(対象不動産(甲土地)を取得する相続人(長男A)が単独で相続による所有権移転登記を申請できるのでこれがベスト)みたいになっていますが(?)、来年(令和5年4月1日)からは、「相続人に対する不動産の遺贈による所有権移転登記についても当該相続人による単独申請が可能」となります(改正不動産登記63条3項)

 相続人に対する所有権移転登記であれば、相続でも遺贈でも登録免許税において差は無くなっていますし(どちらも1000分の4)、遺贈対象不動産が農地の場合における農地法3条許可の要否の面でも違いは無くなっていますので(どちらも許可は不要)、これで登記の単独申請も可能となるといよいよ特定財産承継遺言と遺贈では登記手続の面では大差が無くなってきたなという感じです。

 そうすると、今後は、これまで以上に、相続人宛の遺言書を作成する際には、「相続させる遺言」一辺倒ではなく、将来の遺言執行のこと(どちらが遺言の内容をより簡易・迅速に実現できるか)をよく検討したうえで遺言の文言を提案しなければならないなと思う今日この頃です。

 もっとも、遺言で遺言執行者を選任している場合は、遺言執行者の職務の関係(民法1012条とか1013条)が入ってくるので、この点を考えるとやっぱり念のため相続させる遺言にしておこうかなと思ったりもします。遺言執行者がいる場合に相続人が改正不登法63条3項で遺贈による所有権移転登記を単独申請することの是非について書かれた書物をまだ見つけていないので、個人的にはここがかなり気になっています。