2023年9月


 相続放棄者の管理義務(2023年9月16日・vol.381) 


 民法に次のような規定があります(令和3年の改正があった条文です)。


(相続の放棄をした者による管理)

第940条 相続の放棄をした者は、その放棄の時に相続財産に属する財産を現に占有しているときは、相続人又は第952条第1項の相続財産の清算人に対して当該財産を引き渡すまでの間、自己の財産におけるのと同一の注意をもって、その財産を保存しなければならない。

2 省略


 この民法の規定に関連して、月刊国民生活(2023年9月号、デジタル版、誰でも無料で読めます。)にこんなコラムが載っていました(https://www.kokusen.go.jp/wko/pdf/wko-202309_11.pdf)。


 注目すべきは右欄3行目からの1文です。


 皆さん知ってました?




 相続土地国庫帰属制度が始まっています(2023年9月11日・vol.380) 

 司法書士は、1年間で最低12単位(1単位1時間)の研修受講が義務付けられていますが、最近はWEB受講もできるようになった関係で、暇さえあれば受講している私の単位数は近年うなぎ登りです。能力が向上しているのかは、不明ですが。

 さて、令和5年4月27日より、標記の相続土地国庫帰属制度という新しい制度が始まっています。 

 この制度、要は先代の被相続人から土地を相続又は遺贈(相続人に対する遺贈に限る)により取得した所有者が、自身での土地の管理・処分が困難なので、一定の負担金を納付して国に引き取ってもらう(国庫帰属させる)という制度です。

 法務局等のホームページにリーフレットや申請マニュアルのようなものが掲載されていますので、詳細はそちらでご確認いただければよいでしょう(全部読んでもらえば大体のことは分かります。通達(約100頁)も読めばほぼ完ぺきですが、こちらはちょっとしんどいのでプロフェッション向けです。)。

 さて、本制度の利用要件は、大まかにいうと以下の3つです。

1.申請人の要件
 
 土地の所有者(相続又は遺贈(相続人に対する遺贈に限る)によりその土地の所有権の全部又は一部を取得した者及び同人が所有権の一部を有する土地の共有者に限る。)

2.申請する土地の要件(詳細は申請書のチェックリストを確認)

(1) 申請をすることができない土地(却下事由)(法第2条第3項)
 建物がある土地、担保権や使用収益権が設定されている土地、他人の利用が予定されている土地、土壌汚染されている土地、境界が明らかでない土地・所有権の存否や範囲について争いがある土地等

(2) 承認を受けることができない土地(不承認事由)(法第5条第1項)
 一定の勾配・高さの崖があって管理に過分な費用・労力がかかる土地、土地の管理・処分を阻害する有体物が地上にある土地、土地の管理・処分のために除去しなければいけない有体物が地下にある土地、隣接する土地の所有者等との争訟によらなければ管理・処分ができない土地、その他、通常の管理・処分に当たって過分な費用・労力がかかる土地等

3.負担金の要件

 原則、土地1筆につき、最低金20万円からの負担金の納付が必要です。

 簡潔に言えば、先代から相続等により仕方なく承継した土地で、将来に向けて管理するうえで問題のない土地であれば、一定のお金さえ納めてもらえば、国が所有権を引き取ります、という感じです。

 法務局の公開情報や研修会等で聞くところによると相談件数は堅調、申請件数も結構あるようです。

 利用相談については、法務局(いわゆる本局)でしか行っていませんので(地元の支局・出張所では不可)、資料を事前郵送のうえ電話での相談も可能ではあるものの、私を含め地方の田舎に住んでいる人にとっては結構不便です(丹波篠山市在住の人は神戸本局に相談することになるのでしょう。)。そのような場合は、地元の司法書士会の無料相談会を利用してもらえればよいと思います。

 申請土地については、やはり特に山林(森林)を対象とするのが結構ハードルが高い、というのが感想です(林木の管理状況の要件があるうえ、境界確認では実際に山に入って作業をする必要があるし、負担金もやや高くなる傾向)。

 なお、現在建物がある土地について申請する場合は、最終的には建物を取り壊す必要がありますが、申請前に取り壊すのではなく、申請後、他の要件をクリアしていることの見通しがついてから取り壊すのがポイントです(法務局は取壊しの猶予期間(大体2か月くらいか)を設けてくれます。)。

 ちなみに、本制度の申請手続に必要な書類の作成を業として行うことができるのは、司法書士、弁護士、行政書士の3士業とされていますが(私が聞く限りでは、現状ではやはり司法書士が一番多く関与してきているそうです。)、司法書士でいうと相続登記手続のご依頼の際に制度のご案内をさせていただくことが多くなっていると思います。もっとも、実際に申請手続をする際は、境界確認の現場作業については、土地家屋調査士さんに部分的にご協力いただくケースも多いと思います。

 最後に、なかなか申請や承認の要件等のハードルが高い手続ですが、法律附則第2項において、「この法律の施行後五年を経過した場合において、この法律の施行の状況について検討を加え、必要があると認めるときは、その結果に基づいて必要な措置を講ずるものとする。」とされていますので、将来的にはもう少しハードルが低くなるかもしれません。