2017年8月


 NHKの受信料等の問題(2017年8月21日・vol.260) 

 これは古くて新しい?問題ですが、成年後見人等をしていると、特に受信料の減免、解約手続について注意して検討をしますので(放っておくと支払い不要な受信料が口座から引き落とされてしまいますので)、それが端緒となってNHKの受信契約全般についての関心も結構高まってきます。最近で言えば、受信契約の成立時期についての訴訟が最高裁に係属したり、ワンセグ付き携帯電話を所有すると受信契約の締結義務が生じるのかについての地裁判決が複数出たりしているのが注目されていますが、強引な契約締結や受信料取立の問題などもあるようです。
 そんなNHKの受診料等の消費者問題について、「消費者法ニュース2017年7月第112号」で特集が組まれていましたが、最新の情報や法的な理論・実務のポイントがよくわかり、業務と日常生活の両方で役立ちそうな内容でした。


 遺言書を作成した方がよいケース ver.2(2017年8月15日・vol.259) 

以前書いた「遺言書を書いたほうがいい場合って?」のバージョンアップです。若干事例を追加しました(あくまで個人的な感覚です)。
 気になる方は司法書士までご相談ください。

1.子供(孫以下も含む。以下同じ)がいない場合

2.子供はいるが、婚姻関係にあった配偶者が既に死亡しており、内縁関係の配偶者がいる場合(単に内縁関係の配偶者だけがいる場合でも同様)

3.子供も配偶者もいない生涯独身の場合

4.3に加えて、親、兄弟姉妹もいない場合(つまり相続人がいない場合)

5.推定相続人の中に行方不明者がいる場合

6.事業承継の問題が絡む場合

7.介護等に尽力してくれた相続人、障害のある子供等により多くの財産を与えたい場合

8.推定相続人である子供の中に先妻の子と後妻の子がいる場合

9.推定相続人が先妻の子と後妻の場合

10.多額の遺産が多岐にわたって存在し、しかも推定相続人の数も多い場合

11.遺産を一切与えたくない相続人がいる場合

12.自分の世話をしてくれている既に死亡した長男の嫁に遺産をあげたい場合

13.めぼしい財産が居住する不動産だけしかない場合

14.事実上の離婚状態(正式に届出はしていない)にある長年別居中の配偶者がいる場合

15.養子縁組をしており、実方の血族と養方の血族が推定相続人になる場合(例えば、実方の兄弟姉妹と養方の兄弟姉妹が相続人になる場合)


 遺言と異なる遺産分割(2017年8月4日・vol.258) 

 暑い日が続きますが、昨日8月3日はなんと司法書士の日でした。皆さんご存知でしたか?もちろん私は覚えていましたよ。
 さて、昨今、認知度が上がってきたためか巷では遺言をするのがますます流行っている?そうで、さらに将来的にはもっと流行らせるために遺言をすれば相続税の減税に繋がるような税制改正の話も出ていたりします(遺言控除というらしく、その趣旨は相続紛争を防止しスムーズな遺産承継を促進する?みたいなことらしいです)。
 ところで、せっかく遺言書が残されているのに、その相続人においてこれを是としないケースはよくあります。典型的な例としては、遺言の内容が自分に不利な相続人が文句を言うケースですが、そうではなく、相続人全員が遺言の内容に納得せず、これとは違う形の遺産の承継を希望するケースも間々あります。例えば、遺言書では「不動産はAに相続させ、預貯金はBに相続させ、株式はCに相続させ、Dには遺産を一切相続させない」みたいなことが書いてあった場合に、当の相続人の考えは「Aは株式が欲しい、Bは不動産が欲しい、Cは預貯金が欲しい、Dにもちょっとは遺産をあげたらいいやん」というような場合です。特に田舎では、不動産(古い家、田畑、山林等)の価値が極端に下がっているため売却等の処分が難しく、また、その管理も大変であるため、「負動産」などと揶揄されたりしているのが現状ですので(反対に都会の優良物件は「富動産」とかいうそうです)、遺言で不動産を相続させると指定された相続人がこれを良しとしないことはしばしば起こりがちです。
 さて、上記のように相続人全員において、遺言の内容を是とせず、これとは異なる内容の遺産承継を行いたい場合、どのように対処すればよいのでしょうか。
 まず、遺言の存在とその内容についてですが、遺言自体を無かったことにして闇に葬り去ってしまう(破棄する)というのはどうでしょうか?親の最後の気持ちが詰まったものを無残に破棄するのはさぞ心が痛むことでしょうが、法律的には、相続人の欠格事由として、民法891条5号が「相続に関する被相続人の遺言書を偽造し、変造し、破棄し、又は隠匿した者」と規定しているため、これはちょっと怖いですよね(下手をすれば相続権自体を失うかも?)。むしろ、特に自筆証書遺言であれば、後のことはともかく、どんな遺言であれとりあえず家庭裁判所へ検認の申立てはしておいた方が無難ではないでしょうか。また、内容の面でも、例えば、よくある「特定の遺産を特定の相続人に相続させる旨の遺言」がなされている場合ですが、平成3年4月19日最高裁判決が、概要、原則としてこれを遺産分割方法の指定と解し、何らの行為を要せずして、当該遺産が相続開始時に直ちに指定された相続人に承継される、と判示しているので、言ってみれば、「被相続人が死亡した時点で遺言の効果発動により強制的に遺産分けまでが終わってしまっている」わけです。よって、終わってしまった遺産分けを遺言に反して再度やり直すというのは、法律上も税務上もはいささか躊躇してしまいます。さらに、遺言において遺言執行者が指定されている場合や相続人以外の第三者に対する遺贈がある場合は、これらの者の存在を無視して遺言に反することを行うことは基本的にはできません(原則として絶対的に無効)ので(遺言執行者について民法1013条、最判昭和62年4月23日等参照)、相続人だけで強引に決めてしまうと後で大変なことになるかもしれません。
 以上のようなことも検討しつつ、遺言があっても遺言とは異なる内容の遺産承継を行いたい場合、実務的にはどうするかというと、オーソドックスな方法としては、以下のように場合分けして遺産分割協議を行うといったところでしょうか。

1.遺言執行者の指定、選任がない場合
 相続人全員(遺贈があれば受遺者も含む。)の同意が得られるのであれば、改めて遺産分割協議を行う(受遺者には遺贈を放棄してもらう)。

2.遺言執行者がいる場合
 遺言の内容から見て遺言執行の余地がない場合、または、遺言執行の余地がある場合でも遺言執行者の同意があれば、相続人全員(受遺者も含む)の同意のもと、改めて遺産分割協議を行う。なお、遺言執行者が第三者(弁護士、司法書士等)の場合、報酬に強い関心がありますので、同意を得るのはそう簡単ではないと思いますが。

 上記に従い遺産分割協議が有効に成立すれば、後はその内容に従って通常どおり登記手続や預貯金の解約・変更等を行うことになります。

 予め相続人全員の意見を聞きつつ遺言を作成するようなことでもしない限り、相続人の意見とバッチリ合致するような遺言をするのは難しいわけですが、予め相続人の意見を聞いてそれに従った遺言を作成するのもなんか本来の遺言の趣旨から外れるような気もします。でも、相続税法の改正により相続税の課税対象が増加している昨今、遺言があれば相続税が軽減されるのであれば、とりあえず誰も文句を言わないようなシャンシャン遺言でもしておこうみたいな風潮ができたりするかもしれませんね。