2022年11月


 遺言無効確認訴訟の管轄と司法書士代理(2022年11月21日・vol.366) 

 「こんな遺言は無効だっっっっっ!!」なんて話はたまに見聞きするものの、恥ずかしながら今まであまり考えたことがなかったのですが、実は遺言無効確認訴訟については簡易裁判所に管轄(いわゆる事物管轄)がある場合がある(よって司法書士が訴訟代理人になれる可能性もある)のです。

 これは、遺言無効確認訴訟を提起する場合の訴額は、「遺言を無効とすることによって原告が得ることになる権利の価額」とされているため、比較的少額の遺産に関する遺言無効の事案であれば、簡易裁判所の事物管轄に当てはまる場合もあり得るからです。

 遺言無効確認訴訟の訴額の具体的な計算方法は、以下のとおりです。

1.遺言の内容が相続分及び遺産分割方法の指定に関するものの場合(例えば、特定財産承継遺言(相続させる旨の遺言)の場合)

 @(遺言により原告が取得する財産の価額+遺言により被告が取得する財産の価額)×A(原告の相続分÷(原告の法定相続分+被告の法定相続分))−B遺言により原告が取得する財産の価額

 例えば、遺産総額金480万円、相続人が子2名(AとB)、遺言の内容が、「子Aには金100万円を相続させ、子Bには金380万円を相続させる」という場合で、Aが原告となり、Bを被告として遺言無効確認訴訟を提起する場合、

@480万円×A0.5−B100万円=140万円となるので、ギリギリ簡裁管轄になります。

2.遺言の内容が遺贈等の財産処分に関するものの場合

@処分された財産の価額×A原告の法定相続分

 例えば、遺産総額金280万円、相続人が子2名(AとB)、遺言の内容が、「甲に遺産全部を遺贈する」という場合で、Aのみが原告となり、甲を被告として遺言無効確認訴訟を提起する場合、

@280万円×A0.5=140万円となるので、こちらもギリギリ簡裁管轄になります。

 では、実際、簡易裁判所に遺言無効確認訴訟が提起されることはあるのでしょうか。少なくとも私においては簡裁訴訟関連の書籍や簡裁裁判例でこの種の訴訟が紹介されているのを見たことがありませんので何とも言えませんが、単純な方式違背の場合の遺言無効主張は別として、いわゆる遺言能力の有無(重度の認知症等)を問題とする遺言無効確認訴訟であれば、膨大な証拠資料(病院のカルテ、医師の診断書、介護認定調査に関する資料、介護事業者のサービス記録等)と丹念な主張立証が必要、長期の審理期間(1年〜3年とか?)を要する等の特徴があるので、簡易裁判所での審理になじまず、あっさり地方裁判所に裁量移送(民事訴訟法18条)されてしまいそうな気がします。

 というわけで、司法書士のわたくし的には、今までこの種の紛争には深くかかわることはなかったのですが、それでも登記の仕事をしていて冒頭の発言が聞こえて来たときには多少なりとも悩ましい心理状況(この登記はやって大丈夫か?)に陥ることもあるわけですから、司法書士でも遺言無効に関するある程度の勉強は必要不可欠なのでしょう。