2022年6月


 封緘された自筆証書遺言と封筒の関係性(2022年6月30日・vol.359) 

う〜ん、暑すぎる・・・。


 2022年6月22日撮影、今年第1号のKです(Gじゃないですよ)。
 なお、自宅では、Gが現われました。
 何か早くないですか?


 さて、以下、今月号の月報司法書士の某記事を読んでの感想(理解内容)です。

 「封印のある遺言書は、家庭裁判所において相続人又はその代理人の立会いがなければ、開封することができない。」(民法1004条3項)というのは、結構ご存じの方も多いと思いますが、仮に、家庭裁判所以外の場所において開封した場合でも遺言の効力に何か影響があるわけではなく、遺言自体が無効になることはないのが原則です。ただ、勝手に開封した場合は5万円以下の過料罰に処される可能性があるにすぎないのです(民法1005条)。

 しかし、遺言書が封緘された封筒に対しても何かしらの記載事項がある場合にはちょっと話が違ってくることがあり、その場合に封緘された遺言書を家庭裁判所以外の場所で勝手に開封した場合は、中身の遺言書自体の解釈や効力にも影響が出る可能性があるため、注意を要します。例えば、封筒に、日付、住所、氏名あるいは遺言本文に該当し得る事項(遺言の条件等)が記載されている場合や押印がなされている場合なんかは特に要注意です(こういうことが記載されているケースはほぼ自筆証書遺言の場合でしょう。)。

 というのも、開封するまでは中身の遺言書の内容は本来分からないわけですが、中身の遺言書の内容によっては、封筒に対する記載事項や押印を中身の遺言書と一体的に評価して遺言の内容や効力を判断する必要が生じる場合があるためです。そして、その場合には、家庭裁判所で検認する段階まで遺言書が封印されていることが一体性判断の一つの重要ポイントとなってくることになり、もし家庭裁判所で検認するまでに所外で開封されている場合は、封筒に対する改竄(偽造・変造)の可能性等も考慮され、遺言書と封筒の一体性が損なわれている(つまり封筒の記載事項等は考慮しない)ものと判断される可能性が出てくるからです。

 どちらかというと、過料罰を受けるよりも遺言の解釈・効力の判断において不利益を受ける方が重大であるため、特に、遺言書を封緘している封筒にも何かいろいろ書いてある場合は、くれぐれも勝手に開封するようなことはせず、速やかに家庭裁判所に検認申立てをするようにしましょう。

 もっと詳しく知りたい方は今月号の月報司法書士をご覧ください。




 廃除するなら生前に(2022年6月9日・vol.358) 

 「生前にしておくべきことは生前にしておきましょう。」
 司法書士の仕事をしていると常々思う言葉です。

 兵庫県司法書士会と神戸地方法務局の協働で「〜相続で未来へ〜わたしのエンディングノート」が作成されました。兵庫県司法書士会のHP(https://www.shihohyo.or.jp/topics/post_3648/)からダウンロードできますので、興味のある方はぜひ活用してください。
ついでに、必要な方は、遺言書も作成しましょう。

 遺言書と言えば、以下、冒頭の言葉に関係した遺言作成の一場面(仮想)をちょっと考えてみましょう。

遺言者「二男と三男には、遺産として・・・・・・を取得させたいのですが、長男は放蕩息子でこれまでに迷惑ばかりかけられたので、遺産は一切やらないことにします。」

司法書士「でも、ご長男にも法律上遺留分が認められていますので、ご長男が遺留分侵害額請求権(民法1046条)を行使すると、ご希望どおりにはならないかもしれませんよ。」

遺言者「そんなことは許せないです。長男は、これまで・・・・・・・・なことを散々やらかしたとんでもない奴なんです。私の遺産を相続する資格なんてない人間なんですよ。」

司法書士「そこまでおっしゃるなら、それはご長男に対して民法892条の廃除(意味を説明)をしたいということですか?」

遺言者「そうです。そんな制度があるなら、遺言書に長男を廃除すると記載します。」

司法書士「でしたら、廃除は遺言でもできますが(民法893条)、できればあなたの生前にやっておいた方が確実性の面でよいと思いますよ。」

遺言者「う〜ん、私の生存中はあまりゴタゴタを起こしたくないんですけどねぇ〜・・・」


 推定相続人の廃除は、@被相続人自身が生前に行う方法(民法892条)A遺言で行う方法(民法893条)が認められていますが、いずれの方法による場合でも家庭裁判所に対し審判の申立て(家事事件手続法188条)を行い、同審判によって廃除の可否が決定されます。また、@の場合は、被相続人自身が手続を行うことになりますが、Aの場合は被相続人が死亡しているため、遺言執行者(遺言書で定めていない場合は家庭裁判所で選任)が行うことになります。

 また、推定相続人の廃除は、相続人に一定の廃除事由がある場合に、その相続人の相続分はもちろん遺留分までも奪ってしまう強力な効果を発生させる制度であるため、家庭裁判所の審判によることとされていますが、強力な制度であるが故にそう簡単には認められず、一般に、相続的共同関係が破壊されたと認められるような客観的かつ具体的な廃除事由の主張と証拠による立証が求められるとされています。

 そうであれば、廃除事由について一番よく分かっており、その証拠についても把握しているであろう被相続人自身が生前に廃除の手続を行うのが理想的であり、被相続人の死亡後において廃除事由について直接の当事者ではない(詳細な事情の把握と証拠の確保が難しいため判断しづらい)遺言執行者に廃除手続を託すのは、できるだけ避けた方がよいのではないかと思います。遺言執行者としても、生前に被相続人から詳細な事情の聴取と証拠の引継が行われている場合ならまだマシですが、そうでなければ相当困難な事案になるため、廃除の手続を採ること自体を躊躇われることもあるかもしれませんしね。

 意中の相続人が確実に廃除されたこと(あるいは廃除が認められなかったこと)を見届ける意味でも、廃除に関しては被相続人の生前に手続をする方がよいのではないかと思いますがいかがでしょう。

≪参照条文≫
〇民法第892条(推定相続人の廃除)
遺留分を有する推定相続人(相続が開始した場合に相続人となるべき者をいう。以下同じ。)が、被相続人に対して虐待をし、若しくはこれに重大な侮辱を加えたとき、又は推定相続人にその他の著しい非行があったときは、被相続人は、その推定相続人の廃除を家庭裁判所に請求することができる。

〇民法第893条(遺言による推定相続人の廃除)
被相続人が遺言で推定相続人を廃除する意思を表示したときは、遺言執行者は、その遺言が効力を生じた後、遅滞なく、その推定相続人の廃除を家庭裁判所に請求しなければならない。この場合において、その推定相続人の廃除は、被相続人の死亡の時にさかのぼってその効力を生ずる。

〇家事事件手続法第188条(推定相続人の廃除の審判事件及び推定相続人の廃除の取消しの審判事件)
推定相続人の廃除の審判事件及び推定相続人の廃除の審判の取消しの審判事件は、被相続人の住所地を管轄する家庭裁判所の管轄に属する。ただし、これらの審判事件が被相続人の死亡後に申し立てられた場合にあっては、相続が開始した地を管轄する家庭裁判所の管轄に属する。
2 第118条の規定は、前項に規定する審判事件における被相続人について準用する。
3 家庭裁判所は、推定相続人の廃除の審判事件においては、申立てが不適法であるとき又は申立てに理由がないことが明らかなときを除き、廃除を求められた推定相続人の陳述を聴かなければならない。この場合における陳述の聴取は、審問の期日においてしなければならない。
4 推定相続人の廃除の審判事件における手続については、申立人及び廃除を求められた推定相続人を当事者とみなして、第67条及び第69条から第72条までの規定を準用する。
5 次の各号に掲げる審判に対しては、当該各号に定める者は、即時抗告をすることができる。
@ 推定相続人の廃除の審判 廃除された推定相続人
A 推定相続人の廃除又はその審判の取消しの申立てを却下する審判 申立人