2020年7月


 高額契約のクーリング・オフ(2020年7月24日・vol.311)  

 司法書士なら誰もが購読している(?)登記研究という雑誌には、質疑応答という皆が悩むであろう事例や法令の改正に伴う最新の事例等に関する質問と回答が掲載されるコラムがあるのですが(このコラムを読むことだけを目的に購読されている方もいるでしょう)、法務局の職員さんは、一般への雑誌刊行の前に一足先にこの質疑応答の内容をご存じだそうです(そういえば、以前、全く知らない質疑応答の内容を法務局で紹介されたら、その翌月の登記研究にその質疑応答の記事が載っていたことがありました。)。

 さて、特に目新しい話でもないですが、「使ってない田畑などの空き地にマンション(アパート)を建てませんか?建物メンテナンスと家賃保証付きなので安心で安定した収入が見込めますよ。相続税対策にもなりますし。」みたいな不動産業者からの勧誘は、丹波地域でもちょくちょく耳にします。

 いわゆる不動産サブリース事例の一種ですが、しつこい勧誘に根負けしてつい契約してしまったものの、後悔から契約を取りやめたい場合、自分でもできそうなお手軽な解決方法であるクーリング・オフは可能でしょうか。

 まず、法律実務家的には、契約相手は宅建業者と思われるため、宅建業法のクーリング・オフ(宅建業法37条の2)ができないかを考えてしまいますが、このクーリング・オフは、既存物件を宅建業者から購入(売買契約)した場合にはできますが、「マンション(アパート)建てませんか」と勧誘を受けて建築(建築請負契約)を締結した場合では使えません。

 そこで、次に、一番メジャーな特定商取引法(特商法)のクーリング・オフはできないかを検討してみますが、業者からの勧誘形態が訪問販売または電話勧誘販売の場合は、マンション(アパート)の建築請負契約であっても特商法が適用されますので(訪販適用は守備範囲が意外と広い)、他の諸々の要件を満たせば、特商法によるクーリング・オフはできる可能性がありそうです(特商法9条、24条)

 もっとも、契約者は家主となってマンション(アパート)賃貸業を営む目的で業者と契約をしていることから、「営業のために若しくは営業として」締結する契約に関する特商法の適用除外規定(特商法26条1項1号)に該当するとの業者側からのお馴染みの反論も考えられるところです。ちなみに、この反論に対しては、開業準備行為に関する行政通達(昭和54年5月29日・自販機設置案件に関する解釈通達)をもとに反論するのが王道でしょうか。

 そうすると、訪問販売等により今回はじめてマンション(アパート)の建築・経営をするような契約者の場合は、特商法のクーリング・オフをしてみる価値は十分にありそうですが、すでに何棟もマンション(アパート)を建築して経営しているような契約者の場合は、特商法のクーリング・オフは難しいかもしれません。

 いずれにしても、マンション(アパート)建築の請負契約となれば数千万円単位の高額の契約となるのでしょうから、業者からの強い抵抗も予想されます。よって、実際問題として、本件のような場合は、クーリング・オフの通知1本でトラブルを解決できないことも十分に予想されるので、その後のこと(和解交渉や訴訟等)も予め視野に入れておいた方がよいかもしれません。

 例年今ごろ、こやつが1回は事務所にやって来ます。裏が山なのでね。mesukabuto.jpg