2017年9月


 使えない調停調書とその対応(2017年9月25日・vol.262) 

 前回、「調停調書が登記手続に使えない」ことがあるというコメントを書きましたが、さて、そんな場合はどうすればよいのでしょう?
 以下、使えないケースを挙げて検討してみます。

1.単独申請に使えない場合
 不動産登記法第63条第1項に「・・・申請を共同してしなければならない者の一方に登記手続をすべきことを命ずる確定判決による登記は、当該申請を共同してしなければならない者の他方が単独で申請することができる。」という規定があり、ここでいう「登記手続をすべきことを命ずる確定判決」には「登記手続をすることに合意した調停調書」も含まれます。よって、裁判上の和解の和解条項や民事・家事調停の調停条項として例えば「相手方は、申立人に対し、別紙物件目録記載の不動産につき、平成年月日○○○○を原因とする所有権移転登記手続をする。」みたいな記載(これを「登記手続条項」といったりします。)がなされていれば、当該記載のある和解調書や調停調書の正本をもって、登記申請の当事者の一方(この場合は申立人)が相手方の協力なく単独で所有権移転の登記申請を行うことができることになります。通常、裁判や調停になっている場合は紛争の事態が生じているわけですので、この登記手続条項の有無は、後の登記申請手続の場面で極めて大きな影響を及ぼすことになるのです。
 ところが、和解調書や調停調書の記載が、例えば「申立人と相手方は、・・・・互いに協力して登記手続をするものする。」みたいな場合は、これは当事者の一方の登記申請の意思表示が端的に表明されたものとは解されないため、当該調書の正本をもって単独で登記申請を行うことはできないと考えられます。
 そんなわけで、「登記手続条項のない」和解や調停の調書は、登記の単独申請という面で「使えない」代物となってしまいます。
 さて、そんな使えない和解・調停調書しかない場合で、相手方が登記申請手続に協力しない場合はどうすればいいのでしょうか。
 まず、調書の更正決定を求めて裁判所に申立て(民事訴訟法257条、家事事件手続法269条)を行う方法があります。
 それがダメなら、再度、訴訟なり調停なりを起こすことになるでしょう。
 なお、家事調停の場合は、履行勧告(家事法289条)、履行命令(家事法290条)の制度がありますので(但し、強制力なし)、場合によっては試してみるのもいいかもしれません。

2.登記原因証明情報として使えない場合
 次に、単独申請に使えない場合で、さらに、登記原因証明情報としても使えない場合についてです(ある意味さらにひどいパターン)。
 不動産登記法第61条で「権利に関する登記を申請する場合には、申請人は、法令に別段の定めがある場合を除き、その申請情報と併せて登記原因を証する情報を提供しなければならない。」との規定がありますので、例えば所有権移転登記の申請においては、要件(登記申請の内容と登記の原因となる事実又は法律行為の記載がある)を備えた適格な登記原因証明情報の提供が必要です。そして、民事・家事調停において成立した調停の内容に従い所有権移転の登記申請を行う場合、基本的には、当該調停にかかる調停調書の正本が提供すべき登記原因証明情報となります。
 ところが、ここでもまた、調停調書が登記原因証明情報として「使えない」場合があります。例えば、調停条項において記載されている所有権移転の対象となる不動産の特定が曖昧な場合(単に「居住用の不動産」としか書いていない場合とか)です。このような場合は、登記申請及び登記の原因たる事実又は法律行為の対象である不動産の特定が不十分であるため、登記の申請において提供すべき登記原因証明情報としては不適格であり、そのような調停調書を提供して登記を申請しても、却下される可能性が高いでしょう(不動産登記法第25条第1項第8号・第9号)。
 さて、そんな場合の対処法ですが、まず、相手方(ここでは登記義務者)が登記申請手続に協力しない場合は、前記と同様、調書の更正決定を求めるか、再度、訴訟なり調停なりを起こすことになるでしょう。一方、相手方(登記義務者)が登記申請に協力する場合はどうするかというと、この場合は、当事者双方又は相手方(登記義務者)においていわゆる「報告形式の登記原因証明情報」を作成し、これを提供して登記申請を行う方法をとることができます。この場合の登記源証明情報は、先に成立した調停の内容に従いつつ不足事項を補充して作成することになります。なお、この点に関しては、不動産登記令第7条第1項第5号ロ(1)において、提供すべき登記原因証明情報を限定する形で、「法第63条第1項に規定する確定判決による登記を申請するとき 執行力のある確定判決の判決書の正本(執行力のある確定判決と同一の効力を有するものの正本を含む。以下同じ。)」との規定があるため、別途作成した報告形式の登記原因証明情報で問題ないか若干疑問が湧きますが、単独申請(不動産登記法第63条第1項)の場合でないため何ら問題ないと考えます(普通に登記申請は受理されるはずです。)。


 研修雑話(2017年9月2日・vol.261) 

   台風が来る季節になると、財産管理人は気が滅入ります。あの空き家は大丈夫だろうか・・・。
  さて、今回は最近受けた複数の研修で印象に残ったワンフレーズを1個ずつ挙げてみます。

1.資産税(相続税、贈与税、譲渡所得税等)について税理士に相談するなら税務署上がり  の先生の方がよい(その分野に強いという意味)。→言われてみれば何となく・・・

2.農地の時効取得による所有権移転登記をする場合は、事前に農業委員会に相談すべ し(どっちみち法務局から連絡がいくので先手を打つ)。→後でクレームがつくと面倒なので・・・

3.家裁の調停調書はいまだに登記手続に使えない(ことが割と多い)。→経験有り

4.生活保護の水際作戦をされたので強引に申請書を置いて帰ったら忘れ物扱いされた(そ んな事例があるそうです)→本当ならひどい話です

5.事案により差押範囲は調整すべし(何でもかんでも杓子定規に限界まで差し押さえるの  は能がない)→特に養育費等不払いの給料債権差押とか(民事執行法152条・151条の2)→安定継続した差押の実現?

6.遺言は不平等を形にするものである。→深い・・・

7.裁判書類の作成に加えて書類の送達場所・送達受取人なるのは違法じゃないけどリス クがある(司法書士の業務上の問題ですが)→裁判の途中で依頼が続行不能(辞任、依頼者 の音信不通)になった場合、既に受領した通知等の法的効力の問題や以後の送達先変更が  困難となる問題等が起こり得るので・・・