2019年4月


 遺産分割と老親の世話(2019年4月23日・vol.288)   

 病院に入院するにも、アパートを借りるにも、介護サービスを利用するにも、まずは漏れなく連帯保証人(身元保証人)を求められる、業者に保証人を頼めばお金がいる、成年後見人等が就いても後見人等は保証人にはなれないことが理解されない、そんな世の中では、身寄りのない人は安心して生活できませんよね。身寄りのない方の成年後見人をしていると常々このようなことを感じますが、でも、一向にこの保証人社会は変わっていきません。もちろん、受け入れる側も料金の支払いや不測の事態が生じたときの対応等に不安があることは理解できますので、この問題は社会全体の責任(つまりは政治の責任)として抜本的に解決するべき問題であることは間違いないと思いますが、当面の現場での個別の対応では、せめて一定の資力の証明ができる場合は保証人を求めないくらいの対応はすぐにでもして欲しいところです(1億円あっても保証人がいないと入院できないなんてそんなアホな・・・)。

 さて、年老いた母親(または父親)と同居して世話をする(扶養・介護をする)ことの代わりとして、父親(または母親)の遺産分割においては、世話をすることになる相続人(長男等)が遺産を多めに受け取る、みたいな内容の遺産分割協議がなされることも割とよくありますが(暗黙の了解も含めて)、ふたを開けてみると遺産を多く取得した相続人が思っていたほど親の世話をしない、あるいは全くしない、という事態に至ることもあるでしょう。
 さて、そんな場合、約束違反(債務不履行)だといって、先の遺産分割協議を取りやめ(解除・民法541条)にすることができるかといえば、それはできないとするのが最高裁の判例です(最高裁判所第一小法廷平成1年2月9日判決)。また、遺産分割協議の内容として、親の世話をするとの約束を破った場合は協議の効力が失効するとの条件(解除条件)を付けることは有効かといえば、これも無効とするのが裁判例です(東京地裁昭和59年3月1日判決)。
 それじゃあ、「約束破られたらどないすんねん、そんなんやったら遺産分けは均等やないと応じられんわ」となってしまいますので、そんな場合は、いろいろと対応策を考えないといけません。
 そこで、対応策の一つとして考えられるのが、最近の民法(相続法)改正により新たにできた配偶者居住権の制度(改正民法1028条以下)です。あくまで居住権の確保という面で利用できるにとどまるでしょうが、遺産分割の際に配偶者居住権を設定しておけば、仮に自宅の土地建物については子が取得することになっても、老親は、原則、終身の間、自宅建物に住み続けることができることになります。なお、配偶者居住権については、登記が対抗要件となっておりますので(改正民法1031条)、遺産分割の成立後、速やかに登記をしておく必要があります。
 ただし、この配偶者居住権の制度は、改正法施行日(平成32年4月1日)以後に開始した相続にのみ適用されるため、それより前に開始した相続に関する遺産分割においては、配偶者居住権の設定はできませんので、その点はご注意下さい。
 また、その他の遺産(預貯金等の流動資産等)については、老親がいったん取得したうえで、世話をしてくれる相続人を優遇する遺言を作成する若しくは世話をする相続人に分割して生前贈与する、または信託制度を利用する等の方法を採ることが考えられそうです。

 本日、登記情報提供サービスを利用して篠山市の不動産の登記情報を取得しようとしたところ、物件所在地の検索をかけても「篠山市」の表示がでない状態が発生しており、結局、本日中の復旧の目途は立たず、明日以降に請求して欲しいとのことでした(仕事になりません)。つい先日も申請用総合ソフトのオンライン登記情報検索サービスで同じような事象が発生していましたので、これはやはり市名変更に伴う作業か何かが影響しているのかも、と思わざるを得ませんが、それにしてもITに頼り切って仕事をしていると、こういうシステムエラーはほんとに恐ろしいですよね。


 市名変更と登記(2019年4月1日・vol.287)   

 ここ数年の司法書士試験の合格率は段々と上がってきており、3%を超えているそうですが、合格者数は年々減少しているようです。いずれも、原因は、受験者数が減ってきているからなのでしょうね(合格率が一定の場合、受験者数が減少すると合格者数も減少するので、社会への供給数を一定以上に保つなら合格率を上げるしかない?)。
 
 さて、本年5月1日から「篠山市」は名称変更し「丹波篠山市」になるようですが、登記(不動産、商業・法人)への影響はどのようになるのでしょうか。ちょっと検討してみました。

 まず、不動産登記ですが、土地や建物の所在地については、すべて丹波篠山市に変更の登記がされたものとみなされます。また、この変更登記については、法務局(登記官)が職権で必ずやることになります(不動産登記規則92条)。一方、所有者等の登記名義人の住所、本店については、現行の法令上では直接定めた規定はありませんが(不登規92条は表示に関する登記にのみに適用され、権利に関する登記には当然に適用されるわけではないとの理屈)、すべて丹波篠山市に変更されたものとみなされます公知の事実だからとの理屈、平成22年11月1日民二2759通知参照)。ただし、こちらについては、法務局(登記官)が職権で変更登記はしませんので(明治38年5月8日民刑局長回答)、従前の表示のままとなります(未だに味間村や丹南町といったその権利の登記をした時点の住所表記で登記名義人の住所が登記されているのは周知のとおりです)。なお、あえて登記名義人から丹波篠山市への住所変更の登記を申請することも可能です(登録免許税は非課税)。
 次に、商業・法人登記ですが、登記事項中、会社の本店や役員の住所については変更の登記があったものとみなされます(商業登記法26条)。もっとも、こちらは不動産登記と異なり、法務局(登記官)が変更登記まで職権でやる義務はありませんので、変更登記をするかしないかは法務局の判断によります(最近の例では、熊本市が政令指定都市に移行したときは、県内の会社については法務局が職権で変更登記を行ったようです。)。なお、職権で変更登記がされない場合でも、変更の登記をしたい場合は、会社の方から変更の申出?ができるそうです。それから、関連事項として、市名変更に伴い会社の定款の本店所在地の記載を変更する場合(本店を兵庫県篠山市に置く」から「本店を兵庫県丹波篠山市に置く」に変更)は、株主総会において定款変更の決議(特別決議)を経なければなりませんので、この点は注意が必要です(単なる字句の修正や些細な変更でも必要なのです)。

 以上のとおり、「篠山市」が「丹波篠山市」になったからといって市内の個人や企業の方が不動産や会社・法人の変更の登記手続をしなければならないわけではありませんので、あくまで登記制度の観点からは基本的に負担はないという感じでしょうか。
 ただし、管轄外の行政区画の変更があっても「そんなん知らんがな(関西?笑)」というのが法務局の事実上の対応ですので(実際、いちいち全国の行政区画の名称なんて把握していないでしょう)、兵庫県外の法務局に対して何らかの権利の登記の申請をする場合、前提しての住所の変更登記はもちろん求められませんが、市名が変更されたことについて何らかの資料の提出を要求されることはあるかもしれません(今でも丹南町と篠山市の関連がわかる資料を付けてとか言われることが間々ありますので。ネット見てもらえたら・・・)。

(追記)
 もう一つ大事な登記として後見登記がありますが、成年被後見人(被保佐人、被補助人)の本籍や住所、成年後見人(保佐人、補助人)の住所(事務所)についても変更による登記があったものとみなすとされていますので(後見登記等に関する省令14条)、不動産登記や商業・法人登記と同様に変更登記を申請する必要はありません(もちろん申請してもよいです)。


不動産登記規則
(行政区画の変更等)
第92条 行政区画又はその名称の変更があった場合には、登記記録に記録した行政区画又はその名称について変更の登記があったものとみなす。字又はその名称に変更があったときも、同様とする。
2 登記官は、前項の場合には、速やかに、表題部に記録した行政区画若しくは字又はこれらの名称を変更しなければならない。

商業登記法
(行政区画等の変更)
第26条 行政区画、郡、区、市町村内の町若しくは字又はそれらの名称の変更があつたときは、その変更による登記があつたものとみなす。

商業登記規則
(行政区画等の変更)
第42条 登記簿に記録された行政区画、郡、区、市町村内の町若しくは字又はそれらの名称の変更があつたときは、登記官は、登記簿にその変更があつたことを記録することができる。
2 第39条及び前条の規定は、前項の場合に準用する。

後見登記等に関する省令
(行政区画等の変更)
第14条 後見登記等ファイルに記録された行政区画、郡、区、市町村内の町若しくは字又はそれらの名称の変更があったときは、その変更による登記があったものとみなす。
2 前項の場合において、登記官は、後見登記等ファイルの記録にその変更があったことを記録することを妨げない。