2014年9月


 株式の相続と議決権行使(2014年9月22日・vol.202)


( 仮想事例 )
 Aは、X株式会社(株主はA(200株)と長男C(150株)の2名である)の社長代表取締役であるが、将来は長男Cに会社を承継させたいと考えている。また、Aの推定相続人は、C以外に後妻BとAB間の子Dがいるが、CとBDはあまり仲が良くない。このような場合において、仮にAが何ら事業承継対策を採らずに相続が開始した場合、Cはスムーズに会社の経営を承継できるでしょうか?
 
 事例の場合、Aの株式は法定相続分に従えば、Bが100株、Cが50株、Dが50株を相続することになるので、結果、Cはもともと所持していた株式とあわせて合計200株所持することになり、総株式の過半数を確保できるので、とりあえず会社経営に支障はないのではないかと考えると大きな間違いになる可能性があります。
 まず、事例の場合、Aの株式200株については、遺産分割が終了するまでは、200株全部について相続人B、C、Dがその法定相続分に従い準共有することになります(つまり、B1/2、C1/4、D1/4の持ち分割合の株式が200株あることになる)。また、このような準共有株式の権利行使については、持分の過半数によって権利行使者を定め、その権利行使者のみが権利(株主総会の議決権)を行使することができることになります。
 そうすると、仮にBとDが結託して、Cを排除して会社の経営権を手に入れようと考えた場合、相続株式200株の権利行使者をDと定め(BD過半数の賛成)、Dが200株分の株主総会の議決権(総株式の議決権の過半数)を行使してCを会社経営から排除することも可能となるわけです。
 仮に遺産分割が纏まらないまま何年も経過した場合、BDに会社を好き勝手にされる可能性もあるわけです。
 このような事態を避けたいならば、Aは生前において、将来CがAの株式を全部相続できるように遺言書を作成する等、何らかの対策をとっておくべきでしょう。



 賃貸物件退去時のマイナーなトラブル(2014年9月1日・vol201)
 「坊主憎けりゃ袈裟まで憎い」という諺がありますが、賃貸物件の貸主(オーナー)さんの中には、借主(店子)さんが退去するとなった際、一旦何らかの点(敷金返還、原状回復、感情的な問題等々)でトラブルになると、次から次へと借主への請求(言い分)を追加されることが間々あったりします(個人的にも経験あり)。「あれが無い」、「これが壊れている」、「それが汚れている」(だから元に戻せ、賠償しろ)という具合です。

 このような、あたかも「何でもかんでも請求」に思われる請求事項の1つについて、その適否が判断された裁判例(平成25年9月20日神戸地裁判決・原審は簡裁)がありましたので、以下に事例をアレンジしてご紹介します。

(事例の概要)

 借主Aは、貸主X所有の甲建物(新築)を約20年間に亘り賃借した後、契約終了に伴い退去することになりました。Aが甲建物を借りた際、甲建物には貸主X備え付けのガスコンロとエアコンがありましたが、ガスコンロは甲建物賃借後11年目に、エアコンは17年目にいずれも故障したので、AはXに予め断ったうえで故障したガスコンロとエアコンを撤去及び廃棄し、Aの自費で新しいガスコンロとエアコンを取り付けて使用していました。Aは、今回、甲建物を退去するにあたり、Aが自費で取り付けた新しいガスコンロとエアコンを持ち出しました。ところが、Xは、甲建物備え付けのガスコンロとエアコンが無いことを理由に、Aに対し損害賠償を請求しました。


 通常、購入後11年も経過したガスコンロや17年も経過したエアコンとなれば、相当程度使い古されていると想像されますが、貸主Xとしては、本来そこにあるべき備品が無いのを現実に目の当たりにすると、やっぱり腹が立ったのでしょうか。おそらく「撤去、廃棄してよいとは言っていない。だから元に戻せ。無理なら賠償しろ。」と主張したのでしょう(あくまで想像です)。

 さて、上記のような貸主Xの請求に対し、裁判所は何と言ったかといいますと、概ね「旧ガスコンロ、旧エアコン(以下、「旧ガスコンロ等」という。)は、いずれも長期間(11年、17年)使用された後の故障に伴い、やむなく借主Aが撤去のうえ自費で新品を購入、設置したものであるところ、旧ガスコンロ等は、いずれもその耐用年数(筆者注:国交省原状回復ガイドラインによると、6年くらいが目安とされている)を大きく超えており、その修理も著しく困難であったといえるので、旧ガスコンロ等は、いずれも経年劣化により残存価値は消滅していたとみられる。よって、借主Aが旧ガスコンロ等を撤去、廃棄したことにより貸主Xに損害は発生していない。また、新ガスコンロ、新エアコンは借主Aが自費で購入、設置したものであるから、これらの所有者は借主Aであり、よって、これらをAが撤去、持ち出す行為には何ら違法性はなく、よって貸主Xにも損害は発生していないので、借主Aに損害賠償義務は発生しない。」ということでした。

 要するに、「貸主Xが撤去、廃棄の承諾をしたかどうかにかかわりなく、旧ガスコンロ等については、すでに市場における経済的価値が無くなっていたのだから、それらを撤去、廃棄したことにより貸主Xには損害は発生しない。また、新ガスコンロ等は、借主Aが購入、設置したAの所有物だから(建物に付合したりはしない)、これをAがどうしようがAの勝手である。」ということなのでしょう。こんな場合でも、賃貸物件の原状回復問題等でよく使われる「耐用年数と残存価値」の理論が使われるわけです(損害賠償の問題を考える際は常にこの理論を念頭に置いておきましょう)。もっとも、旧ガスコンロ等の所有権は貸主Xにあったわけですから、廃棄処分する場合は、Xの承諾を明確にしておく等慎重に行うべきだと思います。

 以上、壁、床の原状回復以外の若干マイナーな賃貸物件退去時のトラブルに関する事例紹介でした(なお、実際は、前記判例も争いのメインは壁、床、ドア等の損耗でした)。

 ある程度長期間に亘った賃貸借契約の終了時には、できることなら「長く使ってくれて有難う」、「長く使わせてくれて有難う」で終わりたいところですが、経済的な観点(家賃が途絶える、次に貸す(借りる)準備にお金がかかる、敷金の返却等々)が入ってくるとなかなかそうもいかない場合が多いのでしょうか。