2017年6月


 会社は株主か?(2017年6月23日・vol.256) 

 会社法が施行されたことにより、株式会社(以下、単に会社といいます)のうち、いわゆる非公開会社(全株式譲渡制限有り)にあっては、役員(取締役、監査役)の任期を最大10年程度まで伸長することが可能となりましたが、その際に任期を伸長した株式会社については、去年、今年あたりが任期満了の時期になる会社が多いようです。皆さん、役員の改選、忘れていませんかぁ〜?
 さて、「会社は株主の持ち物」とはよく言いますが、会社の自己株式(会社が有するその会社の株式、いわゆる金庫株)がある場合、会社はその会社の株主といえるのでしょうか?特に実務に直結しそうな興味深い話でもないのかもしれませんが、最近の法務局が提供している株主総会議事録の記載例には「株主の総数」や「自己株式の数」という項目の記載があるようで(もっともこれらの事項自体は議事録における必須記載事項ではないのでしょうけど)、この2項目についての記載がある株主総会議事録を見かけることもあり、ふと疑問に思った次第です。司法書士であれば、当然、そのような記載のある議事録をご提供いただいた場合は、それが正しいのかどうか判断しなければなりませんので。
 そもそも、自己株式については、株主総会での議決権等の株主権がないことは法律上も明確に規定されているため(会社法308条等)、会社自身をその株主総会において議決権を行使できる株主に含めてはいけませんが、先の議事録例でいう「株主の総数」という括りになると、この場合は自己株式を有する会社自身も株主として含まれてくるような気がします。もし、そうであれば、「株主の総数」としては、会社自身も含めた全株主数を記載しなければなりません。
 法務局ではそんな細かいとこまで審査しないのかもしれませんが、一応調べてみますと、まず、会社法の権威と言われる有名な先生方が著した分厚い基本書を数冊パラパラっと見てみましたが特に明確に言及しているものはなし。となれば、次は、会社法施行当時に発刊されたような立法担当者の方々の著した書籍かな、ということで調べてみると、おお、ズバリ言及しているものがあるではないか。司法書士ならみんな知ってる例の「千問の道標」151頁です。
 私と同じように気になった方はご参照あれ。


 法定相続証明制度(2017年6月9日・vol.255) 

 平成29年5月29日から法定相続証明制度なる制度が始まりました。詳細は、法務省なり法務局のホームページをご覧いただくとして、この制度、法務局に対して行う手続ではあるものの、制度上の位置付けとしては一般行政証明の手続となっているため、登記手続のように特に司法書士がその業務として専門的に行うようなことは想定されていません(相続人等の当事者本人はもちろん、その親族やいわゆる8士業者も代理人として手続を行うことができるとされています。)。
 とはいうものの、司法書士も業務として行うことができる以上、今後ご依頼がある可能性もありますので、一通り勉強してみるのは当然です。
 というわけで、以下、現時点で判明している情報をもとに勉強してみた感想を挙げてみました(理解が間違っていたらすみません・・・)。

1.本制度利用については、少なくとも申出人の側において被相続人の出生から死亡までの戸籍類の収集と集めた戸籍から相続関係を読み取ったうえでその内容を図なりで表す必要があるため、申出人において相応の労力、知識、費用が要求されます。申出人は戸籍だけ取って申出書を提出すれば、あとは法務局が戸籍を正確に読み取って相続関係の一覧情報を作成してくれるのであればまだしも、そうではないので、申出手続自体は無料とはいうものの申出人側に一定の負担があります。

2.制度創設の大本命の趣旨である所有者不明の空き家・空き地の解消のための相続登記の促進については、仮に不動産の相続登記をするためだけであればわざわざ法定相続証明情報制度を利用する必要はないと思います。単発の相続登記であれば、申請書と戸籍その他添付書類を提出すればそれで相続登記手続は終了しますので、一旦法定相続証明情報一覧図の交付を受けてからそれを添付して相続登記を申請するという迂遠な方法を採る意味はないでしょう。この点、異なる法務局の管轄に属する複数の不動産がある場合は、手続時間の短縮のために最初の法務局への相続登記申請の際に法定相続証明情報一覧図の交付申出を行い、交付された一覧図を使って他管轄の法務局への相続登記申請を行うことが想定できますが、だだし、この場合でも、戸籍以外の必要書類(遺産分割協議書等)については、予め複数用意している場合でない限り、最初の相続登記の申請が終わらないと次の相続登記申請に添付できませんので、効果は薄いでしょう。申請する法務局が2、3か所程度であれば、個人的にはわざわざ法定相続証明情報一覧図の交付を受けなくても、順次申請していく方法を採ると思います。
 よって、本制度により法定相続証明情報が交付されること自体が直接的に相続登記の促進になるとは考えられませんが、預貯金等の手続に利用するために法定相続証明情報一覧図の交付申出があった際に、申出人に対し相続登記の促しを行う機会ができますので、その点において期待するしかないでしょう。

3.相続財産といえば、不動産、預貯金、有価証券、自動車、その他多岐に亘ることが割と多いですが、この多岐に亘る相続財産の相続手続をよりスムーズに行うことができるようになるかもしれない、という点においては、本制度の創設により、一定の期待をしたいと思います。特に、相続関係が複雑なケースであれば、戸籍の量が膨大になりがちですので、戸籍の束を複数部用意するのは費用、労力の面でかなり大変ですし、金融機関等もいちいちそれを読み取るのは効率が悪いでしょう。というわけで、現時点で金融機関等の具体的な対応方針は不明ですが、司法書士としては、いわゆる財産管理・承継業務等において利用できるようなら使ってみたいと思います。

4.また、裁判手続においては、登記手続請求訴訟等において、複数の相続人を相手に訴訟をすることがありますが、その相続関係が複雑で多数の相続人が存在するような場合は、膨大な量の戸籍が必要となります。この点、証拠手続との関係で、場合によっては膨大な戸籍の束の写しを複数用意しなければならないケースもあったりしますので、本制度による法定相続証明情報一覧図が裁判手続においても利用できるのであれば、これは有り難いと思います(個人的には一番の注目です)。

 以上、思い付くまま書きましたが、はてさて、本制度の利用実績はどうなっていくのか、注目していきたいと思います。