2018年5月


 思い込みは禁物です(2018年5月31日・vol.272) 

 過去に経験のある事案と似たような事案を解決しようとする場合、ついつい思い込みで過去の解決手法を踏襲して事案に取り掛かってしまいがちですが、その結果、採るべき解決方法を誤ってしまうこともあります。
 例えば、不動産登記簿に明治や大正時代に設定されたすでに解散・清算結了している法人名義の抵当権設定登記(いわゆる休眠抵当権)が抹消されないまま残っている場合において、この抵当権の登記を抹消したい場合、通常思い付くオーソドックスなやり方としては、当該法人の清算人がすでに死亡等により存在しないことを理由に管轄の地方裁判所において新たに清算人を選任してもらい、選任された清算人の協力のもと、休眠抵当権の登記を抹消する、という方法があります。抵当権者が株式会社や農業会等のような休眠抵当権の事例でよくあるケースの法人の場合はこの方法が使えます(なお、訴訟提起(特別代理人選任申立てを含む)のうえ判決を得て抹消登記を行う方法ももちろん可能です。)。
 ところが、同様のパターンでも、法人の種類や解散の時期等によっては、地方裁判所において清算人を選任してもらえない場合もあります。その理由は単純であり、裁判所において清算人を選任できるとする根拠法令がないからです。
 事例としては、たぶんかなりレアなパターンになるとは思いますが、例えば、昔の産業組合で農業会に承継される前に自主解散して清算結了している場合がこれに該当します。産業組合法(既に廃止、なお、廃止法令の適用関係については消費生活協同組合法第103条参照)では、産業組合の清算については改正前民法第75条(裁判所による清算人の選任)の規定を準用していませんので(産業組合法第75条)、このような産業組合の場合は、原則として、地方裁判所において清算人を選任できないことになります。ちなみに、それでは、この場合の産業組合の清算人は誰が選任するのかといえば、産業組合法の条文では、「清算人タル者ナキトキ又ハ清算人ノ欠ケタル為損害ヲ生スル虞アルトキハ地方長官ハ清算人ヲ選任スルコトヲ得」と規定されているため(産業組合法第73条の2)、法律上は、地方長官(現在の都道府県知事)において選任することができることになっています(実際、県等において対応してもらえるかどうかは別問題ですけどね)。
 したがって、休眠抵当権にかかる解散・清算法人の清算人については、どんな場合でも地方裁判所において選任してもらえると思い込んでいると、本来管轄の無い裁判所に清算人選任の申立てをしてしまうという失敗に陥ってしまいかねません(管轄のないところに申立てをするのは法律専門家としてはかなり痛い(恥ずかしい)ですよね・・・)。
 とまぁ、このような例もありますので、当たり前ですが、慣れた事案の解決にあたるときでも、その都度まずは根拠法令を入念に調査したうえで適切な手続の選択を行うようにしたいものです。
(追伸)
 最近はお役所の方も調べものをするときはまずはネットで記事の検索をされているのでしょうか?回答されるときに「ネットで調べましたところ・・・」とよく言われます。


 人が変われば対応も変わる?(2018年5月22日・vol.271) 

 組織相手の仕事では、人(担当)が変われば対応が変わることもしばしば起こります。
 法律実務の現場でも同様で、例えば、役所(裁判所、法務局、市役所等)の担当者(裁判官、裁判所書記官、登記官、担当課職員等)が変われば、対応が変わることもしばしばあります。以前は認められていたことが認められなくなったり、逆に認められなかったことが認められるようになったり、という具合です。
 法律実務家は、課題が解決できてなんぼですので、実務が安定しないのは嫌います。ご相談に対する回答も曖昧なものになってしまいますし。でも、どうしようもなかった対応が好ましい方向に変わった場合はラッキーと叫ばざるを得ないでしょう。
 人事異動の季節も終わって2か月ほど経ちましたが、懸案の現場対応は何か変わったのでしょうか。ちょっと期待してしまいます。