2017年4月


 銀行等の過剰貸し付け問題(2017年4月28日・vol.254) 

 某新聞記事によると、3大メガバンクが個人向け無担保融資(いわゆる消費者ローン)の貸付規制を強化するそうです。
 銀行等(銀行、信金、信組等)には貸金業法の適用はなく、よって、法律上は、消費者金融等のように総量規制(年収の3分の1超の貸付の禁止)がかけられてはいません。
 そんなわけで、貸金業法改正(総量規制の施行)により消費者金融の貸付規制が強くなって以降、銀行等の消費者ローンの貸付残高が増え続けているそうですが、実は、この銀行等の消費者ローンには大手消費者金融等の保証がついていることが多いのです。そして、大手消費者金融においては、本業の貸付残高よりも保証残高の方が大きくなってきているそうです。
 結局、融資元が消費者金融から銀行等に変更しただけ、実質的には消費者金融の過剰貸付がいまだに続いている、というのが個人的な感想です。
 実際、私の身近な金融機関の状況はどうかとちょっと調べてみると、一見した限りですが、特に総量規制のようなものはなく、保証会社等の保証付きで貸付利率は大体年5%から14%前後の間が多い様子です。もっとも、収入状況が悪かったり借入残高が多かったりする場合(つまりは将来経済的破綻に陥る危険性が高い場合)では、利率マックスの14%前後で貸し付けが行われているケースがきっと多いのでしょう。
 頭書の件は、あくまで当該銀行の自主規制のようですが、この動きが広まり、法制化につながれば、さらに多重債務の問題も減少するのではないかと思います。


 死後離婚と死後離縁(2017年4月16日・vol.253) 

 先日某公共放送のテレビ番組で「死後離婚」をテーマに放送がされていましたが、正確には「姻族関係終了」といいまして、民法728条2項に以下のとおり規定があります。

(離婚等による姻族関係の終了)
第728条
第1項 姻族関係は、離婚によって終了する。
第2項 夫婦の一方が死亡した場合において、生存配偶者が姻族関係を終了させる意思を表示したときも、前項と同様とする。

 配偶者(夫または妻)の一方が死亡すれば、当事者間の婚姻関係は終了しますが、死亡した配偶者の血族(親族)と生存配偶者との親族関係(これを「姻族関係」といいます。)は当然には終了しません。亡くなった夫の両親は、依然として妻の姻族であり、いわゆる親戚関係は残るのです。そして、この死亡した夫の親族との姻族関係を残った妻が終了させる方法が姻族関係終了の手続になります。
 この姻族関係終了の手続ですが、手続といっても難しいものではなく、市役所等に届出書(証人も不要)1枚を提出すればそれで終了です。そして、届出が受理されれば、戸籍には「姻族関係終了」の記載がなされ、生存配偶者と死亡配偶者の血族との間の姻族関係が終了していることが明白になります。
 一方、上記の姻族関係終了に類似した制度として、「死後離縁」という制度があります。法律の規定としては、民法811条6項に以下のとおり定められています。

民法第811条
第1項 縁組の当事者は、その協議で、離縁をすることができる。
第2項から5項 省略
第6項 縁組の当事者の一方が死亡した後に生存当事者が離縁をしようとするときは、家庭裁判所の許可を得て、これをすることができる。

 養子縁組の当事者の一方が死亡している場合においては、協議による離縁はできませんが、家庭裁判所の許可を得ることにより、生存当事者のみにおいて離縁をすることができるとされているのです。
 ただし、当事者の一方の死亡後において行う法定血族関係を終了させる意思表示という意味では前記の死亡配偶者に関する姻族関係終了の手続と共通していますが、両手続における大きな違いは、死後離縁の場合は、離縁の条件として家庭裁判所の許可を要するとされている点です。よって、死後離縁については、市役所に届出さえすれば当然に離縁が認められるという構成にはなっていませんので注意が必要です。また、そんなこともあって、死後離縁に関しては、司法書士に対して、裁判所提出書類の作成の依頼がなされることも間々あります。
 では、具体的に、死後離縁の手続とは、どのような流れで行うのかについて、以下にポイントを押さえつつ検討してみましょう。

1.まずは、死後離縁の意味と効果を理解しましょう。離縁と言っても、死亡した養親又は養子と生存する養親又は養子の関係は、基本的には死亡により終了していますので、死後離縁の実質的な意味は、死亡した養親又は養子の血族との法定血族関係を終了させることにあります。そして、法定血族関係を終了させることによる法的効果はというと、扶養義務(民法877条)を免れたり、将来の相続関係が消滅したりします。よって、死後離縁の意味とそれによる効果については、よく理解したうえで手続を行うべきでしょう。なお、これもよくある質問ですが、死後離縁しても既に発生している相続関係には影響はありませんので(将来効のみ)、例えば、養親の死亡後に養子が死後離縁をしても、養親に対する養子の相続権には影響はなく、養子は亡養親の相続人に該当します。

2.次に死後離縁の手続ですが、一般的には、以下のような流れで進みます。
 (1) 家庭裁判所に対する死後離縁許可の審判申立て
  ・管轄は、申立人の住所地を管轄する家庭裁判所です。
  ・必要書類は、申立書、死亡した養親子の戸籍謄本、生存する養親子の戸籍謄本その他事案に応じた書類等
  ・手数料は、収入印紙800円と予納郵便切手(裁判所により異なる)
 (2) 裁判所の審理(方法は裁判所、事案により異なる)
  ・書面による照会、裁判官による審問など
 (3) 裁判官の審判と確定
  ・許可の場合、審判の告知を受けた日から2週間の経過により確定
  ・不許可(却下)の場合、不服申立て(即時抗告)が可能

※ 許可・不許可の判断基準(参考)
 一般論として、養子縁組をした経緯、死後離縁を求める目的、親子間の道義に反するような事情発生の有無、扶養や相続に関して権利を不当に害される者の有無等の一切の事情を総合的に検討し、明らかに生存当事者の濫用的、恣意的な離縁でない限り原則として許可される、とされています。
 個人的には以下の点で該当するものがある場合は許可の判断でマイナスに働くのではないかと考えます。
  ・離縁を求める目的、動機が不純でないか。
  ・亡養親(養子)から多額の遺産を相続していないか。
  ・生存当事者(申立人)が扶養義務を負うような人物(生存する片方の養親、兄弟姉妹等)が養方の親族にいないか。
  ・生存当事者(申立人)が養方の祭祀財産を承継し祭祀を主催すべき立場にないか。

 (4) 戸籍の届出
  ・家庭裁判所の許可があってもさらに市役所等に離縁の届出をしないと離縁したことになりません。
  ・市役所備付の離縁届の用紙に必要事項を記載し(姻族関係終了届と異なり証人2名の署名押印が必要)、死後離縁許可の審判書謄本と同審判の確定証明書を添付して行います。
  ・離縁により原則として縁組前の氏に復氏しますので、生活上の不都合などの理由から縁組時の氏を使い続けたい場合は、縁氏続称の届出も一緒に行うとよいでしょう。
  ・また、場合によっては、離縁に伴い、縁組前に戸籍に復籍するのか、新戸籍を編製するのかの選択をしなければならないことがありますので、予め離縁後の戸籍について検討しておくとよいかもしれません。

 ところで、冒頭の死後離婚(姻族関係終了)に関する番組では、死後離婚が最近増えている点について、その是非に関する?街頭インタビューを行っていましたが、回答は概ね否定的な感想(道義的な面で納得できない、対応として冷たい等)でした(もっとも、インタビューの対象者がご年配の方ばかりなのも回答内容に影響しているような気もしましたが・・・)。おそらく、今後も姻族関係に対する国民感覚は時代と共に変化していくのだろうなと思いましたが、どんなもんでしょうか。