2018年1月


 代襲相続制度の変遷(2018年1月20日・vol.267) 

 つい先週、篠山市の市民後見人養成講座で僭越ながら講師を務めさせていただき、講義の内容(成年後見終了後の実務)の関係で、相続人の認定の仕方についてお話をさせていただきました。
 話の内容は、講座の目的(市民後見人の養成)からして、当然、現行の民法に則った説明をさせていただきましたが、相続人の範囲については、一応兄弟姉妹の代襲相続(つまり、被相続人からみて甥や姪が相続人になるパターン)まで触れさせていただきました。通常は、少々ややこしい相続関係であっても大体この辺りまででおさまりますので。
 ところが、この兄弟姉妹の代襲相続については、過去の民法改正で割と変遷している制度の一つであり、相続の開始時期によっては代襲する限度が異なりますので、相続手続の実務においては、相続開始の時期に特に注意しなければならない場合でもあります。
以下、要点のみご説明します。

1.相続開始日が「昭和56年1月1日から現在まで」の場合
 兄弟姉妹の代襲相続は、兄弟姉妹の子(甥や姪)まで

2.相続開始日が「昭和23年1月1日から昭和55年12月31日まで」の場合
 兄弟姉妹の代襲相続は、子の代襲相続と同様に制限なし(甥姪の子以降まで対象となる)

3.相続開始日が「昭和22年5月3日から昭和22年12月31日まで」の場合
 兄弟姉妹の代襲相続は、発生しない(代襲しない)。

 2や3の場合に代襲相続の判断を誤ると、本来相続人となる者を見落としたり反対に相続人でない者を相続人としてしまったりしますので、気を付けましょう(あまりない事例なのでつい忘れてしまいがち・・・)。

 先の講義では、時間が足りず受講者の皆さんにご迷惑をおかけしましたが、もし、こんな細かい話までしていたらいい加減怒られていたかもしれませんけどね。


 借家のオーナーチェンジと敷金の行方(2018年1月6日・vol.266) 

 あけましておめでとうございます。本年もどうぞよろしくお願いいたします。
さて、今回は、建物の賃貸借契約において、貸主(家主)が変わった場合の敷金の行方(返還請求先)についてのお話です。特に事業用物件(店舗等)に多い担保権(抵当権等)の負担付き建物の賃貸借の場合に注意が必要です。

1.担保権の負担の無い建物賃貸借の場合
 建物賃借権の対抗要件は登記(民法605条)または引渡し(借地借家法31条)です。よって、現実に建物に賃借人が居住している通常の場合は、引渡しにより建物賃借権の対抗力を備えていることになりますので、新たな家主に対して賃借権を主張することができます。この場合、新家主が建物を取得した原因(売買、贈与、相続等)は問いません。また、賃貸借契約の内容は、旧家主との間で締結した内容がそのまま引き継がれることになります。
 次に、敷金についても、判例上、旧家主から新家主に当然に引き継がれる、とされていますので(大判昭和2年12月22日、最判昭和44年7月17日)、契約終了後の敷金の返還についても、新家主に請求することができます。

2.担保権の負担のある建物賃貸借の場合
 仮に担保権(以下、抵当権とします。)が実行されて建物が競売になった場合、抵当権と賃借権の設定時期の先後により結論が変わってきます。
 @ 抵当権の設定より先に賃貸借契約が成立していた場合
  建物の賃貸借契約が成立し、引渡しも受けた(居住した)後に抵当権が設定されていたところ、抵当権の実行により建物が競売され、買受人が新家主になった場合は、上記1と同様、賃借権を新家主に対抗でき、また、敷金の返還も新家主に請求できます。
 A 抵当権の設定より後に賃貸借契約が成立していた場合
  この場合は、競売による買受人(新家主)に対し、賃借権を対抗できませんので、建物の明渡しの要求があれば基本的には応じなければなりません。ただし、一定期間(6か月)の明渡しの猶予が認められています(民法395条)。なお、この点に関しては、以前は、借主の賃借権を一定期間(3年間)保護するための短期賃貸借保護制度がありましたが、平成16年4月1日施行の改正民法によりこの制度は廃止されています。また、賃借権を対抗できない以上、買受人(新家主)に対して敷金の返還を求めることもできません。なお、元貸主に対しては、当然、敷金の返還請求ができますが、通常、経済的に破綻した元貸主に返還する資力はありませんので、現実に返還を受けることは困難でしょう。

3.現実問題
@ 事業用物件(貸店舗等)では、担保権の負担の無い物件の方が少数であり、特にテナント業者が貸し出しているような物件では、担保権の負担がある場合が通常です。よって、高額の敷金を差し入れる場合は、貸主の財政状況(経営状況)についても注意する必要があります。
A 上記2Aの借主のリスクについて、仲介業者等から説明を受けることはあまりないように感じますが、宅建業法上は説明義務まではないようです(ただし、民事上の責任(債務不履行、不法行為による損害賠償責任)は別問題)。
B 実際、建物が競売され家主が変更になった場合、新家主から明渡しの要求がなされるかといえば、賃貸専用の物件では、そのようなケースはむしろ稀でしょう(賃料収入を目的とした建物なので新家主も借り続けてもらいたいと考えるはずです)。

4.その他
@ 建物明渡し後、現実に敷金の返還義務が具体化した後の建物の譲渡により家主の変更があった場合は、新家主に対して敷金の返還請求はできません(最判昭和48年3月22日参照)。
A 相続により承継された敷金返還債務は、不可分債務であるため、相続人の一人は、敷金の全額を返還しなければなりません(大阪高判昭和54年9月28日参照)。